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第七章 新千歳空港の豚丼専門店ドライブインいとう 2



     2



秩父での撮影はスケジュール通りに終わり、打ち上げの現地で実施して、皆疲れていたが大いに盛り上がった。

帰途に就き、次の日、芽理亜んちの上に部屋で、粗編を実施した虎丸とあきらであったが、明らかに使えない画があった。

それがまた、綾川先輩とふみちゃんのカレシ・宗次郎さんのシーンで、二人のスケジュールを聞き出し、四人で行って・直ぐ撮影してこようという話になった。

「綾川さんと宗次郎さんとおれら二人って、どういう四人だよ」と虎丸。

「フツーは会わない四人ですよね」とあきら。

菜乃と芽理亜も同行を志願したが、「トゥ・オブ・アス」の撮影や準備を進めるように虎丸は進言した。

9月の四週目の始まりも連休であった。

その土日月、あきらは丸々「ボルトアクションライフルガール」の撮影に駆り出された。

ヘディラマー側としては客演のあきらを早くクランクアップさせて、早めに解放する意味合いがあった。

来月の末が、映像祭、本番、である。

「二人の失楽園」を作ったことで、甘さや薄さが企画時・撮影時に気づくようになっていた。

凝ろうと思えば際限ないが、龍王院エリスの作品を2本見せられたあと、妥協はできなくなっていた。

―映画は恐ろしいな。時間と金が湯水のように消えていく。

そう、フィルムに定着させたもの以外は、懸命に作った大道具・小道具やメイクも準備の長さも消えていく、9割のゴミを作っているようなものだ。

だが繋げて、音を付けた時に、面白いものが出来ているハズだ!という妙な確信が関係者全員を前に、前に!進ませる。

―今日はリュウの新宿歌舞伎町のシーンと明日はバンKとリュウが格闘し、綾川さんたちがCGで繋げる格闘シーンの素材撮影だ。両方の現場を行き来して判ることは、疲労も焦燥もあるが、それを上回る熱量が高いということだ。安さんと芽理亜さんは勿論、龍王院さんは平静を装いながらも、その情熱はそうとうなものだ。情熱で勝敗が決まるワケではないが、熱量の多寡では、この勝負、今のところ、互角!

今、あきらの目の前ではネルソン兄弟のジョルジュがムグンファ演じるエリスと距離を取りながら、銃撃とセリフの応酬を続けるシーンだ、しかも内桜田門で、深夜。

―なんで、こんなとこを借りられたのでしょう。ここは国内最大の霊場でもあるというのに。

そう、その思いの巡らせであきらは気がついた。

明日以降、皇居内の地下神殿であきらが演じるモルチャノフとムグンファの一騎打ちとなるが、色々あって、キャプテン・ツングースらユーラシアンズが勢揃いする。

これは実はあきらは他のレコンキスタメンバーどころか、ナノメリア諸氏にも云っていない。

つまり、世界的にヒットした「ユーラシアンズ ラストクイズ」の名優出演者がラストに登場するのだ。

そう、学生映画に世界的スターがコミック原作の映画のスタイルのまま客演するのだ。

―これは、どうやって勝てというんでしょうか。

だが、それは「おまえが上級国民だからコネと金持っているからだろう!」と云われるのは必至。

だから、自分で身体張って・すんげえトコをロケ地にしているのだ。

―物語だけでなく、観客や関係企業とも鍔迫り合いをしている脚本なのか!?

だが、あきらの出番が回って来た!

「アメリカなぞ、ここ80年の覇権を握ったにすぎない。ユーラシアの民はその千倍、人類を統治してきたのだ!」

ジョルジュとムグンファの対峙に割って入る、あきら演じるモルチャノフ。

カモフラージュの軍人丸出しのジョルジュに対し、トレンチコートにソフト帽というモダンな出で立ちのあきら=モルチャノフ。

武器はリボルバー、一丁。

モルチャノフが所属する(利用する?)シュツルムファウストという秘密結社はアメリカ帝国主義を大敵としている。

ウクライナ出身のモルチャノフはスラブを、終盤でゲスト出演するブラジャックはラテンを謳う民族主義者であったが、対日米のために、〈ユーラシア民族主義〉という概念を持つに至った。

だがスラブとアーリア、ユダヤとイスラム、中華とインド、東南アジアの諸国と連携できるとは思えないほどに対立は激しい。

なによりシュツルムファウストはナチスの残党を母体とした組織、お題目は立派だが、所詮覇権を握るための方便として〈ユーラシア民族主義〉を掲げている(ここいらが二次大戦の日本軍による五族協和の皮肉になっている)、だけで、それはヨーロッパ支配をアーリア人で行うということをユーラシアに拡大したに過ぎない。

シュツルムファウストが自分らの利害が一致しているだけなのに対し、ユーラシアの孤児たちを集めた〈神の祝福を受けるべき子ら〉学園に集まったユーラシアンズは本当に、心から、ユーラシア大陸の平和と共存を願っている(隊の多くはサイオニクサーであるのは今回のエピソードで登場する〈石の記憶〉が絡んでいると云われている)。

