第七章 新千歳空港の豚丼専門店ドライブインいとう 1
1
部員の千田先輩が近所の宮司の息子で、無人の社を管轄していて、おあつらえ向きだと判断し、「デリリウム」で菜乃と芽理亜が雑木林で顕現し、その夜に泊まる神社としてお借りした。
「お化け、でないよね」
とはその撮影時の菜乃のうわずった声だが、あきらが「お化けとか魑魅魍魎の類いはお寺に出るけど、神社は聞かないです」と返答したので、安心を得た。
三保の松原にあった大きい神社の内部として撮影し、その後にメロディが聴こえて、メリーゴーランドに行く。
そこで出会ったうさぎ演じる野笛と行動を共にする。
その後に大きな神社に行くのだが、それは千田先輩が実際に住む社殿をお借りした。
「メリーゴーランドのシーンが家族とか恋愛を現し、その大きな神社では政治、つまりマツリゴトをルダとメタは通過するんだ」
ここは井の頭通り沿いの芽理亜が住む住宅の車庫。
ランドクルーザーに荷物を詰め込んでいるのは虎丸とあきらで、作業しながら虎丸が話している。
「今からのロケ地、秩父の採掘処理場とセメント工場では神と神を崇める者たちと出会う。色々考えたが、法律や経済でなく、家族・政治・神を通過する二人の女の子の話にした」
虎丸がその神であり、設定では実は自走ロボットのデスターという1メートル程のラジコンを詰めながら話す。
「一話一話のお話は面白いけど、オチが弱い、というかよく判らない、いや、貶しているんじゃなくて、観客に委ねるんだと思うけど、パンチが利いていないというか、なんというか」
これから、秩父でロケである。
花やしきの撮影が終わった次の日には秩父へ出かけた。
あきらと菜乃の同級生というか同じ学科の男の子の友人がいて、二人が又映画を作っていると聴いて、地元の秩父を紹介したのだった。
「山に囲まれ、セメント工場や岩山が多い無骨さを持ちながら、神社が点在しているフシギな場所さ、なにより東京から日帰りできる」
これこそ虎丸が想い描いていた「デリリウム」後半の舞台だった。
神にまつわるエピソードで、作り物の神デスターと会話する採掘処理場とその神が死にその代わりをメタとルダ、つまり菜乃と芽理亜にやらせようとする司祭バーダーボの神殿であるセメント工場、この二つがかなった。
ナノメリア四人と同級生の男の子五人で秩父をめぐり、たっぷりロケハンして、帰りつくとキャストのスケジュールを調整し、9/22からの連休で撮ろうということになった。
出演者は勿論菜乃と芽理亜、司祭ダーバーボ役に、あのアニ研スクラムの綾川京!その助手役に槇野宗次郎、って誰?ってふみちゃんのカレシです、で、ふみちゃんはメタとルダをずっと見守り続ける役なので、結果、全てのシーンに参加するので、自然と宗次郎くんも一緒に来て、今まで描写していなかってけど、いつもいてくれて、現場で手伝いをしてくれていました。
そしてスクリプターの星ヒカル、カメラ担当に千田先輩、なんやかんやで住田くんと高木さんも来る、総勢、7名は西武線で来て、あきらと虎丸で案内する。
ここから菜乃と芽理亜二人だけ、撮影機材や衣装に小道具を乗せたランドクルーザーで秩父まで駆ける。
現在、4時。
事前に昨夜から、菜乃は芽理亜の部屋に泊まり、寅丸とあきらは上の前線基地に泊まった。
5時半の池袋駅で待ち合わせをしている。
すると西武秩父駅には7時半に着ける。
そこから10時間、勿論休憩や食事は採るが、撮影を続ける。
―いや、そんなにかからない。このチーム、このサークルの練度はここひと月の撮影で物凄く上がっているから。
菜乃はそれだけではない、美味そうなホルモン焼き屋をマークしているから、6時には撮影を終え、喰って・飲んで、20時には解散すると心に決めているから、そう思ったのだ。
「うん、芽理亜の言う通りだ。思わせぶりは思わせぶりでも、観客に刺さる思わせぶりをしたいもんだ。
そこで、一計がある。酉野さん、お願いします。この助手席、おれに乗せてくれないか」
つまり虎丸は秩父までの約2時間、ランドクルーザーに芽理亜の隣の助手席にいたいと云っている。
皆がどうして?と無言で聴いているの虎丸は答える。
「おれ、思いついたんだ!おれたちの映画をもっと面白くする方法、脚本を書いたおれたち二人にじっくり話をさせてくれ!それだけなんだ」
確かにこの中で普免を持っているのは虎丸だけなので、その方が都合は良かった、だが、虎丸が芽理亜のことを好きだと判った今、それは酷というものだろう、お互いにとって。
「一つ聴いていい?『座頭市』の企画が持ち上がった時に大映の社長は『博打打ちの剣術使いの話?そんな映画売れるか!?』と言われて、『しかし、その博打打ちは盲人です!』と言って即OKとなった。子どもの時に観ていた堂本剛の『33分探偵』、その企画書にはただひと言『探偵が33分で謎を解く』としか書かれていなかった」
芽理亜は、ここで私たちを即納得させるひと言が欲しいのだ。
―ただでさえ、彩さんとノブさんの件で、部員全員がうんざりしている時期にきみまでそうなったら、やる気を直すよ、勿論ぼくも!
