表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/80

第八章 日本橋の千疋屋オーダー制フルーツバイキング 7



     7



伊野と翔は実にクドく、ナノメリア4人を絶賛した。

「なんかさぁ、凄く映画観たなぁ感が強かった。オレが学生の頃にその目的で撮ったことなかった。まぁ、30分くらいだから、ゾンビものかスパイものか、みたいな感じさ」と伊野。

「いやぁ、きみらは卑怯だ!あんな遍歴シーンであんなBGMかかえるなんて、禁じ手をいっぱんに2回やっているなんて!」と翔。

「前に、日本映画の記憶を基に作りたい、と私言いましたよ」と菜乃。

「あすこいらは虎丸と相川くんと相談して決めたんですよ」と芽理亜。

こんなふうに絶賛はされたが、四人は未だ一回生、これから模擬店の売り子に入るのだ。

ちなみに酉野呈良がやってきたので、菜乃はワインカラーのドレスに着替えて、蕎麦を茹でている。

呈良はついでとばかりに「ボルトアクションライフルガール」を観に行った。

そんな牧歌的な学園祭の風景に、現れた三人の若い女性。

「ナノメリアはどこにいる!」と眼鏡のショートカット。

「この蕎麦屋がナノメリアの隠れ家だと調べはついている!」とはいからさんスタイルの袴姿。

「隠し立てするとタダではすまない!」とカラコンのゴスロリ。

―こ、こいつらはエリスか亜美衣さんの受け持ちだろう!

とそんなことを思ったが、私が担当すべきかと「ナノメリアの芽理亜は私ですけど」と芽理亜が告げた。

「あ!『デリリウム』の青いコ!かわいい!よかった!よかった!すんげぇ、面白かった!」と眼鏡のショートカット、渡水(わたみず)メルモ、二十歳は芽理亜の手を握り、絶賛。

「あ、メルモじゃん」と休憩がてらカレー蕎麦を食べに来た青山ユキエ。

「あー、ユキエか!」と呼ばれたメルモ。

「知っているんだ」とユキエに問う菜乃。

「同じ、高円寺女子美大のクラスメイトだよ」とユキエ。

「あー、高校時代の漫画のライバルがいたって、まさか!?」とメルモ。

「そう、このナノメリアさ!」とユキエ。

すると「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」と絶叫が聴こえる。

その発生源は袴姿の銀座ケート、21歳。

「ハチ役の男の子よねぇ?うわぁ、たまらないわ!今度私の映画に出てよ!」とケート。

ケートに手を握られているあきら、動じない。

「ちょっといい!私たちがここに来た、説明」とゴスロリの八家マリア、菜乃たちと同じ19歳。

「はい、聴きます」と菜乃。

「私は大阪映像大学、映画学部一年の八家マリア!その眼鏡が高円寺女子美大の映画サークル・テーマパークの渡水メルモ、そっちの袴姿が速稲田大学の映画サークル・モズデビュートのケートさん。皆大学や所属が違くても今一緒にいるのは、ある共通点が同じで、あんたらもその同じ共通点を持つ!」

「その共通点って、なに?」と義務感で菜乃。

「フッ、それはBLで実写映画を撮影している女性の学生であることだ!」とマリア。

「マリア、次は私が」とケート。「同性愛者向けのポルノや同性愛者の監督がゲイ映画を作るなんて、80年代からいっぱいあったけど、女の子のやおい趣味やBL好きで、しかも素人が実際素人の男の子を役者として使って実写映画作るなんて、誰も考えつかなかった」

「それはおれら4人が頭おかしいからだな」と虎丸。

「ああ!リュウ役のコ!かわいい!」とケート。

「まぁ、流れでそうなっただけですよ」と芽理亜、不機嫌。

「あんたたち、男が女優を使って濡れ場を描いてきた映画史で、未だ学生のあんたたちが、真逆のことをやっていて、フェミニズム界隈から絶賛されているの、知らないだろう!あんたたち、自分らが思っているより、有名人だよ。ひと月前にサブスク解禁の『二人の失楽園』からイッキに火が付いた!」とメルモは続ける。

「私は近いから、実は前回の受験生用のフェスタ来ていたんだよ。妹の付きそいね。そうしたら、あの『二人の失楽園』さ。ガツンとヤられたよ。私も映画サークルで映画作っていたのに。なんで、それに気づかなかったかよ!って。だから、今回の母校、高円寺女子美大の学園祭ではこれを流す!これに半年かけたよ!」

そう云って、メルモはタブレットPCを見せた。

白黒の静止画で、男の肉体やジェット機が編集されて映し出される。

―?

期待したほどじゃなかった、と菜乃と芽理亜は思ったが、イヤホンをメルモから渡され、二人は耳にハメる。

―!

