32.信じたくても、信じられない
――翌日の昼、私は中庭に向かっていた。
今朝、三島先輩が昇降口で待っていて、昼に大事な話があると伝えられた。
きっと、敦生先輩の話なんだろう。
中庭に繋がるガラス扉を開くと、茂みの奥に三島先輩の背中が見えた。
でも、そのさらに奥には敦生先輩の姿が。
胸がトクンと高鳴った。
昨日別れたばかりなのに、どうして体が反応するんだろう。
ゆっくりと近づくと、二人の会話が耳に飛び込む。
「里宇ちゃんと、もう別れたの?」
「昨日で契約が終了したから」
私の話題――?
思わずごくりと息を呑んだ。
風で髪が揺れるたびに、胸がざわつく。
「じゃあ、目標達成……したんだね」
三島先輩の言葉に、体がビクンと揺れ動き、足が止まった。
――目標、達成?
なに、それ……。
「やっと、あの頃やり残したこと、全部片付けられたよ」
敦生先輩は表情一つ変えずに答えた。
え、ちょっと待って、どういうこと――?
全身が凍りついた。
「……ちょっと優しくしただけでイチコロだったし。イヤホンを無くしたくらいで、普通ゴミ袋を漁る? ……気持ち悪いだろ」
嘘……だよね。
あのときの笑顔も言葉も、全部本物じゃなかったの?
震える指先で、拳を握りしめた。
「……き、気持ち悪いって、ちょっと、言い過ぎじゃないかな」
三島先輩の声が震えている。
しかし、敦生先輩は顔色一つ変えない。
「べつに。……もう他人だし、今後関わることは一生ないね」
まるで別人のような口調。
イヤホンが見つかったときは、嬉しそうに見えたのに。
「で、でもさ……。本当は好きになっちゃったんじゃない? 結構いい子だったし、頑張りやだったよ?」
三島先輩の声に、私をかばう優しさがにじみ出ている。
「好きな人の影を追ってる女だよ? ……普通にありえないだろ」
その瞬間、視界が真っ暗になり、足がよろけた。
「う、そ……」
一歩後ずさってから、その場を走り出す。
息を切らしながら屋上まで駆け上がった。
扉を閉め、背中を伝うように腰を落とす。
……先輩、私を騙してたの?
人を信じたいと言っていたのに。
結局、私は綾梨さんの代わりだったのかな。
信じたくない――。
昨日の眼差しは優しかったのに……。
先輩が倒れた日のことも頭に浮かんだ。
眠ったままイヤホンを握りしめていたのも、綾梨さんが忘れられなかったから。
手を顔に当て、溢れ出す感情を抑え込む。
先輩の言葉が、嘘だと願いながら。
――でも、これは夢じゃない。
誰一人いない屋上。
冬の空気に包まれ、額に冷たい雨がぽつりと落ちた。
まるで、誰かに「もう目を覚ませ」と突きつけられたように、惨めな気持ちに拍車をかけていく――。




