第八章 日本橋の千疋屋オーダー制フルーツバイキング 4
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翔と伊野は通称学内劇場に入った。
400席とは私大が持つ劇場ではなかなかのキャパ。
内装を飾り立てたりと派手好きなエリスだったらしていると思ったが、特にそうはしていなかった。
「作品で勝負しようということか」
「いや、伊野、パンフレットと画コンテを合巻したものを販売しているぜ」
二人が云うように、販売スペースが待合室には作られていて、そこには他にもアクスタやクリアファイルも置かれている。
「パンフレットは買っておくか」と翔。
「キャパ、埋まったな」と伊野。
―平日、初回、400席を埋めるとは大したものだ。流石、龍王院。
二人して座席に着く。
周囲には二十歳前後の学生ふうの男女が目につく。
「ここいら周辺は大学、短大、専門学校多いから、授業の合間に評判聴いてきたのであろう」と彩。
「既に次回の待機列も埋まったようだし、五日間、このペースならば、商業映画と区別がつかない動員数だ」と伊野。
周囲が暗くなる。
スクリーンが四隅いっぱいに広がる。
「HedyLamarr A Film」。
続いて「ボルトアクションライフルガール」。
更に「Act,1 38th parallel」。
―えっ、38度線?
―マジ、か。
(ここから先攻が伊野、後攻が翔)
無機質だが・幻想的なアンビエント・ミュージカルがかかっている。
夜空、濃淡な暗闇の中、白い浮遊物が飛んでいく。
それは鳩。
レトロチックな電報筒を付けている。
―こてこての出だしだな。
―音楽、いいな。
薄暗い中、黒づくめの女が移動するのがかすかに判る。
女、川を渡る。
そこかしこに赤外線センサー。
そして暗視カメラ。
看板の文字は「板門店」。
―やはり北朝鮮との国境でか。
―ファーストシーンでかますなー。
このあたりは「第六章 高円寺の勝浦式タンタンメン・じもん 4」でナノメリアも観ていたの割愛する。
「Act,2 Takeshita Street」
島カリンの美しい横顔、扮するは相棒のタイイァン。
ネットでヤフーや新聞社のサイトを見ている。
「どこにも掲載されていない。あれだけ厳重な警戒を脱したというのに」
助手席で英字新聞を読んでいるムグンファ、演じるは龍王院エリス、その人。
その新聞を折り、記事を目立たせ、タイイァンに渡す。
「金主席、風邪を克服、健康をアピール、って、これ!?」
「そう、アピールは全世界に発信されたが、届ける相手は全世界の中の私たちたった二人さ」とムグンファ。
「じゃあ、ムグンファ、あなたが殺した主席は影武者?」
「いや、どちらでもいいんだよ。本人でも影武者でも、当人はオルタナティブな存在だから、替えはいくらでも利く。それより談話を読んでみて」
「なになに『母が在日朝鮮人だったので、一度原宿というところに行ってみたい』ですって」
「行こうじゃないの」
最新式のイスパノスイザが動き出し、明治通りをひた走る。
―ちょっと待てよ!実在の国家元首を殺したことになっているのかよ!?
―あのクルマ、すげぇな、おい。
そのすげぇクルマ、原宿駅前で止まり、ムグンファ演じるエリス、タイイァン演じるカリン、降りる。
ゴミ袋を荒らすカラスたちを悪の天使に見立てるように、謎のウクライナ人、モルチャノフ、竹下通りのど真ん中、神父姿で、たたずむ。
―あの男の子!
―相川あきら!
あきら、否、モルチャノフの表情、アップ。
「ニヤリ」の表情。
―やっぱりすごいな!顔の筋肉の使い方、全部いい!瞳の冷たい輝き、うん、素晴らしい!
