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エピローグと第一話

 ドクターペッパーは馬鹿が飲む飲み物だ。

 場合によってはそこらの人間に刺されそうな発言であるが今ではそれすらどうでもいいと思っている。

 必ずしも自分が世界の中心ではなく、私はヴィーガンでもないので肉も食べるし、性自認も男性の男なので勿論、女性が好きだ。

 私は教師として人にモノを教える立場にいるが性格はあまりいいほうとは言えないので辞職したいとも考えている。

 第一話 正義

「先生、今日の放課後時間ありますか。」

 三限の授業終わり、喧噪とした教室で彼女は私に話しかけてきた。


 ―わかりました。放課後この教室で。


 私は授業終わりの教室を後にパタパタとスニーカーの音を廊下に響かせながら教務室へと向かった。

 授業と事務業務を行っていると案外時間が経つのはあっという間に感じる。

「昔は昼休みまでの授業でさえ長く感じていたのに....。」

 そんな時を感じさせる爺臭いセリフを吐き捨てながら私はまたあの教室へ足を踏み入れた。


 がらがら。

 どの学校にいてもこの音だけは変わらない。


「お待たせしました。どのようなご用件でしょうか」

 生徒を恐縮させないよう、できる限りにこやかで優しそうな先生を演じる。


 女子生徒は私が教室に入ってくるがいな無言でプリントを差し出してきた。


「あぁ、家庭訪問の....。お母様のご予定は合わなそうですか?」

 すべての項目にバツが付いたしわくちゃのプリント。

 そして、渡すときに見えた運動程度じゃつかないであろう腕の殴打痕。


 彼女はほかに何か言いたげであったが私はそれ以上のことを聞かなかった。

 いいえ、聞きたくなかったのほうが正しいのかもしれない。


 彼女は結局一言も話さず教室を後にした。120cmほどだろうか小さな体にしては何か大きいものを抱えている気がした。


 殴打痕だけであらぬ妄想がいやでも浮かんでしまう。両親からのDV、ネグレクト、または自分自身で。

 なんどでも言うが私は人にモノを教えられるほど人が出来ていない。

 思想はゆがんでいるであろうし、別に友達も多いほうではない。そして、優しくもない....と思う。

 人にモノを教えられる人は相当できた人なんだと感じる。子供の成長のために世論の考えを親の代わりに教え、褒め、叱り、謝る。

 そんな大それたものすらゆがんでしまった私には持ちえないものだった。


 あれから何日か経ったであろうか。あの女子生徒はめっきり姿を現さなくなった。

 あの子の父親からは「体調不良」とだけ伝えられ、それに私も了承していた。


「真綾ちゃん、心配ですね。」

 国語の教師で私と同期の先生が少し声量を抑えて話しかけてきた。


 ーそうですね。あの痣が関係してそうですね。

 私はそう多くを語らなかったが彼はそれでも事実だけを理解したようだった。


 彼は私を人通りの無い旧校舎の空き教室まで私の腕を引っ張り「来い。」とばかりに私の脳に命令を下した。


「あなたは真綾ちゃんが危険な状況に関わらず、話も聞かず、助けないなんてそれでも..............大人ですか?」

 彼の顔は強張っていて、察しが悪いであろうドクターペッパーを飲んでそうなやつでも怒っていることがわかるだろう。


 ―私はこの案件に関して関わるべきではないと思います。それは勿論あなたも。

 子供はあなたが思っているよりも賢いです。あなたの考えていることの通りかもしれませんがそうでないかもしれません。


 彼女の顔からは怒りの感情が消え、正義と呆れに似た表情に変化した。

「わかりました。もうあんたには頼みません。」

 ばあん、と少し乱雑に扉を閉め彼は足早に教室を出ていった。


 そんなことからももう数カ月たったであろうか。彼は辞職した。

 突然だったらしい。校長も戸惑っていたが私だけはその意味を理解していた。

ここ最近ずっとテレビ会社からの話題を搔っ攫っている話題だ。

「ある"家族"の一家心中」

父親からのDVとの通報を受けた警察が家に立ち入った際にはみるも無残な情景だったという。

母親の浮気に対し父親との口論になり最終的にキッチンにあった包丁でめった刺しにしたらしい。

殺してしまったことに絶望した母親は気が動転し、子供もろとも家に火をつけ亡くなった。一酸化炭素中毒らしい。


その後わかったことだが、焼け跡から出てきた私でもまだ最近に感じる✕が多くついた問題集と子供ケータイが見つかった。

子供ケータイの写真フォルダには母親と彼が話しているところが写った写真が残っていたらしい。



....子供は大人が思っているよりも賢い、と感じる。

今日も変わらない。私たちは取材への対応に手を焼いていた。

ああ、そうだ。彼がいなくなる前に聞いておくべきだった。


「あなたは”日根倖望”を知っていますか?」

辞職したいとまでいう私にいまだ教師という役にこだわらせるたった一つの意味であり、理由だ。


第一話 終

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