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それからというもの、他の授業でも林くんの隣になることが多かった。厳しくない男性の先生の授業の際、
「塩川さんって下の名前なんていうの?」
と林くんが話を振ってくる。
「紗英だよ。林くんは?」
私が返すと、林くんは
「俺は伶介。人べんに命令の令、介護の介って書いてりょうすけなんだ」
とルーズリーフの端に書きながら漢字も説明してくれた。以前教科書に「林伶介」と書かれていたのが見えたので名前自体は知っていたけれど、「りょうすけ」なのか「れいすけ」なのか知りたくなったことがある。
「さえってどう書くの?」
林くんが質問し、私もルーズリーフの端に書きながら漢字を教える。
「糸へんに少、英語の英。これで紗英だよ」
私が説明すると、林くんは興味深そうに話を聞いてくれた。それ以外には地元の話や趣味の話もする。私が好きな漫画を林くんも好きなことがわかり、漫画の話で意気投合した。その流れで私と林くんはLINEを交換し、ほぼ毎日やりとりするようになる。
*
テスト期間が終わり、夏休みに入る。その頃に林くんから、私たちが好きな漫画が映画化されるとのことで観に行かないかとLINEで誘われた。私は男性と2人で出かけたことなどなかったので緊張していたけれど、相手が林くんなら安心できると思い承諾する。
当日、私はいつもと違うファッションで出かけた。授業時はパーカーにジーンズといったラフなファッションをしていたけれど、今日はオレンジのノースリーブニットに白いフレアスカートを選ぶ。スニーカーにリュックの組み合わせで通学していたけれど、3cmヒールのパンプスに小さめのハンドバッグを合わせた。林くんはどんな反応するのだろうかと楽しみだ。
「あ、塩川さん! こっちこっち!」
林くんが声をかけてくれ、私は彼の元に向かった。林くんも授業の時はカジュアルなファッションが多かったけれど、今日はシンプルな白いTシャツに黒いスキニーという出立ちだ。私はそんな林くんのギャップに惹かれつつあった。
「今日の服可愛いじゃん」
林くんにそう言ってもらえるなんて思っていなかったので、私は単純に嬉しかったのだ。いつもの塩川さんとは違うじゃん、と思ってほしかった気持ちがあるから。そんなこんなで私たちは映画館に向かう。