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第七章 新千歳空港の豚丼専門店ドライブインいとう 7



     7



アニ研スクラムがバンKとリュウの闘いをCG化する作業をしている隙にりえかの演奏が録音スタジオで始まる。

ピアノは元々備え付けてあるベヒシュタインのグランドピアノを使う。

顧問の竹内先生に頼んで調律師に来てもらった後だ。

実際演奏しているシーンは、講堂で既に撮影済みだ。

「なんで、シューマン?」

りえかが菜乃に尋ねる。

菜乃に楽譜を差し出しながら。

「良い曲だと思うから」

「バイオリンではサラサーテを使って、ピアノだとシューマンとか、ちょっとチグハグさを感じただけ」

それは揚げ足取りでも・イヤミでもなく、演奏の本番の前に菜乃と会話を交わしたかったからりえかは発言したのだ。

でもその内容は謝罪を思わせるものではいけない。

同じピアノの演奏者としての共通言語めいたものを交わしたかった、そういう事。

りえかがピアノの前のイスに座る。

菜乃が金魚鉢を出て、調整室に戻る。

その調整室から芽理亜がりえかに合図。

上体がのめり込むように、両手が別々の生き物のように動く。

そしてスピーカーが奏でだす鍵盤の果ての音。

―あの小さいカラダでこれだけの剛の音!

ついさっきまでやはりりえかの起用に難色を示していた芽理亜は、折れた。

―力強いけど、物悲しい、頭サビ!この子、楽譜がちゃんと読めるコだ。

菜乃、ニヤリ。

ミクサーは芽理亜とヒカル、彩佳。高円寺女子美からはユキエとミヤコも着ていた。

この曲をBGMとして、バンKをしりぞけたリュウと実は機械化された肉体を持ち、帝国崩壊のためもうメンテナンスできずにいて余命幾ばくもないハチが合流し、ファライソという約束の地を目指す。