「そう、男は『おっぱい、ボーン!』みたいな視覚情報で欲情するが、女性は耳元で囁かれるような聴覚情報でそうなる。そしてこの印象的な静止画で編集されたSF世界、ディストピアSFだから、あんたらそこいらは芸風近いかな。ともかくかなりレベルの高い声優の男の子、プロの出演者もいる、にアテてもらっている。あんたらに映像作品としては負けてもエロさでは私が上だ!」ととうとう語ったメルモであった。

「さて、次は私ね」と銀座ケートさん。

「自慢じゃやないけど、うちの映画研は戦前からあり、有名監督も多く輩出している。この私ケートさんも去年のぴあフィルムフェスティバルで入賞を果たしている。でも、なんかさ、吉祥寺か下北沢を舞台に若い男女が素っ頓狂な目に遭って、愛情を再確認するみたいな話が多くてつまんなくてね。他の大学のコはどんなもの作っているのかと春のフェスタをひやかしに観たら『二人の失楽園』さ!うん!稚拙な点はあったけど、熱量を感じたわ!で、明日からの学園祭で流すのがコレ!」

ケートさんがタブレットPCを取り出す。

画像には凛としたおじいさんの姿。

「こ、この人!確か澁澤龍彦や中井英夫の友人でもあった!」と耽美派には文学でも少し詳しい虎丸。

「そう、昭和の大詩人で、長年うちの大学で教授もやっていた先生。先生、古いタイプのゲイだったから、カミングアウトなんてこだわってなかったけど、やはり自分の人生がウソになりそうでイヤだと言っていた。そこに『二人の失楽園』を観て、70代後半の詩人先生と新入生の19歳の男の子の恋愛を描く!あんたらみたいなヌードや濡れ場はないけど、格調高いやつ!」ととうとうに語ったケートであった。

「ではどん尻にひけぇしは」とマリア。

「私さ、ケートさんとは同じ女子で映画監督志望で学生映画作っていたから、高校の頃から映画フェスティバルで顔合わせていたんだよね。だから、その縁でケートさんに付いてきたら『二人の失楽園』!まぁ、実家が大阪だから、ここには受験もしないで、大阪映像大学に入学した。ここの映画大学とは姉妹校だから、その意味でもよろしくね」

「細かいことはいいから、マリアさんはどんな映画を作ったんですか?」と菜乃。

マリアはタブレットPCを取り出す。

―もうさ、自分が撮影したBL映画をこんな往来で見せて、「おっぱい、ボーン!」とかヌードや濡れ場とか云うの、止めてくれないかな。

とウンザリし始めた芽理亜。

だが、意外だった。

メルモの気持ちい静止画やケートの美老人と美少年ではなく、特にセックスアピールもない、冴えない若い男の子が川を二人で眺めている。

「まぁ、チー牛だよね。主人公のチー牛が好きな女の子に告白して、フラれ、気落ちした時にゲイの、ゲイとは主人公とは知らないけど、ゲイのチー牛とひと晩だけ身体を重ねてしまう。二人にとってはぬぐいたい過去の悪夢だけど、二人ともそれでも忘れられない。『ひょっとして俺がいちばん好きなのはアイツだったのでは?』という思いを抱え、お互いカノジョを、同性のパートナーを得ても思い続ける15年を描きます!スゴい切ないです!しかも男でも女でも異性愛でも同性愛でも地味な者同士の恋情がいちばんエロいと照明します!60分!あんたたちには30分負けたけど、見ごたえあるよ!」ととうとうと語ったマリアであった。

「で、ただの宣伝に来たワケじゃないだろう?三人も集まって目的はなんだ!?」と虎丸が切り込む。

「来年春!全国女子学生ダイバーシティ映画祭を開催します!」と三人でハモる。

「女が監督して、男子学生を役者に同性愛等のLGBTを描くジャンルを作り上げる。新しい潮流が絶対に生まれる。ナノメリア含めて、既に私たち4者だけで、もうこれだけ豊穣の作品が溢れる。ならば、私たちの手でこれを映画史に残るパラダイムにしたい!」と代表して、ケート。

「そこで、ナノメリアのお二人に主催をやってもらいたい。なぜなら、はじめの一歩を踏み出したのはお二人だから。とりあえず、私の大学の学祭で『全国女子学生ダイバーシティ映画祭・準備会』を明日行う。できれば作品も上映していただき、私たち3人とパネリストとして、上映会後のシンポジウムにも参加して欲しい」とケートは続けた。

「月曜祝日には大阪のうちの学祭でもその準備会をやるから、上映会とシンポジウムもやる、どうか、頼みます」とペコリとマリアが頭を上げる。

「いやぁ、突然過ぎるだろう」とユキエ。

「だからさぁ、ユキエの友達だと知っていたら、もっと早くに声かけた。『二人の失楽園』だけの一発屋とかは思わなかったけど、BLとか実はあまり興味ないとかだったら、困るので、まずは新作観てから声かけようということになったんだ」とメルモ。

「コミケに参加する女の子で無限極限のせつら、つまり菜乃知らないコなんていないよ!大丈夫、腐り具合では最高のものだ」とユキエ、菜乃をちらちらと見ながら。

「実際スゴいものを見せてもらいました。なにより三人でBL映画としてだけでなく、映画としてまずなにより面白いと思った。だから、頭を下げてこうお願いしている」とケート。

―その衣装が、ひとにものを頼む態度か!?

