第六章 高円寺の勝浦式タンタンメン・じもん 6
6
そのセットがある撮影スタジオの使用料金を援助すると最初に云ったのはいつものように彩先輩であった。
「今回、これにしか私はお金を出しません。だから、先輩も、みんなもそれ以外のとこで出してね」
「いや、菜乃はそういうけど、私は気づいている。元は取る気だね」とは回想シーンから戻ってきてユキエのコメント。
「そう、映創祭には勿論タダで発表するけど、絶対に赤字はさせない。実際、前回の『二人の失楽園』も手弁当お金出した分はパンフレットと画コンテ売って、戻ってきている。今亜美衣さんがサブスクと海外の短編映画コンクールに出品するように進めているから、そっちでも収益は出る」
「よし、そのセットはもう使わないんだよね」と確認するユキエ。
「うん、だから、荒廃した世界の、昔は栄えていた街の統括室らしさを出すために、ウエザリングというの?汚しとか壊れた感が欲しい」
「それって!本当の映画美術じゃない!」
菜乃のお願いにふみが反応する。
そして「判った。それは私とミヤコで手伝えると思う」とふみが云うと横でミヤコもうなづく。
その作業には既にレコンキスタの3回生、四回生が参加し、OBにまで声をかけていた。
そのセットの分を始めとするイメージボードを菜乃が展開させる。
「次、私いい?菜乃。結局、漫画でプロ顔負けな皆さんには知っていることでしょうが、プロの仕事とはどこまで手を抜かないか、ということなんです。そりゃ、画も映像も音楽も凝れるとしたら際限ないですけど、一定のラインはあると思う。そのラインでしっかりしたセットやCGがでクリアしたら、若者の完成やセンスで勝負していいんです」
芽理亜は確実に龍王院エリスの画に感化されていった。
『二人の失楽園』ではごまかしたテロリストの群れや破壊される庁舎を確実な画にしないと同じ舞台にも上がれないと気づいたのだ。
「そこで、私たち二人はセットやCGも絶えず監修をしなきゃならない。男の子たちが製作する『デリリウム』は高木さんという同学年の女の子がプロデューサー補として付く。そこで私たちの『トゥ・オブ・アス』にはユキエ、あなたが付いて欲しい」
「ちょっまっ!ええええええー、私他大学なんですけどーーーー!」
「そうなんだけど、ある程度にツーカーな関係なコにお願いしたい。各セクションの長征や台詞や画コンテの改定をやっている時に、金回りや進捗を客観的に・固定で見守るひとが必要なの。お願い、ユキエ!」
「いや、ユキエ、口元が笑っているよ、やる気まんまんってことじゃん!」とユラ。
「仕方ないなぁ!」と口元が笑っているユキエ。
「それとね、みんな」と菜乃。そして続ける。
「今日はここに集まってもらったんだけど、やはり後輩に頼むは申し訳ないし、平日は難しいと思う。だから、来る時に芽理亜に『女の子とはいえ、私の高校時代の友人とはいえ、一回しか会ってないコたちは4人大挙して訪問するのはいかがなものかと思って、部室にしたんだ』と云ったら、芽理亜が『そういう心遣い?それならば、大丈夫大丈夫』と言っていたんだ」
「芽理亜さん、その大丈夫って?」と代表してユラが聴く。
「上の階、3LDKの広いベランダ付きのいわゆるペントハウス。三ヶ月、という条件を飲んでもらって、借りたんです」
今が9/2月曜なので11月いっぱいまで、ムリをきいてもらい借りられた。
芽理亜は続ける。
「そこを私たちの前線基地とします。真っ新な空間なので、今から来てもらって、何が必要かを教えて下さい。そして当面のスケジュールを決めましょう」
「その前線基地の名称は?」さすがはおたく、質問に余念がない菜乃。
「名前なぞ、ハナから決まっている!私が指揮を取り、私が闘う場所だ!たった一つしかない。基地名はナノメリア!その部屋の名前だ!」
