第六章 高円寺の勝浦式タンタンメン・じもん 8
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本来ならば、統括室より前のシーンである歌舞伎町の路地やゲイバーのシーンを撮りたかったが、セットなので期限がある。
ここは大泉学園にある戦前からある大映画会社の敷地内とだけ紹介しておこう。
入れ替わり・立ち替わり、このセット内に入室して、管制センターを荒廃した世界での統括室に改造するため作業を行った。
期限は8月末からの10日間。
そもそもが素人には過ぎるセットだったが、取材で入った時に、この撮影済んだセットを彩が見つけ、この映画会社の配給で「児戯なき闘い」を公開した伊野聡悟に頼んだのであった。
10日間で、片付けは学生がやるということで、伊野のコネで、ウン十万にしてもらい、菜乃が貯金で払った。
「菜乃、あんなシーンなんて書いてごめんよ。私は学内の収録スタジオあたりを見立てるくらいにしか考えていなかったんだ」
芽理亜はそう言うが、本人も気づいていた。
―龍王院エリスが言うように、やるべきことをするべきだ。
「芽理亜、このセットで驚かしておいた方がいい。この世界の解説のシーン、手を抜くべきではない思う」
あきらだけの1シーン、虎丸と同学年の住田くんで1シーン、準備も入れて、3時間あれば撮ることが可能だ。
だがその3時間のために、セットを完成させるために、4回生は野笛入れて7人全員、3回生は岸間、簗木部長を入れて6人全員、2回生は千田だけ、一回生はナノメリアの4人以外だと、星さん、高木さん、住田くん、それにプロのスタジオで撮影かよ!と結集したOB・OGが10名、レコンキスタ関係者で31名。
これに亜美衣と菜乃の高校時代の友人の5人の計36名がこの日のために、10日間かけて、セットを「トゥ・オブ・アス」用に改造した。
天災やテロで瓦解したというワケでなく、「二人の失楽園」で無政府状態になったので、統括室を始め、当局が放棄したという感じが欲しかった。
そこいらはスタジオでの美術に心得があるOBやそういったトコでバイト経験がある先輩たちが指導した。
高所においてあったPCが落下しているけど、誰も直すやつがいない、とか、わざと型落ちのPCや機材を並べるということで美術ができる演出をする。
アップで撮るそんなガジェットを想定してこつこつと作っていった。
かなり近代的にソフィスティケートされた管制センターだったので、それを野暮ったく見せるのは案外タイヘンだった。
そこで撮影の仕方も考え、露出を絞る、照明を変える、画質を粗くする、あらゆる手を考えた。
「だが、こういう泥臭い作業こそ、映画撮影の醍醐味だよ。これがようやくできた」とは彩の台詞。
「電源入れた瞬間に、ディスプレイが1台スパークして煙だすとかしようじゃないか」とは亜美衣の台詞。
「いや、それはさすがにやり過ぎでは」と菜乃が云うが、芽理亜は「案外いいかもよ、入室し、電源入れた後に味気ない機械音声だから、画面と音の店舗としてスパークするのは緩急にいいかも」と実際やってきたら、意外の面倒な作業。
「でもさ、なんか円谷プロで働いているような気がする作業だ」と岸間。
電源を入れて、かっこうよくディスプレイがスパークし、音と煙を出す時に、制作に携わった岸間や住田はガッツポーズを取った、本番中、話せないから。
いっぺんに全てディスプレイが着くのではなく、じょじょに順番に点灯していくのは裏方がそういう着け方をしているから。
天井の照明がゆっくりとつき始めるが、そこでもフェラメントが跳ねるような音を入れてみた。
ほこりが舞い、使用してそのままくたびれ感、ワンカットだけど10日間かけた。
本作では明確な続編とすると前作「二人の失楽園」観てないと観ないと敬遠されそうだから、あきらの役名はハチとした。
そのあきら演じるハチが着席してキーボードを打ち出す。
神妙な面持ちだが、どこか覇気がない表情。
「ふん、やはりいい役者だね、相川くん」
セットの撮影の模様をチェックする調整室。
訪れたのは伊野聡悟だ。
大物の出現に一堂、たじろぐ。
その中にあり、野笛がいちばん最初に我に返り、菜乃と芽理亜を伊野に紹介する。
「10月からだっけ、配信は未だ観てないんだ。必ず観るよ、同じサークルの後輩の出世作」
