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第六章 高円寺の勝浦式タンタンメン・じもん 4



     4



夕方頃に解放されたあきらは芽里亜の井の頭通りにある部屋を訪れた。

レコンキスタの会合が終わり、この部屋で龍王院エリスの出方をあきらから聴くとLINEのやり取りで決まったからだ。


アキラ『内容が内容なんで、話すか判断が必要です。まずは三人だけに報告しておきたい』


との内容だったので、野笛や星さん・高木さんも呼ぶことはなかった。

そこで見せられたのはエリスが「撮っていいよ」と云ったのでスマホのカメラで撮影したサロンの内部であり、語られたのが『ボルトアクション・ライフルガール』のヒロイン・キャラクターと音楽担当のこと。

「あのさぁ、そんなに詳しくはないけど、ユーラシアンズならば私だって知っているよ。youtubeやnoteの考察で民族の歴史や戦争の傷跡をさりげなく描いているから批評家受けも良い、それに小山田圭吾が参加って何!?YMOとはつぴいえんども残り二人になった今、その界隈ではいちばんのアーティストじゃん!もう話になんないよ!」

芽里亜、嘆息。

「最終回近くに主人公ライダーが最終形態になるじゃないですか?装備も武器も。平成や令和の仮面ライダーって。それとライダーマンが闘うような感じに思いました」

「確かに、ライダーマンとタックルのコンビが仮面ライダーディケイド 最強コンプリートフォームが闘うようなもんだな」

あきらの言に虎丸が受け継ぐ。

「あのエリスってコさぁ、『パーティーズ』観て思ったけど、芸術や前衛に行かないよね。若くして映像作家になるタイプでは珍しいよ」と菜乃。

「はい、酉野さん。ビートたけしより山田洋二と申しておりました」とあきら。

そしてあきらは続ける。エリスの言葉を再現する。

『私にはなぜ、みんなが動かないか理解できない。良いスタッフも良いキャストもプロにそれなりの報酬を払って出てもらえばいい。勿論そのために己の技術の腕前や売れる作品にする戦略を研磨するのは必要十分条件だけどね』

みんなそんなお金ありませんよ、というような返しをするあきら。

『確かに私、お金はある。今までの映像作品の配当や印税もある。それに先祖から受け継いだ資産もある。実家には頭下げることも多いから、ユーラシアンズの会社にも小山田圭吾にも値切ることはしないけど、適正価格でやってくれるよう、交渉はした』

どうやら話によると龍王院の血筋というのは、遠縁を含めると大臣経験者が40名、官僚では外務省に影響力が多く、大使館員を多数輩出してきたらしい。

しかも四大財閥と旧華族とも150年前から縁戚関係にあり、画家や演劇人も輩出しており、おそらく自分の血筋以上となるともう皇室以外無いらしい、とのこと。

『だから、映像行ったのは私が初めて』

これはあきらが、お金だけじゃくて、コネもフツーがないです、と云ったことの返しで、エリスは続けた。

『なんのために今の時代にネットがある?そりゃ、脚本読んで下さいとか素人の文章読むなんざ誰もしない。読まないんだったら、パイロットフィルムを送ればいい。映像だったら、30秒は観てくれる。それで気を惹けて、レスポンスもらえば、話聴いてもらえるトコまで持ち込むよ』

「なるほど、エリスってコ、判ってきたよ。やり方はみんなも当然知っているけど・それが本当にできるとは誰も思わない、ってヤツだ。〈マンハッタン計画の隠蔽〉に近いものがあるな」と菜乃。

「いや、フツーはやらないだろう」と虎丸。

「でも、プロに、入賞とかしない限り、それを手に職にするにはどうしてもそういう活動をする必要がある。その中でも、ちょっと常軌を逸したタイプなんですよ。だからエリスさんは『自分はランクじゃない・ジャンルだ』と仰ってましたよ」

虎丸にあきら、説明。

そしてあきら、続ける。

「そのユーラシアンズの会社や小山田圭吾にもパイロットフィルムを見せたらしいです。この場合、冒頭の5分らしいんですけど。僕も未だ観ていません。ご覧になりますか?」

つまりそれは大企業のマネージャーと高名なミュージシャンを納得させた映像だ。

あきらがナノメリアの4人だけでまずは集まったワケが今では他の三人も理解できた。

―サロンの画像、有名なアメコミキャラの映像化、音楽が小山田圭吾だけで確実にレコンキスタの面々は戦意喪失するのは必定!その上、パイロットフィルムまで観たら寿命がいくらでも縮まる。

