第36話「光」
リアルが忙しくて更新が遅れ気味ですいません。
今週はもうちょっと遅れないようにがんばります。
第36話「光」
クヨウが筋肉痛でうなされてから数日が経った。最初は首都方面へ移動していたのだが、移動するにつれ魔道科学研究所をはじめとしたムーンミラージュ国の様々な研究所の勧誘活動が増えていった。
最後は行商の邪魔になる始末である。流石にクヨウもそこまでして首都に行きたいわけでもないので行き先を変更し、ガチンコ連合方面へ向かうことにした。
「行き先を変更したから、しばらくは大丈夫だと思うんだけど・・・」
「流石にしつこくなってきたものね」
「少しは変装でもしようか。偽名も使えばなんとかなる・・・かな?」
「そうね~、やらないよりはマシね。でも、変装道具なんてもってないわよ?」
「あ~・・・あ、そうだ」
クヨウはバッグからある物を取り出し、そこに魔力を込めてとある能力をつけることにした。
ガチンコ連合国とムーンミラージュ国の関所の街に到着した、クヨウとサクラは何故かメガネをしていた。
「本当にこれで大丈夫なの?」
「大丈夫、大丈夫。呼び名は全部偽名でお願いね」
クヨウはそのまま関所へ手続きをしに行った。その間サクラは外で待っているのだが、不思議なことにあまり視線を感じなかった。少し適当にぶらついてみるが、それでも視線はあまりない。確認が終わったところで、タイミングよくクヨウが戻ってきた。
「おかえり」
「うん、ただいま。どう?追跡はなさそう?」
「大丈夫みたいね。でも驚いたわ、こんなのも作れるのね」
「漫画のネタだけどね」
クヨウがメガネにつけた能力は認識阻害であった。某漫画に出てきた物と同じ能力である。
「さて、宿でもとろうか。今日はゆっくりできそうだ」
「そうね、ク・・・じゃなかったルミナスさんもお疲れだろうからね」
「あはは・・・」
筋肉痛は既に治っているが、体力はまだ全快していないクヨウだった。ちなみに、クヨウはルミナス、サクラはリコという偽名にしてある。
そのまま宿で部屋を取り、2人は休憩がてら荷物の確認などを行う。
「目録通りだね~、まぁ順調なほうかな」
「でも、これで生活していくのは難しいわね。収支がなんとか黒字でも、ぎりぎりラインだし」
「やっぱり普通の道具屋が一番ってことだ。とっとと戦争が終わってくれればいいんだけどね」
「魔王をどうするか・・・よね。そこをどうにかできないと、結局意味がないし」
国家間の連合軍は未だに魔王に対して有効な手段をもっていない。最終的には数で押し切るのかもしれないが、犠牲が多く出る。その犠牲を連合軍は嫌っているため終結の兆しが見えないのである。
「そもそも魔王も何がしたいのかな?世界樹にブルーシードがあるなんて結局噂レベルだし、有力視されているけど戦争起こすほどの動機にならないよね」
「それとももっと別の目的があるのかもしれないわね、何れにせよ私たちにはどうすることもできないのだけどね」
「僕ら一般人は普通に暮らしてればいいんだよね」
「クヨウさんは一般人じゃないと思うわよ~、クヨウさんの魔法具はどんどん性能上がってるし」
専門家の間ではすでにクヨウは天才魔法具師として扱われていたりもするが、本人はそれを知らない。
「僕は一般人だよ。地位や名誉なんて興味ないし、ほどほどに平穏に暮らせればいいんです」
「きゅ~~~」
「え~、やろうと思えば戦争だって起こせるわよ」
「きゅ~~~」
「ん?さっきから何か聞こえない?」
「ほんとね・・・・なにかしら・・・・」
「きゅ~~~」
ふと机の上を見てみると、クヨウの上着がなにやらもぞもぞ動いていた。
「上着が動いてる!」
「え!?上着っていうより、上着の中に何かいるっぽい気がするんだけど・・・」
「きゅ~~~~」
「そういえば、幻獣の卵を入れてたな~。孵化したんだ~」
クヨウは上着のポケットを覗き込んでみると小さい丸い目が見えた。
「この子か・・・・よしよ~し、おいでおいで」
もぞもぞと出てきたのは、トワを小さくしたような白面狐光だった。
「わ~、かわいい~~。触ってもいいかな?」
「大丈夫・・・じゃないかな?」
サクラは扱いに注意しつつ綿の塊の様な白面狐光を持ち上げてみる。大きさは手のひらに乗る程度。尻尾は3本あった。
「はぁ~・・・・いいわ~この子。癒される」
「きゅ~~~?」
「流石に話せないんだね。生まれたばかりだから仕方がないか」
「そういえば、クヨウさん名前は決めた?」
「あ・・・すっかり忘れてた」
「きゅ~~~?」
クヨウは「直ぐに考えておく」といくつか案を紙に書き出していた。一方そうとは知らずにまだ生まれたばかりなので、かなり眠そうな表情の白面狐光だった。サクラはしぐさの1つ1つがハマったらしくかなり魅了されていた。
「あ~、ダメね・・・本当に可愛いわ~」
「きゅ~~~?」
「あはは、随分気に入ったみたいだね」
「きゅ~、きゅ~~~」
「可愛すぎるって本当に罪ね、今実感したわ。この真ん丸の目がなんとも・・・それで、名前はもう決めたの?」
クヨウは幾つか考えた名前をサクラに見せる。しかし、サクラはあまり気に入らなく全部却下した。
「可愛さが足りないからダメ」
「そういう問題なんだ・・・そういえば、この子ってオスかな?メスかな?」
「そういえばそうね、え~と・・・・・メスね」
「じゃあ・・・・どうしようかな~。『ヒカリ』っていうのはどう?」
