14.終わりを前に
――吐く息の色が一段と濃くなった、12月1日。
俺は3年近く見慣れたこの通学路の景色を、この目に焼き付けていた。
遠くの山には雪が被り、途中の商店街は開店準備に追われている。
毎朝一緒に登校している三島の顔も、そろそろ見納めに。
「実は、来月の初旬にニューヨークへ行く」
ボソッと呟くと、三島は俺の肩を引いた。
「なんだよ、それ! 聞いてない」
不安そうに見つめている瞳に、胸が痛む。
「言うのが遅くなってごめん。夏にはもう決まっていたんだ」
小さく息を吐いて、胸のざわめきを落ち着かせた。
三島には、夏に大学の推薦が決まったと嘘をついていた。
その分、驚きが半端ないだろう。
「どうして。……まさか、おまえ」
俺は軽くまぶたを伏せて、静かに息を呑んだ。
いつも通りの道が、今日はなぜか薄暗く沈んで見える。
「自分から逃げるつもり?」
一瞬、息が詰まった。
留学を決めたときはそのつもりだった。
過去を背負い続けることに、もう疲れていたからだ。
静かに首を振る。
「じゃあ、どうして里宇ちゃんとつきあったの?」
「……っ、おまえには関係ない」
俺の言葉に、三島は眉をひそめた。
「”人を信じてみたい”って言ったのはお前だろ? なのに、裏切る気かよ」
言い返す言葉が見つからない。
人を信じてみたいと思ったとき、信じられる人が傍にいなかった。
だけど、終わりが決まっていた分、気持ちは少し楽だった。
これ以上傷ついても、最低4年は日本を離れられる。
家族と過ごし、新生活に追われれば、辛い過去も少しずつ薄れていくだろう。
元々、綾梨への想いを断ち切ってから、ニューヨークへ行こうと考えていた。
でも、里宇と出会ってから、その予定が少し狂い始めている。
自分の心を映す鏡を覗き込んでいるようだから。
もしかしたら、里宇に対して特別な感情が芽生えたのかもしれない。
「裏切らないよ。契約期間を終えるまでは」
それまでは、里宇を一人の人間として信じてみたい。
「じゃあ、その後はどうするんだよ」
「まだ、わからない」
元々、1ヶ月間の契約だ。
この期間を乗り越えるまでは気持ちを整理するつもりでいる。
多分、いまの答えで正解なんだと思う。
1ヶ月と割りきって付き合えば、気持ちが楽になるだろう。
綾梨も、きっと俺が忘れてくれることを願っている。
――そう思っていたのに、胸の奥に冷たい痛みが残るのはなぜだろう。
空を見上げたら、冷たい風が喉の奥に流れ込んでいった。
そろそろ雪が降るかもしれない。




