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第七章 新千歳空港の豚丼専門店ドライブインいとう 8



     8



彩夫妻はそのまま、部員を連れて吉祥寺に飲みに行ったのだが、あきらと虎丸は祝福と詫びを告げ、視聴覚教室を辞した。

井の頭通りの3LDKを目指した。

「トゥ・オブ・アス」の編集作業をする菜乃と芽理亜のサポートをするためだ。

「そう!よかったね、ノブさん」と菜乃。

「いや、いくらなんでも早すぎだろう!」と芽理亜。

料理やゴミ出しを虎丸が担当し、あきらは買い物等使いっぱしりに徹した。

そして土曜日、映創祭初日の五日前、「トゥ・オブ・アス」、完パケ完成!

早速、昼頃、4人だけの試写会を始める。

画面には新宿・歌舞伎町の深夜の風景。

絵面も汚いが、酔客や若者の怒鳴り声も汚い。

そんな景色を眺める男、地面に尻をつけ、見つめる男はリュウ。

電光掲示板のニュースが「ネット 復旧メドたたず」と告げ、リュウがその文字を見て、目を伏せる。

場面は変わるが、同じ新宿、同じ深夜。

1階の呑み屋に2階から階段を落下するハチはズボンもパンツも履いていない、下半身、裸。

「勃たないんじゃあ、使えないんだよ!」

どうやら2階が男色専門の淫売窟になっている模様。客の声は千田先輩。

その客が投げたであろうズボンがハチの顔に当たり、急いで履いて、店を出るあきらが演じるハチ。

「全世界のインターネットはたった一枚のフロッピーディスクに仕掛けられたトロイの木馬でその全システムを休止させた、が、世界は何も変わらない。変わったことと云えば、ツムツムでなくゲームボーイが人気になったことくらい」

