第39話「サキのこれから」
今回は随分かかってしまいました。思ったより難しくて難しくて・・・
第39話「サキのこれから」
連合軍が砦に魔王がいなくなり、戦争が終わったことを確認できるまでクヨウ達はヨーゼフの所に留まることになった。
ヨーゼフの町についた次の日、クヨウはサクラを案内するため朝から出かけて行き、ヒカリは窓際で熟睡している。そして、ヨーゼフの元で生活することになったサキは店の手伝いや、子供の世話などをすることになっていた。
「よーぜふ様、私ハ具体的ニ何ヲオ手伝イスレバヨロシイノデショウカ?」
「ん~、ワシのことはヨー爺で構わんよ。ついでに様もいらんし敬語も不要じゃ」
「シカシ、私ハ魔道人形デス。私ノ目的ガアルニセヨ、魔道人形ハ人ニ仕エル物デス」
一応研究目的があるにせよ、魔道人形製造の根本的な理由は人の補助である。そのため、サキの言い分は間違っているものではない。ただ、サキの目的の場合だと少々勝手が違ってくるのだが。
「お嬢ちゃん、それは違うのう」
「???ドウイウコトデショウ?」
「確かに魔道人形は人の補助を目的に作られているのう、そこは否定するつもりはない。じゃがのう、お嬢ちゃんは感情を再現したいというのじゃろう?感情を持つとは極論を言えば人になるということじゃ。人形のまま過ごしてもお嬢ちゃんの目的は達成できないと思うぞい」
「人形ガ人ニナレルモノナノデスカ?」
「別に体ごと人になるというわけではない、自分の考えを持ち、笑い悲しみ怒り楽しめれば、それは十分人だとワシは思うがのう」
「・・・・・理解不能デス」
「はっはっはっはっは、焦ることはない。ゆっくりゆっくり理解すればええんじゃよ。さて、まずは店に案内するからついてきなさい」
ヨーゼフに案内されて行った先には、かなりの広さを持った店があった。ノームグラウンドに店は基本的に一件しかない。ドワーフ族は1つの事を複数人で行う習慣がある。なので、商人がいたとしても2つ3つと店を増やすわけではなく、共同で1つの店を経営、運用していくのだ。職人も似たようなもので、流石に工房はいくつもあるが、それでも1つの工房に10人前後が働いている。そのうえ、各工房の交流は盛んで、競争・競合をするのではなく協力をすることにより発展を遂げている。
サキが案内されたのは店の中で道具を扱っている場所であった。その中で、ちょっと年配の女性に声を掛けていた。名前はクウ・イルムといって、この道具関係の売り場の責任者でもあり、売り子たちのお母さん的な人だ。
「クウ、この嬢ちゃんに接客等を教えてやってくれ。この嬢ちゃんは少し訳ありでのう。大丈夫か?」
「あら、ヨー爺が売り子になれそうな子を連れてくるなんて珍しいわね。訳ありってどういうことなの?」
「ソレニツイテハ、私ノ方カラ説明イタシマショウ」
サキは自分がどういう存在かをあまり理解してはないため、全て正直に話す。本当なら自動人形ということは隠さなければならない事柄なのだ。もし、変な人間に目を付けられたら最悪バラバラにされてモルモット行きである。ただ、ヨーゼフも面倒を見てもらうクウには全て事情を説明するつもりだったので、止めはしなかった。
「へぇ~すごいわね~、魔道人形が完璧に動いているだけでも驚くのに、感情をね~」
「クウ、分かっているとは思うが・・・」
「大丈夫よ、この子については私がきっちり教育するから。ちゃんと守ってもあげるしね。だから、爺さんはとっとと自分の仕事に戻りなさい」
「おいおい、年寄りはもうちょっと労わってほしいのう。ではな、頑張るんじゃぞサキ」
「了解イタシマシタ」
ヨーゼフはそのまま工房へ向かっていった。そして、ここからサキの感情を再現するという目的が再スタートすることになる。
「クウ様、御命令ヲ御願シマス」
「へぇ~、これはなかなか手強そうね。まぁ、良い子みたいだししっかり教えれば大丈夫でしょう。サキちゃん、まずはいくつか注意事項があるからよ~く聞いてね」
1つ目・一緒に働いている従業員へ様付けをしないことと、極力敬語も禁止。
2つ目・サキの事は基本的に従業員以外へは話してはならない。
3つ目・クウの許可なく店の外へ出てはならない。
4つ目・従業員以外の人に着いて行ってはならない。
5つ目・何か困っている人がいれば、周りに報告した後できるだけ助けること。
