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34 反撃の狼煙

真っすぐに南の別塔へ飛ぶリラを追い、ガイデンは宮中を走り抜ける。広場には既に多くの人々がエルメルダの大祝福を目前にして興奮のピークを迎えていた。ごった返す人ごみをかき分けて先を目指すと「ガイデン!」と自身の名前を呼ぶ声が耳に入った。辺りを見回すと、ガイデンの腕にリオンがしがみついた。間一髪、慌ててリオンの身体を支えればレンガの地面ぶつかるスレスレで抱き留める。


「こんな人ごみでどうしようかと思った。ヴァレリーもセオリア様の元に向かってる。緊急事態だなんていったい何があったんだ?」


「リオン!来てくれたか。時間がないエステルがエルメルダに捕まった。」


「はぁ?エルメルダに?どうして。」


「話は後だ、あの南の塔まで移転できるか。」



ガイデンが既にリラが旋回している南の塔を指せば、リオンは「お安い御用さ」と、再度ガイデンの手を取る。

その時、「大祝福」の開始を知らせる音楽隊のファンファーレがけたたましく鳴り響き、二人はびくりと肩を揺らす。エルメルダの登場に広場を埋め尽くした国民から大歓声が沸き上がった。


「聖女エルメルダ様をお迎えいたします。皆さま心からの感謝を込めて盛大な拍手を!!」


割れるような轟音の中、ガイデンとリオンは静かにエヴァリスが囚われている南の塔に移転した。

柔らかい草の上に足がつくとガイデンはすぐさまリオンの手を引き茂みに身を隠す。隠れながら様子を確認すれば塔の入り口には門番が2人、どうやらエルメルダの護衛らしい。



「リオン、ここは囚人塔だ。檻の中は魔法の類はここでは通用しないからエヴァアリスが自分で出るのは不可能だ。」


「僕はどうすれば良い?」


「俺に考えがある。」



ガイデンはリオンの耳に顔を寄せると何やら小声で話し始める。ガイデンが「できるか?」と尋ねるとリオンは静かに頷きゆっくりと門番たちの側に歩いて行った。エルメルダへの歓声を遠巻きに聞きながら門番たちは退屈そうにあくびをかみ殺す。



「それにしても聖女様は人使いが荒くて仕方ないぜ。」


「顔は天使だが、あれはな…。俺なら絶対に無理だな。」


「安心しろ、貴様と聖女様がどうにかなるなどこれから何度生まれ変わってもあり得ないさ。」



そう言って笑い声をあげる二人の近くでパキッと枝が折れる音がした。男たちはすぐさま腰に掛けてある剣に手を伸ばす。



「おい誰だ!ここは囚人塔、立ち入りは禁じられている。」


「ご…ごめんなさい。ヒック…、ママとはぐれちゃった…。」


「なんだ迷子か…。おいここは子どもの来る場所じゃない。頭の狂った囚人に襲われたくなければ早く戻れ」



リオンはその言葉を聞くと大粒の涙を目に浮かべて泣き始める。エメラルドの美しいそれから零れ落ちる涙を見て男たちは些か動揺を覚えた。目の前の少年が実は成人済みの大人だと誰が想像するだろうか。文字通り迫真の演技である。いたいけな少年に引き込まれそうになり門番は慌てて頭を振る。


「ここ…膝もすりむいちゃったの。」


「あぁ、面倒くさいな。男のくせに泣くんじゃねぇ。見せてみろ。」



蹲るリオンを見て門番たちが剣をしまいその傷を確認しようと手を伸ばしたその時、リオンがすかさず男たちの腕を掴み移転魔法を発動した。素早く3回、移転を繰り返せばそこは手つかずの森の中だった。男たちは強烈な眩暈とひどい乗り物酔いのような吐き気をもよおしながらその場に倒れ込む。リオンは男の腰からエヴァリスの閉じ込められている牢の鍵を抜き取った。


「ウッ…なんだここは!?」


「初めての人はいつも酔うんだよな、これが。まぁ子どもだからって油断しない方がいいね。」

「お、おい!待て」


「安心して、日暮れまでまだ時間はある。間に合うかはあんたたちの体力次第だけどね。」



満面の笑みでそう答えれば、男たちの顔から色が消える。慌ててリオンを捕まえようとしても時はすでに遅し。焦る男たちの前からリオンの姿は跡形もなく消えてしまった。

計画通り、鍵を持って戻れば既にガイデンが塔の前でリオンの帰りを待っていた。



「問題ない、山の中に置いてきた。」


「自分から提案しておいてなんだが、お前だけは敵に回せないと確信したよ。」


「今頃気づいたの?そんな事よりアイツ等鍵も持っていた。早く行こう。」



塔の階段を上り、最上階にたどり着くと扉の隙間から虹色の閃光が漏れ出す。二人が飛び込めば、そこには息を切らしながら鉄格子に向かって魔法を放つエヴァリスの姿があった。


