第七章 新千歳空港の豚丼専門店ドライブインいとう 6
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「デリリウム」は9月の最終日曜の撮り終えた。
そして火曜になると10月に突入し、「トゥ・オブ・アス」の大詰めの撮影を急いだ。
それは同時にアニ研スクラムの綾川たちによるリュウVSバンKアクションシーン(これはアニメ化するとかからめ手は使わない)や亜美衣と高円寺女子美付属のOGによる3種の同人誌製作も急ピッチで進められた。
10月に入ったということは「二人の失楽園」のサブスク放映が始まったのだ。
日本のサイトではなく、英国、タイ、台湾の短編映画専門チャンネルに登録し、野笛が管理していた(今は星さんと高木さんが担当する)SNSのアカウントで、宣伝し、海外のサブスクリプションの登録の仕方を教えた。
それは無限極限のアカでも同様で、始まるひと月前からキャンペーンを張った。
作中の2024年の時点で既にサブスクリプションは飽和状態になっていたから、新しい表現、奇抜な映像、面白い映画を観たい若人や映画ファンの食いつきはよかった、というかここいらが亜美衣の狙いだったのである。
最初の五日間で、台湾産では5万再生され、英国産では2万再生、タイ産では1万再生された。
―人口差か、言葉のせいか、10万の壁は厚い、か。
菜乃と芽理亜は素直に喜んだので、これは亜美衣の感想。
そして、なおかつ「二人の失楽園」の最後には「トゥ・オブ・アス」の予告編を付け、吉祥寺の映創祭で、10/31木曜から11/4月曜・祝日の五日間、無料で続編が上映されることを告知した。
10月第一週でファーストシーンであるリュウ側・ハチ側の歌舞伎町のシーンを撮り終えた。
その粗編を早速始めた菜乃と芽理亜の代わりに、レコンキスタの当日の上映に関する会議にはあきらと虎丸が出席した。
岸間、簗木部長、千田、星さん、高木さん、住田くん、そして「トゥ・オブ・アス」のサブ・プロデューサーだから青山ユキエさんも出席している。
そして彩と野笛が未だ戻らず。
この後にアプリ研のアランを交えてヘディラマーとの当日の打ち合わせ、というか認識のすり合わせを行う。
菜乃と芽理亜はそれまでに終わらせると云っていたが、どうなることやら。
「今回、おれたちの2作のみの上映にしてくれてありがとうございます。でも3作にしたい。『二人の失楽園』も上映したいんです」
虎丸は関係者全員を見渡して、学生課に申請して借りた中型教室でそう云った。
「いや、室井くん、ダメとは言いたくないが『二人の失楽園』は既にサブスクで放映している。それならば、ヘディラマーとの勝負ではなるべく上映回数を増やすため、新作2作でやる方がいい」と反対の簗木部長。
「更に言えば、『二人の失楽園』『デリリウム』『トゥ・オブ・アス』の順番で流してその間の休憩は1分!」
「そりゃ、いかんよ、室井くん。映創祭には地域住民も観に来る。中には弁当屋のおばあちゃんや魚屋のじいさんも観に来るよ。だからトイレ休憩をもうけないと不親切だ」と岸間さん。
―言ってもいいんじゃないかとぼくは思うんですが、少しでも外部にバレたらぶち壊し、それに安さんと約束したんですよね、四人だけの秘密だ、と。
「わたし、部外者ですから、上映館である大教室、見てきました。トイレは清潔でいっぱいある。待つことはないと思います。だから、2分にしましょう、休憩時間。思わせぶりなアヴァンタイトルが30秒あるから、合計2分半、体感ではかなり長いですよ。でも『トゥ・オブ・アス』から『二人の失楽園』は10分の休憩。それでどうでしょう」
発言者のユキエは九分九厘、虎丸の狙いを見抜いていた。
「トゥ・オブ・アス」の製作でプロデューサー補だから全体を見渡し、察したのだ。
それと彼女がプロ顔負けのプロットを切る漫画家であることが、この気づきに力を貸したのだ。
「うん、合計90分で、10分休みってことか。つまりナノメリア映画祭にしたいんだな。今勢いあるし、それもいいかな」と部長は即断した。
「でも、いいですか、今回みんなにおれら四人のために裏方や脇役やってもらって本当に申し訳ないと思っている!それは酉野もおれも相川も同じで、特に芽理亜がすまなく思っている。だから、今回は龍王院エリスにケンカ売られたから買うけど、来年のフェスタや来年度の映創祭ではおれらがサポートするから、星さんや高木さん、住田くんや千田先輩が脚本書いて・監督やってくれ!だから今回だけはわがまま通させてくれよ」
虎丸、一気呵成。
「いや、いいんだ、また監督と編集やってよ、ね、ヒカル」と高木彩花。
「うん、彩佳が言う通りでみんなをまとめるアイデアとか出す自信ないし、編集して・音入れ手当日という締め切りまで間に合わせる責任感ないんだ。だから、手伝って!?いいよ!という関係がいい、それにそうしてこのふた月楽しかった!」と星ヒカル。
「そうだね、きみらみたいにはできないし、やる気も無い。でも楽しいことが好きだから、手伝った。それだけ。それ、何か悪いことなのか」と千田先輩。
「実際の映画やTV番組で名があるのは演出家と脚本家、それにレギュラーのキャスト、多分合計20名くらいだ。あとのスタッフやキャストは二百名くらいはいるだろう、10倍だ。その10倍にいるのが俺たちだから、おまえらが気をもむ必要なんて、初めからねーよ。っていうか、そんなことをウジウジ悩んでいたのか!バーカ!来年も押し付けさせてもらうゼ!」と住田くん。
「ありがとう、ありがとうな」と虎丸。
―うん、ぼくは一切気にしてませんでした!
