第11話「新しい従業員 その5」
軽いのりで終わらせるつもりが、思ったよりシリアス風味になってしまいました。
気がつくと新キャラのほとんどが女性ばっかり・・・男ばっかりよりかはいいですけど、男性も増やさねば。
第11話「新しい従業員 その5」
「そういえば・・・ミリアさんってうちで働く目的とかってありますか?」
「え?どういう意味ですか?」
ある日のクヨウの突然の質問にミリアはハテナマークを浮べる。先日発覚した(そんなに大袈裟にするほどでもないが)レナリンスの目的の例があったので、クヨウは聞くだけ聞いてみることにしたのだ。ミリアはミリアで面接の時にも聞かれなかった事な上に、何も思い当たることがなかったため激しく混乱していた。クヨウから理由を大まかに聞かされると納得し、「意外と考えているんだなぁ」と驚いていた。
「私はそんなに大袈裟な理由はありませんよ、あえて言うなら「経験のため」といったところです」
「経験のため?」
「ええ、『自分のしたい事』っていうのがまだ分からなくて、手っ取り早く色々と経験してみようと思ったわけですよ。学園に入ったのはハンターや冒険者ってどんな感じなんだろう?と思っただけですし、武術を習ったのも国の兵士っていうのを疑似体験できますから。この仕事もそのうちの1つですね。あ、仕事を放り出して辞めるとかはしませんから誤解しないでくださいね。最低でも1年か2年はやりますので」
「ん~、じゃあ今は色々とチャレンジしてる最中なんだ。行動的だなぁ~僕には真似できないなぁ」
「店長が真似する必要もないじゃないですか、こうしてやりたいことをやってる訳ですし」
「僕の場合は半分くらい成り行きだからなぁ~、趣味の一環なのは認めるけどね」
「でも、ミリアさんは少し難しく考えすぎだよ」と言ってクヨウは笑う。しかしミリアは将来を無計画に過ごしたくはないと意気込んでいた。そんな話をしていた時にエミリアがやってきた。クヨウは「ちょうどいいかなぁ~?」と思いエミリアにどうしてハンターをやっているかを聞いてみることにした。
「私がハンターをやってる理由?藪から棒にどうしたんだい?」
いきなり質問しても驚くだけなので、クヨウは理由を説明した。
「ふむ、なるほどね。私の場合は簡単だよ、『父に憧れた』ただそれだけの話さ」
「父に・・・ですか?」
「小さい頃は父のことが嫌いでね、ハンターをやってたから収入が不安定で家にほとんどいない。いくら周囲の人間が良く言う人であっても、母に心配をかけっぱなしで私もあまり構ってもらえなかったからね。そして、ある日帰らぬ人になってしまった。最初は涙も出なかった、元々『いない人』が『いなくなった』その程度にしか思わなかったからね。でも父の葬儀の時に思い知った。たしかに父は『父親』としては失格だったかもしれない、でも変わりに『ハンター』として『人間』としては決して間違ってはいなかったとね。父に助けられたという人が大勢来てね、涙ながらに父のことを語ってくれたんだ。そしてその時に思い出したんだ、父が仕事のことを話してくれたときの幸せそうな笑顔を。その後は大泣きしてしまったが、自分もあんな笑顔をしたいと思ったんだ。父に憧れたというのはそういうことさ」
エミリアは静かに、しかし嬉しそうに語っていた。クヨウは「気軽に聞ける話じゃないよなぁ」と若干後悔していた。その隣でミリアは感動のあまり涙ぐんでいた。
「少々湿っぽくなってしまったかな?父のことを語れるのは嬉しいからあまり気にしなくてもいいよ」
クヨウが後悔したのをエミリアが見逃すはずもなくフォローをいれる。同時に涙ぐんでいるミリアの頭を「可愛いねぇ~」と撫でていた。
その後、ミリアが落ち着くまでクヨウがお茶をいれて和んでいた。
「すみません、お恥ずかしい所を見せてしまいまして・・・」
ミリアは顔を真っ赤にして俯いている。
「いやいや、ミリアちゃんの可愛いところが見れたから私としては儲け物だったよ」
「はう・・・」
