第21話「旅行事情その6」
今回は日付が変わりませんでした。
当分このままオリンピックもどきの話になりそうです。
第21話「旅行事情その6」
6日目
レンヤ達は、武器を見てもらうために別室に来ていた。この別室には様々な武器が置かれている。しかし、素直な癖のない武器しか揃っていない。これは、その人の特性を見るためであり、その特性に合わせた武器を作るというオーダー専用の部屋であった。ミリアとレナリンスはそれぞれ自分が使いそうな武器を手に取り、試していた。
「へぇ~ミリアさんも結構筋がいいですね。思ったよりは実力があるなぁ」
「サクラさんには到底及びませんよ。私の剣術は本格的に習ったとはいえ、一時期だけのものですから」
「ミリアさんは~、普段から訓練すれば~もっと強くなれますよね~」
女性3人は結構打ち解けていた。それはレンヤとフドウも同じであった。
「レンヤ殿は格闘ですか、それだけの膂力があるなら大型の武器もいけるでしょうに」
「肉弾戦は漢の浪漫ですからいいんですよ。とはいえ、大型モンスター相手に格闘はつらいのは事実ですけど」
「しかし、慣れない武器を使うよりは格闘一筋のほうがいいでしょう。実際知り合いにフェンリルを殴り飛ばした輩もいますし」
フドウの知り合いとはSSランクハンターのことであるが、レンヤからしてみれば遠い話であった。そうして、3人はそれぞれ武器のオーダーを決めていった。一方クヨウとバンガードはスピッドファイアの試射を終え、商売などの話をしていた。
「そういえばクヨウ殿は商業連合という組織をご存知ですか?」
「ええ、一度勧誘されましたからね。きな臭かったのでお断りしましたけど」
「それは安心した。実はですな、最近黒い噂が絶えないのですよ。昨晩のミューズの誘拐も、どうも彼等の仕業ではないかと」
「黒い噂があるのは知っていますが、それは少々突飛な発想ですね。何か根拠が?」
「彼らの目的まではわかりませんが、少なくともわがグループの武器製造技術を欲しているようなのです」
最近エルミールグループを切り崩しにかかっている勢力があり、その最有力が商業連合であった。もっとも、エルミールグループの結束は固く、易々とはいかないので今のところ問題はない。しかし、バンガードも黙っているつもりはなく、色々と情報を集めており、最近の情報では商業連合の一部の勢力が過激化しているということが分かったのだった。
「その一部の勢力が暴走して、誘拐に至ったと私どもは見ております」
「なるほど、でもそれだと目的がイマイチわかりませんね。非合法な手を使って武器の製造技術を盗めたとしてそれで手段に見合う利益が得られるとは思えません。情報が間違っていないと考えると他に目的があるのでしょうけど・・・」
バンガード達も同じ考えではあった。しかし、武器製造から利益を得ようとしてもエルミールグループを追い抜くだけのことをしなければ到底割に合わない。切り崩せれば話は違うのだが、非合法な手を使って相手勢力を飲み込もうとすれば、ギルドからの圧力や場合によっては制裁がある。考えなしでやっているようにしか思えなかった。
「それで、クヨウ殿にも気をつけて欲しい。それと銃という新しい武器はあまり人目に出さないほうが良いでしょう。彼らに目を付けられると厄介ですから」
「そうですね、昨日のようなことがない限りは使わないようにしなければならないですね。昨日の賊は流石に銃には気がついてないでしょうから、まだ大丈夫なはずです」
音に気がついても、夜の闇の中で火花のでない銃がわかるはずもない。実際、賊もオリジナルの魔法だと思っている。しかし、警戒するに越したことはなかった。
そこで、バンガードはクヨウに情報の共有という協力を求めることにした。クヨウが店をだしているラングランにもエルミールグループ系列の武器屋があるので、そこを通し何か情報が入り次第伝えるというものだ。何かあったときのために、対商業連合ですぐに協力体制を築けるようにするためのものだった。
バンガードとしてはグループに入ってもらうのが一番いいと思ってはいるのだが、既に断られているし無理強いをするつもりもない。そのため情報の共有が最適であると判断したのだった。
クヨウもそれならばと快諾し、エルミールグループでも得られない所から情報をもらえる可能性があるからと判断した。若干物騒な話が終わった頃に、レンヤ達が戻ってきた。
「バンガード殿、ただいま戻りました」
「フドウ殿、サクラ殿、ご苦労様です。どのくらいかかりそうですか?」
「そうですね、3日か4日といったところでしょう。彼らもそのくらいならまだ、この町にいるそうなので、直接渡せるかと」
そうして、少し雑談をしたのち昼食をとってからクヨウ達は屋敷をあとにした。その際、ミューズのお転婆と猫かぶりが発覚し、ラウの気苦労がわかるエピソードもあったりしたがそれは別の話である。
その後、屋敷を後にしたクヨウ達は、本来の目的である観光に戻る。そのまま一番近くで妙に盛り上がっていた会場があったので特に確認もせずに、入っていった。しかし、新しい武器の話で盛り上がっていた彼らは忘れていた、この都市、マッジーナ選手権大会の恐ろしさを・・・
