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第二章 西荻窪のそれいゆ 7



     7



彼は日本だと大林宣彦、金子修介、今関あきよしの作品を好んだ。

だから虎丸の映画の知識が妙なものに詳しい時があるのはこの趣味に基づく。

「じ、実際に、そういう女の子をなんとかしたいという欲望があるの?」

―今ぼくは、荒木飛呂彦の漫画におけるビーティーにおける公一くん、第四部における康一のような立場に立っているぅぅぅぅぅ!

あきらはフリーターの兄の影響で荒木の漫画はよく読んでいた。

「それはな、相川。あのコたちは年齢的に子どもだ。親に未だ甘えた盛りだ、友達とお出かけしたり・今のおれたちのようにこんなふうに甘い物を食べたいんだ。そんなことをしたら・したいと知ったら、悲しむよ。愛するものの泣き顔なんて誰がみたいものか!」

―室井くんは今うっすらと涙を浮かべていた。

「でも、例えば親から虐待を受けていたりしていた場合は自分ちに保護しないの?それに、お世辞じゃあなくて、室井くんイイ男なんだし、『お兄ちゃん、いいよ』と言われる可能性は高い!そんなときみならどうするんだ!?」

―他人をからかうのって気持ちいいもんだな、って!

そう、虎丸は頭を抱えだした。

―本気で悩んでいる、悩んでいるんだ!

「ごめんよ、ヘンな質問したよ。忘れてくれ!でも、これをどうするの?企画の話をぼくらはしていたのに、なぜそんな話を!?」

「おれの話、面白かったか!?」

「う、うん。つまらないってのはないかな、面白いとかではなくて、心に深く刺さったよ」

「そうか、ありがとう。これを学内でなく、youtubeでやりたいんだ!顔出しは当然しない!潜在的な同好の士は百万人を軽く凌駕するよ!」

虎丸はようやくクールダウンし、二人は思い出したように、カップに口を付けた。

「お客さん!店内で物騒な話は止めてください!」

「!」

「!」

最初のエクスクラメーションマークは虎丸、次はあきら。

声をかけたのは芽里亜。

「そっかぁ、虎丸くんはちいさんおんなのこがすきなんだねぇ、どう?私が赤いランドセルでも背負ってあげようか!?」

「な、なぜここに!?」

話は少し戻る。


彩先輩こそまさに西荻窪出身だった。

彼はあの後に野笛から電話で相談受け、別の企画をやるから自分らの「二人の失楽園」には出られないという旨を聴いていた。

だから、駅前で虎丸を見つけた時に「ああ、ノブ?今あの室井くん見つけたよ」と電話した。

『見つけたってしょうがないじゃない』

「しょうがなくないじゃない。安さんってコ、自分らの企画に散々ケチつけて、そっちの企画見せないままトンズラか!って憤懣やるかたなしって怒っていたんだろう」

『せめて一矢報わせてやろうと』

「多分、それいゆ行くと思う。前に室井くんを2回みつけたから」

『喫茶店なんて何軒もあるじゃんよー。ちょ、待って。菜乃ちゃん、うん、何?ああ、そう。先輩、今さっき菜乃ちゃんが相川くんに会って、『今から西荻窪の喫茶店で企画会議です』って聴いたって』

「なんだよ、推理の甲斐がないくらい、あっさりしているな。こっち来れば?多分、その相川くんと違って、室井くんの方はレコンキスタから跳ぶ可能性あるし」

野笛はゼミがあったし、彩先輩は実家の手伝いの途中であったから、菜乃と芽里亜だけで行くことにした。

果たして、あきらはその直ったプロジェクターの片づけの手伝いをしていたので、菜乃と芽里亜の方が早く西荻窪の駅に着き、真ん前で待っていると聴いたからマスクをつけ、雑踏にまぎれようとしたが、幸い近所の古本屋に行っていた時刻だった。

そして先にそれいゆに着いた。

最初は興の乗ったトコで、「私たちにもその企画書見せてよ」とか云って入り、再度役者としての出演を交渉しようと思っていたのだが、ちょうど背中合わせに座る位置にあきらと虎丸は席を取った。

