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36.まだ結べない願い



 ――1月4日。

 私は真央と神社へ初詣に来た。

 多くの参拝客で賑わい、ざわめきが辺りを包んでいる。

 時おり、屋台の香りが鼻につき、食欲をわかせた。


 手水舎に向かい、冷たい水で手を清め、本殿に向かった。

 二人で長蛇の列に並び、賽銭箱に小銭を投げて、手を合わせたまま頭を下げた。


「早く、あいつを忘れられますように」


 思わず声に出てしまった瞬間、真央はプッと笑った。


「呟いてる時点で、忘れてないじゃん。素直に忘れられないって言えばいいのに」

「だから違うって! あんな奴……ほんと、最低だし」


 言葉とは裏腹に、最後の日の手の温もりが蘇る。

 だめ……。早く忘れないと。

 真央は列から外れると、私のマフラーに指をさした。


「それ、かわいい。似合ってる!」

「あ、このマフラー? 敦生先輩からのプレゼント」


 マフラーの先端を指先でつまみ、少しだけ引き寄せた。


「さすが、センスいいね」

「ま、まぁ……デザインは、気に入ってるけどね」


 マフラーは想像以上に温かい。

 あいつが酷いことを言ってきたのは事実だけど、物に罪はない。


 小さく息を吐いて、白い煙が空に消えた。


「そのマフラーをしてるってことは……准平くんのこと、もう忘れられたの?」


 軽く口を結んで頷いた。


「多分ね。あんなに准平、准平って言ってたのに、他に好きな人がいたことを知っても、そんなに悔しくなかったし」

「どうして?」

「……わかんない。ショックだったけど、それ以上に、敦生先輩のことが心配になってた」


 先輩がこの事実を知ってしまったら、私以上にショックを受けるだろう。

 ……早く忘れなきゃ。


 空を見上げると、木の葉がこすれ合うようにサラサラと揺れていた。


「里宇さ……。もしかして、本気で敦生先輩のことを――」


 真央の笑顔が少しだけ曇って見えたので、眉をひそめて首を振った。


「そんなわけないよ。私が、あいつを好きになるなんて……」


 そんなこと、絶対ない。

 ただ、イヤホンを壊した罪悪感に駆られただけ。

 同じ境遇だったから、同情しただけ。


 好きになんて、なってない。

 ただ、あいつの笑顔が頭に浮かぶだけ。

 マフラーがあったかくて、悔しくなる。


 小さなため息をつきながらおみくじを引くと――大吉。

 恋愛運は、『かならず叶う』。


 全然当たってない。

 2年越しで准平にフラれ、あいつにもひどいことをされた。

 もう、振り回されたくない。


 悔しいから、真央と一緒におみくじを結ぼうと思った。

 でも、願いを込める真央の横顔を見てたら、結べなかった。

 願いが叶うかどうかなんて、わからない。

 けれど、ほんの少しの希望に賭けてみたい自分もいる。


 もう少しだけ持っててもいいかな。

 おみくじは、お財布の中へしまった。


 私は弱虫だ――。

 まだ、願いを結ぶ勇気さえ出せていない。

 でも、次こそは、胸を張って笑える自分でいたい。



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