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start  作者: 遠藤 敦子
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塩川(しおかわ)さんてさー、いるだけで目障りなんだけど」

「あいつ何で学校に来てるの?」

 私は中学生の頃、いじめに遭っていた。こういった暴言を吐かれるのは日常茶飯事で、靴を隠される・ノートや教科書への「バカ」「死ね」「学校来るな!」という落書き・無視などもされたことがある。それでも最初は耐えていた。けれど、ある日学校に行こうとするも起き上がることができなくなってしまう。こうして私は学校を休みがちになり、出席日数が足りず高校進学は断念--選べる高校が限られていたため--せざるを得なかった。

 中学校を卒業し、私はフリースクールに通い始める。中学校に行けなかった分の勉強の遅れを取り戻したかったのと、やはり将来は大学に行きたいという気持ちが強かったからだ。フリースクールでは私より10歳上の高尾(たかお)茉子(まこ)先生がサポートしてくれ、問題集で正解できると

紗英(さえ)ちゃんすごいね! 頑張ってるじゃん」

 と褒めてくれる。高尾先生は他の先生方より年齢が若かったこともあり、近所のお姉ちゃんのような感覚で話ができた。さらに私が勉強で間違えても咎めないでいてくれたので、安心して勉強に取り組めたのだ。

 高尾先生のサポートのおかげで、私は17歳の時に高等学校卒業程度認定試験に合格した。高尾先生は私の合格を自分のことのように喜んでくれた。それからは大学入試に向けて勉強もするようになり、18歳の3月に中堅私立大学への入学が決まる。そういうわけでフリースクールを卒業し、高尾先生とLINEを交換した。フリースクール在学中は先生とのLINE交換は禁止だけれど、卒業してしまうと先生との連絡先の交換も許可されたのだ。

 大学生になってからも私はたまに高尾先生とLINEでやりとりをしていた。大学生活のことで雑談したこともあれば、アルバイトもしたいけれどまだ早いかという相談を持ちかけたこともある。他愛もないやりとりが多かったけれど、忙しい時に付き合わせてしまって申し訳ないとも思っていた。


「順番的に次俺が当てられると思うんだけど、ここなんて訳したらいいかわからなくて。塩川さんこれの訳し方って知ってる?」

 英語の授業にて、隣の席の林伶介(はやしりょうすけ)くんが私に訊いてくる。林くんは辞書を忘れてしまったそうで、単語を調べようにもできない状態だ。担当の酒村(さかむら)という女性講師は厳しいことで有名なので、授業中のスマートフォンの使用は厳禁だった。そこで私はこっそり林くんに耳打ちしながら答えを教える。すると林くんは

「塩川さんありがとう! これで俺、当てられてもなんとかなるわ」

 と目を輝かせた。ありがとうと言われると、私も悪い気はしなかったのだ。

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