以上である。若干子供向けのような内容もあるが、クウからしてみればサキは体は大きいが、まだまだ子供のようなものなのでそういう内容になっている。実際何かあったら危ないので、予防策である。
「サキちゃんのことは私から皆へ話すからあまり話さなくてもいいわ」
「了解イタシマシタ」
「ああ、そうそう。大事な事を話していなかったわ。サキちゃんはこれから自分のことを人と同じように扱いなさい」
「????ソレハ何故デショウカ?」
「簡単な事よ。貴方はもう人形ではないわ、自分で考え行動する事ができるもの。だから貴方にはもっと自分を大事にしてほしいの」
「私ハ既ニ人形デハナイ?自分ヲ大事ニ?理解不能デス」
「そのうち分かるわよ。さあて、皆に紹介するわね」
クウはサキを従業員を集めた部屋に案内し、各自自己紹介をさせた。
その際に、クウからサキのことについてはある程度説明した。何かあったときに事情をしっていればその分早く行動できるからである。
「じゃあ、各自持ち場へ戻っていいわよ。サキちゃんには私が仕事を教えるわね」
「了解イタシマシタ」
こうして、サキの感情を再現させる為の新しい日常が始まったのだった。
ノームグラウンドは基本的に明るい。中心部で光るクリスタルは一日中光を発しているからだ。ちなみにいうと夜もない。中心部で光るクリスタルは光と同時にある程度の熱も出している。ほぼ小さい太陽のような物だ。当然光が当たるところは暖かいので、窓際はヒカリにとっては絶好の昼寝スポットになっていた。
「く~・・・・・・く~・・・・」
時刻が昼を過ぎたあたりでヒカリが目を覚ます。周りを見渡してみても誰もいなかった。ヨーゼフとサキは仕事に行っているし、クヨウとサクラは街を回っている。クヨウはヒカリも連れて行こうとはしたのだが、ヒカリがあまりにも気持ちよさそうに寝ていたため、そのままにしておいたのだ。
「きゅ~・・・・・」
ヒカリは弱った顔をする、何故なら朝から何も食べていないのでお腹を減らしていたのだった。しかし、窓際から飛び降りると、そこにはクヨウが置いておいたヒカリ用のご飯があった。
「きゅ~♪」
クヨウの用意したご飯を綺麗に食べきると、そのままヒカリは窓際へ移動した。そのまま寝るのかと思いきや、窓を開けて外へ飛び出して行った。ちなみにクヨウ達は知らないことだがヒカリは既に結構な知恵を身につけているので大抵のことはできる。まだ言葉を発することはできないが、そう遠くない内にヒカリは普通に会話もマスターするであろう。ヒカリはご機嫌なようで、3本の尻尾をゆっくりゆらしながら食後の散歩に出かけるのであった。
ヒカリが散歩していると珍しい外見な為、結構人目を集めやすい。しかし、ヒカリの周りには人だかりどころか人はあまりこない。ヒカリは自分がどういう種族で、どういう存在なのかを本能的に理解している。故に独自の魔法を使い回りの認識を誤魔化している。なので、ヒカリはゆっくり周りを気にせずに散歩をしていた。
ある程度歩いていると、公園のような場所に出た。公園の中では子供が遊んでおり、ヒカリにはとても楽しそうにみえたので、ヒカリは魔法を解除し、子供たちと遊ぶことにした。
「ご苦労様サキちゃん、午後は子供の面倒をみるんだってね?」
「ハイ、よーぜふ様・・・・サンカラハソウスルヨウニ言ワレテオリマス」
午前中は四苦八苦しつつもサキは仕事をこなしていた。もっとも仕事よりも表情など人間らしさを出すほうが苦労していた。
「え~と、エレン、ちょっといいかい?」
「クウさん、どうかしましたか?」
クウが呼んだのはエレン・クーリンスという女性だった。赤い髪をポニーテールにしており身長も高めで顔も整っているので、この店の看板店員だった。サキも仕事を教えてもらうために何度か話したことがあった。
「サキちゃんを学習院に案内して欲しいのよ。貴方も今日は学習院に行く日でしょ?ついでで構わないから頼めないかしら?」
「サキも子供たちの世話をするんですか?」
「ええ、あの子は感情に乏しいでしょう?だからね」
クウはあえて、「無い」ではなく「乏しい」という表現をした。クヨウやサクラも感じていたことだが、実際サキには感情がすでに芽生えている。しかし、本人に自覚は無い。しかも、一見すると本当にないように見えてしまうのでわかりずらいのだ。エレンも遠目で様子を観察していたが、「無い」というより「乏しい」という印象をもっていたのだった。
「なるほど、でも・・・子供たちが怖がらなければいいんですけど・・・」
