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第八章 日本橋の千疋屋オーダー制フルーツバイキング 5



     5



春のナビゲーション・フェスタでも使用した大教室が今回もナノメリアの上映環境であった。

キャパは380席、ヘディラマーが使う学内劇場の400にはいささか足りないが、いちばん広い映写可能教室を今回も借りられた。

「ざっと250、か。フェスタでは200だと聴いたから、多い方か」と周囲を見渡して伊野。

「いやぁ、おまえさんが在学していた頃は150がせいぜいだったろう。大したもんだよ」と翔。

10分の休憩を挟み、12:10から2回目の上映が始まる。

表の受付で、亜美衣たちが刊行物を売っていたが、作品を観る際のノイズとなる、と翔と伊野、両人とも早く席に着くことにした。

「年配の方、多いな」と伊野。

「うん、ショート動画のコントや家二郎なんかを上映していた。若いコがわちゃわちゃやっていて、孫を見る感覚なんだろう、おじいさん・おばあさんには面白かったらしいんだ」と翔、去年まで出し物をさらっと説明。

「これからBLものを流すというのに、大丈夫かよ」と伊野。

「おそらく祖父・祖母世代はドン引きだろうが、60・50代のご婦人もかなり多いのは近隣の主婦が、若い男の子のハダカが観られると耳に入ってきて来ているらしいと聴いている」と翔の説明。

この大学のテレヴィジョン学科がこの近隣にネットワークを持つケーブルテレビと連携してから既にもう40年が経とうとしている。

お店訪問等の地域に取材した番組がやはり多いので、商店主や地主と仲が良いのだ。

「むしろ、そういう年配の固定客はヘディラマーのヒーロー・アクションは無関係、か」と伊野。

「ヘディラマー、模擬店も出していないしね」と翔。

話を引っ張らなかってのは、照明が消え始めたからだ。

―さて、お手並み拝見と行きます、か。

―最初は「二人の失楽園」から流すとは聴いているが、新作が続編だからか?

今回も先攻は伊野、後攻は翔。

スクリーンに「映画大学 映像研究会レコンキスタ」の文字。

続いて「ナノメリア 第一回作品」。

タイトル「二人の失楽園」。

白く肌色の丘。

カメラが引くとそれは男性の背中であることが判る。

その白い背中を這うやはり白い手。

白い手は臀部に差し掛かる。

―これを新入部員のまだ10代の女の子がねぇ。

―あー、周囲の反応のやましさがこの館内にいるとダイレクトに感じます。

「第三章 荻窪のラーメン二郎」の9と10に掲載された分は割愛。

―こりゃ、確かに男には撮れない、な。

―自分が出演しているからではないと言いたいが、あらかわ遊園のシーンから、地面に足が着く感があるな。そこまではどうなるか判らない不安が画面を埋めているのに。そのフィクスが相川あきらによってもたらされている。

「ナノメリア 第二回作品」。

タイトル「デリリウム」。

―あれ?年配の方、多いのに休憩なしかい。

―あー、これ、伊野に見られるのかよ!?

画面から鬱蒼とした雑木林の木々たちが生臭い精気を発しているような圧迫感。

木の枝か露出した根にスカートの裾が引っかかる。

暗闇に青のスカートが映える、そこに手が伸びる。

「引っ張らないで、割けるよ」

菜乃の声だ。

赤のワンピースの女の子が、青のワンピースの女の子の裾を丁寧に取ってあげる。

「痛てて、着いた時に落ちたから未だ痛い」

芽理亜の声。

「ここ、どこ?」

菜乃の声。

周囲はただ闇と木々とあるばかりで誰も答えない。

「なんだろうか、建物だ」

芽理亜の声。

建物だ。

社が暗闇の中で辛うじて見える。

「お母さんは?」

菜乃。

「エッ!お母さんってなに?」

芽理亜。

二人は顔を見合わせる。

その時になって初めて我々は二人の顔を見るのである。

二人はそんな表情をしている。

その社の中に既に二人はいる。

それだけではない、日差しから、既に朝だと判る。

二人は持っていたリュックサックを枕に寝ていた。

菜乃が起き上がり、伸びをする。

字幕で「メタ」と表記される。

芽理亜は隣で未だ寝ている。

寝顔に、字幕で「ルダ」と表記される。

―男の子二人のディストピアSFの次は、女の子二人でのアレゴリー、か?

―そういやぁ、この二人の役柄、「二人の失楽園」のハチとリュウのように出身が判らないんだよな。これが感情移入を阻むんじゃあないか。

その庭で、ふみちゃん演じる白のワンピースを着た役名・テーロールが二人を眺める。

菜乃と芽理亜、気配に気づく。

まずは菜乃が演じるメタが庭に出て、芽理亜演じるルダがその後を追う。

庭に出たが、もうテーロールはおらず、お互いの二人だけで誰もいない。

「どうした?」と芽理亜のルダ。

「ちょっとフシギな感じがした」と菜乃のメタ。

「この世界にフシギなんて、あるのかな?私たちじしんがなぜにここに〈居る〉のか、いや、私たちが何者なのかすら判っていない」とルダ。

風に乗って、バイオリンの音色に続いて、太鼓やアコーディオンの演奏が二人の耳に聞こえる。

二人は音の方へ移動する。

そこはメリーゴーランド。

その回転木馬に乗る二人の人物。

ブラウスに紺のワンピースを来た女性、野笛だ。

字幕で「硝子うさぎ」と表記される。

そのうさぎさんを大事に後方から支えるフード姿の男、彩だが、その衣装とメイクで彼だとは判らない。

字幕で「硝子ヘドロ」と表記される。

二人が一緒に抱いているのは産着とタオルにくるまれた赤子。

ヘドロ、赤子の背中に手をやると腕が緑色で血管が浮き出ている。

菜乃と芽理亜がその奇形を見て驚いている。

産着のフードから一瞬、赤子の頬が映るが、それも緑色で、血管が走っている。

つまりフードの男は確実にこの赤子の父、だから、この3人は家族!

