表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/69

第六章 高円寺の勝浦式タンタンメン・じもん 10



     10



そして夜の浅草、花やしき。

11日水曜、連休前だけあり、ここには申し込みがなかったため、この日に入れてくれた。

そもそも春の段階で、野笛と菜乃と共に三人で来た時にここを次の映画でロケ地に使いたいと思っていた芽理亜は運営の課長クラスのおじさんからそのためのルールや注意を聴いていたのが、五か月前。

その甲斐があってかムリを聞いてくれた。

最初に「トゥ・オブ・アス」の撮影から始める。

大泉学園の撮影所で撮った都庁内の管制室があきら演じるハチのパートだとするとここは虎丸演じるリュウのそれだ。

この遊園地にAI帝国の残党がいると知ったリュウ、とは脚本では説明されていないが、ともかくこの遊園地に来訪する。

その時、残党の一人であるドリームと名乗る少女ロボットが男たちに囲まれている。

ドリームは彩佳が演じていてセーラー服姿なんだが、演出補としてこの撮影に参加しているヒカルの彼女を見る目が確かに二人には既に肉体関係があることを思わせた。

―そう言われれば、そうだな。

と菜乃と野笛は思った。

そのセーラー服姿のドリームを囲むのはレコンキスタの三回生・四回生の男の先輩たち。

そして見て見ぬフリをしている遊園地の客にはレコンキスタOB・OGの皆さん。

それでも若い連中ばかりが出演することになる。

そこで割って入る、バイオリン奏者の楽師・狂騒曲にはレコンキスタ顧問の竹内先生に演じてもらう。

「やめろー!」

―なかなか名演です。先生。

と撮影する菜乃。

詰め寄られる狂騒曲相手にセラミックでできているような警棒のようなものを撮りだす男たち。

そこに割って入るのがリュウ演じる虎丸。

「助太刀いたす!」

これは後のシーンでリュウと管制室で話すバンK役の住田賢二。

リュウは素手で、バンKは巨大な槌で応戦し、やがて男たちは蜘蛛の子を散らすように退散する、客たちも同様。

「ありがとうございます」とドリーム演じる彩佳。

「なんてヤツらだ」とバンK演じる住田。

「AIによる統制がなくなると自警団ができた。だがヤツらと野盗の区別なんざつかねぇ。学校制度や介護制度は崩れた」と狂騒曲演じる竹内先生。

以下、脚本から引用。


狂騒曲「AIによる統制がなくなると自警団ができた。だがヤツらと野盗の区別なんざつかねぇ。学校制度や介護制度は崩れた」

ドリーム「だから若者たちは徒党を組んで新たな党派を作り、老人たちは淘汰されていきます」

バンK「オレは最近、この国に戻って来たんだ。あのAI支配もムカついたが、これでは共同体のカタチが維持できてないじゃないか」

リュウ「(しょんぼり)」

狂騒曲「だから企業がインフラを管理し、税金のカタチ収入を得ている。あいつら自警団も子飼いよ」

ドリーム「しかし企業に入社できるほどではない。だから、女たちや外国人、障碍者や弱者男性を標的にしている。なんて世界なの!」

リュウ「(更にしょんぼり)」

バンK「もうネットが張り巡らされたAI統制の社会はこないのか?オレが中央に掛け合うぞ」

狂騒曲「ムダじゃよ。この国は応仁の乱が又きたような状態なのじゃよ。それより、私のバイオリンを聴いて、心に滋養を与えるのじゃ。お若いの、曲目は?」

リュウ「サラサーテのチゴイネルワイゼン」

狂騒曲、演奏を始める。


なんと、竹内先生は実際にバイオリンの趣味があって、この音色は同録である。

この物語において前作と違い、リュウとハチは交錯するように別々に活動している。

そこで狂言回しとしてリュウとハチと共に出会うのは住田くん演じるバンKと黒銃というルポライターだ。

だがルポライターとは名乗ってはいても、この世界ではマスコミはAI帝国により傀儡となり、帝国瓦解の後ではブロガーやユーチューバーと同じで民間の自称でしかない。

この後に又花やしきのこの舞台が登場するのは、帝国の皇帝ネロとハチがマンションの一室で会談し、大泉学園のセットで住田くん演じるバンKと虎丸演じるリュウが王ネロに言及し・ファライソという目的を見つけるシーン。

狂騒曲演じる竹内先生、変わらずバイオリンを弾いている。

曲はティゴイネルワイゼンでなくG線上のアリア。

ハチもファライソという目的をネロから知らされ、この遊園地にリュウを探しにやって来た。

「オレはルポライターの黒銃。アンタ、ハチさんだろう?やっと会えた。リュウさんはここにはもういないぜ」

この黒銃を演じるの菜乃の兄・呈良(てら)

「絶対にヌードとか絡みがないなら、出てやってもよい!」と快諾してくれたのだ。

「待ってくれ!そうとう探したんだ!その若さで、政府の中枢に入り込み、所謂AI帝国のスポークスマンまでつとめた!あんたが帝国崩壊のなんらかを知らぬハズがないんだ!?」と黒銃演じる呈良は無視するハチ演じる虎丸の背中に話しかける。

「アンタ、リュウにも嫌われたろう」

振り向いてハチが話す。

「そっぽ向かれたな」と黒銃の呈良。

―いいぞ!にいにい!あの相川くんという名優相手によくやる!

