第四章 日映大学の映研カレー蕎麦 1
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〇イントロダクション
「『撮りたい映画はただ一つ。BLです!つまり男同士が愛し合う映画です!』と新歓コンパで私こと安が叫んだのはもう約四ヶ月前のこと。ところがこの部活には打てば響く新入部員の女の子がいました、酉野菜乃。藤本弘と安孫子元雄で藤子不二雄、ポール・マッカートニーとジョン・レノンでビートルズ、マンフレッド・リイとフレデリック・ダネイでエラリイ・クイーンと漫画、ロックバンド、本格ミステリでコンビはいるけど、映像ではいないな、しかも女性ではいないよな、と取り敢えず私が脚本を書き、酉野が画コンテを描きました。すると映画ライターも兼ねる院生の先輩から先行作やSF考証を、同性の先輩からは機材の使い方やCG処理を、部員の皆さんには実に多くのことを学び・手伝っていただきました。
なにより主役の相川くんと室井くんの勇気には敬意を表します。
みなさまのおかげです!」
〇ストーリー
「2年後の未来、世界はAIに支配されていた。政治不信や格差社会、グローバリゼーションと新自由主義の蔓延により、人類は半ば自ら社会の運営を人工知能に任せた。半年もしないで政治の執行はAIに移り、その平等性と差別のない判定は多くの人々に支持された。教育や経済だけでなく、なにより司法までAIに譲渡された時、世間は根源的なアイデンティティやレーゾンデートルの消滅に気づいた。だが、人々は何もしない。ただAIの下で働く官僚やAIに反抗するテロリストを一方を「裏切者」と、他方を「平和の敵」と罵り憂さを晴らすだけで、何の行動もしなかった。高級官僚のハッコウとテロリストのハッコウは中学まで幼馴染だった二人。再会した二人はお互いを求め合い、二人の情報を照らし合わせ、協力すればゴーストバンク(生者でないAIの集合体をこの世界ではこう呼ぶ)を瓦解させることに気づいた。バルスキー始めとるAIに身体を乗っ取られたニンゲンやドローンを相手に二人の闘いが始まる」
〇登場人物紹介
ハッコウ(17)
高級官僚で、現在の官房長官のように答弁やスポークスマンも務める。
異常に若い身でありながらこの地位はゴーストバンク集合体による能力審議のため抜擢されたから。
ハッコウ再会の時におのれが様々な意味で、マレビトだと気づき、リュウセイに共鳴。
ただ彼の目的はAI壊滅ではなく、更にデカい。それはおそらく世間や社会への恨みがそうさせるのであろうか。
リュウセイ(18)
この時代は身分が固定されている。貧しくても生きていけるということ。
だから、リュウセイのように稀に大抜擢されるものもあるが、多くの人は貧しいが安全な人生を選ぶしかない。
その中にあり、リュウセイは自由を選んだ。彼だけでもコンサート機械人を何体も倒し、ゴーストバンク集合体のモニュメントを破壊してきたが、限界を感じた時に、幼馴染のハッコウと再会。
果たして、それは彼が望んだ未来だったか?
コガ博士(65)
20代に見えるが、(超富裕層の誰もが行う)不老処理されているので実際は高齢。
三次元インターネットやゴーストバンク集合体の創立に初期から関わってきた。
だがなにより、若さや自由をうらやむ人物。
クールギン
ゴーストバンク集合体の代表者的存在。彼以外もそうだが、集合体なので、上部下部の概念がない。
人間の肉体に融合~コンサートして活動する。
クールギンが出てくるということは孫悟空が自分の毛をむしって分身を作るようなものつまる従者〈スレイブ〉という概念がいちばん近い。
バルスキー
そのスレイブでもいちばん堅牢な端末。だからこそゴーストバンク集合体の中でなく、重要人物の軟禁をこの従者に別枠にして任されていた。
その使命を知っていたのはコガ博士含めて数人。
ちなみに人間の融合~コンサートしている時にはオフモードのスタンドアローン状態なので、その人間が死ぬような攻撃を食らえばスレイブも死ぬ。
ゲルドリング
おそらく衆人観衆の中でハッコウを暗殺しようとしたので頭は悪い。
するとスレイブにも個性があることになるが、さて。
ドランガー
数百、数千のドローン、単純思考のスレイブをいっぺんに操れるスレイブ。
普段はF14にコンサートして、地球中を移動している。
米国空軍の最強ジェット機が何故配備されているか?つまりある意味、世界は統合され国境も戦争もない状態だということ。
ではハッコウとリュウセイがやることは本当に悪ではないのか?