うさぎ、その赤子に頬ずりする。

ルダとメタ、顔を見渡し、笑顔。

撮影では「第六章 高円寺の勝浦式タンタンメン・じもん」の10に続き、9を撮影した、ここいらは割愛。

「名演ですなぁ」

―上映中はお静かに!

ヘドロが死んでいることを思い出した野笛演じるうさぎ、だが、そのまま泣き崩れている場合ではない。自分が妊婦だということに気づき、泣き止む。

うさぎの膨らんだ腹に耳を近づけるルダとメタ。

「そうか、あなたが見せたマボロシか」

メタ。

「お母さんに、生まれたいよと伝えて下さい、って」

ルダ。

うさぎの野笛、涙を拭きながら、二人と同じ方角を歩む。

そして遊園地出入口でテーロールが三人を見ている。

寂しい山道をルダ、メタ、うさぎの三人が歩いている。

会話はしているが、観客には聴こえない。

ーいや、彩、ノブちゃん、いいシーンだったよ。オレがきみら二人を用いてこれ以上のシーンを撮れるとは思わない。

―おれ、案外出るの好きな。

「第七章 新千歳空港の豚丼専門店ドライブインいとう 1」で千田先輩の実家が管轄する大きな神社で撮られたシーン。

「さっき、宿として使ったトコと似ているね」とメタ。

「なんか関係があるかもしれないね」とルダ。

このようなセリフで二人は日本特有の文化を一切知らない存在だと描かれる。

野笛が演じるうさぎは始終無口。

二人の男のカゲ、その二人の男が三人の女に歩み寄る。

迷彩服上下にサングラスの男は岸間先輩が演じる。

字幕で「リットゴブ」と表記される。

空手着に水中メガネの男は千田先輩が演じる。

字幕で「モスデデ」と表記される。

「周縁から来たものどもよ。私らの国民になるということでいいのだな」と岸間演じるリッドゴブ。

「お腹の子の出産、育児、そして親子の住居や食事も保証する、ということだ」と千田演じるモスデデ。

それを、二人とも優しさでも、事務的でもなく、フィッシングメールの文面を読むように云う。

「はい、私とお腹の赤ちゃんを助けて下さい。でも、この二人は違います。付いて来てくれただけです」

野笛のうさぎ、吐息をはくようにセリフを語る。

「そうなのか?」とリッドゴブ。

「はい」とメタ。

「私らの国民になる方がいいのに」とモスデデ。

「遠慮します」とルダ。

リットゴブとモスデデ、無表情。

カメラが遠のくと岸間の声で「着いて来い」。

鍾乳洞なんだが、これも千田先輩の実家が管理していて、都内23区にこれがあるとは大半のひとは知らない。

「それでは私らの王様に会ってもらおう」とリッドゴブ。

「周縁から国民を入れるのは3年ぶり、赤子が産まれるのは5年ぶりだ」とモスデデ。

「王様はそのどちらかではないと顕現しない」とリッドゴブ。

「オレたちも会うのは3年ぶりよ」とモスデデ。

歩きながら、話している。

「どうしてそんなに国民は少ないのですか」とメタ。

「大きな災いが来た。それは世界を分断し、統合の可能性を潰したのだ」とリッドゴブ。

「誰がそんなことをしたのですか?」とルダ。

「知らない・判らない。ただ二人組がやったとだけ知っている」とモスデデ

「だからおまえたちコンビか、オレたちコンビかも知れぬゾ」とリッドゴブ。

「着いたゾ」モスデデ。

シナリオでは奥の院と記されるここは学内のいちばん広い機械室を借りたもの、地下にある。

背広姿で王冠をかぶる男、簗木部長が玉座に座る。

字幕で「ロスク」と表記される。

「ロスク国王、新国民を連れて参りました」とリッドゴブ。

「うむ」とロスク。

「ではこの妊婦を研修センターに連れて参ります」とモスデデ。

「うむ」とロスク。

モスデデの千田、うさぎの野笛を伴い去る。

当分、野笛の出番はなくなる。

「あのぉ、国王」とメタ。

「なんだ?」とロスク。

「うさぎさんとお腹の赤ちゃんは大丈夫なんですか?」とメタ。

「国民の増員は即国家の増強。朕がないがしろにするワケなどない」とロスク。

「この世界に他に国家はあるんですか?」とルダ。

「国家は唯一この朕の国家のみ。他の共同体は村と呼んでいる。もっとも他の村は朕の国家を村と呼んでいるかもしれないが」とロスク。

リットゴブ、ロスクに近寄る。

「国王、この者たちは国民にはなりません。よけいなおしゃべりは不要です」とリッドゴブ。

「そうか」とロスク。

ロスクの背後に近寄るのはモスデデ。

