第六章 高円寺の勝浦式タンタンメン・じもん 5
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「やはり、この街に帰ってきたら、この店よ」
話者は青山ユキエ。
この小説において、語尾に「よ」は女性が発言する時のテンプレートな「私思うのよ」の「よ」ではなく、第一章で虎丸が発言した「この世はどうせ裏目ばかりよ」のような協調としての「よ」が多用される、というか、その協調としての「よ」しかないと思われます。
この店とはラーメン屋じもん、この街とは高円寺。
高円寺女子美術大学付属高校は高円寺にあるが、大学は八王子にある。
正確を期するのならば、1・2回生は八王子校舎で、3・4回生はこの高円寺に戻ってくる。
「うん、でもユキ、辛さ1とか日和ってない?」
この発言は安具楽ユラ。辛さ三段階のこの店、じもんで辛さ2にしている。
「この後、作戦会議だし」とユキエ反論。
「関係あるかね?菜乃がうちの大学に進学しなかったのは案外八王子くんだりまで通いたくなかったからかもね」
「あり得るかも。あのコ、画も漫画も凝る時にはとことん凝るけど、楽ちんできる時は躊躇くなく楽するし、凄い道徳的な時があるかと思いきや、凄い雑に欲望のまま突っ走るし」
やはり同級生だった黒図ミヤコの発言。
「八王子校にだって何度も遊びに来てもらっているから、嫌いってことはないと思うよ」とユキエ。
「そうそう、楽しそうにしていた」とユラ。
「アレは多分、普段共学だから、久々に古巣の女子校に来てからはしゃいだんだよ」とミヤコ。
「でも、今回映画大学の皆さんとコラボレーションするということは皆さんが共学に入り込むということですよ」と大宮山ふみ。
「それは、ふみ、私たちが男の子狙いで協力するように聴こえるがね。唯一のカレシ持ちが言うとそう聴こえちゃう!」
ユキエは隣りのふみに絡む。
ここはカウンターのみの店で、奥から、ふみ、ユキエ、ユラ、ミヤコの順番に座り、勝浦式タンタンメンを食べている。
ユキエが久々にあの店に行こう!と前の日から云っていたので、ちょっと早く4人で集合し、遅い昼食を採った。
現在13時、ふみだけいちばん辛いMAX3にして、13:30に菜乃と芽理亜と母校の前で待ち合わせをしている。
「えっ!私付き合っているひといないとか言ったことあったっけ?」とゆら。
「あんたは亜美衣さんだろう」とユキエ。
「あのひとは恋愛とか俗事に興味ないもの。それより、ミヤコがさっきから話をふって欲しいって表情しているけど」とゆら。
恋愛話になった瞬間、ミヤコの表情が怪訝そうになったのをゆらは見逃さなかった。
ちなみに行列店なので、食べ終えて、直ぐに店を出て、母校の道すがらに歩きながら、話しています。
「付き合っているひととかじゃないけど、同じ準備会のスタッフで、同じ班のリーダーで、本の趣味が合うだけ、それだけ」
「ミヤコ、今それだけ言うのに声が上ずり、頬を染め、私たちにまでドキドキ感を伝播させたか、気づいている?」とユラ。
ミヤコ、ふみの胸に顔をうずめる。
「そうだよねー、ふみは身体弱いけど、お母さんキャラだよね、昔っから」
よしよしと背中をなでているふみにユキエが突っ込みを入れる。
正門に菜乃と芽理亜の姿が見える。
確かにさっきのラーメン屋はキャパが狭いということもあったが、菜乃は大学の友人である芽理亜と合流してから集まるという話だったので、2グループは正門前で集合となった。
彼女たちはメールや直電のやり取りで、龍王院エリスの登場と部員の約過半数脱退を知った。
「ユキエさん、菜乃はライバルだと公言しているじゃん、今も昔も、協力していいんですかぁ」とおどけたふうのユラ。
「ライバル協力回ってどんな一話完結もののアニメや漫画にあるじゃん、とっちゃんとルパンが共同戦線、ケムマキがハットリくんを助けるとか、今がその回なんだよ」と微笑するユキエ。
「あのさ、菜乃って、あの室井くんか相川くんのこと、好きなのかな?」とリブートしたミヤコ。
