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第37話「人形と感情」

考えている通りにはなかなか進まないですね。この辺りはなかなか難しいです。



第37話「人形と感情」


オズワードの町についたクヨウとサクラは町中の妙な雰囲気を不審に思い、町を調査することにした。


「特に何かが起きてる様子はないんだけどね~、町中の雰囲気がどうも変だよね」

「そうなのよね~、でも調べるって言っても何を調べればいいのかな?」

「まずは町中を一通り見てみよう」


まずは何が起きてるのかを調べるのが先決なので、不審なところがないか町中を確認することになった。とはいっても、普段の状況を知らないので特別怪しい物がないかどうかの確認程度しかできないのだが・・・・

しばらく町中を見ているとヒカリがもぞもぞと動き出した。


「きゅ~~」

「おはよ、ヒカリ。ゆっくり寝れたかい?」

「きゅ~、きゅ?きゅ~~~~」

「ヒカリ?」


ヒカリは何かに気がついたのかある方向を睨んでいた。


「向こうに何かあるのかな?」

「あっちの方向には・・・確か古びた屋敷があったわ」

「行くだけ行ってみようか」


ヒカリが向いていた方向へ10分ほど進むとそこには古びた洋館があった。

かなり長い間放置されているのか雑草が生い茂っている上に、建物もかなりボロボロであった。


「怪しい・・・といえば怪しいかもしれないけど、どうしようか?」

「そうね~、中に入って調べて見たいところなんだけどね、ヒカリちゃんが怯えちゃってて。ここは後回しにしましょう」

「きゅ~~」

「人が入った形跡も無さそうだし、ここは最後に調べようか」


そのまま2人と1匹は洋館を後にする。しかし、ヒカリは洋館をずっと怯えながらも見つめていた。


クヨウとサクラがこの町の調査を始めて数日が経った。本当は2,3日の予定だったのだが、妙にこの町の状況が気になり残ることにしたのだ。数日たって分かったこともある。街の雰囲気はその日によって変わっており、活気に満ちている時もあればピリピリしている時もある。

そして、人の流入も少ない。いや、少なくとも入ってくる人は多い。しかし、出て行く人が妙に少ないのだ。特に用事のない者はかなり長時間とどまる事が多いようだった。クヨウ達もこれに近い状況にあり、出て行こうと思えばいけるという曖昧な状況だと尚更留まってしまうようになっていることがわかった。


「ん~、残りはあの洋館くらいですね」

「そうね~、ヒカリちゃんが怯えるからあまり行きたくなかったけど、そうもいってられないしね」

「行くだけ行ってみよう」


2人と1匹は洋館へ向かった。洋館は最初に見たときと同じ様にボロボロであった。壁に囲まれており、正面には鉄柵の扉がある。ちなみに、過去住んでいた人は既に死んでいるらしく、今は放置されていると商人ギルドで教えてもらっており侵入しても特に罪にはならない。


「じゃあ、慎重に行きましょう。変な罠があっても困るし・・・・あれ?」

「そうね~、ってどうしたの?」

「いやこれ」


クヨウが鉄柵の扉を見て気付く。鍵が掛かっていないのだ。いくら所有者が死んでおり放置状態にあるとはいえ、何かあってはまずいのでギルドで鍵を掛けているのだ。今回はギルドから鍵を借りてきたのだが、クヨウが見たときには既に開いていたのだ。


「鍵の掛け忘れかな?」

「クヨウさん、念のため誰かがいるかもしれない可能性も考えておいたほうがいいわ。最悪の場合、犯罪者の隠れ家になっている可能性もあるし」

「ん、了解。一応警戒用の魔法具も発動させておこう。誰かいればそれでわかるし」


クヨウは以前作った警戒用の魔法具を発動させる。幸い洋館の中には特に変な生き物がいなさそうなのでほっとするが、後から入ってくるかもしれないので最低限警戒をしたまま、洋館へ入っていった。


「埃が積もってるね。結構多いから隠れ家もないんじゃないかな?」

「いえ、安心はしないほうがいいわ。カモフラージュを兼ねて洋館の一部しか使っていない場合もあるし。一通り見回ってから結論をだしましょう」

「なるほど~、了解。さっすが頼りになるね~」

「盗賊の討伐とかは結構やったからね」


そのまま警戒しつつ、各部屋を回っていく。しかし、どの部屋も埃が積もっており、今なお人が住んでいる形跡は見当たらなかった。


「とりあえず、1階は見たから次は2階ね」

「ん~、そうだね~・・・・」

「クヨウさん?どうしたの?」


特に何もないので、サクラも何もないのかもしれないと思い始めていたが、クヨウは逆に違和感を感じているようだった。


「洋館に入ってしばらくしてから気がついたんだけど、ヒカリが怯えてないんだよね~」

「きゅ~~?」

「ヒカリちゃん、平気なの?」

「きゅ~?」


洋館に入るまではクヨウのフードの中で怯えていたのだが、クヨウが気がついたときにはすでに怯えは消えていたのだ。2人の心配を他所に、ヒカリは首をかしげつつのんびりしていた。