モスデデは右手をドリルにしており、そのドリルを回転させ、ロスクの背中を貫く。

叫ぶロスク。

つまり簗木部長の絶叫が地下の広間にこだまする。

「おまえ、おまえら!こんな国の国王になっても何にも面白くないゾ!」と簗木部長がけっこう迫真の演技。

「いいんだよ、アンタが今云った村に頼まれたんだ」とリッドゴブ。

「お嬢ちゃんたち、心配しないでくれ、あの妊婦は更に大きくなる国家が面倒みる。早く来た道を帰れよ」とモスデデ。

倒れるロスク。

玉座に座るデデモス。

「そんなことは信じられない!」とメタ。

「もしお母さんや赤ちゃんにもしものことがあったら、新しい国王を罰する者なんていないじゃないか!」とルダ。

「いる。その時はオレがその国王を殺す」とリッドゴブ演じる岸間の決め台詞。

場面変わって遺体安置所で、そこではロスクの死体を凝視するテーロールがたたずむ。

―ほう、けっこうマジメに寓話、アレゴリーSFをやろうとしているワケか。二人の少女が旅先で、〈家族〉を学び、このくだりでは〈政治〉を知る。じゃあ、次は〈神〉だろうな。

―うん、いざできた作品を観ると、なかなかいい、身内びいきでなく。ただ、こんなジミなハヤカワSFのような話、龍王院の全編アクションに比べると明らかに分が悪い。それを計90分とか失敗だろう。

ここからはあの秩父ロケのシーン。

まずは砕石処理場を舞台にする。

ワンピースのままその砂利の上に大の字で寝転ぶメタとルダ。

そこに自動操縦で動いているような1メートル程のロボットが歩行ではなく走行でやって来る。

字幕で「デスター」と表記される。

「おまえたちを知っているぞ。メタとルダだ」とデスターの電子声。

この中にひとが入ってるワケもなく、遠隔操縦で話しているような感じにしている。

操作は虎丸が担当していて、声も虎丸。

「なんで?私たちはあなたを知らないのに」とメタ。

「この世界に果てはあるの?」とルダ。

二人の後ろに人影。

古代の弥生人のような衣装の男

「我らの神になんのようだ!?」

字幕で「バーダーボ」と表記される。

演じるは綾川京、アニ研スクラムの部長のあの。

侍のような出で立ちの男。

「きみらがむやみに触れていい存在ではない」

字幕で「チャックブル」と表記される。

演じるは槇野宗次郎、ふみちゃんのカレシ。

「少女よ、私が代わりに応えよう。この神がいるこの土地が世界の終わりだ」とバーダーボ。

「神は唯一にして不二である」とチャックブル。

「なんで、あなたが代わりに答えるの?」とメタ。

「神は決してしゃべらないからだ」とバーダーボ。

「我らは一度として神の声を聴いたことがない」とチャックブル。

「つい今、これ、しゃべりましたよ」と芽理亜。

「ウソだ!我らが十数年世話をしていて誰も話したことがないんだゾ!」とバーダーボ。

「神は誰の言葉を受け止めるが、誰も特別扱いなさらない。だからこそこの世界の村々はこの神の下に平等でいられるのだ」とチャックブル。

「でもねー?」とメタ。

「話したよねー」とルダ。

「相手にせぬぞ、バカバカしい」とバーダーボ。

「では聴くがなんと話したのだ」とチャックブル。

「『おまえたちを知っているぞ。メタとルダだ』」メタとルダ、菜乃と芽理亜、一緒に。

「それがなんだと言うんだ!」とバーダーボ。

「どんな金言を承ったかとおもえば、そんな千里眼、神ならば当たり前のこと」とチャックブル。

この二人が話している間にデスターは揺れ・煙を出し、目のライトが点滅を始めていた。

この手のギミックはプロパーのOBから作り方を教えてもらっていた。

「か、神よ!」とバーダーボ。

「こ、これは今この少女たちの言葉に反応したというのか!」とチャックブル。

更に揺れが激しくなり、煙も大量となり、ライトの点滅が早くなる。

そして、デスター、大破。

バーダーボとチャックブル、呆然。

逃げるメタとルダ。

―会話劇でよく持たせた。演劇やお笑いのコントならば、自身の視点やTV局のスイッチャーでフォローできるが、映像の作中は視点が固定される。少し笑い要素のある哲学談義を巧く、面白く見えるようにする撮影方法と演出と編集、「二人の失楽園」とは違う手段を動員している。

―だが、この手のシークエンスは、諸刃の剣でもある。面白がれるひとはそうだろうが、そうでないひとには冗漫だ。それは実相寺昭雄と押井守が結局、カルト作家にカテゴライズされるのと同質。

