トレイシー、鉄槌を下す
数日間の準備を終え、いよいよセフィル様とお茶をする日がやって来ました。
大神殿まで迎えにきた彼と共に王都を散策。程なく思い立ったようにこう提案してきました。
「そうです、チョコレートは買うだけにして私の屋敷でお茶をしませんか? 庭園の花々がちょうど見頃でして、ぜひトレイシーさんに楽しんでいただきたいのです」
初めてのお茶で屋敷に誘うとは……。
しかし、今の私はセフィル様に恋する乙女なので、ほいほいとついていかなければなりません。おそらくそこに他の人達も囚われているでしょうし。
お店でチョコを購入後、私はほいほいと彼の屋敷まで同行しました。
敷地内に入ってすぐに、遠くに見える立派な屋敷が目に留まりました。セフィル様が「ちょっとこちらへ」と手招きするので、誘われるまま庭園の中へほいほいと。
すると、木の陰から屈強そうな男が出現。
セフィル様は人が変わったように下劣な笑みを浮かべました。
「本当にトレイシーさんはおめでたいですね。この私があなたのような者とお茶をするはずないでしょう。さあ、おとなしくした方が身のためですよ」
「くっ、お茶すら飲ませないとは! ですが、忘れていませんか? 私は神官ですよ」
「何です? 神罰でも下ると?」
「神様はいるかどうか微妙なので私が直接鉄槌を下します!〈ホーリーショット〉!」
私のかざした手から放たれた光の玉が屈強そうな男を直撃。茂みの向こうへと弾き飛ばしました。
ところが、これを見たセフィルさんは慌てる様子もなく。
「……まさか半年の修練でもう聖霊魔法を。確認しますが、〈ヒール〉も覚えているのですか?」
「習得していますよ! 観念しますか!」
「いえいえ、まさか。〈ヒール〉を使える奴隷は高く売れるのですよ。思った以上の上玉でした!」
「この下衆がっ!」
私が罵倒している間にセフィル様は指をパチンと鳴らしていました。
すると、木の陰から五人の屈強そうな男達を引き連れてあの奴隷商人が出現。
取り囲まれた私に、セフィル様が再び下劣な笑みを向けてきます。
「観念するのはあなたの方です」
「しませんよ。元々、私一人であなた達全員を捕まえるのは無理だと分かっていましたから」
私も彼の真似をして指をパチンと、鳴らそうとしましたが全く音が出ず。
しかし、これを合図に後方から飛んできた〈ホーリーショット〉が屈強そうな男の一人を弾き飛ばしました。
振り返ると、そこには手をかざすミーティアの姿が。
さらに、その背後から王国騎士達が続々と走ってきます。
「この伯爵家の犯行はすでに調査済みで、王国にも通報していました。言い逃れのできない現場を押さえるために、ずっと尾行してもらっていたんですよ。さてセフィル様、観念しますよね?」
セフィル様は私の問いに答える代わりに、ガクッと地面に膝をつきました。
彼は今この瞬間、全てを失ったのですからまあ当然です。
この後、騎士達が屋敷を捜索すると地下で囚われていた人達を発見。無事に救出することができました。
けれど、私とミーティアにはまだ気になることが。
騎士の隊長さんらしき人に尋ねることに。
「すでに売られてしまった人々はどうなるのでしょう?」
「ご安心を。奴らに売却先を吐かせて救出に向かいます。しかし、この件は伯爵家のみならず、相当大きな裏組織が絡んでいるようですね。お二人共、大手柄ですよ」
「では、ご褒美など貰えますかね?」
「もちろんです。何かご希望が?」
私とミーティアは顔を見合わせたのち、セフィル様の立派な屋敷を眺めました。
「伯爵家は取り潰しですよね。でしたら、あれを貰っても」
「ええ、貰ってもいいのではないでしょうか」
二人で隊長さんの方に振り返って声を揃えました。
「「あの屋敷が欲しいです!」」
「ええー……、さすがにそれは……」
と彼は困っていましたが、今回の人身売買には本当に大きな組織が関わっていたらしく、それを壊滅させるきっかけを作った私達は希望を叶えてもらえることに。伯爵家の屋敷(庭園付き)が貰えることになりました。
身分は平民のままですが、私達は屋敷持ちです。
というわけで、早速二人で……。
「あら、ミーティア。私、伯爵夫人ですのよ」
「あら、奇遇ですこと。私も伯爵夫人ですのよ」
と伯爵夫人ごっこを数日間楽しみました。
その後は、さすがに維持管理できないので丸ごと売却。できたお金で基金を作り、勤める大神殿に今回の人身売買事件で被害に遭った人達を支援する機関を設置しました。
この世界に神様はいるのか微妙ですが、もしいたとしたら「よくやった!」と私達を褒めてくれるのではないでしょうか。
もう一つトレイシーの短編(姉妹短編)があります。
この下にリンクを設置しました。
ワンクリで移動、同じく5分で読めます。
よろしければそちらも。
……トレイシーがまたろくでもない伯爵に引っかかります。




