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第六章 高円寺の勝浦式タンタンメン・じもん 2



     2



「私は迷わず、告訴する。これは刑事罰の対象だ。そして、今まで、あまりにも酷い誹謗中傷にはそのように対処してきた」とエリス。

「世界的な活躍する龍王院さんに尋ねる。その告訴の判断はどうしましたか?」と菜乃。

「脅迫だな。私のおばあちゃんにも危害加えるとかほのめかす内容だったから、間髪入れずに告訴して、余罪の多さから実刑を食らってもらった」とエリスが答える。

正座より、ちょっと膝を立てる座り方をしているりえかはいつの間にかエリスを睨んでいる。

「そこまでする気はない。かといって大事にもしたくない。せっかく入学したのに、こんなことがバレたら、キャンパス内も歩けなくなるじゃん」と菜乃。

「ふーん、酉野さんはそういう女性か。でも、いいのかい、反省しないどころか、こういうひとは更に憎むようになる」とエリス。

「いやいや、こんな大勢の、自分の仲間と造反した元の仲間たちの前で晒されたら、お釣りがくるくらいだよ。まず、ここまでされたらもう二度とやらないでしょう。そんなトコでいいんだよ」と菜乃。

「ちょっと待ってよ!私がここではいちばんの当事者だろうに!?何故に私の意思を無視して二人で喋ってんの!?」

矢間りえかが立ち上がり、皆を見渡しながら発言。

「おい!自分がしでかしたこと、判ってんのか!」と云いながら虎丸がりえかに歩み寄る。

それをあきらが抑える。「そうでもあっても女の子だ。手を出すのは論外だ」。

「いいね!男の子に守ってもらえて、ちゃんと冷静な男の子もいてさ!こっちは大学入っても、授業は面白くないし・映画の大学だと思って入ったけど、フツーのコばっかだし、腐女子がデケェ顔してのさばっているし、面白いことなんて、なーあんにも無いんですけど!」

「矢間ちゃん!もう止めな!二人でさ、エリスさんの下で、面白いことしよう!って始めたことじゃない!ひとはひと、私たちは私たちだよ!自分が納得できるものを作っていけばいいんだよ!」

先輩の島カリンがりえかを諭すが、反論はロクなものではなかった。

「昨日はなんだっけ?龍王院さんのツテで来てもらったアクションのコーディネーターに特訓してもらって疲れるし、銃の部品の名前や組み立て型覚えるのは面倒だし、撮影の時には待ち時間がえエラく長くて退屈だし、結局島さんと龍王院さんがいい役だし、なんか、期待ハズれなんだよね」

―アンタ、なんで、ここにいるんだ!?

とは、この場にいる全員の感想。

「ああー、それで芽里亜たちを誹謗中傷する書き込みしたってぇことか!確かにこのひとはなにかしらの罰を与えるのすら値しない、相手するだけムダだ!」と虎丸。

「ああ!そうだよ!その通りだよ!私は被害者じゃあない!加害者だ!酉野さんさぁ、私はでも逃げない!レコンキスタから去り、今、このヘディラマーからも去るけど、この大学は辞めない!私みたいな人間のクズがいるだけでアンタたちの抑止力になるからね!ハハハハハハハハハハ!」

りえかの笑い声に皆が打ちのめされている。

―そう、私たちはこういう存在には無力なのだ。

菜乃、過去を振り返って思い出す。

だが、そんな笑うりえかの前にエリスが立ちふさがる。

りえかは155くらいの背丈、エリスより15が低い。

それだけで圧迫されるハズだが、今のりえかは睨む目線をエリスから外さない。

「うん、自分が悪い・自分が加害者だと認めることはいいことだ。大丈夫、私があなたを一人にはさせない」

「エリス様、なに?私を殴る?女が女を殴るのであればある程度の正統性はできるでしょう、それとも権力を使ってこの大学から追い出す?アンタみたいななんでも持っている女ならば、なんでも可能でしょう」

と云い終わるか・終わらないかのタイミングでりえかの唇をエリスが唇で塞いだ。

目をつむりながら舌をりえかの口内に侵入させるエリス。

目をカッと見開きながらエリスの舌の侵入を受け入れるりえか。

数秒間だが、長い。りえかもここにいる男女全員が数分に感じた。

誰も動けない。

脳内がこの現実で行われている交歓の認識に追いついていないからだ。

そのうち、りえかがゆっくり痙攣を始める。

一回、二回、三回と身体が踊る。

そして四回めは激しい痙攣をし、初めてりえかはエリスから離れることができた。

見るとりえかはボロボロと泣いている。

それは反省でも後悔でもない、自分の身体にこんな機能がついていたと生きてきて初めて知った驚愕からの涙だった。

りえかがその場でうずくまる。

「いきなりごめんなさい。でもこれでりえかは私についてくるしかなくなったのよ、判る?」

首を縦に振るでも、肯定の返事をしたのでもないが、放心状態のりえかがエリスの言を理解したのはこの場にいる全員に判った。

―これが、龍王院エリスか!なんと恐ろしい!この人は経歴や身分で凄いんじゃあない!本当にヤバいんだ!

菜乃は初めて敵の正体を知ったのだ。

「カリン、ライム。りえかを両脇から支えてあげてね。サロンに戻ります」

エリスが云うサロンとは図書館棟の最上階ワンフロアを全てヘディラマーの部室にしたアジトのことだ。

―も、戻ってなにをするんだ!?

これは芽里亜の疑問。

すすり泣きを始めたりえかの両脇を持ったカリンが「大丈夫?」と声をかけ、ライムは「タイヘンだったね」と優しく声をかける。

こうして龍王院エリス率いるヘディラマー一味はカフェテリアを後にした。

だが、その一行をナノメリアの4人が追う。

その気配に気づきいたエリスは島エリカに先に行くよう指示を出す。

龍王院エリスと、菜乃、芽里亜、あきら、虎丸が対峙する。

「見事な治め方に感謝します」と芽里亜が口火を切る。

エリスが軽い笑顔だけで返す。

「でも、私たちにかまう理由を教えてください」

「今はナイショ」

芽里亜の質問はエリスに即答された。

「いや、みなさんをからかっているワケじゃない。その理由は恥ずかしいから言いたくないだけだから、勘弁してほしい」

「じゃあ、観客動員数で勝ったら、教えてくれますか?」と続いて菜乃。

「もっと凄い掛け金を言われると思った。いいよ、教えてあげる」

「判った、じゃあ、絶対に勝つ!おれには勝たなきゃいけない理由があるんだ!」とちらと芽里亜を見ながら虎丸。

「ふーん、いいね、青春じゃん」とエリスが返す。

―そうか、監督はスタッフもキャストも掌握する、だから、心も人間関係も読める力が不可欠なんだ。

そう思ったあきらにエリスが話しかける。

「相川あきらさん、だったよね」

「はい、相川です」

「あなた、私たちの次回作『ボルトアクションライフルガール』に出演してもらいたいんだけど」

―!

ナノメリア一同。

「だって、相手のスタッフをキャストに入れてはダメってルールは無いでしょう。相川くん、あなた凄いわ。世界中の俳優、シェイクスピア役者やカンヌの常連とも付き合いあるけど、あなたはそれと同等かそれ以上だ」

この時点で龍王院エリスは『二人の失楽園』は未見である。

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