メタとルダの逃げた先はセメント工場、これも秩父の地。

テーロールが施設の中でたたずんでいる。

実はここで初めて、字幕で「テーロール」とようやく表記される。

ふみちゃん演じるテーロール、ハッと気づき、立ち去るとそこにメタとルダが駆けてくる。

「なんか、そうとうヤバくない?」とメタ。

「うん、だからこそ逃げないと」とルダ。

「でも、その、うーん、気配がまったくない」とメタ。

「そう、無いよね」とルダ。

二人は工内の鉄ハシゴを登り、双眼鏡で先いた採掘場を見る。

破壊したデスターの前で崩れ落ちるバーダーボ。

チャックブルは腰にかけた大剣を抜く。

バーダーボ、座ったままでチャックブルにすがりつく。

チャックブル、振り払うとそのまま自分の腹にその大剣を貫き通す。

つまり、宗次郎演じるチャックブル、切腹による自害。

そして倒れ、その死体にすがりつくバーダーボ。

メタとルダ、顔を見合わせて、気まずそう。

「戻る?」とメタ。

「うん、そうしよう」とルダ。

そして先ほどの採掘処理場は戻る。

バーダーボは未だチャックブルの死体にすがったままだ。

「そのひと、あなたの友だちだったんでしょう」とメタ。

「なれば、そのままではかわいそうだから、埋葬してあげないと」とルダ。

バーダーボはうなづく。

―これ、確か、アニ研のロリコンだよなぁ。

―いやぁ、綾川、役者としてもなかなかじゃないか!

以前の山道のような、うさぎと三人で歩いた道路。

似ているのか、同じ道なのか判らない。

バーダーボがチャックブルの遺体を乗っけたリヤカーを引き、メタとルダが後ろから二人で押す。

奥の院を何故か通り過ぎ、そのリヤカーを玉座の上から見るモスデデ。

その近くということか、手術室前に野笛演じるうさぎがストレッチャーで運ばれていく。

遺体安置場、ロスクの遺体の横に、チャックブルを収めた棺が置かれる。

ここからが「第七章 新千歳空港の豚丼専門店ドライブインいとう 4」で描かれたバーダーボの変形・巨大化と追跡、そして亜美衣演じるキーとユラ演じるロンが跋扈し、唐突にアニメでクオリティ高いアクション!

―いままでの展開を吹き飛ばす、このアニメーションのクオリティ!砕けた演出!いきなりアニメって「キルビル」や「星の子」で観てきたが、勝るとも劣らない巧さ!

―そりゃそうだよ、綾川、やっぱスゲェな、おまえの全力、この「デリリウム」の強烈なワサビになっているゼ!役者としてもアニメ監督としても活躍とか、庵野秀明かよ!と次ぎ会った時に呼んでやる!

ロンにバーダーボの介抱を任せ、キーはメタとルダを案内する、またあの道路を渡って。

三人の声は観客には届かないが、楽しそうに会話しているのが判る。

そして「第七章 新千歳空港の豚丼専門店ドライブインいとう 5」で叙述されるシーンに繋がる。

エピローグのように次のシーン。

砂浜に赤半面・青反面のワンピースを着た男がたたずんでいる。

それは翔が演じたヘドロと同じく、顔は一切でないあきら。

「これ、お母さんだ」とメタ。

でもメタの姿はどこにもない。

「男じゃない、この姿」とルダ。

そしてルダの姿も、ない。

「ネットに代わり、これが台頭していた」とメタの声。

「開けるよ」とルダの声。

お母さんとメタから呼ばれた男、空間を無理矢理開ける。

そこには謎空間が広がる。

お母さんは、その謎空間に飛び込む。

その様子をキーとテーロールが心配そうに見つめている。

「Fin」と表示され、画面は真っ暗。

―ん?二人の女の子、融合したってこと?

―えっ!もう3本め、行くの!?周囲のおばあちゃん、二人、出ていったけど!

「デリリウム」もURLを載せておきます。


https://ncode.syosetu.com/n8324ll/


そう、ともかく老婆に休憩を与えてはならないほどに、勢いを削ぎたくないのだ。

「ナノメリア 第三回作品」。

タイトル「トゥ・オブ・アス」。

新宿歌舞伎町の夜、ここにいる誰もが知る、この時間に訪れたこともないのに、知っている町。

若者や酔客の叫び声や胴間声が夜のイカれた街に轟く。

虎丸演じるリュウ、そんな喧騒を尻目に路地で酔いつぶれている。

電光掲示板のニュースが「ネット 復旧メドたたず」と告げている。

その町にあるのか、ないのか、やはりガラの悪い夜の飲み屋街。

カメラは昭和からあるような古い建物に入っていく

二階から下半身裸のハチが落ちてくる。

「勃たないんじゃあ、使えないんだよ!」

この声は千田くんがアテている。

マスターや客が無言でハチを見る。

その客に投げられたズボンを手に取り、急いではいて、ハチが店から出る。

女性のナレーション「全世界のインターネットはたった一枚のフロッピーディスクに仕掛けられたトロイの木馬でその全システムを休止させた、が、世界は何も変わらない」

ナレーターは「二人の失楽園」と同じく野笛。

繁華街の夜景、河の静けさ、下町の団欒、海の眺望が外観される。

―こりゃあ、「デリリウム」の後、少なくとも半分くらいまで撮って、この「トゥ・オブ・アス」の撮影をしたか。練度を上げたか。ここまで、商業映画と同じクオリティだ!

