第四章 映画大学の映研カレー蕎麦 10
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15時、もう終わりかけの時に、彩先輩と綾川さんがやって来た。
綾川さんは、言わなくていい・聞きたくもない同人誌をヤマのように買っていた。
そして彩先輩だが、こんなふう。
「俺、アレだよ、酉野さん程じゃあないけど、高校生の頃からコミケ来ていたんだ。で、映画評論のサークルと他大学のSF研に所属して、執筆もしているよ」
「私はコミティア系の連中の打ち上げ参加するから、ここいらで失礼!」
と早く撤収して遊びにきていた青山ユキエが去る。
「菜乃はみなさんとお行きなさい。私はユラと無限極限の方の打ち上げに行くからね」
そう云って亜美衣とユラが去る。
今回はナノトリノにサークルを譲り、同人は一般参加して買いにだけ来ていたメンバーちらほらいたのだ(ただユラは個人サークル「お魚いっぱい猫の街」で出店していた)。
「あのさ、酉野さん。亜美衣さんには同格の友人がいて、そっちの方に合流ってことだよね。じゃあ、あの亜美衣クラスのおかしい連中が未だ大勢いるってこと?」
虎丸からの質問。
「流石に亜美衣さんみたいなのは一人だけで、あとは退部はしていないけど、結婚や出産で来なくなった人も多いよ」
撤収準備を始める。
結局、パンフレットも画コンテ集も各々約50部くらい在庫となった。
でも、忙しくて関係者に配っていなかったので、彩、野笛、菜乃、芽里亜、あきら、虎丸、さっき帰った亜美衣に計7冊配った。
「芽里亜のランクルに運ぼう。男の子たちが残った本やノベルティグッズを運んで!」
だいたいのメンバーが吉祥寺方面だから、ランクルで移動し、そこいらで打ち上げという話になった。
片付けは女子三人でしていた時に、その男の子は来た。
「すみません!画コンテ集とパンフレット買いに来たんです!もう、やっぱり無いですよね!?」
「よしきた!」
野笛が小走りで男たちを追う。
「すみません、コミケってよく判らないから、16時までだし、最後の1時間で来て、ここにくれば買えると思っていたのですが、場所が判らなくて・迷って、ここに来るまでに時間がかかっちゃいました」
一見中学生くらいに見えるが、はきはきとちゃんと話せるし、高そうなスニーカーがそこそこ育ちが良さそうな感じを、居残った菜乃と芽里亜は感じた。
「で、お聞きします。お二人が酉野さんと安さんですか?」
二人はそれぞれ自己紹介する。
「あ、ぼくは二日目のナビゲーション・フェスタで『二人の失楽園』を拝見したんです。とても面白かった!だから、XTwitterで知り、その映画のパンフレットと画コンテ集を買おうと思ってきたんです!買えるの、すごい嬉しいです」
「男の子が私たちの映画を気に入ってくれたなんて、嬉しいな」と菜乃。
「ホント、初めてじゃないの?」と芽里亜。
なんとか芽里亜は先の心の動揺を落ち着かせられた。
「いや、お世辞じゃないですよ、だって、ぼく、ホモですから」
―!
これは菜乃と芽里亜の心。
「オープニングの相川あきらさんの裸体、瘦せ身でスゴいエロかった。パンフレットにもスチール写真載っているんですよね。対して、室井虎丸さんのワイルドなキャラとカラダ、見事なコントラスト。ラストのディープキスも感涙ものでした」
―この男の子、どっち?判らない?あのユラって子やジェーンは判ったのだけども。
だから芽里亜は発音することにした。
「観てくれてありがとう。だからさ、本当に言いたいことを言ってくれないかな?」
「いやぁ、ゲイだからあんな美しい裸見られて嬉しい、って伝えに来たんです」
「さっきコミケは初めてだけど、コミケは作者と直に話せるくらいの情報はあったから、来たんじゃないの?高校生ならば、今度部外者が来校できるのは10月末の学園祭だもの」
次はようやく気付いた菜乃。
「うん、お姉さんたちの作品、ホント素晴らしいってのはホント、ウソじゃない。そうなんだ、映画としてもBLとしても良かった。でもね、ちょっとさ、同性愛者を利用しているな、とも思った。で、あのハッコウとリュウセイって同性愛者なんですか?そこが僕には最後まで判らなかった」
―やっぱりそういうことだよね。いつかは来る、それは作品を公にした時に覚悟しておかなければならない。
「同性愛者ではない。その傍証にならないかもしれないけど、AFしてない」と菜乃。
「うん、それは角度判ったよ。あのBL展開はうけ狙いですか?」
「ある程度の必然性はあるけど、冒頭に持ってきたから判るようにうけ狙いの側面もあった」とこれも菜乃。
―なんで、弁が立つ彩先輩、亜美衣さん、相川くん、全員いないんだよ!
