表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/56

15 大混乱の婚約式

王宮の礼拝堂では白い式服に身を包んだセオリアと、同じく白いドレスを身に纏うエルメルダの婚約の儀が執り行われていた。




「ではこれより、婚約の儀を執り行う。」



厳かな空気の中、セオリアが3歳の時に病死した王アントニオに代わりハレオンの国の女王として君臨した女王ルシエラが声高らかに宣言する。ルシエラが魔法契約書に手をかざすと眩い光が弾け飛びその後、魔法のペンがスラスラ動き金色で契約書の文字が記されていく。


そして家族や大勢の人が見守る中、礼拝堂の大きな扉が音を立てて開きセオリアとエルメルダがゆっくりと壇上に歩いていく。優越感に包まれるエルメルダの横で、セオリアは表情を変えることなくただ前を真っすぐに見据えている。



「美しいわ…。お似合いのお二人ね。」


「これでハレオンの国も安泰だわ。」




エヴァリスはこれで最後になるやもしれない家族席で婚約式に出席しながら2人の背中をただ見つめていた。その様子をガイデンが警護に付きながら複雑な気持ちで見つめていた。式は厳かに進み、祭司長が祭壇の前に立つと誓いの言葉を促す。




「セオリア・ランダード、汝このエルメルダ・ケイネンと婚約を交わし婚姻の儀までそれを守ることを誓うか?」


「はい…誓います。」


「エルメルダ・ケイネン、汝も誓うか?」


「はいもちろんですわ。」




誓いの言葉を確認し、2人の頭上に祭司長の手がかざされると、淡い光がお互いの左手薬指に印をつけられた。「ここに婚約の締結を宣言する。」祭司長の声に歓声と拍手が響き渡る。



表情を崩さず民を見つめるセオリアの横で、エルメルダはその腕に絡みながら愛らしく手を振る。両親が文字通り鼻高々と書いてある背中を見ながらエヴァリスはいつもの護衛の配置とは違う場所でその様子を見つめていた。


人目につくこの場所では、辛うじて家族として扱われる。エルメルダが身に纏う真っ白なドレスに反してエヴァリスはまたしても姉の影として何処か遠い場所で祝福の光景に思いを馳せる。そっと目を閉じれば昨日放たれた父オルランの言葉が呼び起こされる。



「それでは契りを交わす誓いの証を。」


その言葉にハッと意識が引き戻される。

エルメルダがセオリアの方へ向き目を閉じる。その時、一瞬だけセオリアの視線がエヴァリスに向けられたように見えたのは自身の勘違いだろうか…。



(あぁ、これで本当におしまいね…。)



頬を染めながらその時を待ちわびるエルメルダ。エヴァリスはそっと目を閉じる。

セオリアのその唇がもう少しでエルメルダに触れようとしたその瞬間、轟音と共に礼拝堂の扉が開き王宮の騎士が駆け込んできた。




「魔物です。奇襲が来ました。」




怒号のようなその知らせに、礼拝堂の中は一瞬にして大パニックと化した。

大声で悲鳴を上げながら逃げ惑う人達の波が次々に出口へと押し寄せる。それに続き多くの人々が慌てて外に出ていく。近くで護衛を行っていたガイデンは直ぐにエヴァリスの元へ駆け寄ると自身のもとに引き寄せる。




「エヴァリス大丈夫か?奇襲が来たらしい。」


「奇襲?国にはエルメルダ様が加護の結界を張っていたはずよ。」


「わからない、でも多分破られたんだ。」




(エルメルダは?)




慌てて振り返れば、エルメルダの身体は護衛により保護され我先にと礼拝堂の裏口からまさに避難をしようとしている最中であった。腰を抜かしたマチルダを抱えながらオルランもその後に続いていく。

祭司たちがあたふたと王宮に加護の結界を張るが時すでに遅し。


エヴァリス達が窓の外を見れば、鉄紺色の顔を二つ持った大きなオルトロスと対峙するセオリアと王宮の兵士の姿があった。悪臭と陰。大きな頭から涎を垂らしたオルトロスが地鳴りのような咆哮をするとその周りに何匹もの狼型の魔物が現れ始めた。それらは一斉に騎士たちに飛び掛かる。