―「二人の失楽園」の続編なのか、違うのか、きわきわを突いてくるか。

リュウのいた町は朝になった。

元コマ劇場前広場でうなだれている虎丸演じるリュウ。

そこに差し出されるエナジードリンクのアップ。

差し出した男の姿は西野呈良、菜乃の次兄。

「まぁ、飲めよ」と呈良。

役名は黒銃。

リュウ、不承不承に受け取る。

プルトップで開ける音。

「この男を探している」と黒銃。

ハチの〈ハッコウ〉時代の顔写真を見せる黒銃。

「男娼になんか、なんの用事があるんだ」とリュウ。

先程の赤線のような飲み屋街を受けての台詞。

「そんなことを言うなよ。本当は好きなクセに」と黒銃。

「バカ言っちゃいけない」とリュウ。

「あんたは探し物は見つかったのか、確か街のウサワじゃあ、ファライソを探しているんだってな」と黒銃。

「そんな場所はない、そんな男もいない」とリュウ。

果たして、ファライソとは地名?人名?

リュウ、そう云って立ち上がると器用にマンホールを開けて、地下へ降りていく。

黒銃、その咄嗟の行動に驚き、急いで自分もマンホールを開けようとするがビクともしない。

またもや誰もが知る都庁、朝。

ハチ、汚れた服のまま、当庁する。

中に入ると「第六章 高円寺の勝浦式タンタンメン・じもん 8」でプロのスタジオを借りて撮影した統括室のシーン。

その荒廃した統括室でのハチ=あきらの芝居。

「もういいよ」とハチ。

プツンの途切れる機械音。

機械音声は千田くんによる。

画面は暗転するが、新たに光が差し込む。

ピロンという音と共に『メール着信』の文字。

ハチ、エンターキーを押す。

『ファライソに来るんだ。但し、徒歩で』

ハチ、怪訝な表情。

『どこだそこは?歩くなんてまっぴらだ』と入力し、返信。

ハチ、部屋を出ていこうとする。

その背中に再度ピロンと着信音。

『北上するんだ。歩くことは贖罪にいずれ繋がる』

―ここいらは自画自賛になるんで、ノーコメント。

―よく、こんな場所、借りたよな。しかも撮影と編集の質の向上が恐ろしいくらいだ。

リュウの虎丸が花やしきに現れる「第六章 高円寺の勝浦式タンタンメン・じもん 10」で叙述されたシーンのなるが割愛。

―竹内先生のヴァイオリン、久しぶりに聴く。いつかオレがご登壇願おうと思っていたのに。

―ここまででいくら使っているんだ?俺がいけなかったのかなぁ、金をた易く出すの。

場面変わって、築50年ほどのマンション、時は夕方。

ハチが一室のドアチャイムを鳴らす。

もう一度、鳴らす。

ハチ、怪訝に思うが、ドアを開ける動作。

ドアは開かれた、最初からカギはかかっていなかったのだ。

中に歩を進める。

「入りなさいよ」と男の声。

それは翔先輩の声。

生活臭溢れる普通のダイニングキッチン。

「こっちだ」と翔。

そこには全身包帯に巻かれ、包帯の端々から見える皮膚も爛れたような異形の男が畳敷きの上に正座している。

演じるのは勿論翔先輩。

「おまえ、またか」

「これには設定上の事情が」と伊野と翔、小声では話す。

テーブルにはパーコレーター、映像だから嗅げないが室内にはコーヒーの香り。

床の間には家族の写真が貼られている。

両親と太った一人息子の写真。

「王、ネロ」とハチが声をかける。

「久しぶりだ、ハッコウ。未だ私を王と呼ぶか」と翔演じる王ネロ。

―ふーん、「二人の失楽園」とコガ博士と王ネロは同一人物、もしくは同じような存在、という設定、ね。

―そうそう、そういうこと。

「オレを殺さないのか」と王ネロ。

王ネロ、続ける「ここは高校卒業して、30年間働かず家族にパラサイテッドしてきた男の部屋、一人っ子で、両親を相次いで看取り、働かず、男色に精を出して、でも決して定職には就かない男の部屋」という台詞はハチではなく、独り言のように。

「何が言いたい?」とハチのあきら。

「彼に代わってもらった。日本政府をAI管理下に置いた秘密結社の首魁は彼だと。私が今はここで、珈琲焙煎をし、サブスクで映画を観て、なろう小説を読み、自炊のおかずは何にするかをいつもめぐらす」

王ネロ、またしても独り言のように。

「そんなのでいいのか」とハチ。

「とてもいい。東大から欧米の大学院への留学、官民学の研究施設を行き来し、クーデタの準備のため軍隊や革命勢力に精通し、自身の肉体すらその実験に捧げた。なんで、あんなバカなことをしたのか」

王ネロ、遠い目。

「おまえならば、外国の勢力も国内で大名や軍閥のように残った企業連合をもう一度、飲み込めるだろうに」とハチ、憤懣やるかたなく。

ネロ、立ち上がる。

「もう!イヤなんだよーーーー!すべてが面倒くさいんだ!」

始めて、ハチと対峙する。

「何があったら、そんな無気力になれる」とハチ。

こういう注釈はよけいだが、その王の無気力に自分をハチは見ている。

「その言葉はお返しする。オレの帝国とバッジシステムの全てを破壊したのはおまえとおまえの恋人だ。おまえが責任を取るんだよ。北に行くんだろう?」

王、その内容とは裏腹にまたハチを見ないで独白のように。

「どうして、それを?」

ハチ、ちょっと驚く。

「オレが出したんじゃないさ。でもオレの脳内は今でも最前線とトップシークレットの情報をかき集めている。オレの知らないことは今でもない。おまえの愛人は今、〈ゆうえんち〉にいるぞ」