菜乃以上にパニくっている芽里亜。
「それもいいんですよ。おれ、不良だから、二丁目にはもう出入りしているけど、けっこう多いよ。ノンケなのに男とセックスできるヤツ。特別な自分と異端のコミュニティが手に入るから、それくらいヤル。そんなヤツらはクソだと思っている。で、ハッコウとリュウセイにも同じものを感じた」
「特別な状況に追い込まれた二人、高級官僚とテロリストという世界を変える地位とチャンスを持っている二人、だから、キックとして愛し合った。それは確かに一般でいう同性愛者とは違う」
菜乃の反撃。
「ああ、旧日本軍では命を懸けた兵士同士が男色行為にふけったという、アレだね。それは確かにホモではない。すると三島由紀夫ですらホモではない。じゃあ、聴くがオレたち同性愛者は結局どこにもいない、ということになってしまう。これ、差別じゃないですか?違いますか?」
「過去に古代ギリシャと日本の戦国時代にだけ、同性愛は尊重された時代があった。それもノンケの玉遊びだとおっしゃるか!」
菜乃、ハマーン風。
―ミヤコ、あんたの知識や屁理屈に感謝する!グラッツェ!
「それは近代以前の男色という趣味の話だ。同性愛者は近代的自我に基づく、シュトワイヤンとしての市民だ、主体だ。この近代の原則を無視すると映画や近代文学は破産するゼ!」
「さっき、相川くんと室井くんのカラダを褒めてくれた、それがいいんだよ。私は撮影中、この世でいちばんドキドキした。別に正義や自由といった観念のために作品を作っているワケじゃない!このドキドキを伝えたくて創作しているんだ。あなたこそ近代的市民とかマジメ君になったり、二丁目に入り浸っている不良とか、そういうのはダブルスタンダードと言う!論点を展開させる上で自分の立場をグラつかせないように!」
「でもこの映画はポルノでもないよね」
「うん、人間の自由というのは権利とか義務の話じゃあない。同性愛者じゃなくても、同性とセックスするくらいニンゲンは自由であるということだ。違うかい!少年!?」
―あ!菜乃、えっ、私とジェーンのこと気づいていた!?
一瞬の間、この数回のやり取りで押し切れなかったので、自分は負けたと少年は気づいたから。
「学園祭、又新作作る?」
「ええ!作るよ!ここにいる相棒と!」
「それを見に、また来るよ」
「判った。でも私の相棒に謝ってくれない?じゃないと許さない」
その菜乃の言葉に芽里亜は初めて気づいた、自分が滂沱の涙を流していることを。
―少年とはいえ男に突然ケンカを売られたから?突然のジェーンとの再会の直後にそのことを難じるように詰め寄られたから?
「ごめんなさい。必ず、新作観ます」
そう云って、会釈し、少年は去った。
10メールくらい行ったところで、野笛から新作2点を受け取っているのが見えた。
身長五センチ差はあるので、菜乃に抱き着くとちょうど芽里亜の口が菜乃の喉あたりにくる。
そのまま芽里亜は号泣。
周囲の目を気にせず、わんわんと泣く。
「初めての出店でアレだけ、売れたからって、大袈裟な」
勘違いしている野笛。
「どれだけ売れたんです?」
横のサークルの人。
「2000部刷って、完売です!」
少し盛った野笛。
「それは凄い、みんな拍手だ!」
歓声と喝采の嵐が起こる!
「芽里亜、今度はもっと面白いもの創るよ!」
「菜乃、付き合うよ!学園祭ではこれ以上の盛り上がりを!」
ちょうどこの時に場内アナウンスはコミケの終了を告げ、更に割れんばかりの喝采が会場を埋め尽くした!
こうして第一部は終る。
次の第二部に乞うご期待!