そして企画書が3通読まれた後に始まったのが、虎丸による絶望的なロリコン・トークだったのだ。


「いつから、ですか」

敬語を使った虎丸。

「最初の企画書、特撮と映画評と震災の話の時、つまり最初からずっと」

芽里亜とあきらほどには虎丸くんのロリコン趣味を笑いにできない菜乃。

芽里亜はコーヒーゼリーを、菜乃はコーヒーゼリーロワイヤルを手に持ってあきらと虎丸の席に着いた。

あきらの隣には菜乃、虎丸の隣には芽里亜というふうに。

「室井くん、私も菜乃も黙っているから、『二人の失楽園』に役者として出演して!お願い!」

耳元でそう芽里亜に云われ、虎丸は微動だにせず。

「芽里亜、そういう弱みを握るとか、脅迫っていうのは、ねぇ」

そう云う菜乃はそういう趣味を持つ男性と撮影等の作業中一緒にいるのと思うとちょっと困るなと思っていた。

「あのぉ、二人とも、酉野さん・安さん、ぼくは出演します。だから、室井くんはいいじゃあありませんか」

あきらがそう云うと虎丸が追従する。

「いや、相川、おれも出るよ。おれの趣味の話はあの大学でお前ら三人しか知らない。見張らないといけない。あのなんだっけ、映画に詳しいヘンな名前の、あ!彩先輩にノブ先輩って呼ばれている女性の先輩、他の部員、いや全学生、全教授や講師、全職員、ともかく誰に言うなよ!これが条件だ!」

「さっきの話をyoutubeでずんだもんで配信する話は?」

「ナシに決まってるだろう!」

「言い方、改めて」

「ナシですよ、安さん」

「芽里亜でいいよ。これから数か月か一緒なんだし」

「すみません、ぼくは女性を呼びつけにするのが苦手なんで、僕は苗字読みでいいですか?」

「うん、じゃあ、私、相川くんは酉野さんでいい。室井くんは―」

「酉野さん、恐がるのは判るけど、本当に小さい女の子をどうにかするっていうことじゃあないんだ。本当なんだ、信じて欲しい。一緒にこれから作っていく仲間におれだってキショく思われたなくない!」

「でも、室井くん、少女を美しいと思うんでしょう?」

「当然だ!」

立ち上がり、帰ろうとする菜乃。

三人とも手を伸ばす。

「まぁ、いいわ!私もコミケ行っていて、変態扱いされていたことあったし、いいよ!室井くん程度のロリコンならばいっぱい知っているから、しかも小学生の頃からね!」

「小学生!」

「よし、虎丸への報酬は私と菜乃の小中時代の画像に決定!」

「すげぇな、芽里亜、女子高生にはもう興味ないのをよく当てたもんだ!」

これには菜乃も笑った。

「すみません、お客様、話の内容がハイブロウ過ぎてですね、他のお客様が眉をひそめております」

エラくかっこよくて、長身のウェイターが云った。

芽里亜が代表して「帰ります!お会計をお願いします。ごめんなさい」と云った。

「おい!みんな!このまま解散はつまらないよ!なんか二次会と行こう!」

こう云ったのは虎丸。

「ちなみにぼくら二人は下戸ですんで」

「飲酒は未成年に勧めないよ」と芽里亜。

「じゃあ、がっつりごはんにしよう!うち来ない?こう見えて、そうとう料理の腕前が高いんだゼ!」

そう虎丸は実家で中高とごはんの支度をしていた。

駅前の西友により、結局カレーを作ろうということになり、その材料を求めた。

既に半年の一人暮らしで炊事は慣れた芽里亜を助手に虎丸が作り始める。

菜乃は改めて、今から自分らで作る映画の資料を作成し、印刷する。

あきらは料理班にも菜乃にも手伝う。

女の子もおかわりをしたくらい美味くカレーはできた。

その夜は映画の話は特にせず、あの教授の講義はつまらない、とか、サークルの先輩たちの話で盛り上がった。

帰宅時、未だ20時だったが、芽里亜の家の前まであきらと菜乃は同行した。

そして二人は吉祥寺からJRに乗った。

「帰りの時に、さよならと挨拶した時に、酉野さんナイショ話して、安さん笑っていたけどなにを話していたんですか?」

「気を悪くしないでね。あの喫茶店のウェイターさんかっこよかったから、役者はこの人がよかったかも、って」

女性と話すということはこういう感じか、とひと心地ついたあきらだった。

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