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第八章 日本橋の千疋屋オーダー制フルーツバイキング 8



     8



『アンコール!』

『アンコーーーーーール!』

『アンコーーーーール!』

―そうくるよね。

―だーかーら、もうアランさんには仕込んでもらっている!

菜乃と芽理亜は観客からの追加演奏の要求を想定していた。

キーボードの隣に設置してあるドラムを叩き始める菜乃。

舞台の前景でベースをかき鳴らす虎丸。

リズムを刻みながら、虎丸の横に芽理亜。

あきらはギターを弾くふり。


♪気まぐれだと思った

 不用意なKissの意味

 でも戻れない

 «Ring≫と高鳴る胸の音

 あなたへも届くほど鳴り響く


♪今日突然気付いた

 恋をしていることに

 もう戻れない

 «きゅん≫と痛みが駆け巡り

 体中あなたを感じていた


♪もうむやみに恋はしないと

 決めた気持ちの裏腹に

 ときめく心


♪愛してる!!と云う言葉は

 とっておきの女性だけにしか

 言わないで!!

 本気になってしまうから!


「Yeah!」と芽理亜。

気付けば、野笛、彩、簗木部長、岸間、住田、千田、彩佳、ヒカルも舞台を注視するために、集まっている。

みんな、ノリノリだ。

伊野監督は帰った。

「ね、来てよかったでしょう」と海藤ライム。

「ふん、エアバンドに良し悪しないでしょうに」とりえか。

「好きなんでしょう、好きの裏返し」とカリン。

ちなみに亜美衣一党は売り子と金勘定に忙しくてユキエ以外は来ていない。


♪始まりには いつかは

 終わりがくるものだと知っていたから

 ふっと重なる唇に

 気付かないふりをしてたはずなのに


♪もうつらい恋はしないわと

 決めた気持ちの裏腹に

 せつない心


♪愛している!!なんて言えない

 そう誓ったけれど瞳がまぶしくて

 ah~ 密かなに恋は始まる


♪もうむやみに恋はしないと

 決めた気持ちと裏腹に

 せつない心


♪愛を知ることの喜びが

 小さな心の隙間にあふれてる

 そして恋が始まるの~!


「映創祭!初日!まだまだいくよ~!」と芽理亜が叫ぶと歓声が呼応。

拍手、万雷の拍手。

鳴りやまぬと思われた拍手も十数秒後には鳴りやみ、他のイベントや上映会に注目してもらいたいので、舞台でのバンド対抗戦という名のカラオケ大会は、今の時刻のような午後と夕方の中間に終わる。

すると三々五々、聴衆は各々の持ち場へ、次のイベントへ去っていく。

だが、幾人かは残った。

「あ!あれは龍王院エリス!」

これは渡水メルモ。

そう、ケートもマリアも映像作品を作る女子の大学生で、エリスを知らぬ者なのいない。

広場の孤独を感じながら、エリスは今まで人で埋め尽くされていた会場で、黒のスパンコールを着てたたずんでいる。

「ねぇ、ここは外しておこう、メルモ、マリア」とケート。

「うん、多分どこかで会える気がするし」とマリア。

彼女らがそう思ったのはエリスに菜乃と芽理亜が近づいて行ったからだ。

その後を少し離れ、あきらと虎丸とユキエが着いてくる。

「『ボルトアクションライフルガール』観たよ」と菜乃。

「『二人の失楽園』『デリリウム』『トゥ・オブ・アス』観た」とエリス。

「どうだった?」と芽理亜。

「すっごい、キュートな映画だった」と微笑を浮かべながらエリス。

「そっちに比べれば技術も演出もまだまだだ。それは認める」と芽理亜。

「初日の勝敗は?」と菜乃。

「うちの勝ちだよ。今のところうちの勝ちと嶋中さんからは言われている。でも今からこっちがゼロ人で、そっちが満杯でも、うちの勝ちだ」とエリス。

「負けちゃった!」と菜乃。

「がっかりだねぇ!」と芽理亜。

「ウソおっしゃい!このキャンパスで今、『トゥ・オブ・アス』の謎解きや考察でみんなが盛り上がっている!亜美衣とかいう女が売りさばいている本を学内でみんなが片手に闊歩している。トドメはさっきまでいた女の子たち!全国女子学生ダイバーシティ映画祭の名は既にひと月前から私の耳にも届いている!観客動員数!?話題をかっさらい、ヌーベルバーグの端緒を作り、ライブで盛り上がる、これに比べれば、観客動員数!?ちゃんちゃら、おかしい!」

エリス、明らかに二人を睨みながら。

―ルールの勝負では勝ったが、この〈勝負〉、私の敗北だ。

「バカにしたつもりはない。もし龍王院さんが私たちに挑んでこなければ、対抗して、あれだけの労力と時間と人のお金をかけたものが作れたかどうか?いや、作れなかった」と菜乃。

「ここで、私がこの大学に帰ってきて、あなたたちに勝負を申し込んだ、そのワケ、教える」とエリス、気を取り直して。

―だいたい、もう、判ってますがね。

すっかりモブになっていたあきら。

「ライバルだよ。ライバルを欲していた!いや、ともかく、ライバルのいない人生なんて、クソだ!地位?名誉?金?恋愛?そんなものでは満足できない、今私が初めて味わう、このキリキリとした悔しさ!だが、同時にこの憑き物が落ちたような清々しい爽快感!こんな目を私に味合わせるとは!つまり、私は目的を果たした。本当に勝ったのはどっちだろうねぇぇぇぇ!?」と爆笑しながら、エリス。