―あー、なるほど、この子は典型的な憑依型役者だ。子役とかやって、かなりの研鑽積まないとできないよ、こんなの。
以降は「第六章 高円寺の勝浦式タンタンメン・じもん 7」で撮影風景を描写したのでやはり割愛。
「Act,3 emperor avenue」
行幸通りの地下通路、エリス演じるムグンファ、サングラスにトレンチコート、ハイヒールでコツコツ音を奏でて歩く、歩く。
寂れたペントハウスでの回想シーンがインサート。
うなだれてソファに座るムグンファ。
おそらくモルチャノフと竹下通りで接戦した直後なのであろう。
頭を拭きながらネグリジェ姿のタイイァンが現れる、おそらく入浴後。
「飲んでないの?」
「うん」
「今度は勝ちたいんでしょ?飲まないと」
ムグンファ演じるエリス、瓶の中の錠剤を水で流し込む。
―へー、エリスちゃん、女優としてもいいな、今度出てもらおう。
―伊野と違い、おれは島カリンの方を推す!
回想シーンが終わるも、冒頭、国境付近で対峙した地下道の柱のカゲにミハエル・ネルソンが様子をうかがう。
シーンは移り、行幸通りの地上、つまり、エンペラーストリートである。
地下への出入り口で待機しているタイイァンを演じる島カリン。
おそらくネルソン兄弟の追撃を警戒し・先行し、エリス演じるムグンファをサポートするため。
タイイァン、電磁テイルの起動を確認している。
そこへ向かう女性の後ろ姿。
「きょ、響子!」
「まだ、あのトレイターの味方をしているの?」
「違う!ムグンファは売国奴ではない!その汚名をそそぐために協力しているだけだ」
だがタイイァンは右手に電磁テイル、左手には手榴弾を用意していた。
「なにそれ!?」
右手から取り出したスリングショットで電磁テイルを撃ち落とす響子。
タイイァン、左手に残った手榴弾のピンに右手をかける。
「タイイァン、やって、抜いてよ、二人で死ねばいいんだよ、いや、違う、あなたと死にたい」
そういい終わり響子、タイイァンに口づける。
響子、勿論ピンが入ったまま手榴弾を地面に落とす。
二人の口づけ、ますます激しくなる。
―キスシーン、多いなぁー。
―響子、確か新入部員の海藤ライムだったな、これもいい女優。
再度、行幸通りの地下に移る。
ミハエル、薙刀をムグンファに振り下ろす。
とっさに避けるムグンファ。
「アンタらにはもう命令が出てないハズだ!」
「そうだ!だが我らネルソン三兄弟の末弟・鎖鎌のレオナルドを殺したこと、忘れたとは言わせない!」
「違う!レオナルドと私は愛し合っていた!レオナルドは私をかばって・・・」
「言い訳無用!」
振り下ろされる薙刀。
それをライフルの銃身で受けるムグンファ。
コートの中から取り出したのだ。
だが力ではミハエルの方が上!
ムグンファ、ライフルでなく右腕で薙刀を受ける。
コートの右腕の下には鋼鉄製の手甲を装備していた。
後ろに跳ねるムグンファ。
その瞬間、ミハエルの左足の甲に一発当てるムグンファ。
ひるんだミハエルを横目に、コートの後ろに隠した特殊弾をライフルの銃口に取り付けるムグンファ。
迫るミハエル。
狙うムグンファ。
早かったのはムグンファ。
その特殊弾はトリモチ弾。
空気に触れると凝固するのでミハエルはもう動けない。
「こ、殺せ!」
「レオナルドはミハエル兄さんが作ったフリカッセが大好きだと言っていた。美味しい鶏料理を作る男には生きていてもらいたい」
「オレは信じない!信じないゾー!」
ムグンファ、銃床で殴り、ミハエルを黙らせる。
―アクションシーンの連続だが、アクションをする度に物語が動く。飽きさせないアクションの連続を見れば、自然に物語が追える。いい脚本だな、龍王院。
―多分、レオナルドってのがシネマティック・ユニバースで他作品で出てくるんだろうが、それはアリなのか、うーん、未だに判断つかないんだよな。
エンペラーストリートに出てくるムグンファ。
