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2.三万円の後悔



 ――同日の夜。

 私はベッドの上で寝転びながらスマホを開いた。

 通販サイトのページに手をかけ、値段を見て、深いため息をつく。


「あのイヤホンは、三万円……か。はぁ……、高いよ〜」


 ベッドの安心する香りに包まれても、不安は消えなかった。

 いますぐ弁償したい。

 けれど、イヤホンがこんなに高額だったなんて。


 ベッドから起き上がり、カバンの中の財布と、机の中の預金通帳を出して眺めた。

 所持金だけじゃ届かない。


 再びスマホを取って、ベッドに座った。

 中学からの親友で、同じ高校に通う真央(まお)に電話をかける。


『里宇〜? こんな時間に電話なんて、どうしたの?』

「ごめんね、遅い時間に。実はさ、今朝噂の敦生先輩のイヤホンを壊しちゃって、どうしたらいいか悩んでて……」


 思い出すだけで、冷や汗が浮かび上がる。


『マジ? やばいじゃん』

「でしょ。弁償するつもりだったんだけど、断られちゃって」

『……え、それどういうこと?!』

「敦生先輩はショックを受けてたし、三島先輩は同情の目で見てた。あぁぁ……もうどうしたらいいのか、本当にわかんない」


 できる限り人と接点を持たずに生きてきたのに――そのきっかけを、自分の足で踏み潰してしまった。

 これだけでも受け入れがたいのに、弁償すら受けてくれないなんて。


『あちゃぁ〜、災難だったね。でもさ、あの敦生先輩と接点を持てたなんて、逆に幸せじゃん?』


 真央との温度差に、目が丸くなった。

 ベッドの棚にある小さなぬいぐるみを二つ揃え直す。


「どうして?」

『イケメンで人気者だし、見ているだけでも胸がキュンとしない?』


 小さくため息をついた。

 イケメンとか関係ないし。

 

「あのね、私がその人気者に興味があると思う?」

『あ……いや、その……』


 小さくなっていく真央の声が、スピーカーの奥に溶けていった。

 過去の私をよく知っているから、言い返せないのだろう。


『じゃあさ、弁償の代わりにどうしたらいいか聞いてみれば?』

「代わりになるものなんて、あると思う? あんなに高価なものなのに……」

『わかんないけどさ。でも、誠意は伝えていかなきゃね』


 イヤホンを壊してしまったことは、本当に申し訳ない。

 でもそれ以上に気になるのは、あのときの寂しそうな目。

 どっちにしろ、弁償は視野に入れなければならない。


 バイトを始めたって、給料が入るのは1ヶ月後。

 ――まずは誠意を示さなきゃね。

 もう一度謝るか、母にお小遣いの前借りを頼むか。

 許してもらえるかどうかは、その後で考えよう。


 カーテンに手をかけて空を覗き込むと、月光が眩しく輝き、迷いも少しずつ溶けていくようだった。


「よし、明日もう一回謝ろう!」


 うんと頷くと、月の光がそっと肩に降り注いだ。



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