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35 最終決戦

王宮内での騒動を知る由もなくエルメルダは大祝福の魔法を使うための舞と祝詞を唱える。国の民の敬いの視線を一身に受けながら、エルメルダは感じていた。今この世界のすべてがエルメルダの為にありもうすぐセオリアが手に入る。長年待ち続けたこの瞬間…。エルメルダが静かにその舞を終えると、大歓声と拍手が巻き起こる。


「皆様に私の白の魔法の奇跡をお見せしましょう。ここにいらっしゃる皆様の傷を癒します。」


皆が我先にと自分が一番の祝福をもらおうと押し退け合い最前列を目指し会場からは怒号が飛び交う。灯台下暗し、エルメルダの目からは真下で行われている殴り合いは目に入らないのだ。

来賓席の一等地に座る、オルランとマチルダは自身の娘の姿に歓喜の涙を流していた。それを高いところから見ていた王女のルシエラはにこやかな表情を張り付けながらじっとその姿を見つめている。


その時、エルメルダの部屋にある地下牢ではそろそろ息絶えようとしている子どもの横でナチェスが興奮で両手を震わせながらその瞬間を待ちわびていた。


「さぁ、これで全てが終わる。早くやれ!!!」


「それでは、大祝福の魔法を…。」



エルメルダが声高らかに魔法を唱え、まばゆい光が放たれようとしたその瞬間。

もう一度会場から歓声が上がった。意識をそがれたエルメルダが大きな舌打ちをすると、皆がエルメルダの後ろを指さす。


「セオリア様だ!!」


「いらっしゃったのね。」



驚いたエルメルダが振り返ると、そこには他でもないセオリア・ランダードの姿があった。思いがけないセオリアの登場にエルメルダは飛び跳ねて喜ぶと「来てくださったのですか?」とセオリアの腕に絡みつく。


「あぁ、君の姿をこの目で見ようと思ってね。」


「嬉しい…。私、いま世界で一番幸せです。」



エルメルダは目に涙を浮かべると、セオリアの腕を引いて民たちの前へとバルコニーの前に進み出る。

やはりセオリア様は私の事を愛してくださっていたのだわ。ほら、見なさい。セオリア様は私のもの。他の誰でもない私だけのもの。


「見ていてくださいセオリア様。今こそ私の「白の魔法」であなたのためにこの力を…。」



その時。

「なんだあれは?」観衆の一人が空を指さして大きな声を上げた。その声につられ皆が空を見上げる。そこにはリラが多くのカラスを引き連れて広場の上空をぐるぐると旋回を始めていた。リラが紙の束を離し下に落とせば、他の鳥たちも一斉に嘴に挟んだ紙を落としていく。雪のように舞う紙が地面に近づけば、人々はその紙に書かれた内容を見て驚愕の顔を浮かべた。


「何これ?」


「白の魔法の枯渇ってどういうことだ!」


歓喜に包まれていた会場は徐々にどよめきに変わり紙は人から人へ手渡され広がっていく。エルメルダはその様子を見て不機嫌そうに困惑の表情を浮かべていた。


「何?一体何がどうなっているの?」


いつもの聖女モードを忘れ小さく舌打ちをすると、エルメルダは足元に落ちてきた紙を拾い上げて目を通す。するとその顔は一度真っ青になった後、今度は一気に赤くなり落ちてきた紙をびりびりに破くと思い切り投げつけた。


「何なのよ!!これは!!!」


そこにはエルメルダが自身の「白の魔法」が枯渇している事実を隠蔽している事、そしてケイネン家や宮中での使用人に対する数々の醜態と悪行を告発する内容がびっしりと書かれていた。



「嘘よこんなもの!私は聖女エルメルダなのよ。こんなのあり得ない。」



群衆からは次々にエルメルダに対しての不満の声が上がり始めた。



「前から思っていたのよ!ダミエルの擦り傷は治してもらえたのに息子の骨折は見ないふりだった。」


「子どもを見殺しにしたなんてことも書いてあるじゃないか。」


「でも、エルメルダ様に限ってそんな…。」



気が動転しているエルメルダの耳に次々とそんな言葉が聞こえ始め、エルメルダはとうとう群衆を睨みつけるとバルコニーに走り大声を出す。


「この馬鹿どもお黙りなさい!!私は聖女エルメルダなのよ。愚かにも私を侮辱する人間はみんなまとめてこの国から追放してやるから!!」



ひと際大きな声を張り上げたエルメルダの声が反響して木霊する。先ほどまで騒然としていた会場は、エルメルダのこの一言で嘘のように静まり返り、ぴたり…と動くのをやめた。