そして電磁テイルを拾う。
「タイイァン?」
シーンは変わり、深夜の内桜田門。
ムグンファ、門のカムフラージュされたフタを開け、中のへこみに手にした勾玉をはめると門が開く。
―ここで妙なジャポニズムネタ、流石。
―さすがにセット作ったか。
ムグンファを狙う散弾が地面を撃つ。
「ジョルジュか!?おいおい、ここはエンペラーガードの本部の近くだぞ!」
更にネルソン兄弟のジョルジュが放つ散弾。
それをムグンファは電磁テイルではじく。
サイレンが鳴る。
目と鼻の先にある枢密院調所から鳴らされたものだ。
「オレがおまえを仕留めなくとも、おまえは皇宮警察隊に射殺される!そんなライフル見れば、一撃さ!」
「おまえに至ってはガトリングガンじゃないか!」
「米軍、元ブラックベレー戦闘隊長のオレは地位協定で直ぐに釈放だ!ヒャッホー!」
そしてジョルジュは又連射する。
夜陰にまぎれ、ジョルジュに違づくカゲ。
モルチャノフだ。
両手につけたカギ爪で、ガトリングガンを払い落とし、ジョルジュを追い詰める。
「アメリカなぞ、ここ80年の覇権を握ったにすぎない。ユーラシアの民はその千倍、人類を統治してきたのだ!」
ここからあきらが出るトコで「第七章 新千歳空港の豚丼専門店ドライブインいとう 2」で叙述されたシーンとなる。
「final.Act YAMATAI」
主観映像は、皇居内と思えぬ、地下坑道を映す。
更に主観、その地下道を抜けると、やはり皇居内とは思えぬ近代的なラボ。
「ここはいったい?」
エリスが演じるムグンファが問う。
「ここ、ではない、あれは何か?だ」
あきらが演じるモルチャノフが疑問を疑問で返す。
ラボ奥にガラス張りの部屋がある。
そこに石製の門だか、鳥居めいた3メートル程の物体。
「あれ?あれのことか」
ムグンファ、更に問う。
「石仏やドルメンなど人類の石への信仰が長大だ。おそらくこの500年の鉄の文明より長い、そうとう長い。ピラミッドや空中庭園を加えれば、人類は石とともにあり、鉄を選んだために人類は間違った歴史を辿ったと云っても過言ではない」
モルチャノフ演じるあきら、サイコ風味の恍惚とした表情で語る・騙る。
「私の家族の件、忘れちゃアいない!そのオカルト話はやめにしな!」
対し、エリスは熱血漢の芝居。
―ベタだが刺さる。
―ベタこそ至上よ!
「判った。先にそちらを話そう。先日おまえが暗殺した金主席、私も本人だか影武者だからよく知らぬが、アレがおまえの家族を殺した張本人だ」
モルチャノフ演じるあきら、メフィストフェレス風。
「おまえ!他人に罪をなすりつけるのか!?姉・リリーを殺した瞬間を私は見た!」
「リリーにとどめを刺したのは私だ。だがそれは彼女が望んだこと。ムグンファ、おまえの育ての母、テヤンは生きている、というか金主席を操る裏ボスの政的のライバルがテヤンだ」
「ただの焼肉屋のオモニだ!」
「違う、南北朝鮮と日本で三国志状態にし、その三国をまとめあげようとしていた。それは古代三韓時代の再現であり、だから百済に味方にした皇室とも繋がりを持った。その勾玉がその証だ!」
「信じられるか!」
「金主席暗殺の依頼者は私だ。おまえに父と姉のカタキを討たせたかったからだ」
「モルチャノフ、ひょっとして、恭志郎兄さんなのか?」
あきらのモルチャノフ、笑うだけ。
二人はラボのガラス張り奥の披見室に場所を移す。
―でっけぇ、話だなぁ。
―これ、上映していいのかなぁ、このヤバいものを見せられている感が狙いだろうが。
次の接見室シーンも「第七章 新千歳空港の豚丼専門店ドライブインいとう 2」で叙述され脚本が抜粋されているので割愛。
そしてスタッフロール。
―ユーラシアンズのレギュラー!確かにユニバースで誰か登場するとは思っていたが、レギュラー5人も登場とか!?もう、これ、明日から長蛇の列、確定だろう!だって、この五日間でしか、このスピンオフ、見られないんだもの!