「ヒカリちゃんね。可愛いからよしとしましょう。貴方の名前はヒカリよ~」
「きゅ~?」
名前が決まったところで引き続きヒカリと戯れるようとするサクラだったが、ヒカリは欠伸をすると直ぐに寝てしまった。
「生まれたばかりだから疲れてたのかしら?」
「まだ赤ん坊だからね、今は放置しておこう。あ~、首輪とか用意しておかないと不味いね」
「それ以前に、あまり人前には出せないわよ。この子も幻獣なんだから。でも行商をする以上はどうにかしないとね」
クヨウとサクラにとっては、幻獣といえども唯のペット同然なのだが、見る人が見れば研究対象や保護対象に十分なりえる。下手をするとまた厄介ごとになってしまう可能性が高い。
「首輪に認識阻害でもつけようかな。そうすれば遠目からはなんとかなると思うし」
「それが無難ね。益々人目を気にしないといけなくなったわ」
認識阻害をつけるのである程度は何とかなるのだが、絶対ではないためある程度は自分でなんとかしなければならないが、ヒカリはまだ赤ん坊であり、自衛の手段など持っている訳もなくクヨウとサクラがなんとかするしかなかった。
次の日、ヒカリはクヨウの服についているフードの中で熟睡したまま、関所を通過した。幸い門番には気付かれなかったので、素通りできた。そのままドワーフ族の村を目指す。ヨーゼフの住むドワーフ族の村までは歩きだと数日かかるので、多少遠回りにはなるが、近くの町を経由して向かう。食料の問題もあるからだ。
幸い道中では特に問題もなく、無事オズワードの町に到着した。
「ん~、なんか街中の雰囲気がピリピリしているね」
「そうね、何かあったのかしら?」
「こういうときは先にギルドへ向かおう」
物資の補給のためなので、長居するつもりはないのだが、何も知らないで変なことに巻き込まれたらたまったものではない。安全策をとったつもりのクヨウだったが、町に入った瞬間には既に手遅れになっていた。
商人ギルドに入りめぼしい情報をもらうが、特に注意すべき情報はなかった。
「おかしいな、全部関係無さそうだね」
「そうね~、直接聞いてみたら?」
クヨウが周囲の人間に聞き込みをしたり職員にも直接聞いたりしたが、皆一様わからないようだった。
「気のせい・・・・じゃないよね?」
「大丈夫気のせいじゃないわ。でもみんな気にしなさすぎね、そこが一番おかしいわ」
クヨウはこのまま町を出ようかとも思ったが、時間はすでに夕方になっているので物資の補給もないまま、町を出るのは危険だった。
「ん~、常に注意しておこうか。じゃあ、まずは宿を取ろう」
「そうね、ヒカリちゃんとも遊びたいし~」
ヒカリは現在クヨウのフードの中で熟睡している。クヨウのフードがヒカリにとってはかなりお気に入りのようで、寝るときは常にフードの中である。また寝る時間も多く、夜は完全に寝ている上に日中も半分以上は寝ている。まだまだ子供なので、その辺はしかたがないとクヨウとサクラは思っているので特に問題視はしていない。しかし、よく寝る理由はもっと別だったりするのだが、それがわかるのはもっと後の話である。
次の日、クヨウが目を覚ますと何故か目の前にサクラが寝ていた。
「ん~~???あ~っと・・・????なんで?」
昨晩は別々に寝たはずだったような?と疑問になっていたが、思い返してみてもクヨウは1人で寝ている。意味が分からず混乱するクヨウだった。そして少ししてから、サクラが起きる。
「え?・・・・・えええええええええええええええ~~~~~~~!!!!・・・・夜這い?え?あれ?」
「あ~~~っと~~、とりあえずおはようございます」
「え?もう朝?あ・・・・・・う・・・・」
一体何事かと混乱する2人だった。サクラは顔がこれでもかという位に真っ赤になっていた。
1時間後・・・・
「つまり昨日の夜に?」
「うん、なんとなく寂しくなってね。クヨウさんは寝ちゃってたんだけど、ヒカリちゃんもいるし、まぁちょっとくらいならいいかな~?と思ってもぐりこんだんだけど、もぐりこんだら急に気持ちよくなってそのまま寝ちゃったのよ」
危うく夜這いと間違われるところだったクヨウだが、なんとか回避に成功する。しかし、サクラが今までそんな行動をとったことはなかったので、結構驚いていた。
朝食を食べてから、2人はさっそく買い出しへでかける。ヒカリは変わらずフードの中で熟睡中。ある程度買い物が終わってから妙なことにきがついた。
「なんか、今日は昨日より人が少ないね」
「そうね~、昨日の変な雰囲気がないだけマシなんだけど・・・なんだか暗いわね」
「なにかあったのかな?」
クヨウはギルドへ行き、情報集めるが特になにも起きていない。起きていても多少の争いや喧嘩くらいなものだった。
「ん~、どうしようかな」
「出発するんじゃないの?もう準備は出来てるわけだし」
「そうなんだけどね~、どうもこの町の様子が気になってね~・・・・」
「う~ん、確かに気にはなるわね。でも解決できるのかしら?」
「できなかったら、それはそれで仕方がないよ。無理そうだったら諦めるし」
気にはなるが、解決しなければならないものでもない。そこが罠になっていることには2人はまだ気がついてはいなかった。
白面狐光の子供の名前が一番悩みました。
もうちょっといい名前にしたかったのもあるんですが、あまりやりすぎても仕方が無いのでこうなりました。
では~、次回をお楽しみに~