「エステル!!」


急に飛び込んできた二人の姿を見て、エヴァリスは安堵の表情を浮かべるとその場にへたり込む。

ガイデンは鍵を使って檻を開けると慌ててエヴァリスの身体を支えた。


「エステル無事か?」


「えぇ、私は何ともないわ。それよりライラが!ライラが連れていかれて。」


「それは問題ない。さっきヴァレリーから倉庫に閉じ込められているライラを王宮の騎士が保護したって連絡があった。」


「良かった…。」



ライラの無事を聞いたエヴァリスは目に涙を浮かべる。しかし、安心したのも束の間、事態は一刻を争う。既に祭司長の祝詞が始まり大祝福の儀まで時間がない。リオンはセオリアと共にいるヴァレリーにエヴァリスの無事を報告すると、先ずはここから出ようと三人はドアに向かって歩き出す。


その時、エヴァリスは魔物の気配を感じ取った。

目の前のドアが揺らぎ始めると、先ほどエヴァリスをここに閉じ込めた刺客が目の前に姿を現した。


「門番がいないと思ったら、助けが来ましたか。」


「死にたくなかったらそこをどけ。」


ガイデンの言葉を聞いて、刺客はくつくつと笑い声をあげると両手を上げた。刺客に対してこちらは三人、分が悪い事は分かっているらしい。



「これからが本番だというのに命は惜しいですから、無駄な事はしません。私はもうすぐあのお方に褒美をいただくのです。きっとよくやったとほめてくださるでしょう。」


「褒美…それはどういう意味?」


「エルメルダ様は禁忌に触れました。この国はもはや終わりです。大祝福の儀が終わると同時にハレオンの国は亡びるでしょう…。皆,,大祝福から一転地獄に落ちていくのです。」



『あの方』そう口にした刺客の声はどこかうっとりと甘美な香りを漂わせる。どこか他人事のような話しぶりに、三人は訝し気な目を送る。「それはどういう…」リオンが尋ねる前に刺客が静かにローブを脱いだ。それを見たエヴァリスとガイデンは驚いて目を見開く。それは紛れもなく、エルメルダのメイド…ナチェスの姿であった。驚くのはそれだけではない、ナチェスの身体からは紫色の煙が放たれ肌は黒い模様がまるで生きているかのように蠢いている。



「あなた…魔物だったのね。」


「んー、正確に言えば人間です…今世は。しかし私は自分の意志を持ってあのお方の手となり、足となることを選びました。あの愚かで美しい娘の側でずっと、片時も離れることなくエルメルダ様があのお方の物になるその瞬間を待ちわびていた。」



先ほどから、ナチェスの口から出る「あの方」とは一体誰の事なのか。言葉通り、ナチェスからは攻撃の意志が感じられない。淡々と話を進めるナチェスにエヴァリスは慎重に質問を続けた。



「ナチェス、あなたは先ほど『エルメルダが禁忌を犯した。』と言いました。それはどういう意味ですか?」


「…言ったではありませんか?あの娘は美しく、そして愚かなのです。既にエルメルダ様の白の魔法はほぼ枯渇状態です。あれの力がそれなりに無ければ計画を前倒しするつもりでしたが。」



既に枯渇状態…?それがどうしてこれほどの結界をつくり、大祝福の儀が行われているのか。それにしても『あれの力』とは…。

その時、エヴァリスは自身の頭に思い浮かんだ恐ろしい考えに、思わず口を覆う。



「待って。まさか、エルメルダは…。」


「そうよ!あの娘は自分の代わりに人を使って魔法を作り出しているのよ。しかも何も知らない無垢な子どもをね!!」


ナチェスは傑作だとばかりに大きな笑い声をあげて手を叩く。誰もが予想だにしなかったナチェスの言葉にガイデンとリオンもあまりの驚きに口を開けたままだった。大笑いを続けるナチェスを見てエヴァリスの目が怒りで揺れる。


