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第八章 日本橋の千疋屋オーダー制フルーツバイキング 2



     1



芽理亜、あきら、虎丸がジャンボジェットで羽田空港に到着した時が、映像研レコンキスタ内で初号試写が終わった時刻だった。

「これは、こ、これは!」と簗木部長。

「そういうこと、か」と岸間先輩。

「岸間さん、これはそれぞれの作品の合間に2分の休憩は」と千田先輩。

「うん、いらない!」

そう云うと岸間は星さんと高木さんに「二人の失楽園」「デリリウム」「トゥ・オブ・アス」の合間を2分から10秒に変えるように指示した。

それは映創祭、初日、10時から開幕の1時間前のことであった。

『VON!VON!VON!VON!VON!VON!VON!VON!VON!VON!VON!VON!VON!VON!VON!VON!』

―何!?この重低音!?

部内試写会から出てきた菜乃があたりを見回すが、周囲には、何も、無い。

だがキャンパスの目貫通り先にそれはあった。

『VON!VON!VON!VON!VON!VON!VON!VON!VON!VON!VON!VON!VON!VON!VON!VON!』

―龍王院エリス!

高さ3メートルのモノリスを思わせる黒い箱の上に彼女は、スパンコールの肩出し黒ドレスで仁王立ちしている。

『VON!VON!VON!VON!VON!VON!VON!VON!VON!VON!VON!VON!VON!VON!VON!VON!』

「あすこにいるの!龍王院エリスじゃないか!?」

誰かが気づく。

歓声が上がる。

それは早朝から、「ボルトアクションライフルガール」を観るために並んだ待機列、推定100人から上がった歓声だ。

『VON!VON!VON!VON!VON!VON!VON!VON!VON!VON!VON!VON!VON!VON!VON!VON!』

歓声を補佐するエレキベースのように鳴るこの重低音は、ただでさえこのキャンパス内の空間でいちばんの音響設備を持つ学内劇場、だがエリスは個人でドイツのメーカーから直送で、この黒い巨大ウーハーを送ってもらい、今到着したのだ。

『VON!VON!VON!VON!VON!VON!VON!VON!VON!VON!VON!VON!VON!VON!VON!VON!』

船便は二日遅れていたので、この土壇場の納品となった。

「この巨体、倒して運び、中に入れてから試しに音出して、壊れてます、は勘弁だ!今この場で視聴する!ラインを繋げ!」

このエリスの指示にヘディラマーの音響担当の女の子たちが、ミクサーで調整しているのだ、劇場棟の真ん前で。

『VON!VON!VON!VON!VON!VON!VON!VON!VON!VON!VON!VON!VON!VON!VON!VON!』

エリスと菜乃の隔てる距離、200!

だが確実に、二人はお互いの存在を意識していた。

菜乃は相変わらずジャンパースカートだけれど。

『VON!VON!VON!VON!VON!VON!VON!VON!VON!VON!VON!VON!VON!VON!VON!VON!』

「♪雨の朝には 虹を渡って 夜明けは三日月の弓ひいーて 熱い思いを届けたいのに あなたぁーのー ひとぉみーは!」

これは運転席の亜美衣。

運転するは、トラックというよりトレーラーに近い。

「助手席に誰も座らなくて、いいんですか?」と槇野宗次郎。

「直ぐ着くし、何より亜美衣さん、歌っているトコ見られると・聞かれると恥ずかしがるから、コンテナの中でみんなで作戦会議してまーすと言っておいた」と宗次郎のカノジョのふみちゃん。

「それ、誰?」と青山ユキエが安具楽ユラに尋ねる。

「グレラガのヨーコ・リットナー!コスプレ会場ではこの手のロングレンジライフルが長すぎて、持ち込み不可だからさ!」

だから学園祭ではOKとユラはライフルのスコープの調整に余念がない。

「それより、ユキエさん、あなた、菜乃のライバルを自称していたのに、気づいたら映像作品のプロデューサーまでやって、いつ菜乃と決着つけるんよ」とユラ。

「常勝無敗の菜乃を倒してこそさ!あの龍王院という女に負けたあとの菜乃を倒しても面白くもなんともない!」とユキエ反論。

「フッ、なんだかんだ言いながら、菜乃の心配か。腐れ縁は切れないね」

とジョン・ルイス・ギャディスの「大戦略論」のハードカバーを閉じながら、黒図ミヤコ。

「腐れ縁で、ここまでするかね!2作の映画にスタッフとして、キャストとして参加、パンフレットのためにスチール写真撮影、そう、パンフレットと画コンテ集の編集と執筆、そしてなによりいちばん手間ひまかけた第3の書『トラフィクス』の製作、しかも!それぞれ5,000部刷っちゃった!合計1万五千部だよ!そりゃ、トラックじゃなくてトレーラー借りるよね!」とライフルのスコープを覗きながらユラ。