ここから見開き4頁、菜乃の描いた画コンテの抜粋。
今までの登場人物紹介やこれからの記事にも画像が多く貼られている。
〇室井虎丸インタビュー「抵抗!?あるに決まってますよ!(笑)」
・最初に台本や画コンテを読んで・観てどうおもわれましたか?
「暗い話だなぁ、と(笑)。でもそうは云い辛いから、違うこと言って批判した。何言ったかは忘れたけど」
・いや、なんか自衛隊のその戦車とか出ないのはおかしい!と言っていた!
「芽里亜、今回インタビュアーだろう!?でも、芽里亜が抽象的に書いたトコを具体化したり、設定で補完したりして、なんだろう、第一回作品に付き物の難解に逃げるということにはならなかったのは良いことだった」
・うん、どっかそういうふうなのがかっこいいと思っていたかも。でも菜乃の画コンテを見て、ああ、やっぱり現実を撮影する映像作品はごまかせないと悟ったので、書き直ししたよ。
「いちばんは、これだけデカいことをやる二人なのに、宗教とか思想とかも共通に信じるものがないっておかしい。じゃあ、もともと、ホモセクシュアリティの話が土台にあるんだから、そうするしかないし、同時になんやかんやで生き辛い同性愛者と世間や社会を向こうに回して闘う二人をオーバーラップさせるしかないよね、とは提案したな」
・提案していただいて、ありがとうございます。実は私も提案したかったんですが、そこまで業を背負わせるのはどうしたものかと。抵抗はなかったんですか?
「抵抗!?あるに決まってますよ!(笑)ただおれの場合は童貞じゃねーし、別のああいうの初めてじゃねーし、それが男に変わっただけだし。ひと言で云えば、興味本位もあったな。どこかバイセクシャルなのかも」
・いや、ロ
「よせ!せっかく裸身まで晒して、学内におれのファンのコ、いや、配信やコンペディションで見てくれた女の子をトリコにする予定がそのひと言で霧散する」
・今回、何に気を付けて演じられましたか?そして本作の総評を出演者としてお願いします
「実はもっと小難しいものを期待していたんだよ、エヴァみたいなヤツ。でもシン仮面ライダーになっていたんで観たおれが、いちばんそこに驚いた。でもさ、シン仮面ライダーって、シンゴジラとシンウルトラマンと比べて確実に劣るじゃない(笑)。次の課題がせめてシンウルトラマンかな。演技に気を付けたこと、は、多分さ、芽里亜の脚本ではハッコウは狂言回しで、リュウセイが主人公だったろ?でも実際観ると逆なんだよね。それに気づいたのは2回めのロケのオフィスのシーン。完全に相川に持っていかれているから、そこはもう流れができたから、反対もせず、巧く乗るしかないと思っていた。例えば、あらかわ遊園のシーンで、乗り物に乗って下界を見下ろすリュウセイって、脚本では神視点なんだよ。で、家族連れやアベックに混ざって俗事を話すコガ博士とハッコウってのが狂言回しでさ。するとゲルドリングをナイフで瞬殺するシーンはリュウセイの超人性になるんだけど、ゼロ号試写を観るとリュウセイはガキだから乗り物で遊び、ガキだから生き物を平気で殺せるってシーンになっているよね。そこは彩さんだけじゃくて、おれも、みんなも全員相川に引っ張られたよね」