「ハハハハハハハハハハハハ!」と菜乃と芽理亜。

三人とも腹を抱えて笑うが、周囲の者は誰も笑わない。

そして、三人は呼吸困難になりながら、立ち上がり、三人でハグする。

「ナノメリア、でもお別れだ」とエリス、二人の耳元で。

パッと離れる菜乃と芽理亜。

「こういう映像のコンペティションやトーナメントを私は世界中で、2、30同時進行で行っている。リモートで指示を出していたが、でも限界だ!そろそろ現地に乗り込んで、指示を出さなければならなくなった」とエリス。

―この子、こういうトコだよな。

―そう、こういうトコだよね。

菜乃と芽理亜。

つまり、30の内の一つだってことか!?、かということ。

「じゃあ、ヘディラマーはどうするんですか!?」と会場に残っていたヘディラマーの海藤ライム。

「解散するのが無難。カリンやりえかの意見も聴きたい」とエリス。

「いえ、私はヘディラマーなんて、どうでもいい」とりえか。

「そうか、流れ的にレコンキスタに戻るかと思っていたよ、りえか」とエリス。

「そうですね、それもいいかもしれない。でも私、もうちょっとエリスさんと一緒にいたいんです。だから、私も連れていって下さい!」とりえか。「エリスさん、いつ立ちますか?」

「今夜の最終便」

「じゃあ、直ぐに帰宅して、親を説得します。どのくらい離れている予定ですか?」

「最低でも2年」

さすがにエリスのその言葉にひるむりえかだった。

「私も行きます」と島カリン。「私は絶対説得します。エリス、私こそはあなたの悔しさをを克服させられる最高のパートナ。どこの国にどんな協力者がいようとも私がいちばんです。それは私を2年そばに置けば判ることです」

「カリンさん、私だって絶対行きますよ」と怒り気味でりえか。

「うん、二人で、エリスを盛り立てていこう。こんな度量のカリスマ、二人でも足りないくらいだ」と少し悲しい表情のカリン。

あきらはりえかもカリンも見ておらず、ライムを注視していた。

そのため、カリンがパーソナルスペースに入ることをあきらは許してしまった。

『相川くん、私は決断したよ。次はあんただ』

耳元でカリンに囁かれるあきら。

ちなみに虎丸が前のようなあきらみたいにモブになってしまっているのは、この話での虎丸の役目は冒頭の演奏シーンで終わっているからというネタバラシ。

その小声、皆がヘディラマーの今後、つまり、レコンキスタで吸収するかどうかを野笛や簗木部長を交えて侃侃諤諤の会議になっていたので、菜乃と芽理亜の耳に入ることはなかった。

「いや!今になって合併とか、そんな恥ずかしいマネできないよ!」

これは藤堂アサミ、「ボルトアクションライフルガール」ではCGを担当した。

隣には同じくCG班だった椎野亜弥、そしてネルソン兄弟から殺陣を仕込まれた真野祥子が控えている。

「ヘディラマー、私たち3人が運営します。確かに龍王院先輩が抜けたら、女子の先輩たち半分以上は抜けるでしょう。でも来学期に新入生をいっぱい獲得します。気安くいきたいから、菜乃ちゃんと呼ぶね。菜乃ちゃん、私も観たよ、で、そっちは邦画に特化したサークルだと思った。こっちは龍王院エリス仕込みの欧米映画、つまり洋画専門のサークルとする、その仕切りでこれからやっていかない?」とアサミ。

「すまない、藤堂、椎野、真野」とエリス。

「いや、だって、リモートやメールで交流できるし、このご時世、距離は関係ないでしょう」と亜弥。

「繋がっていないと龍王院利権使えないんで、これからもよろしくです」と祥子はニヤリ。

「それと青山ユキエさん」とアサミ。ユキエは意識をアサミに向ける。

「お友達の渡水メルモさんに私たち新生ヘディラマーも全国女子学生ダイバーシティ映画祭も参加するとお知らせください」

―エッ!?本当にヘディラマーの間でも全国女子学生ダイバーシティ映画祭の話は出回っていたのか。

あきら、こればかりは読めなかった。

「藤堂、私も、そうだな、ナノメリアが在学中には必ず、全国女子学生ダイバーシティ映画祭に参加する。だから、その時は私龍王院エリス、ナノメリア、新生ヘディラマーで三つ巴の勝負だ!」とエリス。

いや、三つ巴では足りない。

八家マリアの全国女子学生ダイバーシティ映画祭での異名は〈西からの刺客〉、大阪・京都・神戸で既に一大勢力がカタチになりつつあり、九州と四国では又別々のBL映画文化圏が形成されつつあり、四国代表には安芽理亜と一時期近しい存在だった者が名乗りを上げることとなる。

いや、関西圏だけではない。日本中、アジア中、世界中を席巻する、ウーマンリブやフェミニズムではない〈第三の女性運動〉に発展していく潮流の萌芽となる。

だがそれは彼女たちが四回生となる三年後のお話。

「海藤さん」と小声のあきら。

なんなの?といった風情であきらを顔を向ける海藤ライム。

「龍王院さんと島カリンさん、行っちゃいます」とあきら。

「うん、そうね」とライム。

「悲しくないんですか?」とあきら。

「いや、さっきも亜弥ちゃん言ってたけど、今距離とか関係ないし、アッ!」

「どうしたんですか、海藤さん」

「ああー、相川くん、私がカリンさんのこと、好きだと思っていた!?」

「ええ」

「いや、ないし。私フツーにカレシいるし」

「だって、『ボルトアクションライフルガール』であんなに激しいキスシーンをしていたのに、ですか」

「きみだって、室井くんと激しいペッティングシーン撮られていたけど、恋愛感情ないでしょう」

「そうです」

「カリンがきみのことを案外鋭い男の子って言っていたけど、そうでもないね」と嫌味でなく微笑と共にライム。

―あれ?どうしだんでしょう、ぼくは。

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