第三章 荻窪のラーメン二郎 1
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その日、三人は芽里亜の部屋を直ぐ後にした。
そのため野笛とは合流出来ずじまいだった。
「私、画コンテを全部書き直す」
菜乃がこう云うとあきらが「どのくらい、かかる?」と尋ねた。
「多分、一週間はかかる」
果たして、芽里亜のLINEに完成の報せが届いたのは、二週間後の早朝であった。
その二週間は菜乃がまったく講義にも出ず、他の三人と会わない・連絡を取らない、二週間であった。
始めのうちは芽里亜が代表して、菜乃にLINEを入れていたが、『大丈夫』とだけ返ってきたのだが、一週間を超える前に芽里亜が電話すると、『本当に大丈夫、三週間後に私からレスなかった時は又電話して』と云われたので、芽里亜はそう判断した。
三週間はかからなかったが、大学を休んで書き上げた画コンテを直ぐにノートパソコンで芽里亜は読んだ。
冒頭でいきなりリュウセイとハッコウの性描写がある。
―映像化したら一分くらい、か。
芽里亜が脳内で再生したのはそのくらいの時間であったが、その一分は出だしで観客を殴る一分だ。
そして、読み進めると、何故に菜乃が二週間もかけたのを頭で理解し、心で納得した。
―物語は大して変わっていないが、全編書き直している。全編に緊張感が違う、ぴりぴりとした空気感がコマ割りの中で爆ぜている。これを撮らなきゃいけないのか!?
云うなれば、裏切り者の政府高官とテロリストとは、社会の中で、悪であり・間違った存在だが、それでも社会を構成する役割だったのだが、完全に二人はそんな世界の埒外にいることになっている。
しかも、これは芽里亜の解釈だが、あたかもホモセクシュアルがこの世で、リュウセイとハッコウしかいないような世界なのだ。
『読んだ、熟度した、9回ゆっくり読んだ。よかった、とてもよかった』
電話してもよかったのだが、芽里亜は菜乃にこうLINEした。
『それはよかった。当分眠る』
『その前に、これ、室井くんと相川くんに読ませていい?』
『勿論!』
芽里亜は直ぐに二人へこの画コンテを添付したメールを送った。
画コンテが変わったことと二週間止まっていた撮影を再開するため、芽里亜はスケジュール表を更新した。
案外面倒なスケジュール調整、持ち出しだが何いくらかかったのか経費の集計、繋ぐときに必要な所謂スクリプターの仕事を芽里亜が一手に引き受けていたのだ。
―うん、これならば、撮影は遅くとも7月の第二週に終わる!
7月27日、28日の土日がナビゲーション・フェスタの開催日。
編集は二週間あれば足りるとみた。
なにしろ主要なシーンは丸の内のビル内もリテイクが決まったので、未だ撮れていないのと同じだ。
―なにより完成させないといけない。
そう、第一作めなのはこれから第二作、第三作と創っていくことなのだから。
グループLINE〈ナノメリア〉には、
タイガー『コレ、大分尖ったじゃんよ』
アキラ『印象、変わりました』
と二人の感想が書き込まれた。
タイガーは虎丸、アキラはあきらだ。
アメリア『でも、大丈夫?冒頭のシーン、できるのかい?』
アメリアは芽里亜のこと。
タイガー『おれは大丈夫だけど、経験豊富だから(笑)』
アキラ『別にやれと言われればやります』
タイガー『アキラがそう言うならば、問題ないんじゃないか』
アキラ『問題ないです』
タイガー『練習でもしておくか(笑)』
ナノ『いや、タイガー、それはナシ!ともかく初々しさ、いや、むしろ同性愛者じゃない二人が目的のために契約として交わってしまう綱渡りのようなシーンにしたいんだ』
アキラ『眠っていたんじゃないんですか?』
ナノ『眼が冴えてきた。これを実際にカメラの前で演じてもらって、撮影して、編集して、音入れて、みんなの前で流すなんて、信じられない!』
アメリア『じゃあ、撮影は明日だ』
そう、このテンションを失いたくない。
二週間かけた菜乃の執念と、その間、団結して、芽里亜の部屋から帰宅して二週間ふつふつと待ち構えていた三人。
―冒頭のシーンの張りで多分決まるから。
次の日は土曜、虎丸の部屋に皆が集まった。
虎丸は部屋を片付けていた。
最初に着いたのは芽里亜だった。
「本当にいいの?」
「あと数分で相川と酉野さんはやってくる。今更、したくありません、なんて、言えないだろう」
「こりゃあマズい、ってことになったら、止めるよ」
「今から、あんなことをする片割れに削ぐこと言うな」
「室井くん、今は付き合っている人いないの?」
「?」
「この撮影が済んだら、私、私の・・・」
「ふん、おれはロリコンだぜ!そういう取引は逆効果だ。相手を見て、言葉を選べ!あれ!?どこ出身だだっけ?」
「八幡浜」
「えっ、近所?」
「それは八幡山。ったく、私の脚本にケチつけたかと思えば、プロジェクトを破滅に導く演出と演技を要求してくるし、疫病神みたいな男!」
「違うよ、おれは、いや、おれたちは脇役に徹している宿命なんだよ」
芽里亜が言葉に詰まったのは、パワー負けしたからではない。
―こいつも、脇役だという認識があったのか。
こういう諦観に芽里亜が気づいたからだ。
そうして、菜乃とあきらが並んでやって来る。
ピンポ~ンというチャイムが鳴った時に、虎丸は芽里亜の耳元で「もしあの菜乃ってコが泣き始めたら、直ぐに外へ連れ出してくれ、そして芽里亜の判断で、帰宅してもいい」と囁いた。
こうして、菜乃とあきらを部屋に招き入れる。
皆それぞれ挨拶を澄ますと、菜乃は芽里亜の耳元で「アレ、聴いて」と囁いた。
「室井くん、相川くん、アンダーヘアは剃ってきてくれた?」
虎丸は「ああ」と、あきらは「ええ」と答えた。
そして二人は、部屋のユニットバスに入って行った。
脱いで、ネットで検索して・ガーゼと靴下とガムテープで作った男性器を隠すための前張りを付けるためだ。
今回、野笛はあえて呼ばなかった。
男性とはいえ、恥ずかしい現場、あまりひとはいない方がいい、ということ。
―いや、違うな、それよりもあれでマジメなノブ先輩、中断を言いだすかもしれない。
そう、芽里亜は思っていた。
「出ますよ」
あきらの声。
虎丸は腰から、あきらは胸からバスタオルを巻いて現れた。
「二人とも、シャワーは浴びなくて平気?」
これは芽里亜だが、バスタオルを巻いているとはいえ、全裸の男の子二人がたった2メートル先に並んでいる非日常に耐え切れず、日常っぽいことを云ってみたかったのだ。
けれどもあきらは「はい、大丈夫、家で入浴してきました」と答え、虎丸はスルーした。
虎丸の部屋にはパイプベッドがある。
2人の男性はそのベッドに腰掛ける。
芽里亜はデジカメを構える。
菜乃が「じゃあ、始める」と声に出した。