「おい!いつからそんな事になっている?」


「あなた達が今更知ってもどうにもなりません。強いて言うならここ数か月の話、というわけではありませんね。」


その様な長い時間魔力を搾取されていたとなれば子どもの命は風前の灯火だろう。

一刻も早く助けに行かないと生命が危ない。エヴァリスは今度こそ虹の魔法を解放すると怒りそのままにナチェスを鋭く睨みつける。



「その子は今どこにいるの?」


「教えられるわけないでしょう。どのみちあの子の命も大祝福の儀が終わればただの出がらし、死ぬしかないわ。」


「いい加減にその腐った口を閉じろ。場所を吐かないなら力づくでこじ開けるまでだ。」



ガイデンは自身の持っている剣を引き抜くと、ナチェスに向かって魔法を放つ。水流によって閉じ込められたナチェスは苦しそうに藻掻きながら自身の首を搔く。ナチェスが口を割るまでガイデンの水流から逃れることは出来ない。しかしエヴァリスはその口元が僅かに笑みを浮かべているのを見逃さなかった。



「ガイデン、違うわあれはナチェスじゃない。」


その言葉に困惑するガイデンもまた、ナチェスが笑っていることに気付いたようだ。周囲に目を走らせるとエヴァリスは天井に貼られていた人紙に向かって魔法を放つ。それが散り散りになるのと同じく、水流の中にいたはずのナチェスが幻影のように揺ら揺らと動き始める。



「見破られてしまいましたね。でも時間稼ぎと言ったでしょう、もうすぐハレオン王国は滅亡するのです。あのお方の手によって。」



だんだんと消えて行く高笑いの声。大量の水で溢れかえった地面には、既に彼女の姿は跡形もなく消え去っていた。



「幻術だね。ナチェスは今、別の場所にいるんだ。」


「きっとさっき言っていた子どものいる所だわ。エルメルダからすれば一番の心臓よ、こんな大事な日に他の者に任せるはずがない。」


「セオリア様に伝えるよ、場所の検討がつくかもしれない。」



三人はリオンの移転魔法を使い、セオリアの元へ向かった。セオリアの政務室に到着すれば既に騎士によって保護されていたライラがヴァレリーと共に椅子に腰かけエヴァリス達の帰りを待っていた。


「ライラ!!」



エヴァリスは一目散にライラに駆け寄るとその身体に傷がないかどうかを確認する。



「お嬢様、ご無事でしたか?」


「私は何ともないわ。ライラは怪我していない?怖かったでしょう?巻き込んでごめんなさい」


「いいえライラは何ともありません!倉庫は埃だらけでしたが、おかげで親切なネズミさんに頼み込んで縛られていたロープを齧り取ってもらいましたから。」



それでリタールの持つ籠にネズミがいるというわけか。思わぬところでライラの能力が役に立ったらしい。とにかく無事でよかったと安堵していると、その様子を見守っていたセオリアがエヴァリスに声をかける。


「エステル。」


その声に振り返れば、セオリアはゆっくりとエヴァリスの元へ歩くと鉄格子に何度も魔法を放った際についた傷を切なそうに撫ぜる。初めてセオリアが自ら女性に触れているのを見た騎士は驚きの顔を浮かべた。


「君が無事でよかった。」


「ごめんなさい。心配をかけました。」



いつもならすぐさま手を引っ込めるエヴァリスだが、セオリアの様子があまりにも苦しそうに見えたため大人しくそのままでいることにした。その様子を見たヴァレリーは一度目を閉じると、重い口を開いた。



「時間がありません。リオンから送られてきた南の塔での記憶をセオリア様たちとも共有いたしました。既に儀は進行しています。エルメルダ様の魔法の片割れを今から見つけることは困難です。」


「では一体どうすれば…。」


「ヴァレリー祭司、私に考えがあります。」



セオリアはしっかりとした眼差しで、エヴァリスの手を握り締める。どこか不安げに揺れる瞳に優しくほほ笑んだ後、セオリアは部屋の中にいる人たちを見回した。


「王宮外の警備についている騎士たちに伝達を。至急王宮に集まるように指示を出せ、エルメルダの部屋を始め王宮の中を捜索させろ…子どもがどこかに囚われている。」


ガイデンの命令を聞いたルイは騎士たちと直ぐに部屋を出て行った。リタールはルシエラに急ぎエルメルダの件を報告に行くためにリオンと共に移転を開始する。また、セオリアはライラにも一つ言い渡した。


それぞれがエルメルダの暴走を止めるべくそれぞれ動き始めた。大祝福が禁忌に侵された時、どのような災いが起こるのかなど恐ろしくて想像もつかない。


「セオリア様…。」


「案ずるな、エステル。ナチェスが見つからないのなら、引きずり出すまで。今こそ全てを元に戻そう。」


とうとう諸悪の根源を断つために、エルメルダの断罪が始まろうとしていた。


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