「やっぱり観てみよう」と芽里亜。

あの日から、虎丸のDVDプレイヤーは芽里亜のうちにある。

再生が始まる。

薄暗い中、黒づくめの女が移動するのがかすかに判る。

だから、看板の文字は白地なので、文字が不自然にならない程度に目立つ。

その文字が見えた瞬間、虎丸がリモコンで一時停止させる。

「これ!おい!板門店じゃないか!ってことはさっき背景の川はイムジン河か!?」

「室井くん、どうしたんですか?」と虎丸にあきらが尋ねる。

「どうもこうも無いよ!ここは38度線だ!つまり未だに戦争している南北の最前線だよ!」

そう、このロケで銃殺されても文句言えないロケ地。

「そうか、ムグンファは韓国から拉致され、スナイパーとして育てられた少女という設定。38度線から彼女の物語を始めるのは理に叶っている。虎丸、続けよう」と芽里亜。

―いや、それだけじゃない。今、ユーチューバーはTVタレントもいかないような激戦区やカルトな土地に行き危険を冒すことで再生回数を増やしている。龍王院エリス、そのファクターも、動画投稿サイトの売れ筋も入れてきたってことだ。

そう分析するのは菜乃。

黒づくめの衣装、そのムグンファを演じるのはやはりエリス自身。

朝焼けが上る頃、ようやくひろ安心するムグンファ役のエリス。

そこに散弾の嵐。

回避したが肩に一発だけ当たるムグンファ。

すると白人の中年男性二人が現れる。

「やはり、おまえらか!ネルソン兄弟!」

この台詞は朝鮮語で話され、字幕で出る。

「この二人、一人はガンアクションの、一人は剣の殺陣師でそれぞれハリウッド一流の講師です。そのまま出演もさせたと言っていました」とあきらが説明。

―さっき矢間りえかが言っていた厳しいアクションコーディネーターがこの二人か。

と菜乃が思っている最中、殺陣師の弟の方が薙刀を振り始める。

それを瞬時に組み立てたライフルの銃身で遮るムグンファ=エリス。

―これはもうハリウッドのアクション映画だろう!

と次は虎丸が思っている最中、ガンアクションの兄がガトリングガンで銃弾を撒く。

―北朝鮮の脱走者を白人の兄弟が始末するが、その武器がガトリングガンと薙刀って、面倒なことこの上ないな。

別カット、手榴弾のピンを外す女の子の口元。

そして地面で爆発。

更に手榴弾のピンは外される。

セスナ機から手榴弾は投げられている。

そう、最初の方のシーンでムグンファが真っ白な伝書鳩を離すシーンがあった。

セスナから垂らされた縄梯子につかまるムグンファ。

「ハッハッハッ!最高のマトだ!」と兄がガトリングガンを向ける。

縄梯子で捕まったまま、つまり大きく揺れる中、照準スコープを覗くムグンファ。

照準の中の兄、肩を撃ち抜かれる。

セスナ機を運転していたのは皆も少しだけ見覚えのある二回生の女子。

そして縄梯子を垂らし、手榴弾を投げていたのは島カリン。

ムグンファと島カリン、会った瞬間、深い、深いキスをかわす。

あたかもセスナ機が朝焼けの太陽に吸い込まれていくようなシーンで、「 To be continued!」と入り、おしまい。

「カリン先輩、だったよな」と虎丸。

「芽里亜の見立てだと、あのエリスってコ、どっちなに?」と菜乃。

「あー、あの人は多分、私は会ったことない・初めて出会う、バイセクシャルだと思う。ただかなりレズビアン寄りのバイ。そりゃ、そうだ、あれだけ奔放にスタッフもキャストも集めて、あれだけ野太いシーンばかり描くんだ、多分だけど性愛にもかなり寛容なのだと思う」と芽里亜の意見。

―島カリンさん、エリスさんに本気だ。だから、りえかさんにあんなに嫉妬していたんだ。

あきらはそういう女だけの四角関係はびこる現場での撮影に参加したくないと心底思ったのだった。

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