「本当ね。どうして・・・・!!!!」

「サクラさん?」


サクラが急に周囲を警戒し始める。クヨウは驚くが警戒していることに気がつくとそのまま魔法具を発動させいつでも動けるように準備する。


「今一瞬物音が聞こえたわ。・・・多分、誰かいるわね」

「僕ら以外には大きい生き物はいないはずなんだけどな・・・・今も反応がないし、僕は聞こえなかったし」

「私の聞き間違えならいいんだけど、多分こっちから聞こえたわ」


サクラが先頭に立ち、ある方向へ向かって歩き出す。クヨウは後ろを警戒しつつサクラについていった。そして、ついた先は厨房らしき部屋だった。しかし、特に何もなく、一通りみても何かが動いたような形跡はなかった。


「僕らの足跡以外は特に足跡もないね」

「そうね~・・・気のせいだったのかな?」

「ん~・・・ん?あれ?」


クヨウが気になったのは大きい釜だった。人が1人入れるくらいに大きい。

料理用かとも思ったのだが、違和感を感じ、よくよく見てみると覗き穴がなかった。普通釜を使う場合は覗き穴が必ず必要になる。しかし、その覗き穴がないのだ。そう考えると用途が違うのでは?と思いつくのにはそう時間はかからなかった。


「サクラさん?」

「ええ、ここね。一応注意してね、何もなければそれに越したことはないのだけれど・・・」


サクラが釜の扉を開けるとそこには階段があって、上の階へ続いていた。


「クヨウさん、何かいる?」

「ううん、相変わらず反応なしだね。注意はしておくね」

「きゅ」


サクラが入ろうとした瞬間に、ヒカリが飛び出して階段を上がって行ってしまった。


「え?ちょちょっと!」

「ヒカリ!?サクラさん、注意しつつ急ごう」


サクラが罠を警戒しつつそのまま階段を上っていくと、そこには何かの研究をしていたような部屋があった。薬品棚が並び、机にはいくつか薬品が無造作においてある。しかし、そこは今までと違って埃が一切なかった。


「誰かが研究を?でもどうやって出入りしているんだろう・・・・」

「何にせよ、早くヒカリちゃんを探さないとね。変なのがいたら危ないわ」


ざっと見渡しても何もいないが、奥に扉があり少し開いている。ヒカリは多分そこへ入っていたのだろうと予想する。しかも、扉の奥から少しだが物音がする。


「私が扉を開けるわ、クヨウさんは援護の準備を」

「了解」


2人は警戒しながら扉を開けると、そこにはヒカリを抱き上げヒカリをじっと見つめている女性がいた。


「え~と、できればヒカリを降ろして大人しくしてもらえますか?」

「・・・・・・該当ナシ・・・・・該当ナシ・・・・・・該当ナシ・・・・・」


女性はヒカリを見つめたまま、ひたすら呟いていた。クヨウの声は聞こえているのであろうが、恐らく認識できておらず、表情は固まったままである。


「まさか、魔道人形?なんでこんなところに?」


魔道人形とはムーンミラージュ国で昔から研究されている人型の人形で、ぶっちゃけてしまえば、魔力で動くロボットである。かなり長い間研究されているにも関わらず、未だに完成には程遠いと言われていた。しかし、今クヨウ達の目の前にいる彼女は自律型でしかも、見た目は人となんら変わりなく、完成型と言っても過言ではない。

世界的に魔道人形が完成した話はなく、しかもここはムーンミラージュ国内でもない。何故ここに彼女が存在していられるのかがクヨウにはまったくわからなかった。


「あ~、もしも~し?聞こえてますか~?」

「該当ナシ・・・・検索終了。新種ノ可能性アリ。情報ノ更新必要アリ」

「えっと・・・・ヒカリちゃんを降ろしてもらっていいかしら?」


本当ならもっと警戒しなければいけないのだが、ヒカリを抱えて見つめている様子はなかなかサマになっていてクヨウとサクラが毒気を抜かれていた。見た目は黒い髪に黒い目。白い肌でまるで人形のような整った顔をしているとは言っても人形なのだが。メイド服をきているが少しボロボロになっており汚れも少し目立つ。数年間同じ服をきているのであろう。


