第七章 新千歳空港の豚丼専門店ドライブインいとう 3
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「彩さんはおられますか」とは映大メディアミックス学科三回生、嶋中アランが映研部室に来て口にした言葉。
彼は「二人の失楽園」で急に激込みし・行列ができた時に予約アプリを提供し、客捌きにひと役買った、映大アプリ研フラクタルの部長でもある。
現在、劇場や動画配信あり、それぞれで良い作品を作るより、プラットフォームでフォーマットが定まるのならば、そのフォーマット自体を作ってしまおうという考え方を持ち、試験的動画配信サイトの構築や吉祥寺ZINE(同人誌をサブカル寄りにした自主制作本の総称)と連動し、コミケのカタログにあたるアプリを制作・提供したり、と実はこの大学で今いちばんホットで、同時に部員も多いサークルである。
その代名詞と云われる嶋中アランが訪れたのだ。
連休明けの9/24火曜、レコンキスタの部室には星ヒカル、高木彩花、岸間早紀、そして簗木部長がいた。
ナノメリアの諸君は撮影か編集か準備かばかりで授業には出ていない。
いや、学内の設備を使ったり、部室で合流することもあるので、大学には来ることはあっても、もう授業に出ていられる程のヒマはなくなった。
「嶋中さん、こんにちは。彩、今いないんです。旅行中です」
そう答えたのはアランと面識がある岸間。
彩が旅行中なのは本当だ。
野笛と名古屋に行っている。
つまり野笛の実家に行ったのだ。
―早い、あまりにも早い!
とは全部員が思っていたが、今までが遅い、あまりにも遅いということで帳尻合ったのかもしれない。
しかも行きは鈍行乗り継いで、浜松で餃子と鰻を喰い、帰りは長野経由で、おやきと蕎麦を喰って帰ると云っていたから、いつ戻ってくるかも判らない。
そこでアランと岸間は打開策で、代わりの誰かを話している時に、虎丸が部室に入って来た。
「お!室井くん!嶋中さんの話、俺と部長と三人で聴かないか?」と誘ってくれた。
嶋中アランと岸間、簗木部長、虎丸はいつものカフェテラスを目指した。
あきらは同じ校内にいるが声がうまく拾えなかったシーンのアテレコに図書館棟最上階のヘディラマー・サロンにいき、菜乃と芽理亜は上階の部屋で編集作業に勤しんでいる、もう7割撮影は終っているのだ。
虎丸はアニ研スクラムの綾川にCGの進捗状況を見に行く予定だった。
秩父に二度も一緒に行き、趣味の問題で共通していることも手伝って、仲良くなっていた。
「さて、龍王院エリスのヘディラマーとそちらさんの対決の話は聴いています、というか、学内で知らぬ者はもういません」
嶋中アラン、楽しそうに話し始める。
「誰が流しているんだろうな」と簗木部長。
「おっと、ケンカしに来たんじゃあありません。私が今回提案したいのは観客動員数をどうやって計測するんですか?ということです」
これに関してはもぎりとして部員をゲートに立たし、数取器でも持たせて集計するというような話がエリスとあきらの間で話されていた。
「龍王院エリスがハリウッド映画の連作大作の一本を手掛けるということはもう話題になっています。そうとうな混雑が予想されます。そこで私は既に映創祭準備委員会とヘディラマーと話し、予約制を敷いたシステムを構築し、それは映創祭公式アプリと連動させることに成功しました」
そのアランの言葉に虎丸は思う。
―おれらの映画は行列できないみたいな言い方だな。
「そこで映創祭公式アプリでレコンキスタさんの新作も予約できるようにする、それならば、おのずと観客動員数は知れます。考えて下さい、自分らの製作した映画をアナログで自分らが集計したら、改竄の疑惑は絶対に生まれます。そこでアプリならば予約数は勿論、予約しても実際は観なかった客数をオミットできます」
そしてアランはそのアプリの使い方を実際に自分のiPhoneとiPadを使って実演した。
その説明が終わるのを待っていたように虎丸が発言する。
「その予約アプリでアンケートも採れるのか?」
「ええ、項目別も入力式も対応可能にできます」
「年配者用に紙のアンケートも実施したいんだけど」と虎丸。
「いや、それはそっちでやって下さい」とアラン。
「判った。嶋中さん、その申し入れ、嬉しいよ。なんでかと言うと、…。龍王院さんの方、どれくらいの上映時間か聴いている?」
「確か、45分弱になる予定、と仰ってましたね。その『ボルトアクションライフルガール』は」
「こっちは二本立てなんだ。こっちは『デリリウム』っていうのが30分くらい、『トゥ・オブ・アス』って女の子が作っているのが同じくらい。合計で70分くらい、だから1:1.5の時間差がある。入れ替えの上映回数でこっちはもう負ける。だから」と虎丸が云いかけた時にアランは「はい、割合で出せます。言うなれば、会場の占有率で出します」と即答した。
そう、言うなれば素人の上映会なのに、完全座席指定・完全入替制なのだ。
「そうですか、そしてこっちはもう1本追加して3本立ても考えているんだ。それでも占有率出せますか」
「勿論」
このような会話の合間、岸間と簗木部長は何を考えていたかというと、
―究極VS至高における週刊タイムの立ち位置?!