そして本作のヒロイン、ムグンファは朝鮮半島と日本、北朝鮮と韓国とアメリカに二重に引き裂かれた女戦士なのだ(男と女、異性愛と同性愛を含めれば四重)。

「ジュルジュ、地下のミハエルは未だ間に合う!早く助けるんだ!」

ムグンファ、モルチャノフのジョルジュへの攻撃を弾き、彼を行幸通りの地下で潰したミハエルの元へ誘う。

「くそ~~~~~~!覚えているやがれ!」

ジョルジュは去り、「皇宮警察隊だ!こっちだ!こっちに来るんだ!」とモルチャノフに導かれ、皇居内に逃げ込む。

勿論、逃げ込んだというアクションだけで、ここからはセット内での撮影となる。

その撮影にキャプテン・ツングースやブラジャックを演じたオリジナル・キャストの映画スターが結集するのだ。

通し本番は終り、CG合成のためのカットを撮る作業が残っていて、ムグンファの衣装のままエリスはカメラマンや美術係に指示を出し続けている。

「今夜は島さんと海藤さんは来なかったんだ」

あきらは矢間りえかに尋ねる。島さんは島カリンで、海藤さんは海藤ライムだ。

「はい、二人とも明日出演してくださるハリウッドスターさんたちの案内の下調べや準備でてんてこ舞いなんです」

りえかが笑顔で答える。

―ステキな笑顔た。約ひと月前に、観衆の眼前で酉野さんを罵った醜い矢間さんとは別人なのだ。

それからりえかとあきらはエリスの撮影現場がいかに勉強になるか、ネルソン兄弟の殺陣のレクチャーの面白さ等を話し、あきらはそんな会話の中でタイミングを得た。

「矢間さん、ぼくらの映画に出てくれないか」

『相川、そうなると菜乃ちゃんがハチ、おまえの妹役というのはおかしいことになるんだ。だから別の誰かが必要だが、もう女の子の役者が思いつかない。ピアノが上手いという役がネックになっているし』

秩父の撮り直し撮影の移動中、後部座席に綾川京と槇野宗次郎を乗せて、虎丸が芽理亜にだけは説明した「思いついたんだ!おれたちの映画をもっと面白くする方法」をあきらに解説している最中で、今頃、芽理亜から菜乃にもその説明がいっているハズである。

そしてこの「ボルトアクションライフルガール」に現場ではりえかがおろおろ視線を泳がせている。

「矢間さん、入部の時のプロフィール読ませていただきました。ピアノ、スゴいですね。中学の時に県大会で準優勝だった。演技ではなく、演奏だけする役なんです。youtubeで演奏見つけたので拝見しました。上手いです、それにかわいくて・美人じゃないといけない役です。お願いします、矢間さん程の適役はもう思いつかない」

りえかは視線どころか、顔も下に下げた。

―あんな言動をしたならば、そういう反応でしょうね。でも、頼み込まないと。

「相川くんさ、そんなにうちのりえかいじめないでよ」

監督に徹していたエリスが割り込む。

―近づいていたこと・話を聴かれていたこと、全然気づきませんでした。

「エリスさま、私、どうすればいいんでしょうか!?エリスが命令してくだされば、利敵行為、出演を拒否します!改心した方がいいと仰るならば、出ます!顎で使って下さい、敵地に潜入して攪乱せよと指示されるならば、そうします。なんでも云う通りにします!」

―お母さんがもっとピアノを続けろと言ってくれればよかっだんだよ!

「ふーん、りえかはなんでも私の言うことをきくんだ」とエリス。

「はい、この映画で裸になれと言われれば、なります!」とりえか。

「そうか、それはこの映画を主題を理解していない証拠になるよ」

「いえ!覚悟を言ったまでです!むしろ出生やジェンダーに囚われず、生きていく女の子の話だと理解しています!」

「よし、じゃあ、りえかに命令する。絶対に反論は許されない」

―龍王院、さん?

二人のやり取りを固唾を飲んで見守るあきら。

「りえか、自由になさい」

「エッ?」

「自由でいるんだよ」

「じゃあ、出るな、ということ?」

「それは私の立場を忖度しているから、自由ではない」

「では出演します」

「それは実は案外人格者である私のパーソナリティに気を遣っているに過ぎない」

「じゃあ、どうしろと!?」

「私はちゃんと命令したんだ。よく考えろ、じゃあない。りえかは自由に生きると又ひとを恨むだろうし、私や親の命令に従うというのならば、自由ではない。だから、私、龍王院エリスが矢間エリカに命令する、自由に生きるんだ!」

