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15.消えたイヤホンと、心の距離



 ――放課後。

 私と敦生先輩は、肩を並べて校門を出た。

 あと3週間少しで、この関係が終わる。

 なのに、彼の隣に少し慣れ始めている自分がいた。


 通学路に吹き付ける風が冷たくて、マフラーに顔を埋めるように巻き直す。

 その延長線上で、敦生先輩をチラッと見つめる。


「あの……さ。敦生先輩」

「ん?」


 彼は横目で私を見た。

 ここ数日間、私たちの関係がギスギスしているせいか、彼の目線だけでも胸の奥がぎゅっとなる。


「偽彼女、私じゃない方がよかったんじゃない? たとえば……綾梨さんとか」


 緊張していたせいか、しどろもどろな口調に。

 頭の中は、綾梨さんのことで目一杯だ。


「どうしておまえが綾梨の名前を?」


 彼は目をハッとさせる。

 綾梨さんの名を出すつもりはなかったけど、無意識のうちに口走ってしまい、思わず俯いた。


「まっ、繭花さんから聞いて……。だって、好きなんでしょ?」


 手が震えたので、マフラーをギュッと握った。

 ここまで言うつもりはなかったけど、私が偽彼女でいることにズレを感じていたから。

 余計なことだと、わかっているけど。


「そうだけど……。できない」

「どうして?」


 彼は空を見上げて白い息を吐いた。

 空に浮かんでいる雲と繋いでいるかのように。


「そんなに、偽彼女やりたくないの?」


 その言葉が、喉の奥を締めつける。

 

「あたりまえでしょ? 敦生先輩と関わってから、散々な目に遭ってるし」

「あははっ、俺が嫌なんじゃなくて」


 風で髪が揺れ、心を揺さぶる。


「そっ、それは先に言うつもりだったの!」


 私ったら、なに言い訳してるのよ。

 意識……してるみたいじゃない。


「じゃあ、今度のマラソン大会で50位以内に入ったら、偽恋人を解消してあげる」

「え、ホントに?」

「まぁ、普通に考えても無理だろうな。その貧弱な足じゃ」


 彼の目線は滑るように私のふくらはぎへ。

 私は手でさっと覆う。


「なによ! やってやるわよ。50位以内くらい!」

「へぇ〜、マラソンに自信あるんだ」

「なっ、ないけど。私だって本気出せば」


 ムキになって言い返すと、ブレザーのポケットを触っている彼の顔が急に青ざめた。


「……イヤホンが、ない」


 彼は両ポケットをガサガサと漁るが、見つからない。


「ポケットに入れてたんじゃなくて?」

「どこかで落としたのかも」

「じゃあ、学校に戻ってみよう」


 私たちは来た道をUターンして、校舎へ向かった。

 二人で教室内を探すが、見つからない。


「もしかして、体育とかあった?」

「五時間目に。あぁ〜、更衣室に落としたのかも」

「じゃあ更衣室を見てきたら? 私、その間に別のところを探してくる」


 私たちは教室で別れて、それぞれ別の場所を探すことに。

 廊下や職員室。周りの人たちに聞いたけれど、見つからなかった。


「はぁ……。このまえカフェで落としていたから、また落としちゃうんじゃないかと心配してたけど、やっぱり」


 肩を落とし、窓の外を見ると、ごみ集積所が目に入った。

 そこは、全学年のゴミが全て集まっている。

 もしかしたらと思い、踵を返した。


 集積所に着き、冷たい風に煽られながらゴミ袋を開け、手を突っ込んだ。

 生ゴミの香りに加え、近くに集る虫。

 手で追い払いながら探すが、出てくるのは紙やティッシュやお菓子の袋ばかり。


「はぁ〜、どこに行っちゃったんだろう……」


 同じ場所で探していたせいか、汗や寒さで手がかじかんだ。

 途中、ゴミ袋が破れ、食べ物の汁で手がベタベタに。


 残り十袋くらいのところで、ビニール越しに小さな白い物体を見つけた。

 開けてみると、壊れ具合から敦生先輩のものと確認する。


「あっ、あったぁー! ようやく見つかったぁ」


 なぜこんなところに、と思う前に、見つかった喜びの方が勝っていた。


 笑顔のまま動いたら、キラキラとホコリが舞い、軽くむせた。

 敦生先輩、きっと喜ぶだろうな。


 すかさずLINEを打った。

 5分もしないうちに、はぁはぁと息を切らしながら到着した彼。

 ゴミまみれの私を見て、驚いている様子。


「敦生先輩〜! イヤホンあったよ。このゴミ袋の中から見つかったよ」


 ゴミ山の前で立って、笑顔で両手にイヤホンを掲げた。

 敦生先輩は信じられないといったような表情で私に近づき、私の髪についたゴミを払い始めた。


「……こんなゴミ山の中から探してくれたの?」

「うん、そう。掃除のときに紛れちゃったのかな。ふとしたタイミングで、イヤホン落としちゃったのかもしれないね」


 私はイヤホンを渡すと、彼は何か言おうとしているのか、唇が揺れた。

 ――だが次の瞬間、片手で私の頭をおさえ、自分の胸に押し付ける。

 彼の香りが、喉の奥に流れ込む。


「バカ……。こんなところまで探すなよ」


 震えている体で小さく呟く彼。

 思わず胸がぎゅっと締めつけられる。

 普段の自分なら突き放していた。

 けれど、いまにも泣きそうな声に胸が詰まる。


「だって、このイヤホン、敦生先輩にとって大切なものだったんでしょ」


 私は知ってる。

 イヤホンは、私にさえ触れられてほしくないものだと。

 耳元に、彼の鼓動が響いた。


「大切だよ。……命の次くらいにね」


 彼はそれ以上なにも言わなかった。

 指先の力が強くなり、私の鼓動と繋がっていく。

 普段向いてる方向は別々なはずなのに、いま心の中は同じ方向へ。


 ふと顔を傾けると、校舎の渡り廊下の窓から繭花さんが私を睨みつけていた。

 思わず心臓が跳ね、喉の奥がキュッと苦しくなる。


 もしかして、私たちのことをずっと見ていたのかな。

 『好きな人がいる人に近づくのは間違ってるよね』と言った言葉が、重くのしかかる。

 彼女は唇を噛んでフイッと目を逸らし、静かに去った。



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