第四章 映画大学の映研カレー蕎麦 8
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昼前にはあきらがやって来た。
なんでも虎丸から「おれは多分、売り子できないから早めに着てくれ!」と頼まれて、7時頃に着き、律儀に並んで、待っていたとか。
菜乃はあきらにアクエリアス500mを一本飲ませて、座ってもらった。
あきらは毎度の如く、顔色も変えず、売り始めたが、中にはフェスタで既に「二人の失楽園」を観たお客さんもいたので、その時には笑顔を作るくらいはした。
―あ、この子も少しづつ成長してんだな。
芽里亜はその笑顔や握手、売る時の段どりを見てそう思った。
午後には列もなくなったが、それでも客足は絶えない。
「並ぶのはやっぱり男の子の男性向け創作が多いな。釣りのように何時間も待って大物狙うような。対して女の子は待っているのイヤで、面白い本をいっぱい買うような買い方、それはイチゴ狩りや山菜取りに近い。男女差は狩猟時代から変わらないもんだね!」
そんな講釈を菜乃が宣っていると「くださいな」と声をかけてきた、この暑さなのに藍色のカーディガンをかけた女の子が来た。
「ふみちゃん!」
「菜乃ちゃん!今度は映画だって、すごいね!是非見せてよ!」
大宮山ふみ、やはり菜乃の高校の同級生。
「あのぉ、配信はしますけど、菜乃の友達のようだし、あとでDVDで焼きますよ」
芽里亜はさすがに会場にそんなDVDは持ち込んでいなかった。
「いや、正規ルートで観ます。コンビ組んでるんだって?いいな、菜乃ちゃんと組めるの羨ましい」
あきらがテキパキと購入した新刊2冊とクリアファイルとタペストリー(菜乃のイラストの方)を受け取っているが、発音のどこかにやつれを感じる。
「ふみちゃん、ちょっと座っていかない」
菜乃が立ち上がる。
「ううん、待たしてあるから」
ふみが視線を送る先にはカレシであろう、同世代の背の高い男の子がいた。
彼は菜乃たちに軽く会釈する。
「あっ、あの幼馴染さん」
「そう、女の子たちの集会をジャマしたくないって待っていてくれている。今度はゆっくり話そう、涼しいところでね」
と、カップルの男の方はふみちゃんをいたわるように去った。
「今度はどういうコ?」
「ふみちゃんは美術部で、美術系で美術部いちのエースだから単純にデッサンとかアングルで云えば、学年、いや、学内最強だった」
「へー、漫画は描いていたの?」
「うん、アフタヌーンの四季賞で大賞を受賞した」
「え~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!」
会場内はうるさくても芽里亜さん、大きな声は出さないように。
菜乃の話によるとアレはもう対象を視る目が違う、その解析する脳内が違う、そして再現する指が違うそうだ。
画壇に出るなんて話もあったが、そういうのじゃないなとふみちゃんはイラストや漫画に興味を持った。
藤子Fとやなせたかしとさくらももこしか知らないふみちゃんは菜乃たちに協力は仰いだ。
ふみは腰が低く・物腰が柔らかいが、探求心の塊のようなひとだった。
菜乃とユキエがコマ割りや漫画独特なパースを教え、ミヤコが戦後約80年の漫画史に登場した漫画家列伝を伝授した。
実際、絵画では表現できないモノをできる喜びにふみは溢れていた。
そして描いたものをみんなは読んだ。
順番にミヤコ、ユキエ、菜乃。
―これ、何?大友克洋と近藤ようことふくやまけいこが同居している!?
―おいおい、これが1作めって、わたしが今までやってきた労力と時間、ムダってこと!?
―これは、これはアレだよ。これはふみちゃんの魂のことが描いてある!私ならば怖くてここまで晒せない!
