ふたたび会議室
「ええ……自殺した開発主任の横田に代わりまして、私からご報告をさせていただきます」
企画部長の岡本は、にじみ出る汗をハンカチでぬぐいながら恐縮しきった面持ちで言った。
「まことに申しあげにくいのですが、イタコメールは結果として大失敗に終わりました。全国から募ったモニターのうち一人が自殺未遂、二十人近くが電話機を破壊し、さらに広島の暴力団がなぜかわが社へ殴り込みをかけてきて従業員数名が病院送りとなりました」
会議室内がザワつきはじめ「だから言わんこっちゃない」などという言葉が飛び交う。
「……さらに、この商品開発のことが新聞にすっぱ抜かれ、死者を冒涜する行為だとして世間をさわがせております。また電気通信事業法、ならびに不正アクセス禁止法違反の疑いで、近々この本社ビルにも家宅捜査の手が入るといった事態になってしまいまして、もし起訴されるようなことにでもなれば、わが社の信用はもはや地の底に……」
あちこちから怒号が起こり「だれが責任を取るのかね」「企画へゴー・サインを出した間抜けはだれだ」などと役員同士で勝手に罵り合いがはじまる。岡本の話など、もはやだれも聞いてはいなかった。ハンカチでひたいの汗をぬぐい、これ以上ないというくらい肩身をせまくしていると、不意に背広のポケットに入れてある携帯が震えた。
「あ、もしかして……」
見るとそれは、死んだ横田からのお詫びメールだった。
【部長には申しわけないことしたお】
【はじめから企画にムリがあったんだお】
【だからほんとはこの企画VIPでやりたかったんだお・・・】
「なんだこりゃ?」
その巨大な「やる夫」のアスキーアートを見て、岡本は深いため息をついた。
「あいつ、ねらーだったのかよ……どうりで会議中いつも論破、論破とうるさかったわけだ」
岡本は、そっとアプリをアンインストールした。