「まぁ、会場でのチカラ仕事は僕がしますので」

これは宗次郎くんの発言。

「あのさ、槇野くん、私たちに付き合っていて楽しい?いや、皮肉じゃなくて。私たちのしていることは菜乃のナノメリアの手伝いで、でも私たちはお互いの特性を理解しているから、手伝いでも個性出せる表現ができるから、ジャズとかでいうセッションできるからやっているんだけど、槇野くん、手伝いの手伝いにしかないような気がして、申し訳ないというか」とユキエ。

「ああー、すみません、楽しい時に楽しい顔しないんです、ぼく。ふみといる以外は、本当に一人なんで、撮影とか編集とか未知の世界で面白いですよ」と宗次郎、やはり朴訥と。

「宋ちゃんね、アニメは幼稚園で卒業、ジャンプは小学生で卒業とか周囲の風習を疑わずに慣らしたタイプなんだよ。だから一回球場に行った時に『野球のルール知らないんだけど』と当日言ったら、『実は僕もよく知らないんだ』と二人して爆笑したんだ」とふみちゃん。

―無口なカップルだなぁと思っていたけど、ちゃんと通じ合っているんだな。

ユキエ、ユラ、ミヤコは微笑。

「宗次郎さんって、ナノメリアにいる相川くんに似ていない?」とミヤコが切り替えす。

するとユラやユキエが同意の相槌を打つ。

「いえ、あのひとは違います。似て非なるものです。あんなひとが存在して、僕らと一緒にいるのがかなりおかしいんです。本人にその自覚があると話していて判るから、危険なひとではないですけど」

宗次郎の言にふみちゃんですら、ぽかーんだったが、ちょうどその時にトレーラーは停止し、宗次郎がスマホのグーグルマップを見て「着いたようです」と云い、亜美衣によって、コンテナの扉が開く。

「さて、ここが天王山だ!いくぜ!リセエンヌども!」

亜美衣による号令。

「では、行くとします、か」とロングレンジライフルを掴み立ち上がるユラ。

続く、男女四人。


映創祭じたいの開幕は10時、だが開演はレコンキスタの大教室もヘディラマーの学内劇場も10:30とした。

正門は既に開いている。

だから「ボルトアクションライフルガール」の待機列もキャンパス内にできている。

特設メインステージでの開幕の辞が10時のため、移動時間もあるが、その開幕宣言を見てからの本番と映創祭実行委員会から以前より通知が回っているため、アニ研スクラムや声優部モチモチの木も10:30から、上映・開演する。

千田先輩が指揮の元、住田、ヒカル、彩佳が会場の音響や上映を担当、受付には簗木部長と岸間先輩が座るが、15分後には亜美衣たち6人が到着し、物販を兼ねて受付を担当する。

他の部員は午後から、もしくは、本日いれて5日間の長丁場、交代で商業の映画館のように回せるよう、スケジュールは組んである。

そして菜乃は校門にいた。

―亜美衣さんたちも、芽理亜たちも未だ来ない。早く!プレッシャーで押しつぶされそうだ!

菜乃がそう思った矢先、校門にタクシーが着く。

助手席から、例のイタリアンスーツ姿の相川あきらが登場。

後部座席から、茶のスリーピースで決めた室井虎丸が見参。

その後部座席の取っ手を虎丸がうやうやしく持ち、安芽理亜は光沢のある青いドレスに白のジャンパーをひっかけて、飛来。

「菜乃!ただいま!」

「みんな!おつかれさん!」

「酉野さん、どうでしたか?」とあきら。

「相川くん、ありがとう、ありがとう、ばっちりだよ!」と菜乃。

「毎回、すべり込みセーフはもう止めたいね!」と虎丸。

「なんで、みんな衣装、ゴージャス!?」と菜乃。

「羽田空港で着替えた!」で芽理亜。

「コレ、おやじのおさがり」とスーツの襟を持って虎丸。

「ちょっと待って」と菜乃はスマートフォンを取り出す。

『にぃにぃ!私が中三の時に、埼玉のおばあちゃんがつくってくれた、そう、ピアノの発表会に着ていたワイン色のドレス!直ぐに持ってきて!大丈夫!体形、変わっていないから!』

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