漫画は哺乳類ではあるがニンゲンではない生き物の家族群像で、兄との近親相姦が匂わされ、そこには母親殺しの主題も思わせたヤバめのもので、でもメルフェンな作風で、そう!残酷童話のような漫画であった。
―こりゃ、もう漫画じゃない。バンドシネだ。西洋の文脈に置かないとダメなヤツだ。
これは亜美衣の感想。
それがアフタヌーンの四季賞を受賞。
次に読み切り短篇を依頼されたのだが、ふみは高校を休むようになった。
で、菜乃たちが押し掛けた。
案の定、締め切りのため不眠不休で描いていた。
「しゃっ!私たちも手伝う!」
ユキエがそう云えたのはこの日が夏休み前の終業式だったからだ。
女の子計4人が大宮山家に泊まって書き続けた。
その間の食事を作ってくれたお母さんは良いひとだった。
今度は家族ものではなく、友達たちとの友情もので、かなり同性愛めいた話だった。
―あー、このコ、凄く、出ちゃうんだ。心や魂から駄々洩れにできるんだ。
それもかなり評判がよかったのだが、次に連載の話が来た時に、ふみは断った。
休みがちにだったが、高校卒業はできた。
今はエスカレーターで入った美大(ちなみに菜乃以外の四人はみなこの進学)では陶芸のコースを選考している。
女子高だけど、ふみが倒れた時に一度、同世代の男の子が家族が皆多忙で外せないからと迎えに来たことがあったが、それが確かあの会釈した男の子だったハズである。
「あのふみちゃんさん、不幸じゃないですよ。むしろ幸せです。ひとは判ってもらいたい・理解されたいだから、会話したり、ネットしたり、作品を作ります。だからたった2作めでそれ、達成しちゃったんですよ。だから、これからはいい奥さんやいいお母さんになればいいんですよ」
あきらのその言葉に芽里亜はふみちゃんという天才を理解したあきらを訝しくみた。
ただそれは野笛と亜美衣の登場で遮られた。
亜美衣が持参した小型のクーラーボックスにはアイスクリームがいっぱい!
「この私がコミケに午後入場とはヤキが回ったよ」
「ヤキが回ったって本当に発音するひと初めて会いました!」
と、菜乃・亜美衣の師弟漫才。
「菜乃、亜美衣師、ごぶざたしておりました!」
―来た!四人め!
芽里亜がそう思って見た相手、安具楽ユラはやはり菜乃の同級生で、このクソ熱いのに美樹さやかのコスプレをしている。
「ユラ、さっきブースに買いに行ったらいなかったのは行き違いだったようだね」
「はい、亜美衣師。新刊、どうでした?」
「いや、さすがに未だ読んでいない」
「すみません、出過ぎたマネを!今度は亜美衣師を想って描きました」
「いつもじゃないか、ユラは」
野笛も芽里亜もぽかーんとしているが、後に菜乃から聴いたところには、ユラは漫研イチの手練れで、なにより百合漫画で切なく・美しく・はかなげな少女群像を描かしたら右に出る者はいなく、そのナチュラルなエロさはふみちゃんですら、一目を置いていた。
だが女子高で百合漫画を描きまくっている女の子、おたく属性のない女の子から気味悪がられた。
―いや、私、フツーに男の子好きですけど。
そうは云われても、クラスメートを明らかにモデルにした体形や容姿、これは菜乃やユキエもやられた。その毒牙にかけらるのではないかと誰もが恐れていた。
漫研の部誌で描くだけだった中、ユキエの件もあり、ユラもコミケに連れて行った。
「師匠!私を弟子にして下さい!」
帰り道、ユラは亜美衣にそう云った。
それからは高校の学園祭に亜美衣が来て、ようやくあのコは年上のレズの相手を見つけてくれたから、私たちはもう安心だ、となった。
実際、無限極限の主要メンバーでもある。
―でも、違うな、そのコが自身で言うように同性愛者ではないな。
これは芽里亜がこの時のユラの素振りや言動を回想して判断。




