第七章 新千歳空港の豚丼専門店ドライブインいとう 5
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上映時間、40分以内を目指している「ボルトアクションライフルガール」は、既に完成していてパイロットフィルムの板門店はいいとして、モルチャノフとの接戦の竹下通り、深夜の行幸通り地下でのミハエル戦、内桜田門のジョルジュ戦、皇居内の披見室で集団戦、それにエピローグが二つとそれもCG加工が必須のシーンばかりであった。
皇居内で披見室を目指す間に二人で話す、ムグンファとモルチャノフだが、その会話にはシリーズの今までの過去話、文化人類学を交えたオカルト話、東アジア情勢、と歩く二人以外にスチール写真や過去回の挿入で会話と話が進むシーンなので、当然アテレコとなる。
学内の録音スタジオとは別にこの図書館棟の最上階にも録音スタジオは用意されていたので。あきらは招かれ、龍王院エリス相手にアテレコの最中だ。
―画面の入れ替えのタイミング、素材の強さ、テンポの間の取り方、説明シーンなのに画だけで面白い!
あきらはアテている最中にもこんな感想を持った。
あきらの声をミクサーにかけて、数トラックで試し聴きとなったので、しばしの休憩。
そのタイヘンなCG製作を見たくなったので、島カリンに頼んで見せてもらうことにした。
「りえかちゃんにそっちの映画に出てくれって依頼したんですって?」とカリン。
「いけなかったでしょうか」とあきら。
「いけなくはないけど、ピアノの練習を始めたみたいで、最近は直ぐに帰っている。でもあの子、スクリプターだったから、クランクアップした今、作業はないからちょうど良かったんだと思う」
「りえかちゃん、ですか」
「?」
「だって島さん、今まで矢間ちゃんとか矢間さんとか言っていたので」
「ああ、距離を測りかねていたからね。最近はようやく不自然さが取れたから、りえかちゃん」
CG製作の研究室にもヘディラマーだから当然、女の子ばかりで、だからか、あきらは失礼かと思いながらもその空気と雰囲気に圧倒された。
勿論顔色に表すことのないように平静を務めた。
そんなことを思っていたのか隙きが生まれたのか、女の子に話しかけられた時に、あきらは少し驚いた。
「ハッコウ役演じた相川あきらさんですよね!?」
そのボブショートの女の子に呼応するように、二人の女の子が立ち上がった。
座ったままの女性、つまりCG製作を進める女性は2回生のコ、4人で、あきらに興味を持った一回生の女の子たち三人は「二人の失楽園」を観て、レコンキスタに入部した三人であった。
ボブショートの女の子がそんなことを「アニメーション学科の藤堂アサミです」と名乗ってから説明した。
「そっちのコは一緒にネルソン兄弟から殺陣を教わった」と虎丸。
「はい、映像配信学科の真野祥子です。アクションはそのうち役に立つかと龍王院さんにお願いしたんです」
「あ、龍王院さん、いないんだ」
「はい、睡眠を採る時間なんです」とアサミ。
そのアサミが続ける。「ちゃんと睡眠取るんですよ、あんな人でも、いや、だからこそ、こっちのは椎野亜弥です」
「はい、椎野亜弥です。テレヴィジョン学科です。ここではアサミちゃんとCGについて習っています」
三人はそれからあきらと映画を作れてよかった、とか、あきらの演技を褒めたりした。
そこであきらが尋ねたことがある。
「島さんや矢間さんと違って、みんなはうちの酉野さんや安さん、嫌ってないの?」
少し考えたふうだが、リーダー格のアサミが発言する。
「正直、期待外れとは感じましたけど、それはレコンキスタの先輩たちやナノメリアの二人のせいじゃあないし、それより、あの『二人の失楽園』を観て入ったというレッテルの方がキツかったですね。それはそうなんだけど、同学年のコに追従することになるんだよなと入部してから気づいて、だから私たちも積極的に話しかけなかったんです。だから誤解、解いておいてください」
そう云うと微笑を浮かべ、ペコリと軽く会釈した。
―やっぱり話すって大切なんだな。
あきらがそう思っているとアサミは続ける。
「そんな時に島先輩がセッティングして会わせてもらった龍王院さんに、レコンキスタでないけど、相川あきらに大役をやってもらうアクション映画作るって聴いたんです。それで手伝うことになって、私たちはあまりセクト主義とか知らなかったんです」
―龍王院さん、初めからぼくに目を付けていたのか。意外でした。