血管が切れたのかもしれないというほどの大きな声だった。大きく息を切らすエルメルダは、静まり返った群衆を前にはたと我に返る。


「え、いや…。そうではなくて。い、今のは誤解ですわ。私は皆さまの幸せのためにこの力を…。」


しかし、時は既に遅し。セオリアは空から舞ってきた紙を一枚掴むとそれを見る。


「や、やめて!見ないで!」


セオリアの腕に縋りつくように懇願したエルメルダだったが、セオリアは紙から目を離すとゆっくりとエルメルダに視線を向けた。それはエルメルダが未だかつて見たことのないセオリアの氷のように冷たい目だった。ガタガタと身体は震えるがここで怯んでは全てが終わってしまう。エルメルダは引きつりながらもセオリアの顔を見て涙を流す。



「セオリア様、違います。これは何かの陰謀です。私はこの国のために自身の全てを捧げてまいりました。」


「エルメルダ…。」


「やめて!そんな目で見ないで。信じてください私はただ、セオリア様のお側にいたくて我慢してきました。マリアンナからの嫌がらせも、使用人たちからの嫉妬にも耐えてきたのです。」



その時、リタールが騎士を連れバルコニーに現れた。その後ろにエヴァリスの姿を見つけたエルメルダは、はらはらと流していた涙を一瞬にして引っ込めたと思うとセオリアから離れエヴァリスを指さすと叫んだ。


「この女…下等の分際で良くもセオリア様に私の濡れ衣を吹き込んでくれたわね。生贄にする前に今!ここで!八つ裂きにしてやる!!」


髪を振り乱し怒り狂う姿を見て、ガイデンとセオリアがエヴァリスの前に盾になるように立ちはだかる。



「こどもはどこにいる?」

 


セオリアの口からそれを聞いた瞬間、目を血走らせたエルメルダの喉がヒュッと音を立てた。



「知らないとは決して言わせない。お前が「白の魔法」の枯渇を隠すために秘かに使った子どもだ。」


「な…なぜそれを…。」


「あなた付きのメイドに吐かせました。秘かにもう一人分の食事を用意させていたと。もう既にあなたに仕えていた者たちは皆拘束されています。」


リタールの言葉を聞いて、エルメルダはがっくりと床に膝をついた。ここまで明るみになってしまえばエルメルダの口からはもうこの場を凌ぐ力は持ち合わせていないのだ。「駄目…。セオリア様、お父様、お母様」息を乱しながら床を這うエルメルダは最後の望みをかけてセオリアの足元へ向かうと手を伸ばした。



「セオリア様、私たちは婚約者でしょう?「白の魔法」を使える者はこの世に存在しません。私だけなのです。」


「エルメルダもう諦めろ。」


「い、いえお聞きください。私はセオリア様の事を心から愛しているのです。これらは全部あなたと結ばれるために行った事。ですから…。」


藁をもつかむ思いで伸ばした手はセオリアによって無残にも払われる。


「私の愛する人は、これから先も永遠にエヴァリスだけだ。」


セオリアはそういうと、自身の後ろに匿っていたエステルもといエヴァリスの目をしっかりと見つめた。その言葉を聞いたエヴァリスを始め周りにいた人々は驚きの声を上げる。


「セオリア様、もしかして・・・。」エヴァリスが口を開いたその瞬間、エルメルダは大きな声で悲鳴を上げると騎士を振り払いバルコニーに向かって走り出すと迷うことなく身を投げた。


「キャーー!!」



観衆の悲鳴が響く中、エルメルダの身体は純白の式服と共に地面に向かって急降下を始めた。皆が散り散りになって逃げ惑う中、エルメルダはふと今までの走馬灯が頭の中を過った。エヴァリスとセオリアと共にいつも一緒だったあの遠い記憶。これまでたくさんの物を手にしたが、いつもたくさんの物を持っているのはエヴァリスなのだ。


もはや足掻く必要はない。セオリアが手に入らないのであればこの世に存在する意味のないのだから。そう全てを手放して笑いながら目を閉じるエルメルダ。だが、しかしその身体が地面に墜落す寸前大きな紫色の靄がエルメルダを包み込み抱き込むようにまとわりついた。


「そう簡単に死んでもらうわけにはいきませんよ。」


メイドのナチェスはそう言って愛おしむかのように気を失ったエルメルダの頬を撫でる。軍の騎士にとり囲まれながら尚ナチェスには焦る様子はない。


「お前が主犯か。」



騎士団長のベルナーは騎士の先頭に立つとナチェスに向かって凄みを聞かせる。副団長のルイは街の人々を避難させようと何人かの騎士を引き連れて誘導に向かう。


「愚かなる人間たちが、無知にもあのお方の花嫁の命を消そうなどと図りおって。」


「花嫁?」


「計算は狂ったがもう既に遅い。これでハレオンの国は終わりだ。」



エヴァリスはその言葉を聞いて眉をしかめる。ナチェスは自身の来ていたローブを脱ぐとその身体に蠢く魔物の力を解放しエルメルダの額に口づけを落とす。するとエルメルダの白銀だった美しい髪は徐々に漆黒に染まっていき身体から大量の魔法が放たれ紫色の閃光が周りを走り始めた。