4人は中に入り、席に着く。どうも今は休憩時間らしく、会場はちょこちょこと席が空いていた。周りの人間が戻ってきて、立ち見をする人間が大勢出てきた頃にクヨウは自分の失態に気づいてしまった。
「しまった、ここはアレの会場だったんだ・・・」
「どうしたんですか?クヨウさん」
「すごい人だかりにぃ~なってきましたね~、人気があるみた・・・い?」
そこまでいき、レナリンスも気付く。しかし時既に遅く、人だかりで禁断の聖地から逃げる術は失われていた。それでも、なんとか逃げ道を探そうとした瞬間に会場が真っ暗になり、舞台にスポットライトが集中した。舞台に出てきたのはほっそりとした、かなりの美人であった。この瞬間、クヨウはホッと息をつく。自分の予想は良い方向に外れたのだと。しかし、それは淡い夢と消えるのであった。
「ようこそ皆様!これからマッジーナ選手権大会ガチンコマッスルグランプリツアー第6戦目!3回戦を行います!」
その言葉に会場全体が反応する。オオーーーー!!という叫びとともに盛り上がる中、いくつかのグループはどん引きしていた。クヨウ達もその1つである。クヨウとミリアは気が遠くなる思いであった。レンヤとレナリンスは若干ひいてはいたものの、大分この筋肉属性に慣れてきた(侵されてきた?)のか平気そうな顔をしていた。
「本日、ここまで勝ち抜いてきた!猛者(筋肉)達は!どんなパフォーマンスを見せてくれるのでしょうか!?」
盛り上がる会場、盛り下がるクヨウ達、ここまできたらすでに覚悟を決めるしかないと決意するしかなかった。
「すごいアナウンサーさんですねぇ~、猛者を~筋肉って読む人は初めてみました~」
「リンスちゃん、あのアナウンサーさんほっそりとした体系に見えるけど、よくよく見るとかなり筋肉質だよ」
ミリアとレナリンスはかなり他人事状態になっていた。早い話、現実逃避である。
舞台の上は「そんなの関係ねぇ!」といわんばかりであった。
「それでは!3回戦1人目はこの人だ!」
どん引きする一般人には関係なく、グランプリは進んでいく。
「猛ろ筋肉!轟け筋肉!生涯を筋肉に捧げた筋肉奴隷!その名は!!!アーーーノルド!!!!ネイビーーーーー!!!!!」
ウォォォォォ!!!!!という大声援とともに完全にギャグとしか思えない筋肉を纏った・・・いや、筋肉で武装化した男がでてきた。音楽と共に全力でポージングを決めていく、しかし、本人は笑顔である。初めて見る人にとっては筋肉の塊が笑顔で動いているようにしか見えなかった。もっとも、本人にとってはそれも「筋肉の誉れ」ということになってしまうというある意味悪循環になっている。
「続きましては~!アーノルドの永遠のライバル!筋肉の大小に貴賎なし!美しい流線形の筋肉を生み出す、筋肉のイケメン!!!マキシマムーーー!!!!クラウザーーーーーー!!!!!!」
次に出てくるのはかなりかっこいい部類に入るエルフの男性であった。通常エルフは知力関係で勝負する人が多い上に、体力関係は苦手である。しかし、世の中物好きはいるもので、それでも筋肉を鍛えたのがマキシマム・クラウザーであった。他のメンバーに比べると圧倒的に小さい筋肉ではあるが、表現するならば「鋭い筋肉」である。実際その形状や鋭さが評価され、今では立派な優勝候補の1人であった。そしてどんどん人が舞台へ登場し、各々が一番の筋肉であると表現する。良識ある一般人にとってはなんとも辛い空間であった。
終には・・・・
「本日!唯一の女性マッスルの登場だーーーーー!!!!」
「なんだ!?その女性マッスルって何の単位だ!?」
一般人達の混乱は益々助長されていった。
そして、出てきたのはなんとも漢らしい顔に、明らかな女性用水着をきた筋肉の塊である。
「性別?何それ?筋肉に関係あるの?!」とでも言いそうな人である。
「この筋肉に悩殺されない人はいない!筋肉のプリンセス!いや、クイーンとでもいうべきか!?女性ナンバー1マッスル!!!カグラーーーーー!!!!イザヨイーーーー!!!!!!!!」
本気で脳死判定をうけそうなインパクトをうける一般人、後日聞いたところによると倒れた人もいるらしい。舞台上で筋肉の塊がなにやら動いているが、流石のクヨウ達も受けたダメージが大きかった。そしてレンヤがあることに気がつく。
「なぁクヨウ?ちょっと確認したいんだが・・・・今の人『イザヨイ』って言ってなかったか?」
「あ~、確かそんな・・・名前だった・・・よう・・・な?」
「「あ!」」
ふと思い起こせば最近似た名前にあったことがあるような気がした。そう『サクラ・イザヨイ』だった。しかし、サクラはどこからどうみても女性である。あんな性別不明の筋肉の物体ではない。そして考えられることは1つ。
「「「「姉妹!!!???」」」」
舞台の上にいる「カグラ」という名前の物体がサクラとどういう関係であるのかはわからないがサクラに聞くにはあまりにも失礼に思えたので、4人揃って出した結論は「「「「忘れよう」」」」であった。
結局このまま優勝決定戦が終わるまで会場をでることが許されず、宿にたどり着いた4人はゾンビの様な様子であったと宿の従業員は語っていた。
え~と、後半は完全にギャグですが、作者の趣味ではありません。
ギャグは好きですけどね、筋肉はそこまで好きじゃないです。
では~、次回をお楽しみに~