「・・・・認識・・・・認識・・・認識・・・・該当ナシ・・・・ドチラ様デショウカ?」

「その子の飼い主なんだけど・・・・貴方はここの住人であっていますか?」

「・・・・失礼イタシマシタ御客様・・・・私ハコノ館ノ主ニ仕エテオリマス『さき・しるふぃーど』ト申シマス。現在御主人様ハ留守ニシテイル為、後日改メマスヨウ御願イイタシマス」

「いえ、私たちは貴方に用があるのよ」


クヨウ達は女性の魔道人形のサキに自己紹介をしたあと事情を一通り説明した。


「申シ訳アリマセン。現在コノ町ハ、コノ試作型魔法具ノ影響下ニアリマス」

「試作型魔法具?」

「ハイ。シカシ、人ニ害ヲ与エル物デハアリマセン」

「説明してもらってもいいですか?」



サキの主人である『ラバーズ・シェフィールド』は元々ムーミラージュ国の天才魔法具師と言われていた程の人物だった。ラバーズはサキを完成させたまではよかったのだが、人としての感情を再現することができなかったのだ。元々ラバーズがいた研究所では自由に動かせれる魔道人形の開発をしていたので、感情はいらないとの判断が下ったのだ。しかし、ラバーズは魔道人形を人と同じ存在にしたかったのでこの判断に反発した。当然その反発は通るわけもなく、ラバーズはそのままサキを引きつれ研究資料ごと逃亡を図り、知り合いの伝手でここに逃げ延びた。そして、人の感情の再現をサキを使って研究していたのである。


「あれ?でもここの主は既に死亡しているって聞いていたけど・・・」

「ハイ、御主人様ハ数年前ニ死去サレテイマス。私ハ独リデ『感情ノ再現』ヲ研究シテイマス」

「それで、何故この町に魔法具をつかっているの?」

「私ハ人ノ感情ヲ理解出来マセン。コノ魔法具ハ元々私ニ感情ガ芽生エルヨウニ御主人様ガ作ッテクダサッタ物デス。シカシ私ニハ何モ影響ガナカッタ。ソコデ町ノ人ノ感情ヲ強クスルコトデ観察ヲシヨウト考エマシタノデス」


感情のないサキは淡々と語っていたが、クヨウとサクラはそれがどこか悲しんでいるようにも見えた。


「シルフィードさんはどうしてそこまで、感情の再現をしたいのですか?」

「ソレガ私ノ存在理由ダカラデス」


「そっか・・・でもねシルフィードさん。そんなことしても多分感情の再現はできないと思うよ」

「???ソレハ何故デショウカ?」

「観察をしても、それは所詮その人の感情でしかないの。人はみんなそれぞれ何に対してどういう思いを抱くかは違うのよ。貴方が感情を再現したいのであれば、あなた自身が人と触れ合っていかなければならないわ」

「そうですね、まぁ人だって感情を理解できているわけじゃないです。理解したいのであれば貴方も1人の人として生きてみてはどうですか?」

「・・・・・・・理解・・・・不能・・・・・理解・・・・・不能・・・・・」


目に見えてサキは止まってしまった。おそらく理解が追いついていないのだろう。クヨウ達にはそれが驚いているように見えて少し笑ってしまう。その時、ヒカリがサキの肩までジャンプしてサキの顔を舐め始めていた。


「クヨウさんどうしようか?」

「ん~、どうしようね。変にうろついても研究材料にされるだけだし・・・」

「ヨーゼフさんの所まで一緒に行くのはどうかな?このまま放っておいても可哀相だし」

「それがいいかもね、ヨー爺ならなんとかしてくれるかもしれないし」


若干ヨーゼフに丸投げしている感はあるのだが、それ以上の事は2人にはどうしようもないので仕方がない。フリーズしていたサキをなんとか元に戻し、説得する。サキも「感情の再現」ができるのならばと了承。


こうして、少しの間だがサキ・シルフィードが一緒に旅をすることになった。





補足・・・

ちなみに洋館には人払いの結界が張ってあったのでヒカリが怯えていました。

街にも人が無意識に残りたくなるような結界を張って人を少しでも多く観察しようとしていたわけです。



神代ふみあき様感想ありがとうございます。感想1つもらえるだけで、元気がでるのは私だけではないと思います。これからも頑張っていきます。


では~、次回をお楽しみに~

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