とはあきらの想い。
「うん、そうだな、それでは、まず『デリリウム』の冒頭、あきらが女装して砂浜に現れるシーン、あれをラストに移動させるんだ!」
―!
虎丸には虎丸の考えがあったが、そのひと言で芽理亜もあきらも菜乃もその考えの片鱗を触れたのだ。
「そりゃあ、そうか。なんか、判ってきたけど、言葉にできない。『二人の失楽園』があって、どうやって続編作って、どうやって落とすかを考えて、龍王院エリスが現れて、対決することになって、あ、もうここまで出かかっているのに!」
芽理亜はその場で考え込む。
「これさ、手妻、つまり手品みたいな変化球だから、菜乃やあきらみたいな本物には判り辛いんだよ。だから、まずは二人でじっくり話したいんだ」
「うん、判った。室井くん、芽理亜をお願いね。そして、今日の撮影と打ち上げではその話はしなくていい。何故なら、今日の撮影に全力投球したいから」
菜乃の言葉に虎丸は従い、芽理亜はクルマにキーを差す。
かなりムリな姿勢で後部座席の荷物を縫うようにあきらと菜乃が乗り込む。
西武池袋線石神井公園駅で後部座席の二人は降りる。
「ファミレス、最近は24時間じゃあ、なくなったんですね」とあきら。
未だ5時にもなってなく、池袋駅行きはあと20分は来ない。
「あすこにファミマあるから、ちょっと入ろうよ」
菜乃はそう云うとててと歩いて店内へ。
芽理亜がクロワッサンとカフェラテだけだが朝食を作ってくれたので、あきらはお茶のペットボトルだけしか買わなかったが、菜乃はファミチキと午後の紅茶ストレートと果汁グミを購入した。
「酉野さん、買い食い好きなんですね」
改札を通り、ホームのベンチの二人。
「うん、お母さんの料理も、みんなで食べたカレーやラーメンも、ファミチキもみんな好き」
菜乃、笑顔。
「美味しいですよね、そして楽しい。そう、すごく今楽しいです。ぼくがどれだけ楽しいか、酉野さんは理解できないですよ」
「私は亜美衣さんたちと同人誌一緒に作ったり、ゆきえやふみちゃんとやっぱり徹夜して、コンビニで食べ物買ってきて、って、その時に愉しさを知ったんだ」
「それはたぶん、みんなで作っていたものが『ああ、楽しかった!』だからですね」
「うん?それはその場限りってこと?」
菜乃は皮肉を云う娘ではない、
「いえ、何か信じる、とか、この人に付いていきたい、ではなく、みんなで『ああ!楽しかった!』と思って、明日から又別々の生活や日常が始まる。だから『ああ!楽しかった!』は誰かに騙されているんでも、役目を負っているからでもないんです。作ったひとも・観たひとも『ああ!面白かった!』で解散します。でもその作品を観た思い出はずっと続く」
この時に、あきらは矢間りえかの顔が浮かんだのだが、直ぐに消した。
「なるほど、今私たちはこの映画制作を中断させるワケにはいかない。芽理亜が一人で書いた脚本、私が一人で書いた絵コンテ、そんな絵空事を実現するのにも責任が伴う、ということか」
「だいたい当たっています。なぜなら、責任とは嘘や夢でも引き受けられる意思や自己がないと責任が取れないですから」
「相川くん、いつもそんな難しいことを考えながら、行動しているの?」
「いえ、ただ、そういうふうに見ると、本当の友達は見えてくる、いや、これは最近気づいたんですけど」
あきら、ペットボトルのお茶を勢いつけて飲む。
どちらともなく、電車が近づいてくることに気づいた。
「この映画をサラリーマンやOLになって観た時に、おじさんやおばさんになって再生した時、どう思うんだろうね」
「そんな年齢までいたら、もう友達に決まっています」
あきら、明らかにいい顔を見せようとした表情。
菜乃も笑うが他意はない。
「違いない、だから、20年後、30年後の私たちが観ても面白い、ああ!面白かった!を作ろう!」
菜乃はファミチキの包み紙をちゃんとゴミ箱に捨てた。
そして仲間が待つ池袋駅に二人は向かった。




