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第六章 高円寺の勝浦式タンタンメン・じもん 7



     7



一週間後の同じ月曜日にはあきらは原宿の竹下通りにいた。

龍王院エリスの「ボルトアクションライフルガール」の撮影のためだ。

一週間、何をしていたのか云えば、この撮影のため、スタントや殺陣の指導をネルソン兄弟らに受け、同時に例の統括室のセットのウエザリングを手伝っていたのだ。

ここいらから、物語はナノメリア、映像研レコンキスタ、映像研ヘディラマー、アニ研スクラム、アプリ研、亜美衣と高円寺女子美OG、それと謎の組織と複数の団体を行き来するので、順序立てて理解していただきたい。

早朝4時、スタッフは3時に来て電飾や火薬の準備をしているそうだ。

エリス、撮影許可は勿論取った。

あきらが読んだ脚本によると、これから、僕の演じる謎のロシア人・モルチャノフと龍王院さん演じるムグンファ・島さん演じるタイイァンのコンビがこの竹下通りで激突するのだが、龍王院さんはタイトル通りライフル(銃床から切っ先が出る)に二丁拳銃、あきらは身体に着けられたメダル型金属で、飛び道具を無効化し、半月刀で闘い、なんか量産戦闘用ロボットを駆使するらしい。

だから前準備はかかる。

さすがにロボットはCGだが、着弾シーンやナイフと半月刀の殺陣は実際に演じる。

それをこの竹下通りで撮影する許可を得るとはエリスはやはり底が見えない。

しかし5時までの撮影がさすがに限度、エリスといえども万能ではない。

「缶コーヒーでいいですか」

あきらに尋ねたのは島カリン。

するとあきらは礼を言って缶を受け取り、プルトップを上げる。

女性と二人でいて、親切にしてくれたからとあきらは話題を提供しようと思った。

「矢間さん、一生懸命ですね」

確かにあきらの視線の先にはあきらが腹に喰らう予定の火薬を、代役として巻いている。

女性がやるべき役柄ではないが、楽しそうに見える。

「うん、エリスのことが大好きだから」

カリン、少し寂しそう。

あきら、返す言葉が見つからない。

「ねぇ、相川くんの、今付き合っているコ、いるの?」

―これはどういう意味でしょうか。

「相川くん、あの酉野さんと安さんのどっちが好きなの?」

―男が女子にカレシいるのと尋ねたらセクハラなのに、女性が男にそれを聴くのはそうじゃない。

「あ、判った!安さんだ!」

「違います」

「じゃあ、付き合っているのは酉野さん」

「違います」

「じゃあ、私と付き合うことって、考えられる?」

あきら、沈黙。

「怖い?そういう話?」

「いえ、誰かの代わりというのは嫌いなんです」

あきらの言葉にカリンの方が今度は沈黙。

「付き合っているひとはいませんが、好きなひとはいます。島さんもそうですよね。そういうのはお互いが不幸になるだけです」

「あのさ、今から二人とも撮影なんだけど、相手を動揺させるとか考えが至らないもの?」

「すみません、撮影の後に言っても同じことだと思います」

「ふーん、じゃあさ、その好きなひと、教えてよ、それで痛み分けにしてあげる」

「酉野さんです」

「あっさり言うじゃない」

「付き合えるかどうか判らないし、多分そんなことにはならないでしょうけど、僕が好きになるに足る女の子です」

カリン、あきらを凝視する。

「相川くん、きみに好かれた酉野さんは多分幸せだよ。でも告白したら不幸になるかもしれないし、おそらくそうなるだろうけど」

―顔と身長はいいけど、ぼぉっとしたバカかと思っていたが、ちゃんと女を感動させること、言えるじゃない。

島カリン、本作中、唯一の内的独白。


「おまえは!モルチャノフ!」

ムグンファ役のエリス。

言われたモルチャノフのあきらは牧師の姿をしている。

「よくあたしの前に現れたな!オモニを!アポジを!オンニを!」

この台詞を手元を見ずにエリス扮するムグンファはてきばきとライフルを組み立てながら、話す。

「血がつながっていない、借りの家族だったじゃあ、ないか!」

あきらのモルチャノフ、すごく悪そうに云う。

表情は無表情だったが、語尾にニヤリと笑う。

―ビンゴ!そう!この子、会った瞬間に判った!悪役の方が映えるって!