「エヴァリス、俺も行く。お前はここにいろ。」


「待って私も行く。」


「いくらお前でもその格好で出ていきゃ、すぐにやられる。それよりも礼拝堂の中の人たちを避難させてくれ。」


「でも…。」



良いから頼むぞ。そう言ってエヴァリスの肩を叩くとガイデンは騎士の援護に加わろうと窓から飛び出す。刃が魔物を切り裂く音と騎士らの声。

エヴァリスは覚悟を決めると、人ごみの中でけがをし取り残された人に声をかけながら裏口へ誘導する。




「皆さん焦らないで。ここを通れば安全な場所に出られます。ゆっくりで良いので進んでください。」




近くにあったテーブルクロスを小刀で裂きながらケガ人の腕に巻き付ける。





「どなたか動ける方、一緒にこの人を運べますか?」


「私の傷は軽傷です。私が運びます。」


「すみません、出口に出られたら応援を呼んでください。まだ何人か重傷者が残っています。」





セオリアはオルトロスに手をかざし黄金の魔法陣を作る。魔法陣から金色の鎖が放たれるとその鎖は幾重にもオルトロスの身体を縛り上げ藻掻けばもがくほどその身に食い込んでいく。




「どうやら綻びがあったようだな。」


喰い殺さんばかりに目を開き苦しむオルトロスにセオリアは小さく舌打ちをする。

しかし、小物にしては纏う魔の気が大きい。セオリアは違和感を感じていた。




「セオリア様、こちらはもうすぐ制圧が可能です。あとは大元のオルトロスだけです。」


「リタール負傷した騎士を避難させろ、あとは私が片付ける。」


「承知いたしました。」




セオリアの言葉にリタールは、直ぐにその場を後にする。

リタールは自身の剣に風の力を込めるとけがをした騎士の身体に風を向け安全な場所まで次々に運んでいく。



その頃。

「エヴァリス様、援護隊が到着しました。」


「ありがとうございます。けが人はこれで全員です。気を付けてください魔物の残党がまだ残っているかもしれません。あとはエルメルダ様に結界の強化をお願いしましょう。」


「わかりました。」




エヴァリスは最後の一人が裏口から運ばれるのを確認すると急いで礼拝堂の外に出た。

そこには既に山のように重なった魔物の残骸と、先ほどよりも大きな魔方陣を描くセオリアの姿があった。

魔法陣の中心には金色の光が集まりその威力はますます大きくなる。


王位継承者に与えられる黄金の魔法。

セオリアが呪文を唱えれば黄金の光は大きな剣に姿を変え鎖で抑え込まれたオルトロスの身体に突き刺さる。周りの空気が揺れるほどの断末魔と共に、目が眩むほどのまばゆい黄金の光がはじける。



エヴァリスが目を開ければ、オルトロスの巨体がゆっくりと地面に倒れ黒い煙を上げながら焦げた臭いを漂わせていた。恐る恐る近づき絶命を確認した騎士達は安堵の表情を浮かべた。


ケガ人はいくらか出たものの魔物の奇襲は最小限の被害で収まったようだ。

ガイデンもどうやら怪我はないらしい。エヴァリスはほっと胸をなでおろした。



(…どこ…い…)



「えっ?」





リオンの封印の扉の前で感じた時と同じく。

エヴァリスの脳に直接届くような声。





(どこに…い…の)


「誰?」



こんなにも大きく這うような声が聞こえるにもかかわらず、セオリアをはじめ他の人たちには何も聞こえていないようだ。エヴァリスは声の主を探してあたりを見回す。




(だめだ…)

『どこにいるの?…。』




その時、オルトロスの残骸の陰から黒い人影がゆっくりと現れセオリアに向けて矢を放とうとするのをとらえた。


セオリアは周りの騎士に指示を出している為それに気づく様子はない。弓がキリキリと音を立て始めたのを見てエヴァリスは転がっていた猟銃を手に取るとすぐさま影の手元にむかって火を放つ。同時に大きな声でセオリアに向かって声を出す。





「セオリア!危ない!!」




その声にセオリアは初めてエヴァリスがこの場所にいたことに気づいた。エヴァリスが撃った弾は弓を引く手元に見事に命中し人影は低いうめき声をあげる。


影の放った矢は大きく軌道を変え茂みの奥に消えていき、事態に気づいた騎士たちはセオリアを囲むように体系をとる。すぐさまリタールが前衛に出ると弓矢に風の力を込め影に矢を放った的確に心臓を射抜いた。しかし矢はそのまま貫通し後ろの期に突き刺さる。