「まぁ、本の虫で、恋愛なんか興味ないです!って狷介孤高のミヤコさんが俗物みたいなことを」と珍しくいじわるなふみ。
ミヤコがふみのストレートな黒髪を右手でわちゃわちゃとかき回す。
「なにすんの!」とふみが逃げる。
「親離れしたんだ!」と笑うミヤコ。
二人がくるくると猫のじゃれ合いのように回っている時に、近づいてきた菜乃が「あんたら大学生だろう!成人だろう!」と二人を止める。
「悪いね、芽理亜、女子校育ちはこうなんだ。でも、最強の助っ人だ!」
「芽理亜さん、改めて、私が青山ユキエ、菜乃のライバル!スピードとオリジナリティでは誰にも負けない!よろしくね!」
「私は黒図ミヤコ、よろしくお願いします。ストーリーテリングとおたくや文学の知識を駆使するらしいです(笑)。本作りや組織運営が好きだから、お役に立てると思います」
「安具楽ユラだ。菜乃からファッション・レズとか聴いてない?それウソ!私は女の子が好きだ!だから、女の子好きでその龍王院さんに負ける気がしない!以上!」
「ふみです。大宮山ふみ。最近は陶芸をしていて運動になったのか、体調いいです。役者やらしてくれると聴いたから来ました。がんばりましょう!」
―こ、これはなんという援軍か!これ以上に私は何を望むのか!
と思った芽理亜は「ありがとうございます!よろしくお願いします!」と早く・深く会釈した。
―昔の仲間と今の仲間が合流する展開、燃える!萌える!こんなの次は結婚式くらいじゃないか。
というマヌケな感想は菜乃。
美大付属高校の美術部、平米数はかなりのもの。
まずは飲食抜きで2本の短篇映画の企画を進めることにしていた。
土曜、部員がいないことをいいことにOG権限で、現役部長にふみがお願いして、この場を借りた。
「東京の、女子校で、しかも美術系で、そこの美術部!うわぁ、ええなぁ!」
「芽理亜、おっさんのような感想だゾ!」
壁に飾られた部員の作品や本棚の本を眺めて芽理亜が言い、菜乃が突っ込む。
「ええええ!こっちの室井くんの書いたホン、亜美衣さんと私出るの?」とユラ。
「うん!もうOK貰っている」と菜乃。
「でも、この亜美衣さんと私のシーン、すっごいアクション・シーンだけど、どうするの?」
「それはアニメーション研究会の綾川さんという人に頼んである。もう画コンテは渡した」
アニ研はアニ研で大作を作る予定があったが、今年度は絶対卒業を目指している綾川としては、もう後輩たちに任せ、牢名主のような自分はよけいなことをしないように心がけていた。
そこに、菜乃と芽理亜が彩と野笛を伴いアクションシーンのDG製作をお願いにきた。
「よし!やろう!後輩たちを信用し・手を出さないはいいが、ヒマは嫌いで、忙しいのが好きなオレはその2作、アクションシーン約合計15分、龍王院のハリウッド仕込みのCGに負けないもん、作ってやんよ!」
そして綾川は部内の有志による計10人で「トゥ・オブ・アス」と「デリリウム」のアクションシーンを担当することとなり、もう製作に入っている。
「だいたいヴィジョンは浮かぶけど、この都庁内と設定されている統括室って、どうするの?」
ミヤコが聴いた統括室とは相川あきら演じる男が無政府状態になった都庁に戻って、現在の惨状を把握するために立ち寄るPCや機材が立ち並ぶスペースだ。
だからこそどこかの会議室やスタジオでお茶を濁したらブチ壊しになる。
「そこなんだけどね、某映画で消防局の通信指令センターを扱っていて、そこのセットが未だ残っていると聴いているんだ」
「いや、それはプロが作成したセット、それを学生が作る映画に貸す、と」
菜乃はぽんぽんと答えるが、その素振りがミヤコには少し怖かった。
「そのセットをバイトの仕事で見つけた彩という先輩が、業界の、もう名前出すけど、伊野聡悟という監督に頼んで、コネを作ってもらい、映画会社に交渉している。おまけはしてくれるけど、やはり数十万はかかる。コミケで稼いだ貯金、パーだよ!」
高校からの友人4人は、菜乃のこういう一面を久しぶりに思い出していた。




