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第七章 新千歳空港の豚丼専門店ドライブインいとう 9



     9



前話の兄へのあきらの返答は次章・最終章のどこかで語られる。

ともかくあきらは兄と出奔しないで、21:30発新千歳空港行きに乗るため、羽田空港にいた。

カメラや衣装、小道具を持って。

そして23:05、新千歳空港着。

空港には虎丸の父がフォレスターで迎えにきてくれた。

「話は翌朝にしよう。まずはクルマで札幌市内のうちに来てもらって、寝床は用意してあるから、直ぐに休んでよ」と虎丸父。

とは云ってくれたが、芽理亜のみシャワーを借り、男子二人は翌朝入浴した(勿論別々よ!)。

「あらためて、虎丸の父、室井です。まずはお召し上がりください。いただきます」と朝食を採ることにした。

「レーコさん、どうしたの?」と父に聴く。

「おまえの妹の夜泣きに付き合ったから、朝食の用意して二度寝した」と答える父。

ごはん、沢庵、レタス主体のサラダ、わかめとなめこと豆腐の味噌汁にメインはおっきなほっけの焼き魚。

―広くて、築年数最近だし、いい家の長男じゃん、虎丸!

芽理亜がほっけをほおばりながら。

話は撮影場所の留萌のこととなった。

旭川より、新潟ロケの続きとして海岸の留萌となり、虎丸の同級生にも現地で待つように云ってある。

「有給取ったよ、虎ちゃん、付き合う」と父が息子に。

「免許、取らしてもらったじゃん、それにこの子、ランクル運転してるんだよ、マニュアルで。だからいいよ」と息子。

その押し問答は玄関でも続いたところ、虎丸の義母・レーコが登場。

しかも娘である赤子、虎丸の妹を抱いて。

「うわぁ、かわいい!」と芽理亜。「名前はなんて言うんですか」

「子猫。室井子猫!」とレーコ。

「おれはやめろって言ったんだ」と虎丸。

「いやいや、そうきたか!って感じの妙名だよ!」と芽理亜が社交辞令でなく。

「虎丸くん、会うの初めてでしょう、ほら、ほら」とレーコさんが虎丸に子猫を預ける。

断りを許さないレーコの動きに合わせる虎丸はここで初めて妹と対面した。

―重みだ。ひとひとりの重みだ。でも心はとても軽くなった。

そう思っている芽理亜が横から、「次、わたし、いい?」と子猫を受け取る。

―友達以上恋人未満な二人の若い男女が、生まれてようやく半年の女の子の赤ちゃんを共同で抱いている。これは、美しい。

あきらはそんなことを思っていた。

せっかく休みにしたので、新妻と幼い我が子とすごすのもいいかと室井は考え始めていた。

カーキーを室井から受け取り、虎丸に案内され、車庫に向かう。

レーコは今朝、人数分の弁当(チキンライスと鶏の唐揚げ)を用意したので、室井が運んでいる。

「あのさ、芽理亜、ようやく判った。冗談でもロリコンって言っちゃあいけないんだな」

虎丸が芽理亜の耳元で囁く。

「ようやく気付いたか。って、あっ!?」

芽理亜、閃く!

「あのさ、虎丸、相川くん!港のシーン、撮り直したい!」

「え!?どこかの港に行くって?これから!?」と虎丸。

「うん、お願いしたい!そしてレーコさんと赤ちゃんも出演させたい!」

「ムチャだ!どんなスケジュールでやっているの思っているんだよ!」

「虎丸!でも昨日、相川くんに代表して疲れていても妥協するなと代弁させたよね!雪のシーンの必要も痛感していたけど、あの両津港も納得できてなかった。今私の脳内にはスゴく素敵なシーンが生まれた!」芽理亜、早口。