―いや、これは恋情ではないが、神に直面したひとの表情というのは美しいものだな。

あきらは他人の人生の大事な瞬間にまた出くわしてしまった。

「相川くん、脚本、読ませてくれる?」とりえか。


次の日の、セット内での撮影箇所は、脚本だと以下の通り。


●披見室


石の門に近づく。

モルチャノフ「前世紀より鉄に記憶させ、今世紀よりそれは世界中に蜘蛛の巣を張り巡らせることに成功した。だが石も記憶させることができたのだ」

モルチャノフが石の門に更に近づく。

ムグンファも近づく。

ムグンファ「これは神代文字!」

モルチャノフ「そう、何故に書かれたか?それは凡庸な言葉で云えばワープするためだ。フシギとは思わないか?古代人がアフリカから太平洋の孤島まで移動したり、古代中国の欧州や東南アジア・日本への貿易、それはこの石の記憶とそのワープ装置で可能だった。それを鉄の文明が破壊したのだ」

ムグンファ「じゃあ、邪馬台国は!?」

モルチャノフ「邪馬台国は複数あったのだ!特に日本は神代石の産地として古代では有名な存在!かの神武天皇の長征がそれを証明している!」

ムグンファ「それを信じろ、と」

モルチャノフ「私も罪を犯してきた。だが門が一つでは話にはならない。ムグンファ、このユーラシア大陸復興のために力を貸してもらいたい。戦争と戦争の火種はこのインターネットより距離が縮まる装置で解消できる!」

ムグンファ「わ、わたしは・・・」

その時、石門が振動する、門の空間が深い黒色に覆われる、その中から、大勢の人々が現れる。

ムグンファ「キャプテン!」

そう呼ばれた男は酔いを醒ますように頭に手をやり、立ち上がる。

キャプテン・ツングース「そう、おれはキャプテン・ツングースだが、きみは、って、ムグンファじゃないか!」

サブキキャプテン・アイシャ「ああ!ムグンファ!会いたかった!」

そう云って、ムグンファに抱き着いてキスする。

ムグンファ「みんな、どうしたの?」

キャプテン・ツングース「ナチス残党のチーム・シュツルムファウストがワープ機能のある石門の発掘をしていると聞きつけ、追い詰めたが、その石が発動してしまい、このザマさ」

サブキャテン・アイシャ「あ!シュツルムファウストのヤツらもここに跳ばされ・飛ばされてきて、そこに寝ている!」

どうやら、そっちの方がダメージ酷かったらしい。

シュツルムファウストのリーダー、ブラジャックがよろよろと立ち上がる。

ブラジャック「そ、そこにいるのはモルチャノフじゃないか!助けてくれ!我らはワープ・ゲートをチベットの奥の院で見つけたのだ!」

モルチャノフ「し、知らん!おまえなんか知らん!」

ムグンファ「この~!ナチスって云ったら、思いっきりの鉄の組織じゃないか、鉄がアイコンじゃないない!モルチャノフ!きさまはやはり許せん!」

そのムグンファの言葉を合図に、キャプテン・ツングースが棍棒を構える、サブキャテン・アイシャが片刃刀を二刀流でかまえる。

キッキボクサー・ソータンクンがグローブをはめる。

ミスター・フォルモサがグルカナイフを抜く。

ムグンファがライフルで狙う。

対し、モルチャノフが以外のシュツルムファウストはブラジャックを始め、受け身を取りそこない重症だ。

棍棒をキャプテン・ツングースが振り上げる。

キャプテン・ツングース「ユーラシアンズ・ファイ!」

モルチャノフに一斉に挑みかけるが、彼は石門の六芒星マークに勾玉をかざし、石門を発動させる。

そしてブラジャックと二人で仲間四人を引きずり、ワープ空間に飛び込む。

モルチャノフ「ムグンファ、また会おう!だがオモニとタイイァンには気を付けろ!幼なじみからの箴言だ!」

ムグンファ「会いたかねぇよ!」

こうしてワープ空間は閉じた。

ムグンファは勾玉を六芒星に当てたが発動しない。

キャプテン・ツングース「発動のきっかけは未だ判らないのだ」

ムグンファ「モルチャノフが石の文明について語っていたが、全部ウソだったのね」

キャプテン・ツングース「そうとも言えない。今でもドイツの街にはナチスの被害者の名を彫り込んだ石のプレート、ストルパーシュタインが多数埋められている。石は人類の記憶を繋ぐのだ、良い行いも悪い所業もな」

ムグンファ「ありがとう、好きよ!キャプテン!」

サブキャテン・アイシャ「ちょっと!ムグンファ!私とどっちが好き!?」

キャプテン・ツングース「まぁまぁ、ムンバイ本部にも直ぐには帰れないし、トウキョウでスキヤキとスシとテンプラをたらふく食って帰ろう!」

サブキャテン・アイシャ「賛成!色気より、食い気!みんなも行くよ!」

ソータンクンやフォルモサも笑う。

ムグンファ「本当にありがとう、みんな」

●スタッフロール


未だ細かいカットの撮影も残っているし、なによりアクションシーンは全編CGなので、ここからが正念場だが、クランクアップを迎えた。

よく知っている有名ハリウッドスターと共演できてあきらは上気したが、エリスに云わせると「相川くん、あのスターの中でよくもまぁ、孤軍奮闘する悪役できたもんだよ」らしい。

そして、あきらはこうも云われた。

「脚本、何度も読みました。素敵な役です、是非出演させて下さい」とりえか、

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