おら、ただのタヌキだ!神獣じゃねぇだ!!
おら、タヌキだ。
生まれた時から、人間の住む清川村の近くにある、小さな山に住んでるだ。
季節は秋の真っ盛り、山にはおらの好きな木の実や果物がいっぱいで嬉しいなぁ。
今日は大好物の柿を食うべ!山に生えてる野生の柿だけどすごく甘くて、おらぁ毎年楽しみにしてるだ。
「よいしょっと!」
鋭い爪を引っかけて、おらは柿の木に登る。木登りはあんまり得意じゃないけんど、美味しい柿のためだから頑張るだよ。
おおお!よく熟れた柿の実がいっぱいだべ!早く食うべ!
だけんど、美味そうな柿を前に興奮したおらは、うっかり足を滑らしてしまった。
「あ~れ~!」
そして運が悪いことに、ちょうど真下に熊の野郎がいただ。あいつらも柿が好きだからなぁ。
ゴン!
当然、おらの頭と熊の頭はごっつんこした。
「すまねえ、すまねえってばよ」
「ぐぉおおおおおお!!」
頭にできたたんこぶをさすりながらおらは謝ったけど、熊のヤツ怒って襲い掛かってきただよ。
「ひょぇえええええええ!」
おら、走るに走っただ。だけど熊の野郎のしつこいこと、しつこいこと。
はあ、はあ、もう走り疲れちまっただ!
ドスドスいう熊の足音を聞きながら必死に逃げてたら、山肌に小さな洞穴が開いてるのを見つけただ。
あそこなら穴が小さいから、デカい熊の野郎は入ってこれねぇべ!
だけんど、あんな洞穴なんかあったべかな?
ちょっと怪しい気がしたけど、野郎は相変わらず追いかけてくる。だからおら、仕方なくそこに滑り込んだだよ。
スポン!!
洞窟の入り口を通り抜けた瞬間、まぶしい金色の光に包まれただ。足元の地面が急になくなって、おらはジタバタともがいた。
「母ちゃぁああん!助けてくれろー!!」
落とし穴にでも落ちると思ったおらは、天国の母ちゃんに向かって叫んだ。
きっと願いが母ちゃんに届いたんだろう。怪我することもなく、固い石の床にふわりと着地しただ。
な、なんだべ?ここは??
周りを見回すと、そこはとっても広い部屋だ。
清川村の役場なんて足元にも及ばねぇ広さで、床も壁も、天井を支えるぶっとい丸柱も、全部が白くてキラキラした石でできていた。
おらの泥だらけの足跡がついちゃいそうで、なんだか落ち着かねぇ。
人間はそういうのを気にするだろ?
おらはその白くて広い部屋の真ん中の、小さな円形の舞台のような所に立っていた。
なんか、お日さまが暖かいなぁ……。
天井を見上げると、ドーム型の丸い屋根のてっぺんがガラス窓になっていて、そこからおらに向かってお日さまの光が差し込んでいる。
そして周囲には、見たことがない服装をした、たくさんの人間がいた。みんな集まって、舞台の上のおらを見つめてくる。
こいつらみんな、元気がないな。顔色も悪いし、病気の人間みたいだ。
そういえば、ここの空気はどよんと重い気がするべ。よく見れば、黒いモヤモヤが空中を漂っているし。
こりゃあ油断がならんなと、おらは身構えた。
すると、群衆のなかからひとりの人間が進み出てきた。白い服を着た、髪も長いあご髭も全部白い爺さんだ。
そいつは手に持った杖を振り上げて、おらに向かってこう言った。
「神獣様、ようこそおいで下さいました。どうか我らをお救いください!」
爺さんが腰を折って深々と頭を下げると、周囲にいた人間たちが全員、床に倒れるように平伏した。
し、神獣!?そりゃなんだべ?
そったら獣には、山でも会ったことがねぇなぁ。
もしかして神様のお使いのことか?
だけんど、あれはキツネの役目だべさ?おらぁタヌキだで?
この人たちは、きっと勘違いしてるんだな。早く誤解を解いて、山に帰してもらうべ。
「おら、ただのタヌキだ!神獣じゃねぇだ!!」
おらが叫ぶと、周囲の人間がいっせいにどよめいた。白髪の爺さんが、人々に振り向いて言う。
「喜べ!神獣様が我らの願いを叶えてくださるぞ!」
「うぉおおおおお!!!」
爺さんの言葉に、人間たちのどよめきがいっそう大きくなった。
「そ、そったらことは言ってねぇ!おら、ただのタヌキだで」
「ありがとうございます!瘴気におかされた我らが国を、あなた様の聖なる調べで、どうかお救いください!」
人間たちは涙を流しながら、すがるような目をおらに向けた。
……こいつら、おらの言葉が全然分かってねぇ!
まあ、清川村の人間も同じだから、そんなことじゃないかとは思ってたけどな。
だけんど今、「聖なる調べ」って言ったよな。
聖なる調べって言ったら、あれのことだけんど、こいつらあれが聞きたいのか?
一応、人間の前じゃやっちゃいけない決まりなんだけどなぁ……。
おらは考えた。
でも、目の前の人間たちは、みんな元気がなくて不幸せそうだ。爺さんの言う「瘴気」ってヤツが悪さしてんのかもしれねぇ。
人間が不幸でもおらには関係ねぇけど、ここで見捨てるのも寝覚めが悪いっていうか、男タヌキがすたるってもんだ。
よし!
おらは覚悟を決めて、後ろ足で立ち上がった。清川村で一番と自負する立派な腹を、ぽこんと見せつけるように突き出す。
「おおおおお!!」
「神獣様ぁあああ!」
「お助けをー!」
歓声を上げる人間に見せつけるように、おらは前足を天高く突き上げ、自慢の腹に向かって振り下ろした。
ポンッ!
涼やかで凛とした音が、周囲に響き渡った。おらは左右の前足を交互に振り下ろして、自慢の太鼓腹を打ち鳴らす。
ポンポコ!
ポンポコポンポン!
ポポンポンポコ、ポンポンポコ!!
するとどうだ。おらの腹づつみの音が響くたび、不気味に広がっていた黒いモヤモヤが消えて、空気が綺麗になっていく。
「おおお!瘴気が浄化されていくぞ!」
「素晴らしい!これで我らの国も安泰だ」
「神獣様バンザーイ!!」
人間たちは歓声をあげ、手を取り合い、涙を流して喜んでいる。おらは全ての瘴気が綺麗になるまで、腹の太鼓を打ち鳴らし続けた。
……こうして、異世界だとかいう人間の国は救われただ。
おらは今、神獣様として、異世界の山で気楽に暮らしている。
時々人間たちが美味しい食べ物を貢いでくれるし、山は異世界も清川村もそんなに変わんねぇ。
住み心地はまあ、悪くねぇだよ。