その光の筋が、騎士にあたるとその足元は徐々に石に変わりあっという間に石像と化した。それを見た人々は皆一斉に逃げ惑い王宮はパニック状態に陥った。その後も紫色の閃光は次々に放たれ人々の石の像が瞬く間に増えていく。


セオリアはガイデンたちと共にバルコニーを飛び越えると、ナチェスに向かって魔法を放つ。もはや王宮は戦争状態だった。


「エステル!!」


祭司長と共にやってきたヴァレリーはバルコニーからの惨劇を見て驚愕した。


「一体これはどうなっている。」


「ナチェスがエルメルダの力を使って暴走を始めました。」


「これはいかん、ヴァレリー祭!国を守る結界が消滅し、魔物が国に入り込んできたようです。」


エルメルダの結界が途切れたことで生じていた綻びが広がり、シャボン玉が弾けるように割れた場所から瘴気が入り込んでくる。未曽有の事態に皆なす術がなかった。エヴァリスはいてもたってもいられずに虹の魔法を使おうと力を込める。しかしその腕をリオンが掴んだ。



「エステル待って!今力を使ったら君の事が世界に露呈する。ただじゃ済まなくなるよ。」


「でもリオンこのままここにはいられないわ。セオリア様も、ガイデンも皆あの中にいる。」



でも!尚も食い下がるリオンを見てエヴァリスは静かにほほ笑むとリオンの身体を抱きしめた。エヴァリスが自身の命を顧みずに自分に会いに来たあの日をリオンは思い出す。


「大丈夫、リオンは動けない人たちを安全な場所まで運んで。あなたにしか出来ない事よ。」


「…エヴァリス。」



こうなってはリオンにエヴァリスを止めることは出来ない。エヴァリスは無言で頷くと、大きく息を吐き自身の「虹の力」を解放した。エヴァリスの身体が虹色に染まりバルコニーから降り立てば多くの人がそれを見ずにはいられない。エヴァリスは地面に足をつくとエルメルダを抱きしめたままのナチェスを見据える。


「これはこれは!とうとう虹の魔法を現しましたか。」


「エルメルダを返して。」


「大人しくそうするとお思いで?」



ニタァ…と笑うナチェス。虹の魔法を解放したエヴァリスを見てセオリアがすぐさま護衛に入る。



「虹の魔法使い…、いえエヴァリスお嬢様と言ったほうがよろしいでしょうか?」


「ナチェスあなた!」


「口封じの契約ですね。エルメルダ様の力を使う今、その類なら見ていれば分かります。私の目には今エヴァリスお嬢様の姿がはっきりと見えていますよ。ヴァレリー祭司も上手く隠しました。」


「いつからエルメルダを狙っていたの?」



それを聞いたナチェスは困ったように首をかしげる。


「どうでしょう…、生まれる前からといった方が正しいかもしれません。あのお方は長い年月の間ご自身の愛する人が生まれ変わるのをずっと孤独に待っておられました。」


「先ほどから言う「あのお方」とはいったい誰の事を言っている?」



セオリアの質問にナチェスは一瞬表情を消すと顔を伏せ目を閉じる。


「全ての魔物の根源。黒の王です。私は長い間、何度も転生を繰り返しあのお方の伴侶、王妃様を探してきました。」


「それがエルメルダだと?」


「骨が折れましたよ。黒の女王が転生するにはいくつかの条件があります。先ず白の魔法を使える者を探し出し、徐々に黒の魔法に染め上げること。今世はこの身体でしたから幸運でした。エルメルダ様がお生まれになる前にメイドとして潜り込み毒花が咲くように毎日毎日手塩にかけて育てましたから。」


「黒の王だって…ふざけるな。そんな馬鹿な話があってたまるか。」


ガイデンが大きな声を出せば、ナチェスはギロリとガイデンを睨みつける。



「小童風情が軽々しくあの方の名を口にするな。」



ナチェスは大きく息をひとつ吐くと、喋りすぎました…。と首を振る。



「さて、長い旅も終わりにしましょう。」



そして静かに立ち上がると、徐に自身の持つ短剣で迷いなく自分の胸を突き刺した。「ぐあっ。」としたうめき声と共にナチェスの身体が崩れ落ちる。その行動にエヴァリス達が驚く中、黒い血がポタポタと滴り落ちると同時にナチェスの足元がブクブクと煮えたぎるように泡立ちナチェスの身体が闇に沈み込んでいく。


「あぁこれでやっとあのお方に会いに行ける。」


恍惚にも似た表情のまま、ナチェスの身体は闇の中に包まれていった。


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