と菜乃、ニッコニコ。

「今の時代、マスコミなんてなんにもできないじゃない」

これはドリーム演じる彩佳なのだが、メイド服を着ている。

―彩佳ちゃん、かわいいし、そんな服を着ていても臆さなくて更にいい!次は百合もの撮るか!?

とまたしてもレンズ越しの菜乃。

黒銃演じる呈良反論するが、ドリームに言い負かされる。

「あるよ。自宅でのPC作業によるインフラ整備がホワイトカラーの、実際の現場作業がブルーカラーの仕事、食事ですら自宅配達が8割を超えている。その合間の暇つぶしでしかないじゃない!」


「凄いな、三角マークの撮影所で、50万円かけて貸し切って、撮る。オレらはそこまでできなかった」

「彩さん、勢いがあるナシではかなり違うもんだよ。菜乃ちゃんの才能、芽理亜ちゃんの統率力と瞬発力、相川くんの演技、そこに伊野さんやら龍王院さんら挑発する先達。そこからは旧友もOBも手伝ってくれる。勢いは計算しても作れない」

「いや、伊野聡悟には勢いがあった。オレはその勢いには乗れなかった」

「ナノメリアだって、離反した二回生の女子部員に菜乃ちゃんたちを慕ってきた一回生、全員とうまくはやっていない」

「あ、もう伊野に嫉妬しているワケじゃないんだ。オレにはオレのやるべきことがはっきりして、よかったんだ」

彩、かっこいいことを云っているが、「トゥ・オブ・アス」の撮影後に「デリリウム」のメリーゴーランドのシーンが直ぐに始まるので、既に顔を緑に塗り・血管が浮き出るメイクをしている。

「教えて、なんで、未だ私を許さない?」

「いやぁー、言ってもいいけど、狙っている女の子相手に言うべきことじゃないよ」

―!?

「彩さぁ~ん!ノブさぁ~ん!撮影行きますよー!「デリリウム」ではスクリプターを任された星ヒカルが二人を呼ぶ。


―ああ!忙しい!

菜乃と芽理亜は「トゥ・オブ・アス」の撮影中、「デリリウム」の赤と青のワンピースにカーディガンをひっかけたままの姿でいた。

―あと、30分だ。追加料金も別日撮影もごめんこうむる!

フード姿のイロドリ先輩、コートの野笛が急いで木馬に乗る。

園の技師がメリーゴーランドを動かす。

ゆっくり動き出し、直ぐに先輩二人は演技に没入したのは二人もタイムリミットが近いことを熟知していたからだ。

ヘドロ演じる彩には台詞がないし、腕や顔に塗料を塗布されているので、顔色も見えない。

だが、小道具である緑の赤ん坊を抱いたままの二人は熟練の俳優と女優にも勝る幸せな夫婦を演じていた。

それがオーラで判り、そのオーラはフィルムに定着した。

「教えておくよ。伊野と別れて気落ちしている野笛の気持ちにつけ入るような卑怯なマネはしたくなかったんだ」

「あ、あのね、とっくに私の心には彩さんしかいなんいんだよ」

二人の会話は収音されなかったが、涙目だが笑顔の、今まで部員の誰にも見せたことない美しい濡れた目は、なにか多くのものを表していた。

―カメラを止めるな!スゴいシーンが撮れている!彩さん!次、忘れないでよ!

虎丸はカメラのあきらに目でそのように語っていた。

彩演じるヘドロ、おもむろに木馬から降りる。

そう、気づけばメリーゴーランドは止まっていた。

周囲を見渡すヘドロ。

銃撃犯はいないが銃撃音はこだまするよう後で音入れする。

ヘドロの彩、散弾を受ける演技。

ヘドロにすがりつく野笛演じるうさぎ。

慟哭というほどの泣き声の野笛。

いつの間にか赤ん坊を託された青芽理亜いワンピース姿の。

―これは、人さまの人生を切り取ってしまっている。

あきらはカメラを抱えながら、そう思った。

朱いワンピースの菜乃が野笛に近づき、肩を抱く。

黒いケープが風に舞う、舞った後に何もない光景を撮る。

そして大学の裏庭のシーンに繋がる。

「しゃっ!!!!!!撤収!!!!!」

虎丸が大声で云うと、レコンキスタのOB・OG、在校生、高円寺女子美からユキエとミヤコ、菜乃のにいにいの総勢35名は帰り支度を始めた。

追加料金を取られるのはゴメン!は勿論全員が2作で計3シーンにおいて名シーンが撮れたと確信したから動きは早かった。

芽理亜のランドクルーザーにOBが出してくれたワンボックスカーに撮影機材や大小道具を皆で詰め込む。

緑の肌に赤い血管のメイクを未だ彩はしていた。

それなのに、その喧噪の中、彩と野笛はかなり激しい口づけをかわしている。

菜乃は二人に話しかけるためなのか、近づこうとした時に芽理亜に止められた。

「あの二人はここに置いていこう」

菜乃は直ぐに理解どころか納得した。

そしてその理解と納得は他のスタッフにも伝染した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