王、微笑を浮かべながら。

「もう別れた!」

あきら、吐き捨てるように。

「では私がもらう。この部屋で唯一足りないのは愛人だ。それでいいな」と王ネロ。

「やめろ!」とハチ。

「未だ好きなんだろう?そして北へ二人で行かないと意味がない。そしてオレは晩ごはんのおかずの買い物に出かける」

王ネロはハチをからかっているだけなのかもしれない。

王ネロは立ち上がり、背中から両翼それぞれ3メートル程のツバサをはやし、ベランダへの窓を開けて、立ち去る。

これも勿論、綾川京によるCGだ。

バサバサっと翼で飛行する王ネロをハチは見送る。

―ヘディラマーのヒール役から、このうらびれた青年、CGに勝っているな、相川くん。

―綾川、今までバカにしてすまなかった!

花やしきで出会ったリュウとバンKが統括室に行くシーンは「第六章 高円寺の勝浦式タンタンメン・じもん 8」にて叙述。

次は断片的に語られたあきらのハチと呈良の黒銃のシーン。

出会うは、ロケ地花やしき、狂騒曲、未だバイオリンを弾いている。

ハチ、現れる。

黒銃も現れる。

「オレはルポライターの黒銃。アンタ、ハチさんだろう?やっと会えた。リュウさんはここにはもういないぜ」と黒銃。

興味なさげの素振りどころか、立ち去ろうとするハチ。

「待ってくれ!そうとう探したんだ!その若さで、政府の中枢に入り込み、所謂AI帝国のスポークスマンまでつとめた!あんたが帝国崩壊のなんらかを知らぬハズがないんだ!?」と黒銃。

「アンタ、リュウにも嫌われたろう」とハチは黒銃を見つめながら。

「そっぽ向かれたな」心底残念そうに黒銃。

「今の時代、マスコミなんてなんにもできないじゃない」

彩佳ちゃん演じるドリーム、いつの間にかメイド姿。

「そんなことはないよ」と黒銃。

「あるよ。自宅でのPC作業によるインフラ整備がホワイトカラーの、実際の現場作業がブルーカラーの仕事、食事ですら自宅配達が8割を超えている。マスコミはそのひとたちへの暇つぶしでしか提供していないじゃないか!」

彩佳、名演。

「そうかもな、でも、取材の蓄積がいつか結果を出すもんだ。長期的な視点は必要だ」と黒銃。

「それじゃあ、もうオレには関係ないな」とハチ。

黒銃が何か言いかけた時に、ハチの左腕は肘から落ちる。

よく見ると、スラックスの裾あたりから血に似た液体がこぼれ始める。

狂騒曲、直ぐに演奏を止める。

「ハチさん!」

ドリーム、ハチに駆け寄る。

「ドリーム!オペ室の準備じゃ!アンタ、ハチの足を!ストレッチャーに乗せるんじゃ!」

竹内先生も名演。

「このハチって、男は?」

呈良も名演。

「ああ、王ネロの配下につくということは機械化しないと忠誠が誓えない。だがもうメンテナンスはワシしかできない。ワシは音楽が専門で機械医は趣味。もうハチは時間の問題じゃ」と狂騒曲。

「早く云えって!」

黒銃、ストレッチャーにハチを乗せながら。

―セリフが説明臭せぇなぁ!

