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某アプリ開発会社の会議室

けっこう前に書いた作品なので、ネットを取り巻く環境とか、メールの文面などの表現が古いですが、そこらへんはご容赦ください。

「ではこれより、わが商品企画部の総力をあげて開発しました新製品の発表をさせていただきたいと思います」


 会議室の正面に設置されたスクリーンの横で、縁なしメガネをかけた開発主任の横田がペコリと頭をさげた。徐々に照明が落とされてゆく室内とは反対に、スクリーンではプロジェクターから投影された文字がキラキラと輝きはじめる。


 ***もう会えないと思っていたあのひとからのメール……思い出補完シミュレーション「イタコメール(仮称)」***


 会議室内がややざわついたが、横田はかまわず話しはじめる。

「今や十億人とまで言われるモバイルアプリケーション市場ですが、すでにアイデアは出尽くした感があります。当社においてもここ数年売り上げは横ばいでして、このままでは他社との苛烈な競争にさらされ、ジリ貧になるのは必定」


 スクリーンでは、アンドロイド搭載スマートホンが世に出てからのソフトの売上高がグラフとなって表示されている。最近では横ばいどころか下降気味で、会議室内のそこかしこからため息が漏れる。


「そこで我々が目をつけたのが、葬儀業界です。どんな不況下にあってもこの業界だけは景気が下降することはありません。なぜなら人間というものは必ず死を迎えるからであります」

 葬儀業界の売り上げがグラフで表示される。みごとに右肩あがりだった。会議室内から、今度は羨望のため息が漏れる。


「イタコメールは、死んだ恋人や肉親と仮想のメールでやり取りすることができるというアプリです。このソフトの配布を葬儀プランのなかへ組み込んでもらうべく、すでに大手葬儀社と提携の話も進んでいるところであります」


 すると役員のひとりが疑問を口にした。

「しかし死人とメールのやり取りなど、一体どういうふうにするのかね?」


 横田は自信ありげな笑みを浮かべて言った。

「このアプリに亡くなったかたのメールアドレスを登録しますと、自動的に通信事業者のサーバへ侵入、コホン、アクセスして過去の通信履歴をチェックします。そのひとの文章のくせや、考えかたの傾向、よく使うアスキーアートなどを入念に解析するのです。そして収集した情報を再構築し、あたかも本人が打ち込んだようなメールをアプリ使用者へ定期的に送信するのです」


 うーむと考え込む役員連中に、横田はある一通のメールを表示して見せた。

「これは実際にアプリで作成したメールです」

 会議室内にどよめきが起こった。差出人は、杉下幸四郎。彼らの会社を創業した先代社長である。メールにはこう書かれてあった。

【イタコのイタローで行ったろう!】


「おお、このなんの脈絡もない苦しいダジャレは、まさに先代様のメールだ」

「お懐かしや、まるで肉声を聞いておるようじゃ」

 あちこちから感嘆の声が漏れ、古参役員のなかには涙するものまでいる。


「このようにイタコメールを使えば、相手が亡くなった後も生前とおなじようにメールでやり取りをすることができるのです。ベータ版のモニターもすでに全国から募っており、結果が出しだい製品化に踏み切ろうと考えております」


 最後に横田は右手を振りあげ、こう締めくくった。

「この商品は必ずやヒットし、わが社の業績を飛躍的に伸ばすものと、われわれ商品企画部では確信しておりますっ」

 会議室内は拍手でつつまれた。


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