表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/20

3.弁償の代わりに



 ――翌日、私はざわつく教室内で、昨日とは別の通販サイトを見て、ため息をついた。

 画面をじっと見つめ、肩を落とすと、廊下の方が急に騒がしくなった。

 つられるように見ると、教室の前方扉に敦生先輩の姿が――。


 私と目が合った途端、彼は人差し指をひょいひょいとこっちへ向けた。

 来い、という合図だ。

 席を立って、腰を低くしたまま彼の元へ。


「あ、あの。昨日はすみませんでした。あとで先輩の教室まで行こうかと……」


 上目遣いのまま言うと、彼は私の生徒手帳を突き出した。


「こういうの渡されても困るから」

「逃げたと思われるのが嫌ったんで。この見た目で、結構損していますから」


 私は小さくため息をつき、両手で生徒手帳を受け取る。


「中に入ってた写真は彼氏? バンドマンっぽかったけど」


 胸がドキッとした。

 頬が赤く染まり、生徒手帳を胸に抱える。


「中身を見たんですか?!」

「身分を明かしたかったんでしょ?」

「まっ、まぁ……そうですけど」


 計算外だった。

 渡したときは、名前だけ確認するかと。


「それより、どう弁償したらいいですか。昨晩からショッピングサイトを眺めていたけど、三万円切るものってなかなかないし、多分代わり……じゃ無理ですよね」


 冷や汗をにじませ、上目を向けた。

 申し訳ない気持ちと、早く終わらせたい気持ちが交錯する。


「悪いけど、イヤホンの代わりになるものなんてない」


 やっぱり、そうだよね。


「じゃあ、どうすれば……」

「丸1日考えたんだけど、弁償しなくていいよ」

「えっ、でも」

「その代わり、交換条件でどう?」


 頭の中が真っ白になった。

 いままで弁償のことしか頭になかったから。


「……その交換条件、とは?」


 達成できるかわからない。三万円分の交換条件なんて。

 あれほど高価なものと引き換えになるほどだから。

 ……でも、聞く価値はある。


「1ヶ月だけ、俺の偽彼女になってくれない?」


 彼は表情を一転させ、にこりと微笑んだ。

 私は思わぬ提案に、目をきょとんとさせる。

 弁償とは、似ても似つかない。


「どうして私が、先輩の偽彼女に?」


 気になるのは、”彼女”ではなくて、”偽彼女”だということ。


「魔除け」

「……は?」

「女を近づけない役にぴったり。あんたなら俺に惚れなそうだから、安心かなって。面倒な女に狙われやすいから、モテるって結構たいへんなんだよね」


 意味がわからない。

 まだ敦生先輩のことはなにも知らないし、私は准平(じゅんぺい)のことが――。


「バカバカしい。私、遊びで偽彼女なんて、引き受けるつもりなんてないし」


 プイッと目を背けた。

 もしかしたら、からかわれてるのかもしれない。


「じゃあ、本気の偽彼女ならいいの?」

「ばっ、バカにしないでください! 私、好きな人いるんで――失礼します!」


 拳に力を込めて背中を向けた――でも、その直後。


「でも俺、諦めないよ」


 振り返ると、彼は私を寂しそうな目で見つめていた。

 私は唇を噛み締めて、教室に戻っていった。


 なによ、偉そうに。

 こっちは真剣に心配してるのに。

 イエスなんて絶対に言わない。

 イヤホンを壊したからって、軽々しく扱ってほしくないのに。


 席に戻り、机に両手を置き、ふて寝する。

 申し訳なさが、偽彼女騒動でムカつきに変わった。


 だけど、彼の瞳の奥が笑っていなかったことと、あのときの声がなぜか耳の奥に残っていた。

 偽彼女……。

 先輩はモテるのに、どうして”私じゃなきゃダメ”だったんだろう。


 ――結局、話の折がつかなかった。

 私の条件と、彼の条件がケンカをしたまま。

 最後はどちらかが折れなければ、きっと私は、三万円のイヤホンの呪縛から逃げ切れない。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