「そんなこと云っていたら際限ない!どこかで妥協しよう!」と虎丸。

「イヤだ!絶対イヤだ!頼んでくれないと龍王院エリスに勝ってもカノジョになってあげない!」

芽理亜の言に後ずさりする虎丸。

「じゃあ、その小さな恋人候補のためにカレシ一家は力を貸すのであった!」と虎丸の父。

「ほんとですか!?近くに風光明媚な港はありますか!?」と芽理亜。

「ここはどうですか?」とiPadを芽理亜に渡す虎丸の父親。

「苫小牧西港フェリーターミナル。ここから自動車で1時間くらいか」

「お父さん!ばっちしです!お母さんも妹さんもいいですか!?」と迫真の芽理亜。

「いや、レーコさんもおやじ断ってくれていいし」と虎丸。

「条件は!」とレーコさん。「虎丸くんが私たちに頼むこと」

「室井くん、苫小牧って、いいところなんですか?」とあきら。

「ああ、いいところだよ。レーコさん、お願いします。出演してください」と虎丸。

「頭を下げることはない。それにこのお弁当、私たち夫婦分もあるし、ちょうどいい」

そのレーコの言葉の後、6人はアルファードに乗り込んだ。


「よう、死にぞこない」

リュウ役の虎丸の台詞、苫小牧西港フェリーターミナルにて。

「よう、ボロボロ野郎」

あきらが演じるハチが返す。

また睨み合い、じょじょにお互い笑うのは今までの演技プランのまま。

「さすがにここは船でよかろう」とハチが云うとさんふらわあ号の画。

「でも、行ってどうするんだ。それで何になるんだ、オレたちがやったことが許されるワケではない」

「なにより、その土地が本当にあるか判らない。許されるなんて、無い。許すヤツなんて信じなくていい」リュウ演じる虎丸。

「理解はできるけど、納得できないな」とハチ演じるあきら。

二人はもう言い尽くしてしまっている。

数メートル先、フェリーから降りてきた乳母車を押すご婦人の姿にリュウとハチ、気づく。

次のシーンではそのご婦人を演じるレーコの顔のアップ。

「この乳母車の車輪が調子悪くて」

この台詞含め、追加シーンのシナリオは運転は室井親子に任せて、車中で直ぐに菜乃にLINEした。

その15分のちに画コンテが送られてきた。

―そう、気ままに好きな画を撮るのではなく、監督に指示を仰ぐ、正解です。

ずっと無言のあきら。

二人、しばし相談。

ハチ、赤子を乳母車から取り上げる。

リュウ、万能ナイフで車輪を器用に直す。

「ありがとうございました」と親子は乳母車の車輪を快適に滑らせ、去る。

二人、親子を見守る。

「納得したわ。オレ、妹がいてさ」とハチ。

「いたな。ピアノが上手い」とリュウ。

「ピアニストになった。オレがあんな地位にいたからもあって、今でも叩いている」

「行くか、見つかったんだろう」

数秒後、芽理亜の低い声で「カット」。

そして帰り道の車内、芽理亜はクラウドに苫小牧で撮影した動画を菜乃に送る。

―そう、クラウドで動画送るなんて初めてだから、いい練習だ。

夕方には札幌市内の室井家には着いた。

「泊まっていかなくていいのか」と室井父。

「うん、今日中に留萌には着いておきたい。なにしろ天候に左右されるから、明日は一日中、撮影になるから」と室井息子。

留萌には3時間あれば到着する。

夜の間にロケハンくらいはしたいのだ。

車中泊かとも思ったが、レーコさんがクルマ移動の合間にビジネスホテルをふた部屋予約してくれていた。

そして芽理亜が運転し、虎丸とあきらが乗るアルファードは留萌を目指す。

「ああ、よかった。こういう大学のビデオの撮影っていうイベントに勢い任せで、子猫逢わせられて本当によかった」と室井氏。

「それもあるけど、あの女の子と無口な男の子、好きな女の子にも同性の友達にも恵まれているんだよ。私、というか、虎丸くん、女性が嫌いというか、苦手なトコあったんだろうけど、まったくなくなっていた。息子さんは確実に成長を遂げていますよ」

レーコの言葉に室井氏は笑顔で返す。


「いいご家族でしたね」とあきら。

「うん、酉野家に負けないくらいね」と芽理亜。

「いやいや、奥さんが若くて、赤ちゃんが生まれたばかりと家はああいうふうに幸福そうなもんじゃないか」と虎丸。

「馴染んでたじゃん、虎丸」と芽理亜、笑いながら。

「ああ、赤ちゃんっていうのは一瞬でひとの心を変えるな。今まで身構えていたのがバカみたいだよ」と虎丸も笑いながら。

―いいですね、仲のいい家族。酉野家と同じくらいに僕は苦手でした。

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