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第六章 高円寺の勝浦式タンタンメン・じもん 1



     1



それから一週間かけて芽里亜はシナリオを完成させ、それを基にかなりラフだが菜乃は画コンテを完成させた。

完成が近づくと野笛に連絡して、一度彩先輩や簗木部長と話す機会をもうけていただくようお願いした。

映像研レコンキスタの全面協力を仰ぎ、スタッフとしてもキャストとしても参加を促す目論見があったからだ。

三人とも出席し、同学年の住田くんと星さん・高木さん、千田先輩と岸間先輩も同席するとのこと。

八月の終わりの金曜日、またいつものカフェテリアを貸し切り、ゆったりと今後の方針を決めることにした。

「エッ!ちょっと待って!私と彩先輩も出るの!?」

全員がテーブルに付き、あきらがキャスティングボードを読み上げると遮るように野笛がそう云う。

「しかも、前回の博士と比べて、けっこう出番あるし」

これはシナリオを読みながらの彩。

「すみません、出てもらうようお願い致します。」

その後に「龍王院エリスに勝たねばならないのです」を省略したあきらだったが、そのことはここにいる全員が思っていたことだ。

四回生は野笛以外4人いたが、就活や卒業制作でもう応援は期待できない。

岸間と簗木以外に現在帰省していない部員は男女2名づつの4名。この4人はもう参加を取り付けてある。

二回生は唯一の男子部員の千田以外の女子部員8名がヘディラマーへと流れた。

ナビゲーション・フェスタで『二人の失楽園』を観て入部した三人の一回生の女の子が全員ヘディラマーに流れたのが部員たちの心にボディーブローのように利いてきている。

―私たちを慕ってきてくれたのに、申し訳ない!

これは菜乃もこのように忸怩たる思いがあったが、芽里亜も同様のことを思っていた。

―いくら直ぐに夏休みがあり、コミケの準備と参加で多忙だからといって、もうちょっとかまってやればよかったのだ。

するとナノメリアの4人、野笛と彩先輩、三回生の6名、二回生の千田、一回生の住田くん、高木さん、星さん。

「16名、か。二本立ての劇映画作るのに、この人数は少ないのか、多いのか」

岸間がそう云うと菜乃が「私の友人が手伝います」と云う。

「高円寺女子美術大学付属高校のOB4名が時間作って参加します、というか是非参加させてくれと云われています」

それこそ美術にあたる小道具や衣装、実際の撮影の助手をその菜乃の旧友に任せることにした。

あきらと虎丸は「デリリウム」の監督でありながら、「トゥ・オブ・アス」では主演を務め、菜乃と芽里亜はその逆である。

この4名の負担を減らすため、前回芽里亜が担当したスクリプターとスケジュール調整、予算管理は星さんと高木さんに担当してもらうことになった。

映創祭は10月31日の木曜から、つまりふた月で二本の作品を上げることとなる。

まずはその高木さんと星さんがここにいる皆のスケジュールを聞き出す。

そして撮影の予定に組み込んでいく。

「あの、ちょうど聞き出したついでに言っちゃいます。言わなくて、りえかちゃんたちの専横を許したトコがあったので、直後に同じ間違いはしたくないので」

星ヒカルは自分のiPadを差し出した。

そこには『二人の失楽園』のモニターで映された画面から直接撮影された画像が添付されていた。

冒頭のあきらと虎丸の裸のシーンとラストのキスシーンが張り出され、キャプションとして、『トーゼン、女の監督ともヤッています!』だの『女監督二人はモチロン、レズビアン!』と書かれていた。

それは5ちゃんや爆サイ等、考えうる限りの匿名投稿サイトに張り出されていた。

―ヤバい!先週の三保の松原を考えるとどれもあながち間違ってはいない!

このマヌケな感想は芽里亜。

「ヒカルちゃんから相談されていたんですけど、ちょっと忠告だけじゃなくて、イヤなもんだけど、こうして見てもらった方がいいと思いました。未だサブスクの動画配信には上げていないから、ナビゲーション・フェスタの時の二日間で撮られたものでしょう」

高木彩花が分析する。

「とうとう、出たね!」

菜乃の言葉に全員爆笑。

「菜乃、なんだか、亜美衣さんが乗り移ったようだ」

これは虎丸が笑いから復活して云った台詞で、流石に今日は亜美衣は就業中。

「いや、室井くんさ、もう3回目で、いつも同じ誹謗中傷の文言ばったかで、もう飽きたよ、強いてあげれば、画像付きはそこそこインパクトあるけどさ」

―こういうことに慣れる、10代の女の子の青春って、いったい。

あきらはいつもあまり語らないが、それなりに色々考え、分析している。

「オレも星さんに相談受けて、この投稿の後先を追ったが、まずなにより『二人の失楽園』は既にBLを女子大生の監督二人が実写で再現した、という評判で既に評価されているから、多くのひとが誰かの悪意あるやっかみとして受け取られている。だから、10月にサブスク配信されたらショッキングな画像でなく、画と物語があれば誰でも歪曲と判ってくれるよ」

これはネットに詳しい住田くんの意見。

「おれが削除請求するか?確か、法務省がいいんだっけ、酉野菜乃」

虎丸が菜乃に聴く。

「いや、これは俺がやるよ。室井くんや酉野さんは撮影に集中してくれ」と彩先輩。

「その必要は無いね!!」

カフェテリアに響く、その声。

その声の主、龍王院エリス!

皆が振り向くと龍王院エリスとその背後には女子部員たち。

―あ、あれが龍王院エリス!

と芽里亜。

―背後を取られ、この距離まで、一切気付かなかった!

と菜乃。

前回と同じく、マントを羽織った黒一色の衣装、肩まで伸びた黒髪は額を出すために後頭部で束ねられている。

菜乃と芽里亜よりかなり身長が高いが、それだけがこの威圧感の正体ではない。

―こ、このひとは生まれながらの芸術家にして、カリスマ!

これは意外にもあきらの感想。

「あなたが酉野菜乃さん、こちらが安芽里亜さん、ですね」

エリスに声をかけられる度に二人は「はい」と「ええ」と返した。

「私は、私の名は、龍王院エリス、以降、お見知りおき下さい。ところで本日の用向きですが」

そう云うとエリスは背後に隠していた左手から、地面にある〈モノ〉をトサッと置いた。

その〈モノ〉は矢間りえかだった。

「こちらの矢間です。あなたたちへの誹謗中傷をネットで流した張本人です。後ろにいる部員と私は共謀どころか知りもしなかった。最近、複数の部員から、この犯罪を知らされて、某当局に逆探知させ、矢間の単独犯が判明したので、皆さまに差し出しに参りました」

エリスは淡々と話す。りえかは菜乃と芽里亜を睨みつける。

「話は判りました。それでどうするんですか?」と菜乃がエリスに話す。

「この者は卑劣な存在です。あなたちはどうしてもいいと思います」とエリス。

「私は女だから、男と違って殴ったり・胸倉掴んでも、憎しみは消えるどころか、更に憎しみが増すことを知っている。そして証文や反省文を書いても書かされたことで、よけい憎悪が増えることも判っている」

菜乃の言にエリスは少しだけ目を見開いた。

―ああいう表情はつまり「この女、できるな」の表情!

あきらの分析。

「龍王院さん、あなたの対応はさすがです。でも、あなたが私の立場なら、どうしますか?」

そう、菜乃とエリスの闘いは既に始まっていたのだ。

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