「沖縄は米軍が全地域を戒厳令下に置いてますが、動きはありません。マクー・マドー連合が九州南部を占領していますが、北部のフーマ教導団と小競り合いを繰り返しいます」
これはあきら演じるハチがAIを起動させ、周辺地域の現状を訪ねた答え。
「伊野!」
奥のパイプ椅子に座っていた彩が向かってくる。
「彩!なんだ?」
伊野、今回はにやけた顔をしていない。
「イロドリ先輩!」
これは野笛の声。
「四国はマットギャランによるゲリラ部隊に抑えられ、中国地方から関西地区にかけてはワーラー軍が、京都から中京地帯は妖魔一族が支配、バイオロンが北陸・東北を占拠しています」
又機械音声、本編ではここに戦乱・戦争の動画がインサートされる。
「伊野、このセット、ありがとうな。あとここの食堂、安くて・美味かった!特にエビチリ定食!」
彩は屈託なく、伊野にそう云った。
「そうだろう、オレはここの食堂しか食わなかった半年がある。ああ、できればここでおまえと仕事したかったよ」
「俺が実作に手を染めなかったのがイヤだったのか」
「違う。批評家は実作は向かない」
「そうだ。批評家は創っている最中にもう批評しているから、完成できない」
「中国は今、四つに分裂し、そのいずれも東北・満州と北朝鮮が結託し、青島から上海は韓国と、湖南は台湾と、そして共産党の残党が華北一帯を占拠しております。この中国の動乱が激しいためにロシアはウクライナ戦争の後遺症もあって北海道に進出してきません。米国は第二次南北戦争で疲弊しております。沖縄と台湾と組み、第三アメリカ帝国を建国して、この戦乱の日本を統治する確率が60パーセント」
機械音声は絶望的な未来を告げていた。
「でも、彩、おまえの創る画、好きだったよ」
「野笛に俺たちの映画、よくでてもらったよな!」
二人して笑い、伊野は「どうだ、撮影終わったら、酒。美味いイタ飯屋がある」と云った。
「せっかく笑い合ったんだ。酔った勢いでまたおまえの胸倉掴もうとしそうだし、やめておくわ」
「そうか、じゃあ、用も済んだし、退散するわ。じゃあ、また」
そう云って伊野は去る。
「ったく、何で来たのやら、差し入れくらい置いていけよ」
でも、既にケイタリングで伊野がファストフードをス3万円分差し入れていたのをここにいる全員、勿論、彩も知っていた。
「よく、こんな場所、知っていたな」
これは同じ一回生の住田くんが演じるキャラクター、バンKの台詞。
「あんたが外国でやっていたことを、オレはこの国でやっていたさ」
虎丸演じるリュウの台詞、彼の役名も続編とはっきり思わせないために、短縮させた。
バンKはAI帝国の残党。
海外で間者として働いていたので、帝国瓦解に居合わせなかった。
メインモニターには先ほど機械音声が語った東アジア情勢が映し出される予定で、制作はアニ研有志の皆さん。
「住田くん、うまいね」と野笛。
「うん、もっと部員に役者やらせて、素質をみられればよかったのに」と彩。
再度、脚本を引用。
バンK「オレはネロというクライアントのため、大陸から東南アジアにかけて要人とコンタクトを取っていた」
リュウ「王ネロを知っているってことは、あんたもAI人間か?」
バンK「いや、オレはそれがイヤだったから、支配下を出て行動せなばならない海外班を買って出た。おまえ、ネロを知っているのか?」
リュウ「いや、オレみたいなチンピラが死るハズないだろう」
バンK「確かにAI帝国なんて、味気ない社会を作った大悪党だが、それだけの知性とカリスマ性と根性はあったよ、又会いたい男だ」
リュウ、話を聴いていたが、モニターのPCに気づく。
リュウ「ファライソに来るんだ。但し、徒歩で」
更に読みふける。
バンK「その差出人。知っているぞ」
リュウ「なんて読むんだ?」
バンK「名前は忘れた、だが、女だ。後をつける・尾行する女だ。で、行くのか?」
リュウ「イヤだな」
バンK「そうか、あんたとても嬉しそうだぞ」
このセットでの撮影は終え、皆で撤収作業を行った。
最初の約束通り、片付けはするので、OBの一人がトラックを出して、粗大ゴミを引き取ってくれた。
「明日が平日じゃなけりゃあ、打ち上げ付き合うんだけどね」とそのOBは云ったので、菜乃は「今回はありがとうございました。映創祭の四日間は飲んで・飲んで・飲んでください!」と云ったが菜乃本人はこれから芽理亜の3LDKでパーティーが待っている。