―って、音楽がなんで、小山田圭吾!コーネリアス!なんか、聞き覚えあると思っていたが、小山田が全編で作曲・編曲しているとか、いや、これ、オレ長年のファンなんで、サントラ盤買うわ。
「Act,appendix saideA Kremlin Palace」
氷の宮殿に複数の着飾った男女、誰もが凄い圧とカリスマ性。
「ユーラシア大陸は我ら、選ばれし王族連合が統治するのだ!」
ピョートル大帝、彼はあのピョートル大帝本人なのか、それとも何代も受け継がれた名なのか。
「そのためには平民・奴隷上がりのユーラシアンズを駆逐しないといけない!」
ジンギスカン23世、自称なのか、それは判らないが、彼とその一党は、海路と空路が覇権を握った現在にユーラシア大陸大鉄道網を引き、陸路の復活を目論んでいる。
「次は私にお任せください!」
女の声、だがユーラシアンズのマニアならば、声だけで判る。
「檀君朝鮮の末裔、ノクス女王、ユーラシアンズにはあなたの娘がいたハズでは?」
ピョートル大帝が問う。
「はい、血の繋がらない娘がおります!そして実の娘・リリーのカタキでもあります!」
そう彼女が檀君朝鮮から2000年に渡り、実は天皇制のように朝鮮半島を支配していたその末裔にして、ノクス女王の前世記憶が蘇るまで、西成の焼肉屋の女主人テヤンだった女。
更に「Act,appendix saideB a certain place」。
いつの間にか戦線離脱したタイイァン、ソファでうたた寝している。
「ごめんなさい、ムグンファ。あなたの記憶を改竄したのは私」
部屋には他には誰もいないから、彼女の独り言だ。
その独り言に着信音がかぶさる。
タイイァン、スマホを取り、耳に当てる。
「きみの本当の名はリリー、あの狂った母親から救うために殺したフリをして、整形してもらった、そしてきみの記憶を改竄したのは私だ」
スマホからの声はモルチャノフのあきら。
タイイァンの驚愕の表情。
そして「Fin」の文字。
―なんと、満漢全席のような40分!ラスト、エピローグでは全世界公開の本編のこれからの展開を予兆を散りばめる!腹いっぱいだわ!
―瞬きするのも惜しいアクションの連続、ユーラシアンズ本編に直結する魅力的なストーリー、同時にタブーを恐れないアジアネタの応酬、なにより龍王院さんや相川くんの演技はそれを支えて余りある!トドメは小山田圭吾の爽快感あるが重い音、どれをとっても120点だ!
そして、400人が一斉に拍手する!
その中の2名に伊野聡悟と彩翔もいた。
「おい、次のうちの上映時間は3本分だから、未だ時間ある!」と伊野。
「ああ!感想戦と行こうじゃないの!誰かとか話したい!」と翔。
「ナノメリア観ないといけないから、酒は飲めないがな!」と伊野。
「ああ!とりあえず、いつものカフェテラスで、語ろう!」と彩翔。
こうして、二人はようやく昔のように映画論を戦わせる二人の青年に戻れた。
ちなみに、下記に「ボルトアクションライフルガール」の脚本を置いておく。
時系列的にはこういう話なんですよ。
「二人の失楽園」のように丸々掲載してもいかと思ったが、撮影シーンを叙述したので繰り返しになる、なにより本来の菜乃たちの話の勢いを削ぐ、だから、このURLよりご自身のタイミングの良い時にご一読下さい。
https://ncode.syosetu.com/n4068ll/