これは繁華街の夜景をバックに語られる野笛のナレーション。

タイトル、「トゥ・オブ・アス」のスーパー。

やがて四人は観終わる。

「ふー、ようやく完成だよ。『二人の失楽園』の倍、5倍?」と菜乃。

「いやー、多分10倍はかけている。労力も予算も時間も」と芽理亜。

「うん、よくできている。大したもんだ」と虎丸。

あきらは何も云わない。

「ちょっと家に帰るね。さすがにもう10日も帰宅していないとか心配させている」と菜乃。

「わたしゃ、寝るよ。ふふ、起きた時が映創祭当日とかになっていたら、超笑う」と芽理亜。

「まぁ、ゆっくり休もうゼ!やるだけのことはやったよ」と虎丸。

あきらは何も云わない。

「室井くん、料理美味しかったよ!特にカレーね!」と菜乃。

「カレー、未だ余っているから、芽理亜食べてよ。二日目のカレー、美味しいよー」と虎丸。

「食事よりとにかく眠る。シャワー浴びたいけど、徹夜明けの入浴はヤバいらしいね」と芽理亜。

「そうそう!絶対にダメ!脳にくる!と前に亜美衣さんから注意された!」と菜乃。

あきらは何も云わない。

「みんな、ありがとう、みんなのおかげだよ」と菜乃。

「ここにいる4人だけじゃない。部員にOB、亜美衣さんやミヤコさん、菜乃のお兄さんたち」と芽理亜。

「あの伊野聡悟が手伝ってくれたからね」と虎丸。

あきらが何か云いかける。

「何!?」と芽理亜。

発声はしなかったが、菜乃も虎丸もキッとあきらを視る、凝視する。

「はい、帰ります。みなさんと同じく疲れたので」

三人、ホッ。

「じゃあ、失礼します」

そして扉が閉まる音。

「そんじゃあ、私も帰ろうかな」と菜乃。

「忘れ物、無いようにね」と芽理亜。

「ハハハ、二人ともおっちょこちょいだからな、特に酉野さんは、ハハハ」

虎丸の語尾に付けた笑い声は続いた。

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハー!」

女の子二人、ぎょ。

虎丸、笑い声を収め、涙を拭く。

「菜乃、もう少しここにいてくれ、おれ、あいつ、連れてくるから」

虎丸がそう云った瞬間、ブルゾンを掴み、急いで靴を履き、駆け出す。

扉が閉まる音。

菜乃と芽理亜、お互いの顔を見るが、直ぐに視線を外す。

多分、数分後、虎丸があきらの首根っこを右手で掴んで戻り、二人の前に靴をはいたままのあきらを投げ出す。

「おい、相川!手荒なマネしてすまない!だが、教えてくれ!あの映画の何がダメだった!」

虎丸はそれでもこれを靴を脱ぎながら云った。

「いいんですか、撮り直しになりますよ。だから、みんなも言わなかったんでしょうに」

あきらもペタと座ったまま靴を脱ぎながら。

「なんなんだよ!あるんだろう!だから、何も言わないんだろう!」

「それ、みなさんも思っているコトです。ぼくが言わなくてもみなさんも気づいています」

あきら、いつの間にか正座。

「判った。相川はおれの耳に言ってくれ、菜乃は芽理亜の耳におれたちに聴こえないように言うんだ」

虎丸は既にあきらに近づきながら、云う。

あきらが虎丸の耳に注ぎ込んだ言葉はまさに虎丸も思っていたことだった。

菜乃の言葉を聴いた瞬間、芽理亜の表情が変わったので、芽理亜も同じだったと知れた。

「雪か!」

皆を代表して虎丸が叫ぶ。

「ええ、最後のリュウとハチの逃避行、雪が降っていないのです。そりゃあ、ベタですが、ベタを恐れてはなりません」

正座しながらあきら。

「で、でも雪なんて、今からムリだよ!」と云いながら疲労を隠せない芽理亜。

「いや、おれ、道民だゼ!ちょい待ち」と虎丸がiPadで検索する。

「旭川はとっくに初雪来ている。しかも来週アタマは吹雪だ!」と虎丸が皆に画面を見せる。

「確か、旭川は空港があるましたね。直ぐにチケット取りましょうt」と部屋に備え付けのラップトップ方PCで検索するあきら。

「いや、実家のクルマはスバルの四駆だ。新千歳空港から旭川は2時間ちょっとだ。機動力はいるし、道内はアシがないと話にならない」と虎丸。

「でもさ、ヒカルちゃんや彩佳ちゃん、千田先輩や住田くんを旭川まで来てくれるかな。私、さすがに頼むのイヤだよ」と菜乃。

「いえ、酉野さん、この四人でやりましょう。むしろそうすべきです。っ!」とあきら。

「どうした?相棒!」と虎丸。

「明日日曜深夜、最終便、羽田~新千歳間、あります!」とあきら。

「早速取ってくれ!おれは実家のオヤジに電話する!」と虎丸。

「待った!」と芽理亜。「日曜深夜に新千歳着くならば、撮影は月曜、移動時間も覚悟しなければならないから、火曜かもしれない。編集している時間ないよ。木曜が本番なんだから!」

「待って!」と菜乃。「3人は行って!私、芽理亜が撮影した動画をクラウド内で受け取る。いつでも受け取られるように・直ぐに編集できるように待ってる!だから!三人で行って!」

「判った!菜乃!必ずいい画、送るよ!」と芽理亜。

「旭川のCG関係の専門学校行った・映画好きの同級生に手伝いを頼む」と虎丸。

「僕は小道具や衣装を旅客機で運べるように荷造りします」とあきら。

「じゃあ、芽理亜と二人で、台詞と画コンテ、切りますかぁ!」と菜乃。

「いや、よかった、これでよかったんだよ!」と芽理亜。

とはいいながらも出発は明日の夜、それまでは休もうと夕方には解散。


必然的にあきらの作業がいちばん早く終わったので、近所のスーパーに総菜とんかつを買いに行った。

出がけに炊飯器をセットして。

ごはんの上にカットしたとんかつに半熟卵にとろけるチーズを乗せたところにカレーをかける。

「この食生活、ヤバいよねー」と菜乃。

「相川くん、よけいなことをさせると天才だよね!」と芽理亜。

―まぁ、でも、二人とも喜んでくれてよかったです。

日暮里にある自宅に帰ると夜。

帰り際に母親にメールを入れるとその母親は玄関で待っていてくれる。

だが今夜そこにいたのは、母ではなく兄だった。

「お兄ちゃん、ただいま」とあきら。

「おう、元気だったか、あきら」とその兄。

あきらも背が高いが、この兄は更に背が高く185。

「元気」とあきら。

「そりゃあ、よかった。おれさ、この家出るわ。漫画残していくから全部やる」

「どこに行くの?」

「落ち着いたらメールする。今住所言うより、残った方がいいだろう」

―そっか、だからそれを両親に話し、揉めて、お母さんは出てこないのか。

「行きたいけど、お兄ちゃん、カノジョと住むんじゃないの?」

「ああ、鋭いな。それも二人子持ちのシングルマザー。掛け持ちバイトしていたのは、一戸建ての頭金貯めるためだった。バイトの一つで飲食チェーンが正社員雇用もされたし、もうここにいる必要がなくなった」

―ただ独立するのならば、反対する必要ない。だったら、父も母も姿を表さない理由はありません。

「あきら、おまえも一緒に来ないか?あの両親はクソだよ。おまえを守ってあげられなかったのが心のトゲになっている。女房が二人連れてくるなら、おれはおまえを連れてくる、って、アリじゃないか」

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