「エミリアさん、ミリアさんをあんまりからかわないようにね」
「ふむ、未来の旦那様の注意は聞いておくとしよう」
クヨウは「それはいったい誰が、誰の?」と聞こうとしたが、薮蛇になりそうだったのでスルーした。そしてエミリアの顔はさらに赤くなっていった。
「ん~、冗談はともかく、ミリアさんには参考になったかい?」
「あ~、そう・・ですね。ただ私にはそういう経験がないので・・・」
「ふむ、ではお姉さんからのアドバイスだ。ミリアちゃんは考えすぎだね、無計画に・・・とまでは言わないけど、もうちょっと成り行きにしたがってみるのもいいと思うよ」
「考えすぎっていうのは店長と同じ意見ですね。それにしても成り行きに従ってみる・・・ですか?」
「そう、何が起こるかわからないのが世の中っていうものだ。例えば、2年とか3年で次に移るんじゃなくて、このままずっとここの店員を続けてみる・・・とかね?確かにやらなきゃ分からない事はある。でもね、やり続けないとわからない事もある。1度の人生を失敗したくないとは思わないほうがいい。失敗してもいいから楽しまなきゃ損だよ。『やりたい事を探す』というのもいいけど、『やりたい事を作る』っていうのも有りって事さ」
「『やりたい事を作る』、か・・・」
『成り行きに従う』ミリアはそんなことを考えたこともなかったので、その衝撃は大きかった。
「今日のお姉さんは随分と真面目になってしまったな、もうちょっと気軽な感じが好きなんだが」
「ん~、すみません」
「クヨウちゃんが謝る事じゃないよ。それに、たまにはこういうのもいいだろう」
エミリアはウィンクをして、ぽんぽんとクヨウの頭に手をのせていた。
その後、エミリアが買い物を終えて帰宅するまでミリアは唸っていた。そしてこの日はあまり客がこなかったため、ミリアはお茶を飲みつつ唸るのであった。
数日後・・・
「やぁ、元気にしてるかな?」
「いらっしゃいませ、エミリアさん」
「元気そうでなによりだ。ところで、今日はミリアちゃんはあれからどうなったのかきになってね。アドバイスをしたお姉さんとしては放っておけないんだよ」
「ん~、「とりあえず、今を一生懸命過ごしてみます」とは言っていましたよ」
「そうか、それなら大丈夫だろう。少し安心したよ、変な意味にはとらえてないようだしね」
アドバイスをした身として、気になるのは当然だろう。それにあまり思いつめても仕方がないことでもある。
「そうですねぇ~・・・それはそうとエミリアさんはいつになったら結婚するんですか?少しは計画も大事ですよ?」
ここでクヨウは強引に話を変える、あまり本人のいない所での噂話は好きではない。それと、いつまでも1人身でいるエミリアへの心配でもあった。
「確かにそうだが、生憎相手がいなくてね。外見や偏見で私をみてくる有象無象には興味が湧かないからね。まぁ私にはクヨウちゃんがいるからあまり心配しなくてもいいじゃないか」
「僕を勝手に婚約者にしないでくださいよ、それに僕にはそんな甲斐性ありません」
「それは残念、まぁ気長に待つさ」
「本当に気があるのかな?」と思ってしまうクヨウであるが、分かるわけもないので話しを切り替える。
「じゃあレンヤはどうですか?同じハンターですから馬が合うんじゃないですか?」
「ハンターとは結婚する気はないよ。ところで、そういうクヨウちゃんはどうなんだい?リンスちゃんやミリアちゃんとは仲良くやっているんだろう?」
あまり好き勝手に聞かれるのも少し癪だったようで、エミリアも切り返してくる。しかし、クヨウは「男女の間でも友情はあると思いますよ」と脈があまりなさそうにしており、エミリアはがっかりする。
その後、レンヤが帰ってきて、恋愛話に花が咲いたりもしたが結局色気のないところで落ち着くのであった。
最近のレンヤはオチ担当
更新がおもったより大分早いので自分でもびっくりです。大きいエピソードがあまりないのもありますけどね。
では次回をお楽しみに~