エリス、ご満悦。

だが演者としもほぼプロのエリス、モルチャノフのあきらに発砲。

勿論弾は出ない。

この発砲を左手内のコントローラーを操り、身体に取りつかれたメダルからバリヤを発生してかわすのだが、それは後から、CGで合成する予定。

このシーンでバリヤで弾いても跳弾はモルチャノフの右頬をかすめるのだが、それもDG処理の予定だが、あきら、あえて右頬を目立つようにカメラに向ける。

「すげぇ、相変わらず、すげぇな!ムグンファ!いや、本名・早乙女志織と呼ぼうか!?」

あきら、相変わらずふてぶてしい演技。

「ムグンファ!ヤツのバリアラインケーブルは最新式だ!これでもう飛び道具は完全に無力化された!」

これはタイイァン役の島カリン。

そしてカリンにも理解できた。

相川あきらが役者として優れ、哲人として考えを持っていることがそうさせていることにも。

エリス演じるムグンファ、ライフルの銃床から切っ先を出す。

牧師服に取り付けたメダル複数からビーム発射。

これはバリアのエネルギー波を掃射しているイメージ、勿論後でCGで再現。

エリスのムグンファ、あきらのモルチャノフへ、(ビームをかわしている演技をして)詰め寄る。

あきら、半月刀を天空から受け取る。

それを渡したのはスクリプターを兼ねている矢間りえか。

しかもあきらに笑いかけている。

天空から何故に刀が落ちてきたかと云えば、1メートル程の戦闘ロボットであるキットが落としたからだ、という理屈。

このキットは両手が近接戦用に刀、口内からビームを出すという厄介な兵器で、しかも3体いるが、これは流石に全部CGで処理する。

ここからは脚本から抜粋。


後方に跳んで・間合いを取るムグンファ。

ライフルでキットを一機撃ち落とす。

モルチャノフ、右手内のコントローラーでキット2体を操りムグンファに近寄らせないよう、ビームで弾幕を張る。

ムグンファ「男がお人形遊びかよ!」

モルチャノフ「ムグンファ、皇居に来い!」

ムグンファ「エッ!?」

その時、光る鞭が彼らの頭上を横切る。

キットの一体がショートして地面に転がる。

それはタイイァンがふるった電磁テイル。

残りの一体をムグンファとタイイァンにぶつけるモルチャノフ。

だが、ムグンファのライフルに撃ち抜かれる。

モルチャノフ「(逃げながら)いいか、志緒!皇居だぞ!」

勿論、追おうとするムグンファとタイイァン。

だが地面に落ちたキットが次々と爆発。

近隣の店舗にも火が燃え移る。

ムグンファ、モルチャノフの後ろ姿を苦しく見送る。

そのまま頭を抱えて路上にうずくまる。

そして震えだす。

ムグンファ「ごめんなさい、オモニ。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

と云いながら手の中の勾玉を握りしめる。

ごめんなさいと繰り返すムグンファの唇にタイイァン、キスをして黙らせる。

タイイァン「大丈夫、ムグンファ、私がいる、私がついている」

そう云って抱きしめる。


―皇居かぁ、そういやぁ、シノプシスにも脚本にも書いてあって、スケジュールにももう入っているが、本当にあんなトコで撮るのか!?

あきらの感想は真っ当である。

だが、宮内庁にも頼んで、中はスタジオで撮影するが、表だけで撮る予定で許可が下りた。

ムグンファとタイイァンは未だハグしている。

6時きっかり、そろそろ通行人歩く頃。

その姿を凝視しているりえか。

あきらは何か声をかけようとしていたが、珍しく、口ごもった。

それは、好きなひとがキスしているとこを見て、哀しく思っている女の子と、この男に見られてしまったという顔をりえかがしていたことによる。

「相川くん、気にしないで」

「気にするよ」

「本当に気にしないで、私はエリス様のものだけど、エリス様はみんなのものなの。だからこれでいいんだよ」

あきらは、自分な好きな女の子をカゲで誹謗中傷していた矢間りえかが嫌いだったが、あれから一週間でここまで徳を積むとは、と少々感動に似たものを心に描いた。

だが、その答えにもう一つ思ってしまった。

―そう、どこか、狂信者の香りがする。

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