「判った。みんなにはそう説明しておく。だからさ、ぼくらの新作も観ておくれ。そしてお互いで映創祭終わったら、感想を言い合いたい」とあきら。
「はい、私たちは演出や製作といった作家性でなく、私と亜弥はDG専門で、祥子はアクションを勉強したい。だからこっちきてよかったと思っています。そちらの新作、りえかちゃんが出ると聴いてますし、観ますよ」
そう云ったアサミに二回生の女の子が声をかける。「リーダー!このCGのブレ、修正できませんか?」と。
「リーダー、ですか」
「はい、アサミは龍王院さんからCG部門の統括を任されています」
あきらの言葉に亜弥が答える。
そして「私たちもBL好きなんで、早く完成させて、みんなとお話ししたいです」と祥子。
「そうかぁ、アサミさん、祥子さん、亜弥さんね。判った、全部終わったら、話してみる」
そう云ったのは芽理亜。
「うん、相川くん、いい話もってきてくれた。そのコたちはちゃんと考え持ったまっとうなコたちと判ってほっとした。でもいちばんはあの龍王院さんも睡眠を採ると教えてくれたことだ!あのひとも寝るんだねぇ!」
これは菜乃。
実際、菜乃と芽理亜は睡眠時間を削っている。
編集以上に凝れるCGの修正作業は鬼門であった。
「やめろと言われても気になるんだよ」とは芽理亜が虎丸に注意に対するコメント。
「でもな、あまりに『二人の失楽園』と質感が離れたら観客に不満に思うぞ」と虎丸に云われて、ようやく芽理亜の神経質は修正された。
菜乃は亜美衣とその同人仲間や高円寺女子美大付属の画師たちと徹夜作業の経験を、芽理亜は水泳で培った体力を過信していた。
「酉野さん、安さん、そう、龍王院さんでさえ、休むんです。男だからとは言いたくありませんが、女性が体調崩した際の不調は男以上です。自律神経とかそれ以外全部に及びます。ぼくの言うことが判りますね。代われることはぼくと室井くんで代わります」
―この相川くんというのは女性に対してデリカシーが無いのか有るのかさっぱり判らん。本当にフシギなコだ。
芽理亜はあきらのこの妙な特性にようやく気付き始めた。
それは虎丸も同様だが、菜乃だけは仲間の中でいちばん背の高い男の子くらいにしか思っていない、この時点で。
ここは三保の松原。
今回は撮影、つまりカメラマンは千田先輩と住田くんの二人体制。
録音に星さんと高木さんであきらと虎丸は監督業に徹する、計9人。
芽理亜と虎丸で運転を交代しながら、再び来たのだ。
ランドクルーザー定員のぎりぎり。
だが狭い中にもしりとりや古今東西等のゲームに興じ、この度重なる撮影行脚で気心は知れていた。
「古今東西!2クールアニメ!」
とは9人目の亜美衣さん。
撮影準備も終り、その亜美衣さんがセーラー服姿で台詞。
「どうやってニンゲンが生まれるかはもう判っているね」
海を全景で撮影してからカメラがパーンし、亜美衣がつぶやく。
赤いワンピースの菜乃、青いワンピースの芽理亜、その声に振り向くとそこには亜美衣演じるキーはもういない。
―私出番これだけかよ。
消えたキーを探すように菜乃と芽理亜は辺りを見まわす。
長回し、千田先輩が追う。
ここで、遠景がインサート。
そこにぽつんと社が映る、ように編集する予定。
「あの夜に泊まった神社だ!」とはルダ演じる芽理亜。
「まさか、なんで一周しているの!?」とメタ演じる菜乃。
又長回し。
おそるおそる菜乃と芽理亜が打ち上げる波に近づく。
芽理亜、その人差し指を波に差し出す、そして指の先端を舐める。
「これ、人口の味だ」
「まさか、そんな」とメタ役の菜乃。
「この世界は私たちが思っているより狭い」
「いったい私はどうして生まれ、なんのために生きているのか」
と云って菜乃、肩を落とす。
「疑問を探求し、自分探しはもう疲れたよね」
菜乃に呼応するように芽理亜は砂浜にぺたと座る。
「とりあえず焼肉でも食べようか、しばらく何も食べていない」
菜乃、台詞ではなく素のように。
「そして、旅行の計画を立てよう、海外か国内か」
菜乃に座ったまま這い寄る芽理亜。
「台湾でも行ってみようか」
いつの間にか座っている菜乃。
「うん、そこで結婚式を挙げる」と立ち上がる芽理亜。
「誰と?」同じく立ち上がる菜乃。
芽理亜のルダ、メタに口づける。
ミタの菜乃、ルダを抱きしめる。
編集ではこの後に野笛演じるうさぎが産着に包まれた赤子を院内のベッドで抱きしめるというシークエンス。
二人が抱きしめるあって数十秒。
「カットぉぉぉぉぉ!」虎丸が云い放つ。
そして続ける。「これにて『デリリウム』全シーン、クランクアップぅぅぅぅ!」と。