「な、当たらない?」




それに続きガイデンが剣から大量の流水を放つがまたしてもそれは影を通過し本人は全く当たらない。



「どういうことだ攻撃が効かない。」


「確かに命中したはずなのに。」



セオリアは兵を除けると前に進み出た。

影はその間もゆらゆらと揺れながらセオリアの方を見つめ続ける。




『あぁ。お前の…はこれか?』


暫く押し黙った後、影がぽつりと何かをつぶやいた。そしてセオリアから視線をエヴァリスの方へ向ける。

その言葉にセオリアは驚愕の顔を浮かべると急いでエヴァリスの元へ駆け寄る。



「待て!!」



エヴァ!暫くぶりにその名前を呼ばれたと同時に、横たわっていたオルトロスの亡骸からエヴァリスに向かって大量の黒い光が放たれた。一瞬にして視界が消えスライムのように身体にまとわりつく光は徐々に重たくなりエヴァリスを漆黒の闇に引きずり込む。まるで地面に沈んでいくような感覚に焦りを覚えるが体がいうことを聞かない。

あぁ、もしかしてこのまま死ぬのかもしれない…。

心のどこかでエヴァリスに諦めの感情がよぎる。


「エヴァ…。」


セオリアが自身の名を叫ぶ声が耳の中に反響する。それが何故か心地よくてエヴァリスは、そっと目を閉じた。

もしも。最後に彼を守れたのだとすれば…それもまた…




「「目覚めよ、虹の魔法…。」」



何もかもが漆黒の闇に沈む中、どこか遠くから声が届く。

そして柔らかい光が一筋エヴァリスの心臓にたどり着くとそれは抱きしめるかのように身体を包み込んだ。


気づけば涙を流しながらエヴァリスはとうとう意識を手放した。



「エヴァ…、ねぇエヴァ!起きてってば。」


身体を大きく揺らされてエヴァリスは飛び起きた。その途端、反動で机に重なっていた魔法書が数冊床に落ちた。

あまりに勢いよく起きたエヴァリスを見て目の前のエルメルダ心配そうに顔を伺う。



「ちょ、ちょっと大丈夫?凄いうなされていたけど。」


息が上がったまま、十六歳にしては幼すぎるエルメルダの姿にさらに困惑し辺りを見回す。それはまだ五歳になるかならないかくらいの容姿。先ほどまでの騒動は嘘のように何故かそこは穏やかな光が差し込む王宮の書庫だった。まるで悪夢でも見た後かのように額に汗が張りつく。


「エルメルダ様!?ここは?魔物は?婚婚約の儀は?」


「…魔物?婚約?エヴァリスいったいどんな夢を見たのよ。」



エルメルダはポケットからハンカチを取り出すと、エヴァリスの汗を優しくぬぐう。

びくりと身体を揺らし驚きの顔を浮かべれば、本当に大丈夫?と声をかけながらエルメルダはエヴァリスの頭を優しく撫でた。



「何?すごく大きな音がしたけど。」



向こうから走る音が聞こえてセオリアが息を切らしながら現れた、彼の姿もまた五歳のままである。エルメルダはセオリアに、エヴァリスが変な夢を見て混乱しているとおたおたしながら伝えている。その姿をみてエヴァリスはあることを思いつく。



「あぁ、私あの時死んだのね!きっとそうだわ。」



何故か笑いながら一人納得するエヴァリスの言葉を聞いて、二人はぎょっとしながらエヴァリスの側に集まる。

目も前の二人が幼いのも、エルメルダの優しさが昔のままなのもそう考えれば合点がいく。



「何言ってるんだよ!エヴァリスは生きているし、僕たちが側にいるのに死ぬわけないだろう。」


「あぁ、いやそうじゃありません。全然大丈夫なのです。」


「そ、そうよ…。どうして、ひっく…そんな怖いことを言うの?」




どうやら本気で心配し怒っている二人を見てエヴァリスはどう伝えたらよいか分からず「ごめんなさい…。」と謝罪を口にする。とうとう泣き出してしまったエルメルダはぎゅっとエヴァリスを抱きしめながら鼻をすする。

それを見たセオリアもエヴァリスに抱き着いて声を震わせながら、その身体を抱きしめる。




「大丈夫さ、二人に何かあれば王子の僕が守って見せる。」


「わ、私だってエヴァのことも、セオリアのことも助けるわ…。」




何故か自分の代わりに泣きだした二人を見て、エヴァリスの顔がくしゃりと歪む。




「私も…。私も二人のことを、愛しています。」


いつしか三人は大きな声を上げて泣き始めた。そ泣き声を聞きつけたマリアンナやメイドたちが慌てて何があったのかと尋ねるものの三人抱き合ったまま泣き続けるばかり。


ここが例え天国でも、地獄でも。

どこでも良い。夢にまで見たこの場所はエヴァリスがずっと帰りたかった場所なのだから。


それはあの継承式からしばらくぶりに見た、最後まで、優しい夢だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