勿論あきらの感想。
「ほぅ、3作流します、か。まんがまつりかチャンピオンまつりのようだ。ヘディラマー側はいかがですか?」
アランは図書館棟最上階の通称サロンでそう虎丸に返事する。
ここには何度も入っているあきらは(いや、こいつの場合、臆さない性格だからというのもあろうが)なんとも思わないが、その雰囲気と装備でレコンキスタ部員は圧倒されている。
「ああ、元々前作の続編を酉野さんと安さんが、前回キャストだった相川くんと室井くんがスタッフに回り一本と私らに会う前から決まっていたと相川くんから最初に聴いていた。上映時間が倍違うがそれはパーセンテージでも出してもらう。それでいいならば、いい」
サロンのテーブルには林檎酒の炭酸飲料がふるまわれている。
これは話者のエリスの趣味だ。
―「パーティーズ」を同時上映にするかと思った。
「いえ、『パーティーズ』はもう過去作、ネクストワンにしか私、興味ありませんの」と虎丸の心を読んだエリス。
虎丸はその発言で絶句し、後ろに控える島カリンはうなだれ、その右横にいる海藤ライムは「どんまい」とカリンの耳元で囁く。
ー島さん、あなた、自分が思っているほどに器用に生きられるタイプの女の子ではありません。
これもあきら。
歓談というか、睨み合いとかなく、案外その後の雑談は弾んだ。
特にヒカルと彩佳は「実はお話してみたかったんですぅ」とエリスにメロメロで、岸間、簗木、虎丸らはこの二人ともヘディラマーに盗られるかとひやひやした。
「もう18時だ。本当はこの場でディナーをふるまうところだが、未だ敵同士、それはやめておこう」
―そうですね、だから、アサミさんや祥子さんたちを隠しましたね。
これもあきら。
「でも、後夜祭では食べて・飲んでしましょう。私は世界中で褒め慣れているから、語彙を増やしておくように」と笑顔でエリスは自画自賛を締めくくった。
ディナーをご一緒できなかったからと図書館棟のエントランスまでエリスは送ってくれた。
カリンもライムもあえて外させた。
虎丸はエリスに圧倒され口数が少ないし、男たちは虎丸ほどではないが、同様だ。
ヒカルと彩佳は「パーティーズ」のDVDパッケージにサインをエリスから貰っている。
―うーん、ぼくは特に言うこともないし、帰りますか。
あきらがそんなふうに思っていたところ、「遅れてごめーん」と菜乃と芽理亜が登場。
「バッカだなぁ、へろへろなんだから来なくてもよかったのにぃ!」と笑顔が戻る虎丸。
「ま、龍王院さんに仁義を切っておこうかなとね」と芽理亜。
横にいた菜乃は二人と違って笑顔でなく、神妙な面持ちでこう尋ねた。
「龍王院さん、りえかちゃんの捌きとか、CGや殺陣を積極的に後輩へレクチャーする姿勢、素晴らしいです。あなたがこの大学に帰ってきて、善行ばかりで、間違ったこと一つもしていない。でも、だからこそ、糾弾したい!私たちと勝負するために演劇部が主に使っている学内劇場、唯一大教室に匹敵するキャパだからと演劇部から取り上げたとしか思えない。何か反論はありますか?」
―よく、そんなことを覚えていたな。
と住田や千田は関心した。
「うん、反論させてもらう。この区内にある公会堂、この大学からバスで10分のところにある施設を演劇部に貸した。そもそも私と友人たちで持っていた劇団があって、文化の日に上映する予定だったんだが、劇団内のいざこざで頓挫した。だからそこを演劇部に渡して、代わりに私が学内劇場を五日間占有できる権利を得た」
それを早口でも、威嚇するでもなく、ゆっくりとエリスは菜乃に伝えた。
「でも、せっかくの学園祭に学内にいないとか淋しい思いを演劇部員にさせてませんか」と菜乃の反論。
「去年、演劇部にも顔を出していたんだけど、学園祭というイベントに演劇の講演は不向きなんだとさ。そりゃ、そうだよね。演劇、どんな芝居もたっぷり2時間以上やるもん。3時間とかもざら。学園祭って、模擬店でカレーやおでん食べたり、カラオケ大会出場したり、声優研や芸人部のコントやしゃべくり見て、そっちのナノメリアやうちらの短編映画観て、数時間楽しくなる場所じゃない?だから、演劇部は観たいひとだけ場所移動して、じっくり観るのがいちばんだと判断した」
少しの間の後、菜乃は「ちゃんと答えてくれてありがとう。理解しました。ごめん、ちょっと考えがいたらなかった。では当日はフェアに行きましょう」と云い終えた。
エリスは見逃さなかった。
―学園祭の理想的な巡り方から演劇部の公演は別枠の話した時に、このコ、いや、相川くんも、安さんも室井くんも、ちょっとエッという表情をした。えっ!?なにこれ?え、こんなのあるの?
だが、質問の内容すら整理できないので、エリスは四人に聴くことはなかった。
エリスが語り終えた時に、ナノメリア四人が思ったことはこうである。
―へー、龍王院エリスにそんな固定概念があるんだ。