であった。
「秩父、よい気分転換になっていたとこんな状態だとつくづく思うよ」
アニ研スクラム部室での綾川である。
カフェテラスでアプリ研のアランが調停役になるとレコンキスタ首脳陣で確定した後、本来の目的である綾川のCG制作の進捗状況を観に来た。
設備や機材、映画やアプリケーションは部活専用ではなく、映画学科やメディアミクス学科の授業やゼミで使うものを空き時間に使っているのだが、アニ研スクラムは占有しているアニメーション工房を持っている。
それはスクラムがこの30年くらい、即戦力となるアニメ業界人を多数輩出してきたから、それだけの装備が可能だったのだ。
今、3回生が中心となって、30分ほどの新作を制作中である。
その片隅で、綾川先輩が大容量のPC相手に「デリリウム」のCG制作にかかりきりであった。
エナジードリンクの空き缶やコンビニ弁当の殻が散乱していて、後輩たちは見て見ぬふりをしている。
「それでもさ、手伝ってくれる後輩か何人かいるんで、助かっているよ」
CGを用いるシーンは、「トゥ・オブ・アス」では王ネロが羽を広げ、マンションから飛び去るシーン、河川敷でバンKとリュウが対決するシーン、それ以外でも都庁内の管制室のディスプレイに映し出されるはめ込み画像や花やしきでのシーンにおいて案内板や広告の加工など、CGで超常現象を起こすのではなく、現実を加工するレベルのCGは綾川と、ゼミでCG制作を履修していた野笛にレクチャーを受けて芽理亜が主に担当していて、現在の上階のPCで作業している。
芽理亜が前線基地ナノメリアを借りたのは大容量のPCを置くという目的もあったのだ。
「イロドリ先輩とノブちゃん、行ったきりなんだって?でも、いいか。王ネロ役のマンションでの撮影が終わった後でよかったね、プロポーズ」
AI帝国の独裁者・(『二人の失楽園』の解説であるようにAIは並列化組織なので上下関係はないのだが)象徴である王ネロは彩が演じた。
コガ博士という人物と表裏ということでキャスティングされた。
ちなみに「デリリウム」のヘドロ役は顔を出していないでのネロとコガには関連はない。
●地区50年ほどのマンション・夕方
※前略
王ネロ「では私がもらう。この部屋で唯一足りないのは愛人だ。それでいいな」
ハチ「やめろ!」
王ネロ「未だ好きなんだろう?そして北へ二人で行かないと意味がない。そしてオレは晩ごはんのおかずの買い物に出かける」
そう云うと王ネロは立ち上がり、背中から両翼それぞれ3メートル程のツバサをはやし、ベランダへの窓を開けて、立ち去る。
バサバサっと翼で飛行する王ネロをハチは見送る。
脚本より抜粋したものだが、この数行の異世界的なシーン、綾川はそうとうな労力と時間を出し切った。
―このひと、もうプロの域だったんだ。
観た芽理亜はそう思った。
―ただのロリコンではなかったんだ!
観た虎丸はかつてそう思った。
だが未だリュウとバンKの河原で対決シーンが丸々残っている。
「デリリウム」のアクションシーンがほぼ完成したと聴いて、着た虎丸だった。
「ほぼ、というのはね、室井くん、未だ声をアテていないからだ」
「声、ですか」
「そう、アイドル声優コンビの登場ですぅ~!」
その声、安具楽ユラ!
「私としては勝生真沙子か榊原良子のつもりなんだが」
この声、亜美衣!
「さあ、収録を始めよう!」
これは綾川京の声であり、同時に彼女たち二人と闘うのはバーダーボであるから、彼の役柄でもあったのだ。