「そこは大丈夫よ、あそこの子供がこの子を怖がるとは思えないけど?」
「・・・・・それもそうですね」
普通の子供なら一見して人形の様なサキを怖がるかもしれないが、良くも悪くもこれから行く学習院にいる子供は普通と言う枠組みから少々外れた子供が多かった。
「じゃあ、あとは任せたよ、エレン」
「はい、わかりました。お疲れ様、サキ。仕事のほうは大丈夫だった?」
「ハイ、皆様ノオカゲデス」
「それはなにより、じゃあ学習院に行くから着替えて裏口で待っててもらえる?」
「ハイ、了解シマシタ」
それからサキはエレンに案内してもらい学習院へ向かった。学習院はノームグラウンドの教育現場であり、平たく言えば学校である。ただし、保育所の一面もあり子供を預ける人もいるので子供の面倒を見る人が必要になっている。そのため、子供好きな男性女性問わずここに交代で手伝いにきている。
「あ~エレンお姉ちゃんだ~。こんにちは~」
「はい、こんにちは。元気にしてたかな?」
エレンもよくここの手伝いに来るので子供たちとは面識があり、結構人気があった。
「後ろのお姉ちゃんはだ~れ~?」
「ワタシハさき・しるふぃーどトイイマス。ヨロシクオネガイシマス」
「サキお姉ちゃん?言葉がなんだか面白いね」
「面白イデスカ?」
「うん!わたしはね~、ミア・ミュートっていうの。そうだ!さっき可愛い子がいたんだ!こっちきて~」
そのままサキとエレンは庭の方へ引っぱられていった。
「ミアちゃん、可愛い子って?」
「おきつねさんかな~?とにかく可愛いの!ここで飼っちゃダメかな?」
「狐?こんなところに?」
「アレハ・・・・」
子供たちに引っぱられていった先には、何故かヒカリがいた。事情を聞くと子供たちと遊んでいるうちにここへ移動したようであったのだ。
「きゅ~♪」
「へぇ~白い狐って珍しいわね、どこから来たんだろう?入り口には警備兵がいるから、簡単には侵入できないはずなんだけど」
「えれんサン、アノ子ハ知リ合イガ飼ッテイル幻獣デス」
「へ~、サキちゃんの知り合いのね~・・・・って幻獣!?うそ!本当に?」
「ハイ」
流石にエレンは絶句した。しかし、普通に考えれば御伽噺の存在が目の前にいれば誰でも驚くだろう。ただ、子供たちはその重大さを認識できていないし、そもそもただの狐だと思っているので理解できてはいなかった。
「しかも、幻獣って飼っていいのかしら?大丈夫なの?」
「親カラ託サレタラシイノデ、大丈夫ナノデハナイデショウカ?」
「ならいいんだけど・・・」
「きゅ?きゅ~~~♪」
子供と遊んでいたヒカリがサキに気付き飛びついてきた。子供たちのところからそんなに距離がないとはいえ、子供たちを飛び越してきたのでサキ以外は全員驚いていた。
「サキちゃん随分懐かれてるわねぇ。ちょっと触ってもいいかな?」
「ハイ、大丈夫デスヨ」
「あ~、可愛いわ~・・・・私も欲しいなこの子・・・」
「エレンお姉ちゃんだけずるい~、私も~~~」
子供たちに囲まれてそのままヒカリを含めて子供たちの世話をすることになったサキ達だった。
そして夕方になり親が子供を迎えにきたところで、一日の仕事が終わった。
「サキちゃんお疲れ様~、どうだった?働いてみての感想は?」
「ヨクワカリマセン、該当スル適切ナ言葉ガアリマセン」
「へぇ~、まぁいいんじゃないかな?多分、そのうちわかるよ」
「ソウイウモノナノデショウカ?」
「うん、よく聞くよ?『考えるより、感じろ』ってね。それが『感情』なんじゃないかな?」
「感ジル・・・理解不能デス・・・」
「あはは、考えすぎよ。それじゃあ、今日はお疲れ様でした。また明日ね」
「ハイ、マタ明日オ会イシマショウ」
サキはエレンと別れ、眠っているヒカリを抱えたまま家に戻る。
「ラバーズ様・・・私モイツカ、アノ子達ノ様ニ笑ウコトガデキルノデショウカ?」
思い出すのは子供たちの屈託の無い笑顔だ。サキは感情はないが、表情を作ることはできる。しかし、子供達からは変な顔と言われていた。笑顔の練習を子供と一緒に練習したこともあったのだが、結局『変だ』ということで終わっていた。
いつか自分も子供達の様に笑えるようになりたいと思うサキであった。
サキはどういう扱いにするか正直物凄く悩みました。
出して後悔したことも若干あったりも・・・
では~、次回をお楽しみに・・・
更新速度は遅いと思うので気長にお待ちください。