―ここいらから先、けっこう変えたと聴いている。未知の領域になるな、オレ。

次はバンKとリュウの別れを描く。

深夜の河川敷、その二人が並んで歩く。

「本当に北を目指すって、信じたのか?」とバンKを演じる住田先輩。

「これはエビデンスでもなんでもないんだが、この国には北にファライソという楽園がある信じられている。これはおかしな符牒だと思わないか?」とリュウを虎丸。

「思っても動かないよ。むしろそういうヒントより、それで動くモチベーションが客観的に見て、フシギに思う」とバンK。

「難しい話やめろよ、オレはハチと違ってバカなんだ」とリュウ。

「かんたんに云ってやろう。罪悪感や贖罪意識でそんな行動を取ってないか?」とバンK。

「なんだそりゃ」とリュウ。

「帝国を崩壊させたの、おまえ、だろう?」とバンK、睨みながら。

その刹那、バンKが巨大な槌をリュウに振り下ろす。

リュウ、咄嗟によける。

バンK、槌を反対向きに振り下ろし、その巨大な槌の本体が割れる。

中にはボディアーマーやドローンが詰まる。

リュウ、間合いを取る。

バンK、ボディアーマーに着替える。

槌の残った持ち手を指揮棒代わりにドローンを操る。

ドローン、レーザービームを掃射。

勿論、綾川京とその仲間たちが仕込んだCGで表現される。

リュウ、何発かくらう。

リュウ、ブッシュに転がり、逃げる。

「帝国も王も気に入らないトコ多かったが、義理がある。おまえには死んでもらう」

バンK、仁王立ち。

闇の中、ドローンのビームが光る。

リュウ、手にしていた空き缶をスパッとビームに切断されるが、笑顔。

バンK、指揮棒でドローンを操っているところに、リュウが立ち上がる。

リュウ、きれいに切断された空き缶をビームに向け、全ての光線を集約させ、相手に送り返す。

全てのドローンに命中するが、バンK、自分の身を守るため、全てのドローンを自分に近接させ、5機すべての爆発に巻き込まれる。

「今の時代、レーザー兵器の攻略法も一般化されている」とリュウ。

「やれ、その指揮棒の先端は仕込み刀だ」

つまり介錯を頼むバンK。

「ジャマさえ、しなけりゃ、それでいいんだ」と云い終わり、リュウはどこへと知れず、歩き出す。

バンK、河辺に横たわったまま。

―ちょくちょくアクションやCG入れてくる。ダレ場との緩急を狙っているのか、3作めで!?

―その緩急、他の観客も巻き込んでいるのか、この空気感、巻き込んでいると思いたい!

脚本上では青函連絡船青森フェリーターミナルだが、新潟港で、更に両津港で撮り、最終的には苫小牧西港フェリーターミナルで撮影された「第七章 新千歳空港の豚丼専門店ドライブインいとう 7」だ。

―そうか、二人の旅立ちには二人に他者、しかも赤ん坊といういちばん他者が必要だったってことか、

―「デリリウム」のうさぎとヘドロの赤ん坊、それにここでも赤ん坊、遊園地の使い方、確かに同時制作だから、重なるモチーフ多いな。

そしてスクリーンは急に演奏会場を映す。

演壇で会釈してピアノの前の椅子に座るのはハチの妹、役名はそれだけだが、演じるは矢間りえか。

続いて、都庁内会議室とあるが、ともかく管制室の近くにある部屋であること。

バンKが包帯を巻いて座っている。

「あんたを助けて、1週間、そろそろ話してくれないか」

黒銃を演じる呈良、ヌッと顔を出す。

直ぐに画面は転じる、続いて、船上、朝。

リュウとハチ、笑顔。

ここいらは新潟港と両津港間のフェリーで撮影された。

会議室に戻る。

「そう、黒銃さん、あんたの思った通りだよ、この世界からネットを死滅させたのは、ハチとリュウ、あの二人の仕業だ」とバンKの告発。

直ぐに演奏会場に切り替わる。

ハチの妹、シューマン「ピアノ協奏曲イ短調」を弾き出す、いや、叩くという演奏だ。

―ちょっ待て!これは!

―おいおいおいおいおいおいおいおい!ここでこれやんのかよ!

りえかの演奏が流れたまま、というか、ここから延々と彼女が演奏するシューマン「ピアノ協奏曲イ短調」は狂ったようにドラマのBGMとして彩る、それは会議室シーンでも旅のシーンでも。

「なんでそんなことを!」と黒銃。

「まず幼なじみだったからだ」とバンK。

スクリーンは寂れた漁港を映し出す、念のためもう一度、矢間りえか叩く演奏は止まない。

二人で粗末な食事を採るが、ハチは油汗。

演奏会場の、ハチの妹、叩く。

―こ、これ!その編集の難易度からリメイクのTV版くらいしかやっていない、あの!野村芳太郎「砂の器」の遍歴シーン!邦画の大衆エンターテイメントの頂点とカルト的人気を兼ね備えた、アレ!

―し、しかもウルトラセブン最終回「地上最大の侵略 後編」のアンヌにダンが正体を告白し、敵怪獣を倒して、宇宙に去るまで流したシューマン「ピアノ協奏曲イ短調」!気が狂っている!オレだったら、こんなコラボレーション、恐くてできねぇ!

又会議室。

「あの二人の関係は結局なんだったんだ」と黒銃。

「親友だよ、多分」とバンK。

「後に階級が二人を分けた、と」と黒銃。

「オレはそれすら、王ネロやコガ先生が仕組んだものだと思っている」とバンK。

夜の粉雪舞う病院、しかも夜。

男性看護師から追い出されるハチ。

その看護師に抗議するリュウ。

演奏会場、ハチの妹、ピアノを演奏する。

会議室。

「ところがだな、あの二人はそれを知っていて、そうしたと思えるフシがあるんだ」とバンK。

「それはいったいどんな差異があるというんだ?自分の意思で動いたか?誰かに操られていたか?その支配を前提として動いた、それにいったいどんな違いが」と黒銃。

「もうプライドや矜持の話だな」とバンK。

演奏会場、ハチの妹、ピアノを演奏する。

―このカット割りやパースの使い方、いやいや本編だってそうだ。一年前にはカメラも持ったことない女の子二人が撮っただと!?そうとう作り込まれた画コンテと忠実な撮影者が必要だ!いや、そうか!「二人の失楽園」も流したその理由の一つにその異常なまでの上達を魅せる狙いか!

―いや、それだけじゃない!「二人の失楽園」にあった青さが画面作りと編集の拙さのいい相乗効果になっていた!全編これ鬼気迫る「トゥ・オブ・アス」にはこの勢いとノリの差異が必要だったんだ!