「やっぱり、ここは日本海側でしょう!」

脚本の芽理亜はそう考えていた。

ロケももう終盤だ。

ただこのリュウとハチの道行はりえかのピアノ演奏を録音した後にしようとしていた。

だから、芽理亜が運転するランクル車内ではりえかが演奏したシューマンが流れる。

いつものポップスでなく、その重苦しい曲調に会話も減る。

ただ、ナノメリア四人以外の千田先輩と住田くんは元々無口なので、気にならない。

そしてあきらと虎丸はその曲で役作りの最中。

「性格は最悪だが、曲はいいもん奏でる」と虎丸。

「最近性格もよくなったんですよ」とあきら。

「僕の主演映画にピアノ演奏家として出て下さい、って古いナンパみたいだな」

そう云った虎丸をにらみつけるあきら。

菜乃は寝ている。

編集作業が多いから。

それは芽理亜も同じで、次の高坂サービスエリアで虎丸と交代の予定。

住田くんが新潟市内出身なので「今までロケハンしていたもんさ」と菜乃と芽理亜にグーグルアースで現場を見せて撮影を進める段取り。

宿も住田くんのコネで取ったが、気を遣う彼は一人実家に泊まった。

千田先輩は宿代は自分で出すと進言してくれた。

漁港、砂浜、岸壁、浜に立つ掘立小屋、そんな寒々しい風景での撮影は進む。

次の日は、船上のシーンも必要なので、佐渡ヶ島に6人でフェリーを使って渡り、あきらと虎丸の撮影を済ませた。

せっかく佐渡ヶ島まで来たんだ。ここでもロケをする。

「えっ!?またリュウとハチの再会シーンか?」と虎丸。

「うん、どうにも新潟港でのシーンが決まらなくてね」と芽理亜。

カメラは千田先輩と住田くんの二台体制。

ハチはかなりくたびれた黒色の背広姿で、撮影前は薄手のコートを着ている。

リュウはハチ程にフォーマルではないが、青系のブレザーを着用。

二人ともノーネクタイ。

「よう、死にぞこない」

リュウ役の虎丸の台詞、両津港の船着き場にて。

「よう、ボロボロ野郎」

あきらが演じるハチが返す。

二人ともにらみ合っているが、じょじょにその緊張の表情はほぐれ、ハチが笑うとリュウも笑い、二人とも高笑いを始める。

ここいらの演技プランは芽理亜の指示で、高笑いからカメラは青い・広い日本海の空を舐めるように撮る。

煙草をリュウが吸い出す。

動作で「オレにも」と語り、リュウは今吸っている煙草をそのままハチに渡し、自分は新たに1本、火をつける。

「さすがにここは船でよかろう」とリュウ。

「でも、行ってどうするんだ。それで何になるんだ、オレたちがやったことが許されるワケではない」とハチ。

「なにより、その土地が本当にあるか判らない。許されるなんて、無い。許すヤツなんて信じなくていい」

「理解はできるけど、納得できないな」

「いや、ハチ、納得は後からついてくる」

そして二人は船に乗るというシーン。

これを新潟港でも撮影した。

そして船上で、ピアニストの妹に言及するという流れ。

「どうですか、カントク?」

虎丸が芽理亜に尋ねる。

「うん、さっきよりはいいんじゃない」

でも芽理亜のその答えはは歯切れ悪かった。

スポーツの日を含めた連休で新潟・佐渡撮影旅行は終った。

撮影後直帰したので「トゥ・オブ・アス」クランクアップだというのに打ち上げの宴はなかった。

そして東京に着いても、三々五々に解散した。

つまり、皆、疲労がたまっていた。

疲れていたのだ。

それでも菜乃と芽理亜には新潟で撮影した分の編集を済ませねばならなかったし、菜乃には兄たちとの作曲の仕事もあった。

あきらと虎丸も「デリリウム」の編集を完パケしていない。

本来なら、今までなら中仕切りで美味いもの食べたり・宴会で盛り上がったりして、活力を得ていたが、それさえも考えるだけで疲れた。

だから、みんなで相談して「疲れを取るために早く帰った方がいいから、宴会はナシ」と決めたワケではない。

誰もが口にせず、自然とそうなった。

それは口にして誰かが「いや、せっかくだからやろう!」と云って付き合いが未だ続くのがイヤだったからだ。

だから夕食は寄居パーキングエリアで済ませたきりだった。

それから10日間、ナノメリア4人は、編集に徹した。

上階に3LDKを借りた芽理亜の采配はここで効いてきた。

大学での作業は時間に限りがある(勿論ヘディラマーは無限に何時まででも使用可能)がこの前線基地ナノメリアでならば、いくらでも作業ができた。

但し、男子はそのまま眠ったが、さすがに女の子は下の階にある芽理亜の部屋で仮眠を取った。

レコンキスタ部員、そのOB・OG、亜美衣と高円寺女子美の面々、トリオ・ザ・トリノ、様々な人々が行き来する。

その間に、31日木曜・映創祭初日ちょうど一週間前の24日木曜、「デリリウム」完成である。

そのまま学内の視聴覚教室を借りて、零号試写を開始だ。

レコンキスタの部員のみ。

最初、画面に映るのは深夜の森。

一本の小枝がクローズアップ。

その小枝に青い布が絡まる。

「引っ張らないで、割けるよ」

赤いワンピースの菜乃が演じるメタの台詞。

菜乃は芽理亜演じるルダの青いワンピースの裾を小枝から丁寧に取る。

「痛てて、着いた時に落ちたから未だ痛い」とルダ。

「ここ、どこ?」とメタ。

周囲はただ闇と木々とあるばかりで誰も答えない。

こうしてレコンキスタ内の試写会は始まった。

そして終わり、灯がつく。

すると彩先輩が「いや、面白かった。初めてにしては上出来じゃん!」と云い出した。

「って、彩さん!帰ってきていたんですか!」代表するように岸間先輩。

「私もいるよ~~~!」と彩の横には野笛。

この突然の登場をかっこいいと思ってはいけない。暗くなった瞬間にこのバカップルは、扉を音もたてず開け、着席したのだから。

「かれこれひと月ですよ!何をしていたんですか」と簗木部長。

「かなり勢いが必要だったから、たいていのメールは無視させてもらった。お互いの実家に挨拶、二人で暮らす家の準備、役所への手続き、式挙げないと言ったら、結局お互いの家の顔見せが親戚や関係者で50人くらい集まったりとこんだけ手続きやお披露目がこの国ではこんなにあるとは知らなかった」

彩の説明。

「ってことは」と女子代表して星ヒカル。

「そう!私の名前は彩野笛となりました!」の指輪を見せながら野笛。

「おめでとう!」ここ視聴覚教室にいる全員が声を上げる。

「今まで何をやっていたんだと思うね。男と女ってイザ始まると早いんだな」と彩、って彩は二人いるので、これからは翔、にする。

―いや、いくらなんでも、早すぎだよ!

今いる男、全員。

「でも、私たちを誰も招待してくらないのは寂しいですよ!」と高木彩佳。

「うん、急いだのには理由がある。映創祭の打ち上げをこの僕らの披露宴と兼ねる。それは龍王院エリスを倒した宴にもなる。いっぺんに行きましょう!」

翔、ニヤリ。

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