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10.同じ場所には戻れない



 ――ランチタイム。授業が終わり、緊張から解放された俺は、薄日が差し込んでいる廊下を歩いて、カフェテリアへ向かっていた。

 足音が不揃いに響き、人の波に乗る。

 吸い込まれるように階段付近にさしかかると、幼馴染の繭花(まゆか)が後ろから腕を引いた。


「敦生くん!」

「あっ、繭花じゃん。二年生も授業が終わったんだ」


 彼女は、2年前に交際していた綾梨(あやり)の妹。

 小学生の頃、スイミングで出会った。

 それがきっかけで、綾梨とも知り合うことに。

 綾梨との交際中、唯一見守り続けてくれた存在だった。


「あ、うん……。さっき、廊下で知らない子と交際宣言してたけど、冗談……だよね」


 俺の腕を掴む手が、かすかに震えていた。


「したよ? それがなにか」

「お姉ちゃんのこと、忘れたわけじゃないよね」


 俺はまぶたを軽く伏せて、小さくため息をつく。


「……もちろん、忘れてない」


 だから、いまでも苦しい。

 無理に微笑んだら、喉が熱くなった。


「じゃあ、どうしてそんなことをするの? お姉ちゃんが悲しむじゃない」


 彼女の震えた言葉が、胸の奥に落ちていく。

 過去のことも、心配してくれている繭花のことも、全部心を揺さぶってくる。

 繭花は、俺の本心を知らない。


「いまは、そっとしておいてほしい」


 彼女の手をゆっくりと解く。

 優しく呟いたはずなのに、繭花の瞳は涙で滲みそうだった。

 

「敦生くん。もし、悩みごとがあるとしたら、私が代わりに……」

「ありがとう。でも、自分で乗り越えていきたいんだ」


 俺は穏やかな眼差しを、彼女に向けた。

 揺れている瞳に、胸がぎゅっと締めつけられる。

 いつしか廊下は、人がまばらに立つ程度に。

 淀んだ空気が、俺たちの間を通り抜けた。


「繭花には見守っててもらいたい――これから、ずっと」


 そう呟いて、彼女の元から離れた。


「敦生くん!」


 悲鳴のような声が背中に届いた。

 でも、振り返らなかった。


 たしかに俺は、綾梨が忘れられない――いまでも好きだ。

 そして、これから先もずっと、想い続けるだろう。

 だけど、同じ場所で足踏みしているだけじゃ、ダメだ。

 前を向くために、里宇に偽彼女を頼んだ。


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