とあきら。

「こっちも学祭あるしねー」と菜乃。

「高田馬場ならいいけど、大阪はなぁ」と芽理亜。

そんな時に学内のスピーカーから放送。

『映画学科1年、酉野菜乃さん、テレヴィジョン学科、1年、安芽理亜さん、至急特設ステージまでお越しください』とこのアナウンスは三回繰り返された。

―なんだ、遂に上映禁止案件か!?

―やはりあの集団暴行か!?未遂に撮ったのに!?

「あっ!ちょっと!」とメルモが声をかけるが走り去るので、その全国女子学生ダイバーシティ映画祭の代表3人とあきら、虎丸、ユキエは二人を追いかける。

途中、後続のあきらたちは「ボルトアクションライフルガール」の観客が帰るトコに出くわし、阻まれ、タイムラグは2分くらいになった。

特設ステージで嶋中アランが司会を務めている。

「映創祭、初日のバンド対抗戦のグランプリは、ナノメリアの『どしゃぶりWonderland』です!」と声高に叫ばれると観客から拍手の嵐。

200人くらい詰めかけているのは映創祭公式のyoutubeとtictokで拡散されているからだ。

だから、納得のグランプリである。

「安さん、何かひと言」とアラン。

「虎丸ぅぅぅぅ!あきらぁぁぁぁ!上がってきてぇぇぇ!」と芽理亜は差し出されたマイクに叫ぶ。

観客をかき分けてあきらと虎丸、自力で舞台に上がる。

既に観客の大半、初日のゲネプロ日、「トゥ・オブ・アス」を観ていた。

更に歓声は上がる。

「じゃあ、呼ばれたってことはこういうことでしょう!曲は『雨にキッスの花束を』!」と次は菜乃がマイクで叫ぶ。

たった2分の合間に下準備は済ませた。

前奏が会場を包む。

虎丸とあきら、楽器を持つ前からメロディだから、観客の大半の笑いを誘う。

菜乃のシンセサイザーにはマイクがセットされている。


♪突然アイツが言った 「結婚しようよ、すぐに」

 街は大雨注意報 みんな急ぎ足


♪愛しているって言いながら ふたり 大人同士

 つかず離れずの仲でいようと 吹いてた


♪思いがけないプロポーズ! スクランブルのど真ん中!

 嘘でしょう 立ち止まったまま ころがってゆく傘の花

 クラクションさえ聞こえない ずぶ濡れのまま動けない

 世界中 息をひそめて 今私達 見つめてるよ CHU!CHU!


「この二人、レズの噂もあったのに」とメルモ。

「BLマンガを描き、BL映画を撮り」とケート。

「この歌詞、ストレート中のストレートじゃあないか!」とマリア。

三人、顔を見合わせて観衆の中で、笑う。


♪大好きだったの ずっと ほんとは待っていたんだ

 精一杯カッコつけては気のない振りしてた


♪仕事も恋愛も私大切だけど

 アイツの笑顔がやっぱり最高の宝物


♪夢見てるようなプロポーズ! ルージュも取れてしまった顔

 こんなに気の強い女 ねぇ本当に私でいいの?


♪雨が作ったしずくのは輪 今 くすり指に落ちたよ!

 一生一度の思い出 幸せにして あなたが好き CHU!CHU!


「すげぇ、すげぇよ、菜乃。こんなんなっちゃあ、もう勝ち目ないよ」と少し寂しそうなユキエ。

「あれ、あの二人、コミケで俺を怒ったお姉さん二人。でもまずは作品観てから表敬訪問しないとな」

「あの二人、バンドもやっているのか!みなみ、世の中にはスゴい女の子もいたもんね」

「ちなみ、私たちだって、できるよ、この大学、サイコー!」


♪運命がほら手招きしている

 YESをこめた涙に濡れた口づけの花束を!


芽理亜、ダンスしながら、菜乃に近づき、菜乃の席に備え付けられたマイクに芽理亜も菜乃も頬を近づける。

「やっと言ったなぁ、コイツ、もう離れないから!」

間奏中のセリフを二人で云うと観客から「かわいいぃぃぃぃぃぃぃぃ!」とか「結婚してぇぇぇぇぇぇぇ!」と絶叫の嵐。


♪思いがけないプロポーズ! スクランブルのど真ん中!

 嘘でしょう 立ち止まったまま ころがってゆく傘の花


♪クラクションさえ聞こえない ずぶ濡れのまま動けない

 世界中 息をひそめて 今私達 見つめてるよ CHU!CHU!


「映創祭は未だ四日!『デリリウム』と『トゥ・オブ・アス』、何度も観てねぇぇぇぇ!」と芽理亜が挨拶。

―なんかもう、映画じゃなくて、バンドやりたいなぁー。

菜乃は遠慮なくこう思うのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