夜のトンネル、リュウとハチ、抱きしめ合って眠る。

ハチ、突如、むせる。

リュウ、ハチの背中をさする。

演奏会場、ハチの妹、ピアノを演奏する。

―おいおい、隣のおばあちゃん、泣き出したゾ!そりゃ、孫くらいの男の子二人の悲惨な姿、同時に流れるピアノが哀切を高める。今までの30分、いや、この90分観てきた甲斐が!この老婆を泣かせているんだ!

―俺の隣のおじいちゃんもハンカチを目頭に当てている!こんな情景が素人の上映会で可能なのか!?

都庁内会議室。

「どちらにしても、もう彼らを裁くものはいない。この世界自体が破滅したから」と黒銃。

「そうなのか?本当に終わったのか?今でも人々は愛し合い、赤ちゃんは生まれ、花は美しく、紅茶は香り高く、空は青い、これ以上、世界には何が必要なのか!?」とバンK。

そして、問題の漁港。

豪雪。

リュウ、乾物屋に入って食べ物を盗む。

鬼のような店主から殴る蹴るの暴行。

これは虎丸の、老け顔の友人が演じた。

おそらくその妻が割って入る。

リュウ、夫婦が拾い忘れたパンを拾う。

妻はそこいらへんを歩いていたおばあちゃんに頼んだ。

演奏会場、ハチの妹、ピアノを演奏する。

リュウ、ハチの姿がないことに気づく。

豪雪。

焚火は燃えている。

掘っ立て小屋の前に、今にも積雪で見えなくなるようなネクタイ。

その掘っ立て小屋に絶叫しながら突っ込むリュウ。

中には、数人の男たち。

彼らは全員でハチを輪姦しようとしている。

リュウが脱兎のごとく突進し、男たちを追っ払う。

焚火から火のついた棒を取り、振り回しながら。

ハチ、真っ青な表情。

リュウ、ハチを抱きしめる。

演奏会場、ハチの妹、ピアノを演奏する。

―おいおいおいおいおいおいおいおい!すすり泣きが始まったぞ!

―しかも、ナノメリアがBLものだって知って、目当てに見に来た若い女の子の泣き声も聞こえる。確かに、一人泣いたら連鎖反応を起こすだろうが、それにしたって!

会議室。

「この国を1945.8.15の敗戦の日に戻す、いや、周辺地域含め、時間を巻き戻す作業。これがこのデリリウム計画の意図だったんだ!」とバンK。

「誰が企んだんだ?」と黒銃。

「その真意を探りに行ったと何故、未だ気づかないんだ!?」とバンK。

演奏会場、ハチの妹、ピアノを演奏する。

掘っ立て小屋で朝を迎えた二人。

リュウ、目覚める。

横にいるハチ、もう半死半生。

リュウ、泣きながらバチを抱きしめる。

演奏会場、ハチの妹、ピアノを演奏する。

―これはもうオレもダメだ!セブン最終回と「砂の器」、こりゃ、日本人なら誰もが泣くヤツ!

―上手いなぁ、室井くんとあきらくん、普段の二人を忘れるほど上手い!そしてこのピアノの音色が魂にグサグサ刺さる!オレももう!目頭が!ダメだ!

岸壁。

リュウは右手で杖を突き、左手でハチを支える。

二人の歩みは牛歩の如く。

何か見えたのかリュウはハチにも見せようとする。

演奏会場、ハチの妹、ピアノを演奏する。

崖。

まばゆい光り。

高い波。

ハチにはうっすらと微笑がさす。

つられたようにリュウが笑う。

演奏会場、ハチの妹、ピアノ演奏を終える。

万来の拍手、途切れぬ拍手。

―いやぁ、よかったー、オレはこんな後輩がいて、誇りに思うよ!でも泣いてないゾ!

―確かにスゴイ!でも、暗すぎるよ!重すぎるよ!哀しすぎるよ!

どことは判らない、光りに包まれた場所。

光に吸い込まれリュウとハチ。

ハチは半ばもう死んでいる。

リュウはハチを引っ張っている。

「生まれてきた、よかった」

ここで観客の女性陣、老若問わず、嗚咽。

「これからも生きるのさ、終わりのようなことを言うな」というリュウの言葉。

深夜の雑木林。

木の枝か露出した根にスカートの裾が引っかかる。

青のスカートがひっかかるが、そこに手が伸びる。

「引っ張らないで、割けるよ」とハチか?あきらの声。

赤のワンピースのメタが青のワンピースを着ているルダの裾を丁寧に取ってあげる。

「痛てて、着いた時に落ちたから未だ痛い」とリュウなのか虎丸の声。

「ここ、どこ?」とあきら。

周囲はただ闇と木々とあるばかりで誰も答えない。

「Fin」

その瞬間、会場の全観客たちが絶叫した!

「エエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!」

「彩、こ、これは!?」

「そうだな、オムニバス上映でコレ!オレは前例を知らない!」

「そうだな!」

「そういうことだな」

そう、そういうことだ。

翔と伊野が声を揃えて「『トゥ・オブ・アス』のラストは『デリリウム』の冒頭なんだ!」とかなり大きな声で云った。そして伊野が付け加える。

「ボルヘス的円環構造だ!」

すると周囲の人々があらんかぎりの驚きと感想を云い始める。

だがいちばん云われたのは「あの二人、未だ生きているんだ!!」だった。

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