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17.大嫌いなのに……



 ――ランチタイム。

 冬の匂いが鼻をくすぐった。ツンとした冷たさが、胸の奥にまで届く。

 私はマフラーの一件から気分が乗らず、一人で屋上へ向かった。

 無意識で首元に手をやる。

 そこにあるのは、もう温もりではなく、胸の痛みだけ。


 教室にいれば、また誰かが見ている。

 そう思うと、敦生先輩の傍にいるのが怖かった。


 建物の影に隠れて、体育座りで顔を埋めた。

 滴る涙を指の腹で拭い、鼻をすすっていると、屋上扉が開く音がした。

 二つの足音は、少し遠くで止まる。


「敦生くん。……あのっ、半年間片想いしてました。私と、つきあってください!」


 体がビクッと揺れた。

 始まったのは、敦生先輩への告白だったから。

 関係ない――そう言い聞かせても、息が詰まる。


「ごめん。彼女……いるから」


 その”彼女”とは、形だけの彼女の私。

 断る口実で利用されているのだろう。

 見たくない。けど、耳が勝手に彼の声を追ってしまう。


「あの金髪の子だよね」

「うん、そう」

「あの子、敦生くんには釣り合わないんじゃないかな。……ひどい噂が立ってるし」


 胸がキュッと苦しくなった。

 そもそも、噂が始まったのも敦生先輩が原因だった。

 傷つくのは、いつも私の方なのに――。


 冷たい風が枯葉を舞わせ、心の奥をかき乱していった。


「自分が選んだ人だから、人にどうこう言われたくない」


 その言葉が届いた瞬間、胸がドキンと鳴った。

 体を傾けて二人を見ると、そこにはよくある告白風景。

 ひとつ違うのは、彼が私の味方でいること。


「だっ、だけど! 人に泥水をかけるような野蛮な人なんて……」

「自分が本当のことを知ってればいい。人の目なんて、信用してないし」

「……っ! で、でも、あの子よりも、私の方が敦生くんのことを」

「ごめん。誰よりも信用してるんだ、あいつのこと」


 その言葉が、冷たい空気を少しだけ温めた。


 敦生先輩は、彼女をまっすぐに見つめている。

 向かい風を浴びているその表情はピクリとも動かず、揺らがない姿勢を見せた。


 彼女は小さく息を吐き、諦めたように目を逸らした。

 靴音を響かせながら、こっちに走り向かってくる。

 私は慌てて元の位置に戻り、再び体育座りに。

 すぐ横の屋上扉がガシャンと閉まり、胸の奥に圧が加わった。


 再び壁の横から覗き込むと、敦生先輩は柵に腕を預け、風を浴びていた。

 なにかを思うように。


 心臓の音が、耳の奥で鳴った。


 私、あんなにひどいことを言ったのに、誰よりも信用してるなんて。

 ううん、敦生先輩なんて……大嫌い。

 胸が苦しくなり、鼻頭が赤く染まっていく。


 空を見上げた。

 ひんやりとした風が頬を撫で、涙の跡を乾かしていく。

 雲一つない青空が、胸の痛みをそっと包みこんでいった。


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