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29.光に溶ける想い



 ――12月23日。

 私は放課後に、真央と街に出て買い物をしていた。

 薄暗い夜空の下、イルミネーションが街全体を色とりどりに包みこんでいる。

 クリスマス一色の町並みに、胸が高鳴った。


 敦生先輩と明日の最後のデートのために、白いワンピースを購入した。

 気合いが入ってるとは思われたくないけど、少しおしゃれしたい。


「敦生先輩に、クリスマスプレゼント渡すの?」


 真央は買い物袋をぶら下げたまま、顔を傾けた。

 私は首を小さく横に振る。


「偽彼女契約は、明日までだから……」


 別れる覚悟は決めているものの、唇が震える。

 彼が望んでいたのは、”信じられる人”が傍にいること。

 私は少しでも力になれたのだろうか。


 ショッピングセンター内のざわめきが、心の奥のざわめきと重なる。

 

 プレゼントを渡しても、私たちの関係は明日で終わり。

 残り1日を喜ばせても、それが彼の記憶に残るとは限らない。


 1ヶ月間――こんなにも短かったんだ。


「契約が終わったら、友達になるの?」

「全然考えてないよ。毎日一緒にいると、感覚が狂うんだよね」

「敦生先輩がフリーになったら、ファンは大喜びだろうなぁ」

「……たしかに。嫌がらせも、冷やかしも、何事もなかったかのように終わるんだよね、きっと」


 マフラーをぎゅっと握りしめると、縫い目が視界に入った。

 この1ヶ月間、本当にいろんなことがあったな。

 マフラーのガタガタした糸の感触に、この1ヶ月間のすべてが詰まっている。


 今日までの日々を思い返していると、ふっとため息が漏れた。


「でもさ、里宇から話を聞いてると、好きにならない方が難しくない?」


 真央はボソっと呟いて、私を見つめた。


「えっ」


 無意識に目が丸くなった。


「ファンから守ってくれたし、マラソン大会の時は練習に付き合ってくれた。それに、破けたマフラーを縫って、約束できるように長時間待っててくれたんでしょ」

「そ、だけど……」

「私だったら好きになっちゃうかな。そこまでしてくれる人、なかなかいないし」


 たしかに彼は、この1ヶ月間で目に見えないものをたくさん与えてくれた。

 イヤホンの件がなければ、私は見向きもしなかったし、多分一生関わらなかった。

 遠くで女子が騒いでるのを、ただ眺めていた程度。

 私は思い出だけを大事にしていた。


 あいつ、生意気だし、まっすぐ過ぎて見ていられない。

 ――准平とは、まるで違う。


「すっ、好きじゃないよ。あんな人……」


 そう言いながらも、息が詰まる。

 冷たい風を吸い込むたびに、痛みが増していく。


 イルミネーションに目を向けると、色とりどりに街を着飾っていた。

 残りわずかな輝きを、ぼんやりと見つめる。

 あと少しで見れなくなると思うと、精一杯目に焼きつかせたくなった。

 来年もまた、同じように見ることができるのかな。


 あの日からも、准平のマフラーを大事にしている。敦生先輩も、イヤホンを大事にしている。

 それが、私たちが選んだ答えだった。


 そう思っていた――あの日が来るまでは。



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