―このコも、そうとうだなぁ。
とは高円寺女子美術大学付属高校OGの皆さんの感想。
更に、芽理亜のランドクルーザープラドは7人乗りなので、この車種も皆さんの度肝を抜いた。
そこで芽理亜が付けたナノメリアでは、装備や機材の検討が行われ、大学から借りるものと買うものを決めた。
「とりあえずさぁ、それぞれタオルと歯ブラシと茶碗とグラスを買っておかない?」とふみが提案する。
よし、アトレ吉祥寺とヤマダ電機に買い物に行くことになった。
「ええええええ!ここ、『シムーン』を作った製作会社の隣だったの!」と百合好きのユラが絶叫。
歩きながら話す井の頭通りが吉祥寺駅周辺が又作戦会議の場となった。
ふみが書記を務め、Wordに箇条書きで〈これからやる事〉を入力していった。
脚本と画コンテの感想をみんなに聴いて推敲のアイデアにさせてもらった。
そんなことをしていると夕方になり、小腹空いてきたななという話題が出たので、ナノメリア名物パエリア、そして同じ会社のピザを計6人分デリバリーすることになった。
その時にユキエが「芽理亜ちゃん!それに貯金使い切った菜乃も。ここは場所提供してもらった私たち四人に払わせてもらいたい」と発言すると残りの三人から「異議なし!」という意味の言葉が飛び交う。
「いや、四人じゃない!五人だ!注文は七人分だ!」
これは菜乃に案内されて来訪した女の台詞。
「亜美衣さん!」
「わかるか!?私のこの気持ちが!私をハブって、みんなだけがこんな面白いことやってんのが許せないんだよ!もう会社なんて辞めてやる!」
「いや、本当に辞めないで!マジで辞めそうで怖い!」
これはユラ。
さすがに前線基地ナノメリアに初回から泊まる者はいなかったが、話はここから5時間にも及んだ。
その内容には亜美衣と黒図ミヤコが中心となり、ナノメリア2作分の合本パンフレットと画コンテ集第二弾、そして〈もう1冊〉出すことが決定された。
「こういう話は男同士の方がよいと思って、おれと相川で話すことにしました」
虎丸だ。
ここはカラーの近くにある飲み屋・戎。
西荻窪住まいの彩と虎丸が近いということで選ばれたが、あきらと虎丸は勿論ノンアルコールを飲んでいる。
「じゃあ、脚本によると野笛の出演依頼は酉野さんと安さんでしたのか。で、どうだった?」
彩は黒ホッピーを飲んでいる。
「快諾してくれました」
「他の誰かじゃあ、ダメか?」
「今人手不足で、ナノメリア二人組が菜乃の高校時代の友人に協力を仰いで現在作戦会議中なんです。二つ返事で受けてくれると思ったのにな、先輩は」
虎丸、嘆息。
「イヤだよ。だって、俺とノブがその、あれだ、夫婦って役だろうが」
―夫婦ですかね、あのホンの二人。
いないと思われないようにあきらの内的独白。
「ズバリいいますよ。他の男に走った女を未だ憎んでいるんですか?だとすると見損ないますよ」
思い切った虎丸。
「それはない。自分が女を知らないから、相手の女にも処女を求めるとかサイテーな信条は持ち合わせていない」
云った後に彩はしまった!という表情。
―彩先輩、童貞、か。
だが虎丸はそこをスルーできる礼儀は持っていた。
あきらは横で無表情。
「じゃあ、なんでイヤかだけ教えて下さい。じゃないとクドき落とすと約束した芽理亜と菜乃に申し訳ないんで」と虎丸。
「例のセットの件でさ、伊野とやり取りをしている、だからあいつがなんかとかもうないよ。野笛のことは変わらず好きだし」
―へー、言うんだ。
これはあきら。
「じゃあ、そのワケはなんですか?」
こっちは虎丸。
「言わないのと言うのはどっちが卑怯なんだと思う」
彩先輩が焼酎を生で煽る。
「言うべきです」と虎丸。
「そうだよね」と彩。
「言うべきはノブ先輩にです」と虎丸。
「そうだよねぁ、それ、この前の電話で伊野にも言われた」と彩。




